喧騒の中、エレファンダー1個大隊が出撃していく。
最新鋭の重装甲ゾイドの雄叫びは身震いするほどに勇ましい。だが、彼等に生きて帰る望みはない。
彼らは盾となるのだ。主力部隊が撤退する為の、時間を稼ぐ盾と・・・・・・
ZAC2100年10月。
スノークリスタルとデススティンガーの死闘から3日後。
西方大陸エウロペの戦いは、最終局面を向かえていた。
ウルトラザウルスを中心にした共和国デストロイヤー兵団が、帝国防衛戦を突破。
帝国軍の最重要拠点、ニクシー基地に砲撃を開始したのだ。
強化改造ゾイドだけで編成されたデストロイヤー兵団。
中でもウルトラの1200ミリウルトラキャノンの威力は圧倒的だった。
砲身が焼け付くまで打ち尽くした結果、帝国司令部を含む基地の主要設備は完膚なきまでに破壊された。
ニクシー基地には、基地外や地下格納庫に逃れたゾイドがまだ、数万機いた。
だが、そのほとんどは損傷し、指揮系統も混乱を極めていた。
もはや、帝国軍に、共和国大部隊から基地を守る力は失われていたのだ。
ここに至って、ついに本国の帝国軍総司令部は、エウロペからの全面撤退を決意。
残存兵力の本国引き上げをを計画した。
だが、残存部隊を輸送艦隊に積み込む時間が必要だった。
誰かが盾となり、脱出まで共和国軍を足止めしなければならない。
そして自らその盾をなることを決意した志願兵達が出撃していく。
最新鋭機エレファンダーを含むとはいえ、彼らに与えられたゾイドは500機足らず。
一方、突入してくる共和国舞台は、第1派だけで5個師団(戦闘ゾイド約5000機)。
絶望的な戦いである。
それでも彼らの士気は高かった。
その想いに答えるように、彼らの愛機エレファンダーが、無数の共和国軍に向かって咆哮した。
ニクシー基地の奥深く。
1機の獅子とコマンドウルフ、ガンスナイパーがそれぞれ8機ずつ疾走していた。
祐一が乗っているのはレオマスター専用機「シールドライガーDCS-J」、獣王ブレードライガーではない。
デススティンガーとの死闘の末、スノークリスタルの機体はかなりの被害を負ったが、
DCSーJが残された祐一と比較的損傷の少なかった佐祐理と栞はそのままニクシー基地攻略へと参加していた。
「祐一さん、ちょっと先行しすぎじゃないですか?」
DCSーJに併走するコマンドウルフに搭乗する栞が不安そうにいう。
「大丈夫だって。俺たちスノークリスタルが3人もいるんだ。この狭い基地内なら一個中隊ぐらいならなんとかなるさ」
「そうですね・・・・今の帝国軍に基地内にそれほどの戦力を残しておくとは思えませんしなんとかなりますよ」
ガンスナイパーに搭乗する佐祐理も祐一に同意する。
帝国の防衛ゾイドはそのほとんどが基地外で共和国突撃隊との戦闘に投入されている。
基地内に残っているゾイドは数も少なくほとんどが小型ばかりだ。
やがてそれらのゾイドを蹴散らしながら進む祐一達は地下工場へと辿り着いた。
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
隔壁を爪で破り、中に侵入する黒い獅子。
「これは・・・・・・・敵の新型!?・・・・・しかも2機も」
祐一達がそこで見たものは、見覚えの無いゾイドが2機。
まだ、装甲すら施されていない未完成のティラノ型とライオン型ゾイド。
「まだ完成してないみたいですが、これを持ち帰らせるわけにもいきませんね」
「ああ、これ以上奴等の好きにさせるわけにはいかないしな」
祐一が佐祐理の言葉に頷いた瞬間―――
ガンッ!!
