リリカルブレイカー

 

 

 第28話 『私、なのは。高町なのはです』

 


 八神はやてはその日、終始ご機嫌だった。
 一番の理由はなんといっても闇の書の守護騎士――ヴォルケンリッターという新たな家族ができたことである。
 夜が明けぬうちに騎士達の服の寸法を測り、インターネットの通販サイトで彼女らの服を注文した。(ザフィーラは獣形態があることと本人の意向で除外)
 お急ぎ便の名のとおり、午後には品物が届き、思う存分シグナム達の着せ替えを楽しむはやて。
 ボディラインが露になる簡素な服装も味があるといえなくも無いが、騎士達は皆それぞれが平均以上に整った容姿を持っている。
 素材が良いからこそ、しっかりと着飾るべき、と主張するはやてに勧められるがまま、与えられた衣服に着替えていくシグナム達。
 騎士達には過去の主から、こういった物品を与えられた記憶がない。
 清潔な住まいや満足な食事はおろか、嗜好品としての衣服を与えられるなど考えたことすらなかった。
 自分達は常に人としてではなくモノとして扱われ、時には主からすら疎まれながらも闇の書の守護騎士として歴代の主に仕え、ただ闇の書の蒐集を繰り返してきた。
 道具として扱われる自分達の境遇に不満がなかったといえば嘘になる。
 だが、それが自分達の在るべき姿なのだと疑うことすらなく、闇の書が在る限り永遠に続く運命として受け入れていた。

 ――ところが。
 この八神はやてという新しい主は、出会って一日も経たないうちに、今までの主とは一味も二味も違うことを何度も騎士達に認識させていく。
 個々に主と同レベルの部屋を与えられ、今までに食べたことも無いような美味しい食事を一緒に食べ、自分達を着飾り、満足そうに笑う主。
 闇の書を完成させる為の道具に過ぎない自分達をモノではなく、文字通りの家族として扱う接し方。
 ことあるごとに戸惑いながらも、騎士達はそんな新しい主を自然と好ましく思うようになり始めていた。



 そして人数分の生活用品を一通り買い揃え、シグナム達をはやての心ゆくまで着飾った頃には、勇斗との約束の時間まであと僅かとなっていた。
 はやての機嫌が良い二つ目の理由。
 それは同年代の友達から祝ってもらう初めての誕生日である。
 一度は祝ってくれる本人が行方不明になったことで潰えたかに見えたり、誕生日の直前にひょっこりと顔を見せたその本人が祝うことを忘れてると思い込んだりで、二度がっかりしたもの、三度目の正直といわんばかりに鼻歌交じりでテーブルに料理を並べていくはやて。
 食事を用意するのが祝われる当人というのは、大いに間違っているが、祝う側の勇斗はただの小学生でありその財力も平均的な小学生でしかない。
 小学生二人分ならまだしも、財力、料理の腕、共にはやてに大きく劣る勇斗に、騎士達を加えた人数分の食事を用意しろというのは酷な話だろう。
 はやてからしてみれば、友達に祝ってもらうという事実が一番重要なので、食事の用意くらいどうということもない。
 むしろ自分の誕生日だけではなく、騎士達の歓迎会という意味合いも兼ねている為、腕の振るいどころであるとすら考えている。
 騎士達に手伝われながら料理を並べていくはやては、何度も時計を見やりながら、勇斗が訪ねてくるのを今か今かと待ち構えていた。

 そんなはやてを見る騎士達の心境は、なんとも言えない複雑なものだった。
 主に対してではない。主が心待ちにしている少年こそが騎士達の悩みの種だった。
 将たるシグナムが下した決断は保留。だが、それで彼女達の懸念が全て晴れたわけではなく、あくまで結論を先延ばししたに過ぎない。
 自分たちのことを前もって知っていた少年に悪意があるならば、もっと早い段階で何らかの手を打てただろう。
 数日程度の時間を与えたとて、何をどうこうしてくるとも思えないが、思惑の知れない相手ほど厄介な存在は無い。
 はやてに少年のことをそれとなく尋ねてみても、変わった性格だが、はやてにとって大切な友人であること以上の情報を聞くことはできなかった。
 主や自分達に敵対する兆候は見られないが、なんとも扱いに困る存在だった。
 詳しい話を聞こうとしても、一週間後に全て話すの一点張りでそれ以上取り付く島も無い。(ヴィータは力尽くで聞き出すことを主張したが、はやての友人ということもあって、穏健派のシャマルがなんとかが説得した)
 また、これから行われる勇斗の悪巧みもある種の面倒ごとであると同時に、はやてを喜ばすことになる繋がり、ますます複雑な思いに駆られるのだが。



