リリカルブレイカー
第15話 『おっきいのいきます』
「いってぇ……」
どこだ、ここ?ひりひりと痛む頭を擦りながら辺りを見回す。何に使うか分からないコンピューターらしきものに工具が散らばっている部屋。
随分長いこと使われてなかったのか、それら全てが埃を被っている。
床が崩れ落ちた後、無我夢中でフローターフィールドを形成し、横穴――もとい壁が崩れていたこの部屋に飛び込んだのだ。
崩れた床のその下まで崩壊してるとか、どんだけ時の庭園脆いんだよと文句を言いたい。苦情を言う相手はやはりプレシアだろうか?次元震の影響もあったの
だろうが、もしあのまま落下してたら時の庭園から放り出されていたかもしれない。空間の狭間に放り出された末路なんて想像するのも恐ろしい。やっぱりアー
スラで大人しく留守番しているべきだった。
今日だけで何回死にかけたのか。頭が冷静さを取り戻すと、ほとほと無謀な行動をしてしまったと思う。ノリと勢いだけで行動すると碌なことにならないのは、散々身に染みて分かっているはずなのに学習しない自分が恨めしい。
「結局のところ、これっぽっちの力じゃ役立たずなんだよな」
ボソリと呟いたまま立ち上がる気力も起きず、座り込んだまま自分の手を見つめる。バカみたいにでかい魔力があっても、それを扱えないのではまさに宝の持ち腐れ。それでもなんとか力が欲しくて、色々試行錯誤してみたものの、結果は焼け石に水。
俺は一体何をしているんだろうね。ちょっとした手違いと、少しでも自分より小さな女の子の負担を軽くしてやりたいと、勘違いした責任感から行動を共にした。そして発覚した俺の力。だが、それで何かが変わる事は無かった。
「……………はぁ」
自分が今、何を欲しているのかに気付き、自嘲する。なのはの手助けをしたいと思っていたくせに、いつの間にか自分自身の力を欲している。本末転倒も甚だしい。自分が俗な人間なのは百も承知だが、改めて自覚するとちょっと凹む。
とりあえずこれからどうしたものか。クロノ達のことは気がかりだが、AAAクラスが三人いるだから心配は無用だろう。相手がロストロギアとはいえ、あの
三人が揃って負けるのは、ちょっと想像できない。俺が出て行っても足手まといにしかならないのだから、決着が着くまで隠れているのが正解だろう。
つっても、上でドンパチやってるのだから、いずれここも崩壊に巻き込まれるかもしれない。どうにかして上に向かわなきゃいけないか。
のろのろと立ち上がり、出口を探そうと足を踏み出し――。
「へ?」
足元から広がる魔法陣。トラップ?侵入者撃退用のトラップですか?そんなんあるなんて聞いてませんよ?
俺が行動を起こすよりも早く魔法陣が強い輝きを発し――――俺の視界は反転していた。
「こんなんばっかし……っ」
視界が上下反転したまま呟く。どうやらさっきの魔法陣は強制転移をさせるためのものだったらしい。
さっきの部屋とはまた違う場所だ。部屋の中央に台座らしきものがあるだけで大した広さじゃない。なんだ、ここは。
「よっ、と」
いい加減、上下逆さまの体勢は飽きたので起き上がり、改めて台座へと目を向ける。
円柱状の台座の上にはポツンと、黒い金属の三角形の形をしたプレートが置かれていた。
「もしかして……デバイス?」
色は違うが、バルディッシュのスタンバイフォームを連想する。大きさ的にも似たようなものだろう。
なんでこんなところにデバイスが?疑問に思ってプレートへと手を伸ばし――
『待っていました』
台座の向こう側に現れた人影が静かに言った。
「おおっ!?」
突然、現れた人影に驚いて思わず後ずさって尻餅を着く。何っ!誰ッ!?ここに来てまた知らない敵とか勘弁してくれっ!?
『私の名前はリニス。この時の庭園の主、プレシア・テスタロッサの使い魔です』
今、聞いた言葉に思わず耳を疑い、顔を上げる。そこにあったのは確かになんとなく見覚えのある顔だった。
リニス。プレシアの使い魔でフェイトの教育係。だが、彼女はフェイトが魔導師として完成したとき、その役目を終えて消滅したはず。
それが、何故今こうして俺の目の前に立っているのか?
