リリカルブレイカー
第47話 『温泉だよ!温泉!』
「というわけで、皆に新しいお友達を紹介します」
うん、まぁ、必然的にこうなるのはわかっていたんだが、改めて実現すると頭痛くなってきますね!
「オイッスー♪僕はすごくて強くてカッコいー、レヴィ・ザ・スラッシャー!」
「シュテル・ザ・デストラクターです。よろしくお願いします」
「我はロード・ディアーチェ。塵芥どもよ、我にふれ伏すがいい!はーはっはっは!」
壇上には聖祥の制服に身を包んだレヴィ、シュテル、ディアーチェの姿。
つーか、ディアーチェは黙れ。喋るな。聞いてるこっちが頭痛くなってくる。
言動がぶっ飛んでるディアーチェ、なのはとフェイトに容姿が似通っているレヴィとシュテル。この三人を見て、クラスメイト達がざわざわと騒がしくなるのも仕方ないとこだろう。
これから先生が言うことでもっと騒がしくなるんだろうなぁ、と現実逃避――もとい達観モードに入る俺。
「本来なら三人の転入生が一緒に同じクラスというのはあり得ないんですが、この三人は外国から来たばかりで、今はゆーとくんのお家にホームスティしてま
す。日本に不慣れなことと合わせて、特例で三人ともゆーとくんがいるこのクラスに編入になりました。みんな仲良くしてあげてね」
一瞬だけ沈黙が降り、次の瞬間、クラス中の視線が俺に視線する。あー、まぁ、こうなるよね。
先生が言った言葉は、俺からあまり離れられない三人を一まとめにするため、うちの両親がゴリ押しした結果だ。
同じ学校なら大体200メートルの条件はクリアできるが、各行事やその他諸々のことを考えると、同じクラスでなければいざという時に都合が悪いこと起きそうだし。
そしてホームルームがが終わった途端、クラスメイト達は一斉に俺やシュテル達のところへ殺到する。
「おい、ゆーと!どういうことだよ!?なんで今まで黙ってたんだ!?」
「ってゆーか、シュテルちゃんとレヴィちゃん?なんで高町さんとテスタロッサさんにあんな似てるの!?」
あー、やかましい。
「俺に質問をするな!」
と、声を大にして叫びたい。しないけど。見ればなのはやフェイトのとこにもとばっちりいってら。
「今まで黙ってたのはめんどいから。似てるのはただの偶然。シュテル達が家に来たのは、海外に父さんがよく出張している関係で色々複雑な事情があったから!以上!」
と、言い切ったところでクラスメイト達が静かになるはずもなく、授業が始まるまでクラスメイト達の質問攻めが続く中、シュテル達がやってきてから今日までの出来事を思い出す。
シュテル達がやってきた翌日は当初の予定通り、彼女らの服や日用品、家具など、家族総出で買い物。
うん、彼女でもない女の買い物に付き合うのは退屈だと思ったけど、ちょっと考えを改めた。
母さんにとっかえひっかえ服を着せられるマテリアル達のファッションショーはまぁ、悪くなかった。これが親とか兄の気持ちというものか。
個人的には色々楽しめた一日だったが、その夜、クロノからプレシアが亡くなったということを知らされた。
色々思うことはある。が、思うだけで何か行動できるわけでもなく。レヴィ達の遊び相手もしながら思いふける。
一番に思うのはやはりフェイトのこと。クロノの話では、泣いたり取り乱すこともなく、少なくとも表面上は落ち着いているとのことだった。
何か力になりたいとは思うが、こういったデリケートな問題で俺が出来ることなんてそうそうない。
葬儀やら何やらはリンディさん達の方で取り仕切り、明日はなのはもフェイトのとこに行くようなので、余計に俺に出来ることがない。
あっちの葬儀がどんな形式なのかはわからんが、シュテル達を連れて行くわけにもいかんだろうし。