「ぐっ!?」
不意に衝撃が祐一を襲う。
恐竜型のゾイドが突如始動し、その尾がDCS-Jの顎を下から突き上げたのだ。
「このっ・・・!!」
その衝撃でDCS-Jは吹き飛ばされながらも辛うじて着地する。
だが、着地際を狙って恐竜型ゾイドの追撃が迫っていた。
「ぐうぅぅぅっ!!!!」
ティラノ型の爪が頬を掠め、装甲を削り取る。
「んなろっ!!」
祐一も負けじと衝撃砲で反撃するが、いともあっさりとかわされる。
「みなさんは下がっててください!栞さんっ!」
「はいっ!」
不意をついたとはいえ、レオマスターである祐一のDCS―Jを一撃で吹き飛ばしたのだ。
並みのゾイドではない。この狭い空間で大勢で挑むのは同士討ちを招きかねない。
コマンドウルフとガンスナイパーが射撃をするが、敵のゾイドは恐ろしいほどの反応でそれを回避していく。
「そんなっ!全部かわされ――――!?」
栞は最後まで言うことが出来なかった。
瞬時に間合いを詰めた敵ゾイドの尾にガンスナイパーともども薙ぎ払われたのだ。
「いつまでも・・・・・調子に乗ってるんじゃねぇっ!!」
ティラノ型の背後から飛び掛った漆黒の獅子の爪が閃く。
その一撃で肩口を掠めるが浅い。
すかさず尾の反撃が迫る。
「ちっ・・・・!」
Eシールドでそれを防ぐが衝撃で吹き飛ばされる。
「大尉!我々もっ!!」
見かねた祐一の部下達のコマンドウルフが加勢しようと飛び出してくる。
「バカッ!お前等じゃ歯が立たないっさがれっ!」
だが、祐一が叫んだときにはティラノ型ゾイドの口内には光が収束し始めていた。
―――――荷電粒子砲
祐一は瞬時にその光の正体を察し、飛び出した。
「間に合えっ!!」
コマンドウルフ隊に向けて荷電粒子砲が発射される瞬間に祐一のDCS―Jがティラノ型へ正面から突っ込んでいった。
「「祐一さんっ!!」」
栞と佐祐理の叫びと同時に放たれる閃光。
閃光はDCS―JのEシールドを貫き、コマンドウルフ隊の脇を掠めていった。
DCS―Jが体当たりをしなかったら間違いなくウルフ隊は荷電粒子の直撃を受けていたに違いない。
だが、その代償として祐一のDCS―Jは前足を失い、戦闘力を失っていた。
「くそっ・・・・!システムも完全にフリーズしてやがるっ」
敵ゾイドの性能は未完成とは言え、あの虐殺竜ジェノザウラーの力を上回っているだろう。
佐祐理と栞の二人がいても、DCS―Jが戦えないとなると、圧倒的に不利な状況だ。
(せめてブレードライガーだったら・・・・・)
最高の相棒―――ブレードライガーはデススティンガー戦で負った傷がコアにまで達していていた。
精密検査の結果、時間をかければ再生可能と診断されたが、それでも全快までは1年以上はかかる。
だが、今は無いものねだりをしている場合ではない。
そう考えた祐一の視界にもう1機の実験機、ライオン型のゾイドが目に入る。
そして祐一は弾かれたように飛び出した。
ティラノ型ゾイドの足元をすり抜け、ライオン型ゾイドのコックピットに飛び乗る。
ツキが祐一に向いていた。
おそらく撤収作業に入っていたからだろう。
メインエンジンにはすでに火が入っている。
これならすぐに始動できる。
初めて握る操縦桿にも問題は無い。
セイバータイガー系の操縦システムだ。
セイバーなら捕獲した機体を何度も動かしたことがある。
「―――いけるっ!!」
一気にエンジンを臨界まで叩き込む。
点灯したモニターには、ティラノ型ゾイドに追い詰められている佐祐理のガンスナイパーが映っている。
「動けェェェぇー――――――!!!!!」
雄々しい咆哮とともにライオン型ゾイドが始動した。
そして祐一自身驚くほどの反応でライオン型ゾイドは飛び出し、ガンスナイパーへ飛び掛ろうとした敵ゾイドを体当たりで吹き飛ばす。
「大丈夫か、佐祐理さん?」
「あははーっ、佐祐理は大丈夫ですよ。祐一さんのほうこそ大丈夫なんですか?」
「ま、見てのとおりだよ。それより奴の相手は俺がする。佐祐理さんはみんなをつれて下がっていてくれ」
そう言いながら祐一は敵ゾイドへと集中する。
祐一の見たところ、ライオン型とティラノ型のゾイドはほぼ同程度の力を持っていると感じた。
あとはパイロットの力量次第。
祐一はこのライオン型ゾイドに乗るのは初めてだったが感覚でこのゾイドの特性を理解していた。
操作しやすいように、ゾイドの本能を制御する従来型のゾイドじゃない。