『今の私は本体ではありません。このデバイスに記録されたデータを再生しているだけの立体映像です』
立体映像?恐る恐る立ち上がって、リニスへと手を伸ばす。リニスの体に触れたように見えた手は、何の感触もなく空を切る。おぉ、すげぇ。立体映像とか初めて見た。
『このメッセージが再生されている時、私は既に主プレシアとの契約を終え、消滅しています。我が主、プレシアとその娘、フェイト・テスタロッサ、その使い魔であるアルフ以外の者が私の部屋に立ち入った時、このメッセージが再生されるよう設定してあります」
立体映像の中に手を突っ込む俺に構わず話し続けるリニス。手をリニスの顔の前で振ったり、舌を出しても何も反応が無い。受け答えなどできない、文字通りの再生オンリーのデータらしい。
『私が果たせなかった願い。それを誰かに託す為に。プレシアとフェイト。あの二人のことを……』
そしてリニスはプレシアとフェイトのことを語りだす。プレシアがアリシアを失った過去。フェイト誕生のこと、そしてリニスが生まれた理由。
プレシアはフェイトを道具として扱うことで、自分にとっての価値を見出そうとしていたこと。アリシアを失ったことに対する自責の念が、プレシアを壊し、それゆえにフェイトを二人目の娘として愛することを許さなかった。
そのどれもが俺にとっては既知の情報ではあるが、ただ再生されるだけのメッセージである以上、口出しは意味を持たない。かといってそのままこの場を去ることも出来ずにリニスの話に耳を傾けてしまう。淡々と話し続けるリニスだが、その一言一言に深い憂慮が含まれていた。
これはリニスの遺言。フェイトの為に動けば、主であるプレシアを裏切ることになる。逆にプレシアの意に添い続ければ、フェイトが不幸になる。主と自らが
育てた少女の間でリニスは葛藤し続けた。そして両方を救うには時間が足りなかった。リニスとプレシアの契約内容はフェイトを一人前の魔導師として育て上げ
ること。フェイトが優秀であるがゆえに、リニスの時間を奪ってしまった。
『結局、私にはあの親子のわだかまりを解くことが出来ませんでした。消えゆく私にできたことは、あの子の為に作ったデバイス、バルディッシュに願いを託し、この名も無きデバイスにメッセージを残すことだけ』
気付けば自分の頬から涙が滑り落ちていた。リニスの語ったことなんて元から知っている。全て知っている、はずなのに。それで何で今さら俺は涙など流しているんだ。いつから俺はこんなに涙脆くなったのだろう。
リニスが語る言葉一つ一つに込められた悲しみと無念。それが痛いほどに伝わってしまう。
『あなたが何者で、何を目的としてこの地を訪れたのかはわかりません。身勝手な言い分であることは百も承知です。ですが、どうか……どうか、あの二人のことをお願いします……!』
そんなことお願いされても正直困る。何をどうすればいいのか検討もつかない。だけども。
――――モントリヒト。魔導師のリンカーコアに寄生し、その精神を狂わせるというロストロギア。
フェイトとアルフ、そしてリニス。テスタロッサ一家の深い哀しみがあの目玉に起因するというのではあれば。アレは全力で排除しなければならない。
俺の知っている知識にはあんなもの存在しなかった。俺という存在があいつをプレシアから引きずり出した。
「もしかして、これが俺がこの世界にいる理由、なのかな」
訳もわからずに元の世界からこの世界に生を受けた。それなりに長い間、悩んだり葛藤した覚えもある。図らずもなのはと関わり、この件にも関わってきた。
結果として状況が好転したかどうかは我ながら激しく判断に悩むところだ。だけどもしもあのロストロギアからプレシアを救い、正気に戻すことが出来れば。
フェイトとプレシアは普通の親子として過ごすことが出来るのかもしれない。勿論プレシアが元に戻らない、いや戻ってもフェイトを愛するとは限らないが、それでも賭けてみる価値は十分あるはずだ。
フェイトとプレシアを救う、その為に俺はこの世界に来た?