葬儀など一通りのことが終われば、フェイトはこちらに戻り、学校にも復帰するつもりらしい。
散々思い悩んで俺がしたことは、「無理するな」とメッセージを送り、後のことはなのはに全部丸投げするだけだった。だっせぇ。
後は……うん、実際に会ってみないことにはどうしようもないという結論。こんなんばっかしだな。
そして、それとは別に俺を悩ませることがもう一つ。
言うまでもなく、俺と離れられないマテリアル達のことだ。
俺と長時間離れられないということは、必然的にマテリアルたちも学校に通う必要が出てくるわけで。
父さんと母さんは乗り気で、リンディさんも協力してくれてるから戸籍とか手続き自体は問題ない。
手続きとか準備その他諸々が終わるまでは俺も学校を休むことになったけど。それはいい。
問題はアホの子とディアーチェだ。
二人とも言動がぶっ飛んでるからなぁ。
「おい、ユート。何をボーっとしてる。うぬのターンぞ」
「ああ、はいはい。俺のターン。ドロー」
そして今は俺とシュテル、レヴィとディアーチェでチームを組んでタッグデュエルの真っ最中。
俺の部屋の漫画を見たレヴィが速攻ではまったので、俺の使ってないカードをあげた。
「王様とシュテルんも一緒にやろうよ!」
目を輝かせて言うレヴィに程なくして、シュテルとディアーチェも陥落し、今に至る。
口でワクワク言いながらデッキ組むレヴィ。無言でカードと睨めっこするシュテル。ぶつくさ言いながらもせっせとデッキ作りに励むディアーチェ。
三者三様でデッキ組む様は見ていて楽しい。
でもレヴィ、40枚全部モンスターカードはやめとこうな。
「僕は場のモンスター二体をリリース!闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ。光の化身、ここに降臨!現れろ、銀河眼の光子竜!フハハハー強いぞ、凄いぞ、カッコいー!」
「トラップカード発動。奈落の落とし穴で、銀河眼の光子竜を破壊して除外です」
「ああっ!?そんな……!僕の銀河眼の光子竜が!?」
「させるかぁっ!さらにトラップ発動!神の宣告!ライフ半分をコストに、うぬのトラップを無効にし、破壊する!」
三人とも楽しそうで何よりです。遠峯家は今日も平和だった。
「ゆーとくーん、遊びに来たよー」
マテリアル達の転入予定日前日。こっちに戻ってきたフェイトを連れてなのは達がやってきた。
いつものアリサ、すずかに加えて、今回はユーノ(人間形態)もセットだ。
いつのまにやらアリサとすずかにもユーノのネタばれをやったらしい。
「やっほー、ゆーと、久しぶり」
「おう、元気そうで何よりだ」
数日振りに会ったフェイトは意外に元気だった。なのはやアリサ達がちゃんと元気付けられたのだろう。
こうして表面上だけでも元気にしていられるなら、俺が何か言うこともないかな。
「ゆーとくんも元気そうだね」
「見ての通り何も問題ない」
すずかにそう返すも、まだいくつかの絆創膏や包帯は残ったままなので、あまり説得力ないかもしれん。
そして気付けばアリサがジーッと俺のことを見ていた。
「どした?」
「本当に怪我は大丈夫なの?」
あぁ、この間の怪我を心配してくれてんのか。心配性だね、この子も。
「だからなんともないって。すずかにも言ったけど、学校休んでるのは怪我じゃなくて、マテリアル達と離れられないせいだから」
実際、出血が派手だっただけで怪我そのものは大したものじゃないし、傷もほとんど塞がっている。
「そ。ならいいけど」
そういうアリサの頬はわずかに赤くなってる気がした。ツンデレ可愛い。
指摘してからかってもいいのだが、ここはスルーしておこう。
「また随分とぞろぞろ沸いてきたものだな」
