そろそろ頃合か。40数年前の大異変以来、ひたすらに復興に努めてきたヘリック共和国。
その間、国家予算を軍事費に注ぎつづけたガイロスに比べ、その国力は5倍、6倍とも言われている。
その強大な資金力、工業力が戦争に費やされる前に、この戦争を一度終結させる。
だが、それは決して終わりではない。
私の長きにわたる野望の始まりなのだから。
愚民どもはせいぜい束の間の平和という幻想に浮かれているがいい
――――ガイロス帝国摂政 久瀬・プロイツェンの日記より
「ふむ、なるほど・・・・このゾイドはそういう機体か」
共和国技術班主任・霧島聖は祐一が帝国から持ち帰ったライオン型ゾイドを見上げてそういった。
このゾイドの解析結果を見て一人頷く聖に対して不満そうな顔な祐一。
「一人で納得しないで説明してくれって・・・・・・ぐおっ!?」
その頭が激しい衝撃に揺れる。
言うまでも無いとおもうが、聖が手にしたボードで祐一の後頭部を殴打したのだ。
「うぉぉぉっ・・・・」
「君に言われるまで無い。今、君たちにわかりやすく説明する手順を考えていたところだ」
後頭部を抑えてうずくまる祐一に聖は冷たく言い放つ。
「だからって別にはたかなくても・・・・・」
チャキッ
聖の手にはどこから取り出したのかメスが握られている。
「・・・・・・スイマセン。どうぞ続けてください」
あっさり降参する祐一。
その肩を苦笑しながらポンポンと叩く香里。
その表情は祐一の境遇に同情しながらもどこか楽しんでいる様子だ。
この格納庫には聖のほか、損傷したスノークリスタルの機体とそのパイロット達も集められている。
「まず相沢君が持ち帰ったこのゾイドだが最大の特徴は野生の本能を色濃く残している。
それがパイロットの精神とリンクすることによって、凄まじい反応速度を生み出すことができる。
それは搭乗した相沢君が一番分かっていると思うが」
その言葉に頷いて同意する祐一。
「だが、このゾイドの特性はそれだけでない。
戦闘装備を後付けするシステム、いわばCAS(チェンジング・アーマー・システム)と言うべきものを搭載している」
「チェンジング・・・・アーマーシステム?」
聞きなれない言葉に首を傾げる祐一。
「そう、今のこの状態に外装を後付けで装着し、状況に応じて装備を付け替えられる画期的なシステムのことだ。
まぁ、今は帝国の残した基本形態のデータしかないが、ポテンシャルから考えればブレードライガーすら凌駕しているだろうな」
「ふぇ〜、それは凄いですね」
「CAS・・・・・・ねぇ」
「さて、次に君たちのゾイドのことだが・・・・・・・・」
コホンと軽く咳払いをして一旦言葉を切る聖。
「損傷があまりに激してな、修理には大分時間がかかる。
そこで提案があるのだが、君たちの力量は機体の限界を超え始めている。
ただ修理するより、君たち個人に合わせて大幅な改良を加えようと思うのだが、どうかな?」
「うん、わたしは賛成できるよ〜」
「ゾイドが強くなるのに反対する理由もありませんから私も賛成です」
「そうね、ただ修理するだけじゃ芸がないものね」
「別に芸はいらんだろ・・・・・」
思わず呟いた祐一に香里は鋭い一瞥をくれる。
無言で手を上げて降参の意を示す祐一。
相沢祐一、本日2度目の敗北である。
「佐祐理たちも大賛成ですよ〜、ね、舞?」
「はちみつクマさん」
「ふむ、全員一致というわけで問題は無いな」
俺の意見は・・・・・?と、思った祐一だが、言うだけ無駄だし反対する理由もなかったのであえて何も言わなかった。
「問題は相沢君、きみのブレードライガーだ」
そういって、聖はライオン型実験機の横にいる、傷ついたブレードライガーへと目を移した。
「ボディのほうはなんとかなるが、コアの傷だけは自然回復を待つしかない。
しかし、傷は深く完治するには1年以上かかる」
そのことは祐一も知ってはいたが、改めて言葉にしていわれると、こみ上げてくるものがある。
「そこで、だ。君にはブレードライガーに代わりこの実験機のテストパイロットをしてもらうことになった」