強制的に凶暴化させたオーガノイドシステム搭載機でもない。
ゾイド本来の野生の本能が色濃く残り、それがパイロットの本能とリンクし、反応速度が飛躍的に高まるのだ。
「さぁて・・・・・さっきまでの借りを返させてもらおうか」
戦意をたぎらせる祐一だが、再びティラノの顎が開き、荷電粒子エネルギーが口内に収束されていく。
「させるかっ!!」
祐一は素早く反応し、その本能に反応してライオン型ゾイドが跳んだ。
爪が閃き、ティラノに突撃する。
獅子の爪と粒子の渦が交錯。
爪がティラノ型ゾイドの胸部を掠め、荷電粒子もライオン型ゾイドの足を掠める。
交錯した2機が同時に振り返る。
不意にティラノ型ゾイドから通信が入る。
「なかなかやるね・・・・・・・・・・勝負は預けるよっ!レオマスターのひとっ!」
「女の声!?くっ!」
その瞬間、頭上の天井が突如崩れ落ちてきた。
天井の隙間からは帝国の移動要塞ホエールキングが見える。
天井が崩れ落ちてきたのはホエールキングの攻撃によるものだろう。
祐一が崩れて落ちてきた瓦礫をかわしている間にティラノ型ゾイドは上空のホエールキングへと消えていった。
「逃げた・・・・・・か」
空の彼方へ消えていくホエールキングを呆然と見送る祐一は奇妙な感覚にとらわれていた。
(あのパイロット・・・・・・俺はどこかで会っているような気がする・・・・・・)
そしてその感覚はホエールキング内にいるティラノ型のパイロットも同じだった。
「ボクは・・・・あのレオマスターのひとのこと・・・・知っている気がする・・・・」
「ねぇ、あのプロトタイプを共和国に渡していいの?」
「共和国がアレの潜在能力をどうな風に引き出すか興味があるんだ。
それにジョーカーはこちらの手の内にある・・・・・・・・・何も問題はないよ」
「ま、アンタがそういうのならいいけどね」
「それより僕たちもそろそろ忙しくなるよ。色々とやるべきこともあるんだからね」
氷上シュンと謎の少女・・・・・彼らの存在が新たな戦いを呼び込む・・・・・・そのことを祐一達はまだ知らなかった・・・・・
ニクシー基地が共和国の手に落ちたのはそれから5時間後のことだ。
その間、帝国軍決死隊は10倍以上の共和国部隊を食い止め続けたのだ。
エレファンダーの分厚い装甲とEシールドは、敵の猛攻をことごとく跳ね返し、
白兵戦を挑んでくる相手を恐るべきパワーで粉砕した。
やがて共和国軍は、大口径ビームキャノンを搭載したカノント―タス、ディバイソンなどの重砲部隊を投入。
集中砲火をあびたエレファンダーは1機、また1機と打ち倒されていくことになる。
だが、彼らが全滅したとき、共和国軍は貴重な時間と敵の3倍以上にものぼるゾイドを失っていたのである。
予告
佐祐理「はぇ〜ついにあの人らしき人が出てきましたねー、舞?」
舞「わたしは今回出番がなかった・・・・・」
佐祐理「大丈夫だよ、舞。次回はちゃんと出番あるからね」
舞「本当・・・・?」
佐祐理「あははーっ、もちろんですよー。ですから次回の予告頑張ろうねっ」
舞「わかった・・・・・。ニクシー基地陥落とともにその行方をくらました摂政久瀬・・・・・
その結果、ついに両国の間で終戦協定が結ばれた・・・・・・」
佐祐理「ですが、それは決して戦いの終わりを告げたわけではありませんでした」
舞「次回・・・ZOIDS Kanon Destiny EX 第2話 「ライガーゼロ」・・・・つぎはわたしも出るから・・・少しだけど」
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彩花「とりあえず今回はEXの説明からしますね。はい、作者さっさと説明するっ!」
ネメシス「え〜とですね、予告にも書いてあったんですが、EXは本編の22話「決着」から分岐してます。
本編が今までどおり、バトストのアレンジで進んでいき、こちらのEXのほうは俺が好き勝手に書いていきます。
まぁ、一種のパラレルワールドみたいなもんだと思ってくださいな」
彩花「と、いう訳で作者のオリジナルゾイドとかもこちらのEXのほうで順次登場させていく予定です」
ネメシス「まだ、設定のみしか考えてないんだけどな・・・・・(^^;」
彩花「だったら早く製作して完成させないさいよ・・・・・ハァ」
ネメシス「まぁ・・・そのうち時間が出来たらな・・・・・(汗」
彩花「では、本編ともどもEXのほうも宜しくお願いしますね〜」