 時計の針が午後4時半を回った頃、八神家に来客を告げるチャイムが鳴り響く。

「はーい」
『おっす、オラ悟空。いっちょ、やってみっか』
「寒いボケかましてないで、早く入ってきー」
『…………』

 予想通りの来客のボケを華麗スルーするはやて。
 カメラに映る来客は微妙に傷ついた顔でしょんぼりしていたが、それの束の間。すぐにいつもの憮然とした表情に戻り、胸を張って言った。

『だが断る。家主の玄関までの出迎えを要求する』
「何でそこまで態度でかいん?」
『すんません、お願いします。玄関まで来てください』
「変わり身早いな、おい」

 傍らで見ていたヴィータが思わず突っ込んでしまうほど、勇斗が頭を下げるのは素早かった。

「あはは。ま、ゆーとくんやから。何企んでるのか知らんけど、今行ったげるよー」
『何故ばれたし』
「いや、普通にわかるだろ。常識的に考えて」
『やべぇ。まさかこの国に来て一日と経たないヴィータなんぞに常識を語られる日が来ようとは』
「おまえそこで待ってろ。今からちょっと稽古つけてやる」
『ごめんなさい。割と本気で命の危険を感じるので勘弁してください』

 そんなやりとりをする二人をはやてはクスクスと笑いながら眺めていたが、一方は言葉どおり本気で身の危険を感じ、もう一方も半ば本気で痛めつけてやろうかと考えていたことは知る由もなかった。



『ハッピーバースデー!はやてちゃん!』
「へ」

 車椅子をヴィータに押してもらい、シグナムに扉を開けてもらったはやてを待ち受けていたのはクラッカーと紙ふぶきの洗礼、そして祝いの言葉だった。
 目の前にいるのは、自分を呼び出した少年でなく、見覚えのある、だが初対面の少女三人と初めて見る少年が一人。
 予想だにしなかった事態に呆然とするはやての前に、扉の影から現れた勇斗がしてやったりという笑みを浮かべながら言った。

「計画通り。ふっふっふ、さすがのはやても驚いたようだな」
「……あ、ええと?」

 勇斗の姿を見て、なんとか停止した思考を再起動させたはやてだが、初めて会う面々を前にどういう反応をしたらよいかわからず、助けを求めるような視線を勇斗に送る。
 それを受けた勇斗は満足そうに頷き、

「紹介しよう。白い悪魔と愉快な仲間達だ」
「悪魔じゃないもん!」
「初対面の人間に妙な紹介をするなぁっ!!」
「へぐぉっ!?」

 金髪の少女から見事なまでの回し蹴りを食らっていた。



 リビングに集合した面々は、八神家と勇斗が連れてきた面子が対面するような形で互いの自己紹介をすることになった。

「えー、というわけで改めまして。手前から順に俺の友達の月村すずか、アリサ・バニングス、高町なのは、ユーノ・スクライア」

 と、アリサに蹴られた脇腹を押さえながら、勇斗が連れてきた面子を簡単に紹介する。

「月村すずかです。ゆーとくんのクラスメイトで読書が趣味です。はやてちゃんも読書が好きって聞いてるので、本のこと色々話せたらと思ってます。よろしくね」
「あ、え、と。八神はやて言います。ゆーとくんとは図書館でナンパされて知り合いました」
「さらりと捏造すんなや」

 なのは達が反応する前に素早く突っ込む勇斗。
 リビングに戻るまでの間で、はやても普段の調子を大分取り戻したようだ。

「えー、でも図書館で最初に話しかけてきたのはゆーとくんだったよ?」
「本を代わりに取ってやったのをナンパと解釈するなら、見解の相違としかいいようがないな」

 そんな二人のやりとりを見て、すずか達は瞬時に理解した。

――あぁ、この二人似たもの同士だ――と

 ともに何気ない会話にさらりと捏造を混ぜてくる辺り、いつぞやに勇斗がはやてを相方と評していたのはあながち冗談でもなかったのかと、今更ながらに悟る四人。
 片方が影響を与えた結果、こうなった可能性も否定できないが。