居間でシュテル、レヴィと桃鉄やっていたディアーチェが鬱陶しそうに口を開く。
「あはは、三人がどうしてるのかと思って気になって」
なのはのスルースキルはたまに凄いと思う。
「いらっしゃい、ナノハ」
「うん、シュテルも久しぶり。元気にしてた?」
「はい、おかげさまで。主のお父様とお母様にも良くしてもらっています」
シュテルとなのははすっかり馴染んどる。双子の姉妹とかで十分通用しそうだな。
レヴィのほうもフェイトに気付くと、片手を上げて声をかける。
「お、オリジナルもいるじゃん、オイッスー!」
あ、フェイトが脱力した。
「私はフェイトだよ、フェイト・テスタロッサ」
「へいと?」
「フェイト!」
思わず怒鳴るフェイトに、レヴィはふふんとすまし顔で口を開く。
「めんどくさいから『オリジナル』でいいや」
「いやいやそっちのが面倒だろ?」
思わず突っ込んだ俺の言葉にコクコクとフェイトも頷く。
「そこを可能にするのが強くて凄くてカッコいい、サイキョーの僕クオリティさ!」
意味不明過ぎて、何を言っているのかわかりません。やっぱこいつアホの子だ。
「褒めてもいいんだぞー?」
「相変わらずレヴィはアホの子だなぁ」
チラチラっと擬音が付きそうな目で見てくるので、とりあえず撫でておいた。
「えっへん!」
「褒めてないわよね、それ」
アリサの突っ込み通りなのだが、レヴィは聞いてやしねぇ。
「レヴィは髪型変えたんだね。ポニーテールよく似合ってるよ」
すずかの言うとおり、今日のレヴィはフェイトと同じツインテールではなく、ポニーテールである。
ポニテはいい。心が洗われる。
「ふふん、どうだ。カッコイイだろ〜?」
「う、うん……そうだね」
ドヤ顔のレヴィだが、どう見ても格好良いより可愛いと言いたげななのはである。
「ちなみにレヴィの髪型をセットしたのは主です」
シュテルの一言に、場の雰囲気がザワッっとし、視線が俺に集中する。
どいつもこいつも信じられないような慄いたような顔していやがる。その反応は読めていたけどな。
「ふっふっふー。ご主人様に髪梳かされるとすっごく、気持ちいいんだぞー?」
「そ、そうなの?」
何故か偉そうなレヴィの発言に思わず問い返すすずか。
「というか、あんた髪型のセットなんてできたの?」
アリサも半信半疑というか疑い八割といった感じで俺に目を向けてくる。
「まぁ、昇天ペガサスMIX盛りとかは無理だけど簡単な奴ならな」
優奈の髪型を何度も弄り倒したし。ショートも好きだけど、長い髪だと色々な髪型セット出来て楽しい。
「なんでポニーテール?」
「俺の趣味だ!ポニテ最高!」
ユーノの呟きに即答する。
うなじ!下ろした時とは違う髪の揺れ方!そしてそれを下ろした時に味わえるギャップで二度美味しい!
ポニテは最高ッの髪型だね!
グッと拳を握って断言する俺だが、周りは微妙に引いていた。アレ?
「そんなにポニテ好きなの?」
「大好きです!」
すずかの質問にまたも即答する俺。
「え、と……じゃあ、シグナムさんとか?」
「最高っです!初対面の時、思いっきり見蕩れてました!」
あれは惚れる。マジに。って、あん時はポニテどうこう以前にシグナムが美人過ぎて見惚れたんだけど。髪下ろしたとこもそのうち見たい。マジに。
「レヴィのポニテをセットした時も見蕩れてましたね。自分でセットしたくせに」
「ポニテの前ではしょうがない」
シュテルの言うとおり、自分でセットしておいてなんだが、あまりの可愛さに衝撃を受けた。
写メにもばっちり永久保存です。
闇の書の夢の中では色々ありすぎて、優奈の髪をセットするの忘れてたのが今でも悔やまれる。
せっかく付き合った後、ポニテにするために髪を伸ばしてくれたというのに。ちくしょう、俺のアホッ!