「いやいやいやいや」
突拍子も無い、こじ付けにも程がある考え方に苦笑してしまう。流石にそれはねーよ。突っ込みどころが多すぎる。
『Get Set』
「お」
不意にバルディッシュに似た男性ボイスで喋ったデバイスが俺のほうへ飛んできた。反射的に伸ばした手でそれを受け止める。
『もし、あなたがプレシアとフェイトの為に動いてくれるなら、そのデバイスはきっとあなたの力になるでしょう。既に消え去った私が払える唯一の対価です』
手にしたデバイスがキィンと小さく鳴った後、リニスの映像がうっすらと透け、徐々にぼやけてくる。
『プレシアとフェイトをお願いします……あの親子とあなたに、幸があらんことを……』
そしてリニスは跡形も無く消え去った。
全く、主人想いにもほどがある。自分が消え去った後にもこんなデバイスを残してメッセージを託すとか。相手が悪人とかだったらどうするんだ。あんな頼まれ方をしたら嫌と言えるわけがない。
あぁ、もう!ついさっきノリと勢いで行動するのはやめようって決めたばっかりなのに!どんだけ乗せられやすいんだ、俺は。
胸の奥から沸々と熱い何かがこみ上げてくる。魔力がでかいだけの俺がデバイスを手にしたところで何ができるとも思えない。やれるのか、俺に?
俺の力でクロノたちの助けになるのか?むしろ足を引っ張ってしまうのがオチじゃないのか。だが、男としてここで隠れているのが正しいのか?自分より年下の子供に任せて何もしないことが?
理性が自分が足手まといだ、何もするなと囁きかけ、同時に心が動け、暴れろ、行動しろと叫ぶ。
相反する二つの想いにどうしようもないジレンマに苛まれる。
どうする?どうするのが正しい?考えろ、俺が選べる一番正しい選択肢を……!
「って!あーっもうっ!うぜぇっ!うだうだ考えるのはやめだ!全っ然っ!俺らしくねぇっ!」
頭を掻き毟りながら腹の底から声を出して叫ぶ。そもそも俺が頭使って行動してロクな結果になった覚えが無い。
こういうときは走る!何も考えずに走る!何が出来るかじゃなくて、俺がどうしたいかだっ!
――そうそう。そうやって何も考えてないほうがゆーとらしいよ?
不意に昔、言われた言葉を思い出す。余計なお世話だ、ほっとけや。
脳裏に過ぎった面影に突っ込みを入れ、手にしたデバイスを強く握り締める。リニスが託してくれた力。無駄になんかしない。
上のほうから伝わる振動がまだ戦いが続いていることを教えてくれる。
「おまえの力、貸してもらうぞ」
『OK, Boss』
問いかけに対して、なんとも力強い答えが返ってくる。インテリジェントデバイス、か。レイジングハートの時はダメだったが、魔力の目覚めた俺なら使えるはず。いや、使ってみせる。
『勇斗!聞こえたら、応答して!勇斗!』
この声はユーノか。中々いいタイミングで迎えが来た。
「いくぜ、相棒」
『All right』
デバイスを握り締め、自らの纏うバリアジャケットを頭に描きながら、走り出した。
「変……身!」
モントリヒトからの攻撃をかわし、漆黒のバリアジャケットを身に纏う。
モントリヒト。古代の遺産、ロストロギア。恐怖が無いといえば嘘になる。ただ、それを凌駕する何かが恐怖を抑え、俺を突き動かす。熱く、激しい何かが。
拳を広げ、指を一本一本握り締める。迷うことなど何一つ無い。あの目玉からプレシアを引き剥がし、ぶち壊す。ただ、それだけの話だ。
「やぁぁぁぁってやるぜっ!!」
自らを鼓舞するように叫び、力の限りに地を蹴って疾走する。デバイスの機能は魔法発動の補助ではなく、魔力制御にリソースの大半を割いている。クロノ曰
く、俺一人で魔力を圧縮・収束させても、実際は消費魔力の半分も有効利用できず、そのほとんどを無駄遣いしている。だが、デバイスのサポートを得ること
で、その無駄遣いしていた魔力を、少しは有効に使えるようになった。おかげで身体能力強化の効果は今までよりも遥かに高い。赤くもないし角もないが、ス
ピードもパワーも三倍はパワーアップしている。
ぶっつけ本番で魔法を行使することも考えたが、俺の魔法資質はほぼ全滅なので、おそらく効果は薄い。ならば今までにやっていたことのサポートをさせ、強化したほうが確実に効果があり、信頼性も高い。