「その辺じっくりと話し合いたい気もするが、それはまたの機会だ。お次、アリサどうぞ」
「ん。アリサ・バニングス。すずかと同じく、そこのゆーととはクラスメイトよ」

 勇斗の振りを受け、立ち上がって自己紹介するアリサ。

「通称あーたん。最近やたら暴力的になってきたなので近づかないように。噛み付かれます」
「噛むかっ!つーか、それはあんたのせいでしょ!そしてあーたん言うなっ!」

 がなりたてるアリサだが、すずかを挟んで安全圏にいる勇斗はどこ吹く風である。

「と、わかるように突っ込み兼ツンデレ属性です。言い方はキツイけど相手のことを色々思いやれる良い子です」
「……あんた後で覚えてなさいよ」

 付け足された評価に怒っていいやら照れていいやらで言葉が出ないアリサだったが、このままでは話が進まない為、グッと拳を強く握り締めて罵倒の言葉を飲み込んで腰を下ろす。
 両隣でクスクス小さく笑う二人をキッと睨みつけるも、照れ隠しであるのは明白な為、効果は薄い。
 アリサと入れ替わるように立ち上がったなのははおほんと小さくかしこまり、最初にはやて、次にヴィータ、シャマル、シグナム、獣姿のザフィーラへと順に目を向けて頭を小さく下げる。

「私なのは。高町なのはです。やっぱりアリサちゃんやすずかちゃんと同じようにゆーとくんのクラスメイトです。喫茶翠屋の娘で、今日のケーキはうちで用意させてもらいました。後で感想とか聞かせて貰えると嬉しいな」

 なのはの言うとおり、ケーキはここに来る途中で翠屋で調達してきたものである。前日の注文になってしまったが、娘の友達になる子の誕生日ならと、翠屋のパティシエであるなのはの母、桃子自ら腕を振るった一品である。

「翠屋のケーキ」

 翠屋のケーキと聞いたはやては、思わずポンと両手を合わせる。その目は期待に満ち溢れ、輝いてるようにすら見えた。
 はやて自身が直接翠屋を利用したことはないが、担当医師である石田や勇斗の両親経由でちょくちょく翠屋の商品にはお世話になっている。
 特に翠屋特製シュークリームははやてのお気に入りである。

「翠屋さんのお菓子はみんな美味しいんよー。こっちに来て最初に食べられるなんてヴィータ達はラッキーやなー」
「あ、うん」

 と、反射的に頷くヴィータだが、今の段階では素直に喜ぶより戸惑いのほうが大きく、曖昧な返事しか返せない。
 はやてはそんな反応を気に留めることもなく、なのはの隣に座るユーノへと目を向ける。
 なのは達三人は勇斗から写メを見せてもらったことがあるが、こうして人間形態のユーノを見るのは初めてである。

「ボクはユーノ・スクライア。ホームスティって形で今日からしばらく勇斗の家にお世話になっています」

 何故、ユーノがフェレット形態でなく人間形態でここにいるのか?
 簡単に言えば、女性多数の中に男一人は嫌だからお前も来いと、勇斗に無理やり連れてこられただけである。(ザフィーラは獣形態の為、人数計算から除外)
 ユーノ自身はあまり気乗りしなかったが、なのはが勇斗の意見に賛成した時点で彼に拒否しきれることもなく。
 今、ユーノが名乗ったような設定をでっち上げられた挙句、勇斗の服を借りて参加することになってしまった。
 八神家に来るまでの間、フェレットと同じ名前であることも含め、すずかやアリサの質問攻めにというおまけつきで。
 フェレットのユーノとの関係は、ユーノの友人が飼い主で、フェレットの名前はその友人が人間のユーノからつけたという設定を、これまた勇斗がでっちあげて説明したのは余談である。
 ユーノの自己紹介が終わると、シグナムの視線が勇斗へと向けられ、それを受けた勇斗も小さく頷く。
 なのはとユーノが、勇斗と同様に管理局と繋がりのある魔導師ということを、守護騎士たちは既に聞き及んでいる。
 前日に、勇斗がなのは達を巻き込んだはやての誕生会の計画をシグナムに話した為だ。
 さすがに勇斗といえど、シグナム達の許可もなしに魔導師であるなのはたちを連れて行くだけの度胸はない。
 無用な警戒を与えるどころか、自分の命すら危うくなるからだ。
 そしてなのは達とはやてを会わせる為の条件は、闇の書のことや守護騎士たちの正体を伏せておくことだった。
 できれば、これ以上魔導師との接触は避けたいところだが、勇斗は、いずれはやてとなのは達を会わせる約束をしていたし、はやて本人も会いたがっていると聞いた以上、遅かれ早かれ、いつかはなのは達と会うことになってしまうだろう。
 そう判断したシグナムは思念通話でシャマル達と相談し、闇の書と自分達の正体は伏せるという条件で、なのは達を八神家に招待することを承諾し、はやてもこれに同意している。
 魔導師と言っても魔法を行使しない限り、そうでない人間との区別は容易なことではない。それは同じ魔導師であっても同様だ。
 念話、もしくは検査用の魔法や機械などを用いればリンカーコアの有無、魔法の適正などは調べることができるが、そうでない場合は本人が魔法を行使しない限り、そうそう判別がつけられるものではない。
 それゆえ、シグナム達が注意していれば、なのは達に魔法関係者とバレる心配は無い。
 今のように念話を使わずに、アイコンコンタクトで確認をとったのも、念話を使用してなのはやユーノ、レイジングハートに察知されるのを防ぐ為だ。