気付けば周りは更に引いていた。
いいけどね、別に。わかってもらわなくても。シグナムとレヴィのポニテだけでも俺は充分です。
「なんだったら今度ポニーにしてきてあげようか?」
「お願いします!」
苦笑しながら言うすずかに全力で食いついていた。
すずかの手を取り、ブンブン振る。
「食いつき早っ」
「どんだけ好きなのよ!?」
世界中の可愛い子がポニテになったら萌え死にそうなくらい大好きです。
「あはは……」
フェイトはもう笑うしかないという感じで苦笑していた。
「シュテルよ、今更だがこんなのと契約してよかったのか……?」
「実害はありませんし。…………他に選択肢もありませんでしたから」
本人目の前にして言うな、お前ら。ほっといてくれ。
「そ、そうだ、王様。はやてちゃんからの伝言があるよ」
場の空気を呼んだなのはが強引に話題を転換する。
「小鴉が?」
「うん。三人が元気にしてて嬉しいって。退院できたら真っ先に会いに行くって」
「おい、ゆーと。玄関に塩を撒いておけ」
「よく知ってるな、その習慣」
微妙に間違ってるけど。
「そんなことしたら駄目だよ、王様。はやてちゃん、三人が無事だって知って、すごく喜んでたんだから」
「知ったことか。あやつの間の抜けた顔や気の抜けた喋り方が気に入らんのだ。顔を見なくてせいせいするわ」
髪の色と目つき以外はおんなじ顔やーん、と突っ込みたくなったのは俺だけはあるまい。
とはいえ、この数日でわかったことがあるが、この王様、何気に面倒見が良い。
シュテルとレヴィの為に俺と契約するのを厭わなかったりするし。
タッグデュエルん時も自分がメインになるより、レヴィをサポートしてばっかだったし。
はやてに絡まれても、嫌々を装いながら相手をするディアーチェの姿が容易に思い浮かぶ。
いや、本当に嫌がってるかもしんないけど。
「明日からレヴィ達も聖祥に通うんだよね」
「うん。制服とかもこないだ全部買いに行ったぞ」
三人が着てるのも見たし、父さん達が写真撮ってた。
ちょこんとスカートつまみ上げるシュテルが可愛かった。レヴィとディアーチェは何故かドヤ顔だったけど。
「あ、でも学校に行くんならシュテルやレヴィの『主』や『ご主人様』はマズイんじゃない?」
「だよなぁ、やっぱし」
すずかの言うとおり、シュテルはともかく、レヴィが学校とそれ以外でちゃんと呼び方を切り替えられるとは思えない。
やっぱり『主』と『ご主人様』は諦めるしかないのか……!
「と、いうわけでシュテルとレヴィは俺のこと、名前で呼ぶ……ように」
断腸の思いで、二人にそう告げる。ぐぬぬ……二人の呼び方、結構気に入ってたのに。
「そんなにご主人様気に入ってたんだ……」
「最悪ね」
「まぁ、ゆーとだし」
すずかが苦笑し、アリサとユーノが冷たい目で見ていた。
「ご主人様舐めんな!男の浪漫の一つだぞ!メイド服装備だと更に破壊力は倍だ!」
「そうなの?」
「いや、僕は別に……」
なのはに聞かれて首を横に振るユーノ。わかっていない。おまえはわかっていないよ。可愛い子が自分に向かって口にした時の破壊力を!
他人に言われた時と自分に言われた時とでは天と地ほどの破壊力があるんだよ!
「なのは、ちょっと」
「え、なに」
ゴニョゴニョと耳打ちする。
「というわけでお願いします」
「う、うん。よくわかんないけどわかった」
そうしてとててと、ユーノの前に移動するなのは。
「おかえりさないませ、ご主人様♪」
「!?」
(はぁと)って付きそうな甘ったるい声でユーノに笑顔を向けるなのは。
一瞬でユーノの顔がボッて火が付きそうな勢いで赤く染まり、よろよろと後退していく。
うん、これはわかりやすい。
「え、と……ゆーとくんこれでいいの?」
「百点満点だ。偉いぞ、なのは。今のは最高に可愛かった」
見事に俺の要求に答えきったなのはにグッとサムズアップする。
「えっ、あっ、そ、そうかな?」
えへへーと照れる姿もそれはそれで可愛らしくてよい。普段のなのはは割と可愛いよね、うん。
「で、どーですか、ユーノ先生。ご主人様の破壊力は」
「う、うん。確かにこれは……凄いね。正直ここまでとは思わなかったよ」
未だに顔を真っ赤に染めたままのユーノが俺の言葉に頷く。
わかってくれたか!兄弟!