「バカッ!真正面から行く奴があるかっ!?」
クロノの罵声が聞こえるが、構わずに突き進む。見る見る間にこちらに向かう触手との距離が消失していく。触手との距離が零になる瞬間、大きく膝を曲げ、跳躍。
5メートル以上の跳躍。自分の想像以上の跳躍に内心焦りつつも、上方にフローターフィールドを二重に展開し、そこに突っ込む。
フローターフィールドの使い道は単なる足場の形成に留まらない。術者の調整によって、収縮性を持たせ、トランポリンのように反発力を持たせることが出来
る。勿論、俺一人ではそんな細かい調整もできず、瞬時に形成できる数もせいぜい一つ。デバイスのサポートという恩恵があってこそ可能となる技だ。
大きく沈み込んだフィールドに手を着き、狙いを定める。一点集中。そして一気に跳ぶ。フィールドの反発力を加えた跳躍は、最初のそれを遥かに上回る速度で俺の体を加速させる。突き出した足先に魔力を集中。収束した魔力の輝きに足先が濃紺の輝きに包まれる。
「ライダァァァァキィィック!!」
超高速で繰り出された蹴りは、伸ばされる触手のことごとくを弾き、モントリヒト本体へと迫る。
「うらぁっ!」
モントリヒトのシールドとキックが衝突する。途端、足先と障壁の間に激しいスパークが生じる。硬い。貫くのは無理か。ここで無茶をする愚を犯さずに、膝を曲げて障壁を蹴りつけ、その反動で離脱する。
「全然効いてねー」
奴の障壁には罅一つ入ってなかった。それどころか、こちらを挑発するように忙しくその眼球を動かし、睥睨していた。今何かした?と言わんばかりに再生した触手を蠢かせていた。野郎。ちょっと、いやかなりムカついた。
「バカか、君はっ!?」
「へぐおっ!?」
頭頂部に衝撃。頭を抑えながら見上げると、拳骨を構えたクロノが睨んでいた。
「考えもなしに突っ込んでどうする!大体君が奴に憑かれたらそれで詰むんだぞ!そもそもそのデバイスはなんだ!?どこから手に入れたっ!?」
「んねヘマしねーよっ!いきなしゲンコかますなっ!このデバイスは拾ったっ!」」
いきなり胸倉を掴んで怒鳴るクロノにこちらも負けじと怒鳴り返す。
「まったく……っ」
「おおっ!?」
クロノが小さくため息を吐いたかと思うと、不意に胸倉を掴んだまま振り回され、そのまま上に引っ張られる。
さっきまで居た場所を見下ろすと、そこには当然のように触手が突き立てられていた。油断も隙も無いな、あの目玉野郎。
「アルフ!このバカを頼む!」
「おっと」
そのままクロノに投げられ、アルフに受け止められる。
「俺の扱い酷くね?」
「でも、勇斗が落ちたとき、助けに行けって僕に言ったのはクロノだよ。クロノはクロノなりに君の事を心配してるんだよ」
俺に遅れて下から飛んで来たユーノが苦笑しながら言う。
「あいつは僕達だけでなんとかする。君はアルフと一緒にできるだけ遠くへ離れるんだ」
モントリヒトに目を向けたまま、デバイスを構えるクロノはこちらを見向きもしない。
「頭から血流しながら言っても説得力ねーよ」
「それでもこいつ相手に君ができることはないよ」
狼形態になったアルフに跨りながら指摘するが、クロノは動揺する素振りも見せずにさらりと言ってのける。可愛げのねぇ。
「ふん、あいつの狙いが俺なら囮ぐらいにはなる。あんまり長引かせるとプレシアが持たないだろーが。さっさと決着つけよーぜ」
「それができれば苦労しない。モントリヒトの防御は硬い。そう簡単には抜けないんだ」
「まぁ、この面子で苦戦してるんだからそうだろうけどさ。何かあいつの行動パターンとか優先順位ぐらいは検討つかないか?そこに俺を囮に使った作戦とか」
言ってる間に触手が飛んでくる。本当っしつこいな、こいつ。触手を掻い潜るように飛翔するアルフに捕まりつつ、追いすぎる触手を蹴りつけ、薙ぎ払う。
「……ないこともない」
触手を撃ち落しながら、クロノは苦々しい顔で口を開き、プランを語り始めた。
「OK。じゃ、それで」
「って、そんなにあっさりっ!?」
念話で伝えられたクロノのプランに頷くと、なのはが驚きの声を上げる。そんな驚かれても。