「俺がこいつの・・・・・・・」
「このことは既に水瀬さんも了承済みだ」
「まぁ、それは秋子さんだし」
一秒で了承したに違いないと祐一は確信する。
「ブレードライガーのことは心配するな。私が責任をもって管理しておく」
共和国技術班主任兼医師として確かな腕をもつ聖は性格に一部危険なとこあるが、
その人柄は信用するに足る人物だし、その腕は共和国でもトップクラスだ。
「わかりました。ブレードライガーのこと・・・頼みます」
「まかせておけ。ところでこの実験機の名前・・・・・まだ決まってなくてな。君が名づけるといい」
そういわれて実験機に歩み寄ってその手で機体に触れる祐一。
「・・・・・そうだな、ゼロ・・・・・・ライガーゼロ。お前の名前は・・・・・ライガーゼロだっ!」
ゼロのほうもその名を気に入ったようで、嬉しそうに吼える。
「あははーっ、ライガーゼロさんも気に入ったみたいですね」
「ライガーゼロか・・・・ふむ、いい名だな」
「うん、そうだね。祐一にしてはいいネーミングだよ」
「・・・・どう言う意味だ?名雪」
「くー」
「寝るなっ!」
「祐一、うるさい」
「俺かっ!?」
ガイロス帝国摂政 久瀬・プロイツェンがその行方を晦ましたのはニクシー基地陥落の数日後だった。
摂政の失踪。
それはガイロス帝国の上層部を混乱のきわみに陥れた。
一説には西方大陸戦争に敗れたことで失脚するのを恐れたためなどの噂も飛びかっているが、
彼のことを良く知る人物はそうは思わないだろう。
今回の戦いの元凶たる彼がこのまま歴史の表舞台から消えることはない――――と。
それは彼の私設部隊――――通称”プロイツェン・ナイツ”も同時に姿を消したことが物語っている。
そして久瀬がいないガイロス帝国は決断を迫られることになる。
ヘリック共和国との戦争を継続か、終結か――――
そしてガイロス帝国が出した答えは・・・・・・・
ニクシー基地攻防から2ヶ月がすぎた。
この間に、共和国軍はエウロペに残った帝国軍各拠点の残党の掃討をほぼ終了。
西方大陸戦争は名実ともに終結をみていた。
これにともない共和国大統領は帝国軍に停戦を勧告。
この勧告に対する期限の日。
いまや共和国軍のものとなったニクシー基地に鳴り響いたのは終戦を告げる音楽だった。
ガイロス帝国は共和国の停戦協定を受け入れたのである。
摂政としての権限を誇り、今回の開戦を強く主張した久瀬の失踪。
そして、主力部隊の撤退には成功したものの、西方大陸戦争でうけた被害は小さくなかった。
さらにヘリック共和国の強大な資金、資源がこの戦争に振り向けられれば、
開戦時には共和国の3倍以上だった総戦力差が逆転するのは時間の問題である。
帝国の技術力は共和国のものより5年は進んでいると言われているが、
久瀬がいなくなった今、戦争の継続を主張する意見よりも停戦を望むものが多かったのだ。
――――ZAC2101年3月
ヘリック共和国とガイロス帝国。
2つの国の永きに渡る戦いは終結を迎えたかのように見えた――――――
予告
真琴「あぅーっ!なんで真琴の出番がないのよぅっ!」
美汐「真琴、落ち着いて。今回は共和国サイドですから仕方ありません」
真琴「じゃ、次は真琴の出番があるの?」
美汐「そのために私たちが次回予告を担当したんです」
真琴「うんっ!それじゃいくよっ。停戦協定が結ばれて軍備の縮小が続いていくの」
美汐「そして西方大陸には両国の連合軍が互いの監視のため駐屯することになります」
真琴「だけど久瀬っていうやつとPKの行方は依然と知れないのよね」
美汐「そう、そして相次ぐ両国のエースパイロットの失踪と謎のゾイドによる襲撃事件」
真琴「次回!ZOIDS Kanon Destiny EX 第3話 「再編成」!!」
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あ〜、やっぱこういうのは書きたいときに書かないと進まないということを再認識。
必要なときに書きたくなるのが一番なんだけどそう上手くはいかないもんだ・・・・・・・・・