新たな絆を紡いだ俺達はガシッと固く手を取り合ったのだった。
「もしかして、クロノもそうなのかな?」
「うん、あいつには『お兄ちゃん』で良いと思うよ。言う時は録画を忘れずに。頼む!」
「え、あ、う、うん」
戸惑いながらも頷くフェイト。よし、これで決定的瞬間を見逃すこともない。
「男って……」
「あはは……」
アリサとすずかはなんとも言えない顔をしていた。
「えっと……よくわかんないけど、これからはユートって呼べばいいの?」
「そゆことだ」
話の流れを把握できなかったらしいレヴィに頷く。
「やたっ!ご主人様って呼んだほうが得するってシュテルんから言われてたんだけど、ホントはめんどくさかったんだよねー」
「なん……だと?」
したり顔で呟くレヴィに驚愕を隠せない。
「レヴィにそんな高度な真似ができただと?」
「え、そっち?」
いや、だってすずかさん、レヴィだよ?レヴィみたいなアホの子がシュテルに言われたからって、俺をわざとご主人様と呼ぶなんて芸当できるとは思わないだろ?
「えっへん。凄いだろー、褒めてもいいんだぞー?」
「いや、どう考えてもバカにされてると思うんだけど……」
またも小声で突っ込むアリサだが、ドヤ顔でチラチラとこっちを見るレヴィはもちろん聞いていない。
あぁ、もう、アホ可愛いなぁ、こいつは。アホ可愛いの撫でざるを得ない。
「それでなんで私の名前だけちゃんと呼べないんだろう……」
遠い目をするフェイトをポンポンと肩を叩いてなのはが慰めていた。
「あー、やっぱユーノは無限書庫の司書やるのか」
「うん、このままずっとなのはのとこにもいるわけにもいかないしね。こうして誘われたのもいい機会かなって」
そして話はユーノやフェイト達の今後の話になっていた。すずかやアリサは先に話を聞いていたのか、今はマテリアル達三人とTVゲームをしている。
「で、なのはとフェイトも管理局入り……か」
「うん。私はもう魔法使えなくなっちゃったけど、エイミィみたいに執務官補佐を目指してみようかなって」
「フェイトはなんとなくそうなるような気もしてたけど……なのはもやっぱ管理局かぁ」
まぁ、二人の性格的にこうなるのは当然っちゃ当然なんだけど。なのは達のような子供が働くっていうのはどうにも心理的になんだかなーと思ってしまう。
「ゆーとくんは私達が管理局に入るの反対?」
よっぽど俺が渋い顔をしてたのだろう。なのはだけでなく、フェイトもなんとなく不安そうな顔でこっちを覗き込んでいた。
「気持ち的には反対。どんだけ凄い力があったって、なのは達はまだ子供なんだし、子供は子供らしく小学生として遊んでればいいし、子供や女の子を危ない目にはできるだけ遭わせたくないって考えてる」
俺の言葉になのは達は少し困ったような悲しいような、そんな表情になる。
まぁ、闇の書事件に巻き込んだ俺が言えた義理じゃないけど。感情的な面では、能力があるとはいえ幼い子供でも働ける管理世界の制度には異議申し立てをし
たい部分もあるが、その反面、そうせざるを得ない事情があるということも理解できるし、本人が自分で決めてそうしている以上、一概に悪いこととも言い切れ
ない。
所変われば事情も変わる。一方の価値観だけで他所様の価値観を否定するのはおこがましい。
「でも、二人がちゃんと自分で考えてそう決めたんなら止めないし、応援する」
そう言った途端、ぱああああっと笑顔に変わるなのは。フェイトもほっとしたように息をつく。
「うん!ありがとう!」
「……別に礼を言われるようなことじゃないし」
不覚にもなのはのことを可愛いと思ってしまった。くそぅ、なんか負けた気分。
「あと怪我だけはすんなよ。どうしようもない時以外はちゃんと休んで無理すんな。おまえ普段から頑張りすぎで無茶しすぎなんだよ」
「今日のおまえが言うなスレはここですか?」
いつから話を聞いていたのか、シュテルの突っ込みにすずか達がクスクス笑いだす。
「余計な知識は覚えんでいい」
っていうか、俺は普段頑張ってねぇ。
「はいはい、僕知ってる!これがツンデレってやつだよね!」
レヴィの発言に他の奴らがドッと笑う。
なんでこいつら二、三日ネット触っただけでこういうの覚えてくんの。
「ユートの履歴を漁りましたから」
「漁るな!あと人の心を読むな!」
くそっ、俺のやった後にPC触ってると思ったら人の履歴辿ってたのかよ!?