「本当にわかってるのか?このプランは君が一番危険に晒されるんだぞ?」
「その為にユーノ先生がいるんだろ?なんとかなるよ。と、ゆーわけでユーノ先生はさっさとフェレットになっておくれ」
「う、うん」
どのみち、こちらが選べる選択肢はそう多くないし、プレシアがどれだけの時間、無事でいられるか不明なのだから悩む時間も惜しい。手があるならさっさと実行するべきだ。
「んじゃ、手っ取り早く行こうぜ。あの目玉に目にモノみせちゃる……!」
フェレットモードのユーノを懐にしまい、アルフから飛び降りてモントリヒトの真正面へと降り立つ。
さっきからひたすら触手で俺ばかり狙いやがって本当にうぜぇ。
「フォトンランサー・セット!ファイアッ!」
まずは俺に向かって繰り出された触手をフェイトのランサーが薙ぎ払う。
「シュートッ!」
次の手は4つの光がモントリヒトへと撃ち放たれる。桜色の光球はモントリヒトのシールドに阻まれるも、最後の一発がシールドに罅を入れる。そこに放たれ
るのは蒼い閃光。スティンガースナイプ。この中で一番手強いのはクロノだと認識しているのか、例の魔力反射シールドはクロノの攻撃に反応して形成される。
だが、スティンガースナイプはクロノの意思で自由に軌道を変えられる射撃魔法。設置型のシールドでは止められない。
光の鞭は器用に反射シールドを迂回し、なのはの攻撃で罅割れたシールドもろとも装甲を撃ち貫く。
だが、こちらが追撃をかける前にモントリヒトの宝玉が輝き出す。クロノが言ったとおりのパターンだ。
例えシールドを破ったとしても決定打を仕掛ける前にこの攻撃が飛んでくる。防御に徹すればこちらのシールドを貫かれることはないが、こちらからも攻撃できず、その威力に押し出される。その隙にモントリヒトは悠々と装甲と障壁の再生を行ってしまう。
なのはのディバインバスター・フルパワーならば、これらの攻撃を撃ち抜いてモントリヒトへダメージを与えられるだろうが、その場合、中のプレシアが危険になる。クロノやフェイトではモントリヒトの攻撃を相殺してなお適切なダメージを与えるだけの威力は出せない。
全方位に放たれる上、威力も相当に高くて厄介な代物だが、こっからが俺の仕事だ。モントリヒト目掛けて地を蹴る。
湧き上がる恐怖を押さえ込みながら疾走するスピードを上げていく。
これは賭けだ。予想が外れれば一発で終わりかねないが、上手くいけばプレシアを取り返すチャンスが生まれる。
臨界まで輝きを増した宝玉から嵐のような砲撃が放たれる。辺り一帯を紫の弾丸が薙ぎ払う。しかし、俺に飛んでくるのは魔力弾ではなく触手だった。
全方位に魔力弾が放たれる中、俺がいる方向にだけ、魔力弾は飛んでこなかった。
やはり、か。クロノが予想したとおりの結果に、自然と口の端が釣り上がる。
奴の目的はあくまで俺を取り込むこと。ならば俺に致命傷を与えるような攻撃は仕掛けてこない。宿主ともいうべき俺が死んでは意味がないからだ。
「ユーノッ!」
「任せて!」
フェレット形態になって俺のジャケットに潜り込んでいるユーノがバリアを形成する。
半球状のバリアを文字通りの盾として触手を弾き、なおも距離を詰める。これが砲撃だったら突き進むどころか思いっきり吹き飛ばされていたはずだ。
そして、俺とモントリヒトの距離がゼロになろうとする瞬間、跳ぶ。奴の障壁はまだ復活していない。
「後は」
「まかせて」
俺の言葉をすぐ後方にいたフェイトが引き継ぐ。
モントリヒトに反応する間も与えず、金の閃きが二度、三度と瞬く。切り裂かれる装甲。
その装甲をアルフが掴み、力ずくで引き剥がしにかかる。
俺とアルフを捉えようと触手が伸ばされるが、それらのことごとくをクロノとなのはが撃ち抜き、ユーノが拘束し、俺は逃げ回る。
「こんっのぉぉぉぉぉっ!」
ついにアルフが装甲を引き剥がし、内部のプレシアが露出する。
「母さんッ!」
すかさずフェイトがプレシアを拘束しているコードやらなにやらを切断し、解放されたプレシアをアルフが抱き抱えて脱出する。
モントリヒトは宝玉のチャージをしつつ、受けたダメージの再生を行っている。あれだけフェイトが切りつけたにも関わらず、堪えた様子がないのには辟易するが、プレシアを取り戻した以上、遠慮する必要はない。