 そしてシグナム達守護騎士の素っ気無い自己紹介も行われ、そのまま誕生日のお約束のケーキのろうそく消し、プレゼントタイムと瞬く間に時が過ぎていく。
 初対面ながらも、読書という同じ趣味を持つはやてとすずかは意気投合し、アリサが持ち前のリーダーシップを発揮して進行を仕切ることで、はやての誕生日会は盛大な盛り上がりを見せる。
 基本は小学生組が雑談やゲームで盛り上がり、それを守護騎士達が遠巻きに眺めているという形ではあったが。
 今までの生活が戦いを中心としていただけあって、守護騎士達はこういった場にはあまり慣れていない。魔導師であるなのは、ユーノとも必要最低限の接触で済ませ、距離を置いておきたいという思惑もある。それゆえ、はやてからの誘いもやんわりと辞退し続けている。
 とはいえ、はやて達の楽しげな様子を眺めているだけでも場の雰囲気を味わうことはできる。はやての用意した数々の料理に舌鼓を打ちながら、騎士達も心穏やかな時間を楽しんでいた。
 全員がそれぞれの過ごし方で、この誕生日会を楽しんでいた。

「あれ、そういえばゆーとくんは?」

 ユーノを含めた小学生組が対戦ゲームで盛り上がっている時、勇斗が普段以上に発言していないことに気づくなのは。

「あれ、そーいえば」

 元々勇斗は口数が多いわけでないが、ピンポイントに入れてくる突っ込みや野次さえ今日は無い。
 はやてが辺りを見回すと、シャマルが苦笑しながらザフィーラを指差す。

「おお」

 嬉しそうに声を上げたはやて達が見たものは、ザフィーラに背中から寄りかかり、すやすやと眠る勇斗の姿だった。
 それを見たアリサがにんまりと笑みを浮かべ、小声ですずかに呼びかける。

「すずか、カメラよ!カメラ用意!」
「もう、悪趣味だよ。アリサちゃん」

 と言いつつも、しっかりと持参したデジカメをアリサに手渡すすずか。

「シャマル!こっちもカメラ用意!あと油性ペン!」
「え、あ、はいっ」

 負けじとはやてもシャマルに呼びかけ、なのはもいそいそと携帯を手に撮影の準備をする。

「ふっふっふ。このあたしを前に隙をさらしたのが運の尽きよ」
「アリサちゃん、その台詞、なんだか悪役っぽいよ」
「じゃ、あんたはその携帯しまいなさいよ」
「そこはほら、こんなチャンス滅多にないし。ゆーとくんもチャンスは逃がすなって言ってたし」

 逆にアリサから突っ込まれたなのはだが、日ごろ弄られてる鬱憤がたまってるせいか、勇斗の寝顔というチャンスを逃す気はまったくないようだ。
 「どんな些細なチャンスでも絶対に逃さず、蓄えておくのが俺のモットーなのだ」と、なのはに力説したのは勇斗自身である。

「まぁ、日頃の自業自得かな」

 ユーノも普段の勇斗の行いを鑑みて、あえて止めることもないだろうと判断し、傍観者に徹する。無論、騎士達にもそれを止める理由は無い。

「やっぱ定番のおでこに肉からいっとこか?」
「流石に油性は……せめて水性にしとこうよ」
「でも、こいつの焦った顔見られる数少ない機会よ?油性で落書きされたっていう絶望的な顔見てみたくない?」
「あ、だったら水性で書いたのを、油性ペンで書いたって言って騙せないかな?」
「オッケー。じゃ、それでいきましょう」

 誰も止めるものがいないまま、無防備に眠る勇斗の顔に落書きをして盛り上がる少女たち。言うまでもなく、その過程の全てがカメラに収められていく。
 良くも悪くも、勇斗が少女たちに馴染んでいるゆえの容赦のなさだった。