うぎぎ、やっぱ来年のお年玉貰ったら自分専用のPC買おう。
このまま居間のPC使うのはデンジャラス過ぎる。
「ゆーとくんはどうするの?」
「……別に何にも考えてないなぁ。世の為人の為ってのは柄じゃないし」
誰かに必要とされるのは嬉しいことだが、進んで自分からどうこうしようとは思わない。
そこそこ安定して普通の暮らしができればいい程度にしか考えてない。
管理局入りも考えなくもないが、俺が入って何かできるとも思わないしなぁ。
つーか、なのはやフェイトが昇進していく中、一人だけヒラで終わりそうな未来が確定してそうでイヤだ。
「ふん、大した志もない凡人の貴様風情ではその程度だろうよ」
まったくもってその通りだが、ディアーチェに言われると腹が立つのは何故だろうな。
「そういうお前らには何かあんのか」
「ふふん、そんなの決まってるじゃないか!」
そう言って立ち上がったのはディアーチェではなく、レヴィ。
「まず力を取り戻したらゆーととの契約を解除!そんでもってこの前の仕返しにブッた斬って撃ち抜いて、楽しく襲撃<スラッシュ>!死と破壊をバラ撒いてやるのさ!」
「ほう」
ふんぞり返って物騒極まりない宣言するレヴィ。その発言内容に自然と俺の目が細まる。
「あっ、このバカッ!」
「ふぐっ!?うむむー!」
「……はぁ」
慌ててレヴィの口を抑えるディアーチェとため息をつくシュテル。
そーか、そーか、やけに大人しいと思ったらやっぱり裏でそんなことを考えていやがったか。すっかり騙されてたぜ。いや、今までのも十分素だった気もするけど。
「てい!」
脳内にとあるイメージを強く描き、レヴィとディアーチェの頭に触れ、魔法を発動させる。
キンッ!
「わっ!?」
「なっ!バインド!?」
レヴィとディアーチェの両手を後ろ手に、両足も足首のところで揃えるように魔力のリングで拘束。
両手両足を封じられた二人はもつれるように床に転がる。
「おお、上手くいったいった。やってみるもんだな」
「ゆーとくん、バインドもできるようになったの?」
「あぁ、練習はずっとしてた。成功したのは初めてだけど」
いつか彼女ができた時に緊縛プレイができるようにと、飛行魔法と並行して練習はしていた。日常で一番使えそうなのはこれだしな。
両手両足に加えてボディラインを浮かび上がらせるようにエロく縛り上げれれば完璧なのだが、現状はこれが手一杯。
相手に直接触れないと発動できないし、多分俺から一メートルも離れればすぐ消える。
ついでに出力も弱いから、普通の魔導師相手ならすぐに破られるだろう。うん、実戦ではとても使えねーな、これ。
だが、リミッターをかけられているこいつらにはこれで十分。
「フッフッフ、さてどうしてくれようか」
にやりと笑みを浮かべながら手をワキワキさせる。
「ゆーとくん、手がなんだかえっちぃよ」
なのはが半目で呟くが、そんなものは気にしない。
怪しい笑みを浮かべながら近寄る俺に、レヴィとディアーチェは必死に動いて抵抗を試みる。
「なんで僕と王様だけ!?シュテルんは!?」
「いや、なんとなく」
「なんとなくで縛るなぁっ!?あっ、やめっ!?あっはははは!」
レヴィとディアーチェの脇に手を差し込み、秘奥義くすぐり地獄の計発動。
うーむ、できれば空中に座標固定のバインドのほうがやりやすいな。今度練習してみよう。
「あ、あひゃひゃ!しょ、しょうがないじゃん!僕達はそういう存在として生み出されたんだし!」
死と破壊をばら撒く、ねぇ。まぁ、フェリクスが生きてたらロクなことしてなかったのは確かだろうけど。
「そんなことないよ」
そう言って優しく声をかけたのはフェイトだった。
「誰に何のために作られたのかなんて関係ない。誰だって、どんな存在だって自分の生き方は自分で決められるんだよ」
レヴィ達に自分のことを重ねているんだろうか。
語りかけるフェイトの眼はどこまでも穏やかで優しかった。
「だからレヴィ達もきっと変われるよ。私がそうだったから」
「オリジナルも?」
「うん。今すぐには無理かもしれないけど、みんなと一緒に入れば、きっと。ね、ゆーと」