モントリヒトがチャージを完了する前に、なのはの元へ跳ぶ。
「仕上げは任せた」
「うん!」
フローターフィールドの上に乗った俺はなのはの影に隠れ、ユーノをなのはの肩へ。
こちらに攻撃するチャンスを与えまいとモントリヒトの全方位射撃が飛んでくる。触手のおまけつきだ。
「防御は僕がッ!」
「で、魔力供給は俺、と。残弾気にせず、全力全開でぶちかましてやれっ!」
「了解!高町なのは、おっきいのいきます!」
ユーノが防御を担当し、俺はなのはの肩へ手を置き、魔力を供給。なのはがレイジングハートを構えて、魔力のチャージを始める。
『Starlight Breaker』
なのはが選択したのは一撃必殺最大最強の収束砲撃魔法。レイジングハートの先端に光球が発生し、周囲の魔力が光となって収束していく。
プレシアを奪還されたせいか、今までよりも砲撃の激しさが増している。だが、ユーノの強固なシールドはそれらの全てを受け止め、光球は更に輝きを増していく。
数秒に渡って降り注いだモントリヒトの攻撃が止まる。だが、まだだ。なのはのチャージは完了しているが、今はまだ撃てない。
「サンダァァァスマッシャァァァァァ!」
「ブレイズキャノン!」
モントリヒトに牙を剥くのは、フェイトとクロノが同時に撃ちだした金と蒼の奔流。
確実にモントリヒトの障壁を貫き、ダメージを与える威力を持つ砲撃は、モントリヒトの張った板状のシールドに吸い込まれていく。魔力反射シールド。
無制限に反射できるということはないだろうが、スターライトブレイカーが反射されないという保証はない。二人の砲撃は確実にスターライトブレイカーを当
てる為の布石。あのシールドが出現した時点でなのははレイジングハートを振り上げている。光球はなのはの制御限界を超えるのではないかというほど大きくな
り、スパークを発している。
「全力全開!スタァァァライトッ!ブレイカァァァァァァァッ!!」
――――桜色の閃光が濁流のごとく迸った。
「あいっかわらずふざけた威力だなー」
なのはが砲撃した場所を見下ろす。そこにはでっかいクレーターが穿たれている。中心にはモントリヒトの残骸。うん、見事に粉々だ。恐ろしい。これが後々さらにパワーアップしていくのだから恐ろしい。仮にも友達になりたいって子にコレを撃ち込めるんだから恐ろしい。
いつかの出来事を思い出して体がガクガク震えるのも致し方なし。
「あはは。でも、プレシアさんが無事で良かったよ」
なのはの視線の先にはアリシアのカプセルと、そのすぐ傍でフェイト達がプレシアを介抱していた。ユーノが確認したところ、衰弱はしてるがなんとか生きているようだった。
そんな状態でアリシアのカプセルに張った結界を維持し続けたプレシアの執念には、本当に驚かされる。
「まー、今度こそ一件落着ってことで」
「うん、私ももうヘトヘトー」
流石のなのはも疲れたのか、俺のフローターフィールドの上にへなへなと座り込む。
今日一日中ずっと戦いっぱなしだったからなぁ。
「いや……安心するのはまだ早いかもしれない」
「は?」
不吉なことを言い出したクロノは難しい顔で、モントリヒトの残骸を睨みつけていた。
「まだアースラとの連絡が取れない。奴が張った結界がまだ維持されてるんだ」
「おいおい……」
「それってまさか……」
俺たちの嬉しくない予感を裏付けるように、モントリヒトの残骸が動き出した。
うそぉ…………。
呆然と俺たちが呆けてる中、残骸から目玉が浮かび上がり、光が輪郭を形成していく。
「ねぇ、なんかさっきと形違うような……?」
「第二形態ですね、わかります」
なのはの呟きに、引き攣った顔で返す俺だった。こんなお約束は嬉しく無さ過ぎる。
■PREVIEW NEXT EPISODE■
真の力を顕したモントリヒトに追い詰められていく勇斗達。
絶体絶命のピンチに陥ったそのとき、勇斗の拳は真っ赤に燃えて勝利を掴めと轟き叫ぶ。
勇斗『俺のこの手が真っ赤に燃える』
UP DATE 09/7/30
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