「けど、これだけ騒いでるのに全然起きる気配ないなー」

 うりうりと、落書きに染まった勇斗の頬を指でつつくはやてだが、眠りこけた勇斗は一向に目覚める気配がない。

「そういえば学校でもやたら眠そうにしてたわね。っていうか、主催者が寝てどーすんのよ」

 はやてと同じように勇斗の頬を突っつきながら、学校での勇斗の様子を思い浮かべるアリサ。
 休み時間はもちろん、授業中もうつらうつらと必死に眠気を堪えていた。意外に思えるかも知れないが、勇斗は学校での授業態度は基本的に真面目なのだ。

「昨日ほとんど寝てなかったみたい。朝まで起きてたって言ってたよ」
「朝まで?何かしてたん?」

 すずかの言葉に、自分と遅くまで起きていたのが原因かと、一瞬、ギクリとするはやてだが、朝までという言葉に首を傾げる。
 勇斗がはやての家を出たのは午前一時を過ぎていたが、勇斗を送って行ったシグナムが帰ってきたのは二時前だ。
 帰ったのがいくら遅くても、寝る時間が無かったということはないだろう。

「さぁ。何かはしてたみたいなんだけど、秘密なんだって」
「ゆーとくん、隠し事大好きだもんねぇ……」
「そーいえば、人をびっくりさせて楽しむのが生き甲斐とも言うっとたなぁ」
「……ハタ迷惑極まりないわね」

 こめかみを指で押さえながら呟くアリサに云々と頷く一同。なのは達ばかりか、その話を聞いていたユーノや騎士達までも同じ思いだった。
 そもそも、はやての誕生日会の企画も昨日になっていきなり知らさせれた挙句に参加を乞われたのだ。
 頼まれる側からすれば、もっと早くに知らせろと文句の一つや二つ出るとこである。
 もっと早くにそれを知っていれば前もって予定を空けていたし、事前にもっと色々準備できることはあったのに、と。
 実際、アリサやすずかは習い事の予定が入っていたのだ。
 もっとも、懸命に頭を下げる勇斗の姿に、アリサとすずかは文句を言いつつもそれを勇斗に告げること無く、参加を承諾したのだが。
 勇斗がはやての家に行くのが遅くなったのは、その後、なのは達と一緒にプレゼントを買いに行って時間がかかったことも原因のひとつである。

「こーして眠ってる分には可愛げもあるのにねぇ」

 むにむにと勇斗の頬を両手で引っ張るアリサ。流石に苦しそうな表情を見せる勇斗だが、目覚める気配はない。

「あはは、本当だね」

 実際、寝ている勇斗は落書きされたことも相まって、普段の仏頂面からは想像できないほど間抜けなことになっている。
 なのはを始め、すずかもはやても、くすくすと小さな笑いを漏らしていた。

 誕生日会がお開きになる頃にようやく目覚めた勇斗は、鏡に映った自分の顔と、それらが収められた画像データを見せられて、開口一番、こう呟くのが精一杯だった。

「……ぎゃふん」

 心底嫌そうに引きつった表情で呟かれたその言葉が、周りの更なる笑いを誘い、それがますます勇斗の顔を憮然とさせる。

「フェイトに良いおみやげできたわねー」
「やめれ」
「みんなのデータまとめてCDに焼かなきゃいけないねー」
「鬼か!」
「あ、じゃあ、明日にでもフェイトちゃんに送るビデオメール作ろうよ!はやてちゃんも一緒に」
「やめて!」
「え、と……私もええの?」
「聞けよ!」
「もちろん!」
「いじめだこれーっ!?」

 勇斗の叫びは悉く無視されるが、普段の行いを鑑みれば完全な自業自得であった。
 もっとも、本人も本気で嫌がっているというよりは、ノリで嫌がってるだけだったが。
 こうして、はやての誕生日会は盛況のうちに幕を閉じるのであった。










※設定補足
魔導師とそうでない人間を見分ける区別云々は、A's本編で、シャマルが「変身魔法を使っていれば〜」の発言から、
特に調べようとしない限り判断できないと推察したため、本SSではそういう設定にしてあります。






■PREVIEW NEXT EPISODE■

新たなる主と穏やかな日々を過ごす守護騎士達。
たとえ、共に過ごした時間は短くても、強く、確かな絆が結ばれていく。
そんな時、はやてと騎士達は勇斗から驚きの事実を伝えられ、決断を迫られるのであった。

シグナム『この剣にかけて』

 

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UP DATE 10/4/11

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