「そこで俺に振られても」
戸惑う俺に、フェイトは楽しそうに笑うだけだった。
「どーでもいいが、早く解かぬか、アホウっ!」
「王様はまだ反省が足りないようです」
くすぐり地獄再開。
「で、本当のとこはどういうつもりなのさ。今レヴィが言ってたように完全回復する宛てあるのか?」
聞く相手はシュテル。マテリアル達は自力で魔力供給できずに、俺と契約したわけだが時間をかければなんとかする手段があるのだろうか。
「いえ、手段は探していますが今のところさっぱり」
「つまりレヴィ達の取らぬ狸の皮算用ってわけか」
「あははっ、わかったなら、いい加減に――あひゃひゃ、離さぬか阿呆!!」
「だから反省が足りないって、王様。ゴメンナサイは?」
「ひゃひゃひゃっ、誰が貴様なぞに――ひゃうっ!?貴様どこを触っ、ひゃはははっ!」
そんなわけで自分からゴメンナサイするまで思う存分、レヴィとディアーチェをくすぐりました。
「あ、そうだ、ゆーとくん」
レヴィとディアーチェを解放し、お茶を淹れ直すと、なのはが何やら企んでいるような顔で話しかけてきた。
「あのね、年明けに私とすずかちゃんとアリサちゃん、フェイトちゃんとクロノくん達の家族皆で合同の旅行しようって話してるんだ。ユーノくんも一緒。ゆーとくんとシュテル達もどう?」
「行かない」
「即答!?なんで!?温泉だよ!温泉!」
「僕は家でゴロゴロしたいです」
ズズーッとお茶を飲みながら答える。わざわざ休みの日にでかけるなんてかったるいことしたくないです。
ただでさえ最近は色々にあって精神的にも疲れているんだ、年末年始ぐらい引き籠らせてください。
というかどんだけ大所帯だ。
「温泉って何?」
「えっと、温泉っていうのはね」
すずかから温泉の説明を聞くレヴィ。この二人もなんだか相性良さそうな気がするなぁ。
「ユート!温泉行こう!ごちそう食べたい!」
すずかから説明を聞き終えた途端バンッと机を叩いて迫るレヴィ。
そうか、そういう風に釣られたか。
「行ってらっしゃい」
僕はお留守番してます。
「うん!行ってきます!」
目をキラキラ輝かせて頷くレヴィ。あぁ、アホの子は可愛いなぁ。
「って、こやつが行かねば我らも行けんぞ」
「ハッ、そうか!」
ディアーチェの突っ込みにポンと手を叩くレヴィ。
「そこに気付くとは……やはり天才」
「こやつがアホウなだけだ」
「えっへん!」
レヴィさん、王様にも思いっきり馬鹿にされてますよ。
「シュテルと王様も温泉行きたいよね?」
「はい」
「ふむ……まぁ、王としての見聞を広めるのも悪くないな」
なのはの奴、外堀から埋めにかかりやがった。あと、王様は素直に行きたいと言いなさい。
「で、ゆーと、どうするの?私はゆーとやレヴィ達とも一緒に旅行に行きたいな」
そう言って、小首を傾げるフェイト。なんか前よりも明るくなってないか、こいつ。
つーか、フェイトにそう言われると俺としては断る術がない。
レヴィがワクワク、シュテルがジーっと、ディアーチェが上から目線で俺を見つめてくる。
……まぁ、いいか。こいつらが楽しそうにしてるのを見るのは俺もなんだか楽しいし。
「わーったよ。母さんに聞いてとく」
今日は二人とも仕事でまだ帰ってきてないが、多分大丈夫だろう。
「やたっ!」
パシッとハイタッチを交わし合うマテリアル達三人。
なのは達も嬉しそうに頷く。
やれやれ。年末も騒がしくなりそうだ。
……なんてことがあって、思い出すだけでどっと疲れてきた。
横ではレヴィがやれ王様だの、オリジナルだの呼んでて頭痛い。
あんだけ学校ではそう呼ぶなっつったのに、俺の呼び方以外全部ダメじゃねーか。
あぁ、もう海外暮らしが長かったとか、頭の弱い子ということでで適当にごまかすしかないかなー。
周囲の喧騒をよそに、俺は一人ため息をついた。
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UP DATE 12/6/17
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