リリカルブレイカー

 

第13話 『吹き飛べ』

 



「んなくそーっ!」

 もう何体目か数えるのもアホらしいほど沸いてきた傀儡兵へと魔力をぶつける。
 動きを止めた傀儡兵をクロノが吹き飛ばす。

「ハッ……ハァッ……ハッ」
「息が上がっているな。そろそろ魔力切れか?」
「誰がっ!」

 クロノにはそう息巻いたものの、魔力はともかく体の疲労のほうが問題だった。庭園に突入してからほとんどノンストップで走りっぱなしだ。特別鍛えていない小学生の体力だとなかなかしんどい。
 クロノのほうは所々飛んだり、元から体のほうもそれなりに鍛えているんだろう。息も絶え絶えなこちらと比べて、涼しい顔をしていやがる。
 あー、くそ。明日からでも体も鍛えるべきか?

「本当に魔力は問題ないのか?」
「当然。今まで使ってきた魔力の四倍は残ってる」

 膝に手をつきながら気遣わしげなクロノに答える。体力はともかく魔力に関しては強がりでもなんでもない。ここにくるまでにかなりの魔力を使った感じはあるが、魔力切れには程遠い。

「本当に呆れた魔力量だな……君、本当に人間か?」
「君、何気に俺に対して凄い辛辣だよね?正真正銘の人間だっつーの。どっからどう見ても普通の小学生だろうが」
「見た目はともかく、君の言動に関しては『普通』を否定せざるを得ない」
「さよか」

 実際に普通じゃないから仕方ない。生きてきた年数だけで言えばクロノの倍近い。体の実年齢や環境のせいか、精神年齢的に成長してる気は全くないが。というかたまに退化してる気がしなくもない。生きてきた年数分、老成しててもヤだけどさ。

「休憩はここまでだ。そろそろ行くよ」
「あいよ」

 クロノの言葉に汗を拭い、走り出す。エイミィさんによるとプレシアの元まではあと僅か。
 これが最後の休憩となるだろう。今のところ二人とも傷らしい傷は負っていない。原作だとプレシアの元に着いたクロノは流血してたが、少しは俺も役に立っているのか。もしくはここから何かあるのか。どちらにしろ一欠けらの油断も許されない。
――と、気を引き締めた瞬間。

「勇斗!」
「おおっ!?」

 突如として側面の壁が崩れ落ち、足を止めた俺は先行するクロノと分断される。
 崩れ落ちた壁から、わらわらと現れる傀儡兵たち。
 道を塞いだ瓦礫の隙間から覗き見れば、先行くクロノの前方にもアホみたいにデカイ奴が行く手を塞いでいる。
 アレって確かなのはとフェイトが二人がかりで倒した奴か?

「勇斗!少しの間自分で持ちこたえろ!」
「言われなくてもっ!」

 瓦礫の向こうにいるクロノに怒鳴り返す。
 さすがのクロノでも、あのデカイのとこちらのを同時には対処できないはず。分断された俺を心配してくれるのは有難いが、傀儡兵相手ならなんとかなる。

「このっ!」

 魔力をぶつける間もなく振り下ろされる銀光。とっさに地を蹴って転がりながらそれをかわす。
 これだけ接近されたのは初めてだが、この程度でびびってなどいられない。足が震えてるのはきっと気のせい!
 転がる勢いのまま起き上がり、後方へと跳んで距離を取る。この間に十分な量の魔力チャージは完了している。後はこれをぶちかますだけだ。

「THE ワールド!時よ止まれぇっ!」

 こちらへと駆け寄ってくる傀儡兵達に腕を振り下ろし、大量の魔力を浴びせる。
 今までの例に漏れず、魔力を浴びた傀儡兵はその動きを止める。

「って、飛んでた!?」

 魔力の拡散が足りなかったらしい。さっきの一撃から逃れた一体が翼を羽ばたかせて一直線に向かってくる。
 奴の動きを止めるだけの魔力チャージが間に合わない。
 振り下ろされる斬撃を見据え、拳を強く握る。銀の煌きを真っ向から受け止めるべく、拳を振り抜――

「無理っ!!」

 斬撃を受け止めず、横っ飛びにかわす。無理。あんな勢いよく振り下ろされる剣を素手で受けるとか怖すぎる。万が一受けて、斬られたりしたら洒落にならない。
 振り下ろされた剣が床を砕き、陥没させる。受けなくて良かった。冷や汗を掻きつつも、この隙に動きを止められるだけのチャージを完了させる。
 今度こそ右の拳を振り抜き、そこから放たれた濃紺の輝きが傀儡兵を撃ち抜く。
 こちらに向かって剣を振り上げようとしていた傀儡兵はその途中で動きを止め――

「ねぇーっ!?」

 振り上げた勢いのまま剣がすっぽ抜けて飛んで来た。寸分たがわずこちらの頭に目掛けて飛来する刃。
 思考する前に体が反応する。首を僅かに傾げ、その横を風を切りながら通り抜ける剣。

「ふ、ふははは」

 あ、あぶねぇ。渇いた笑いを浮かべながら流れ落ちる汗を拭う。
 並の反射神経だったら死んでいた。笑えねぇ。
 へなへなと脱力して座り込んだところに、轟音が響く。
 そういや、瓦礫の向こうではクロノが戦ってるんだった。

「って、お前らは動くなーっ!!」

 最初に動きを止めた奴等がギギギ、と動き始める気配を見せたので再度、魔力をぶち込む。
 つーか、本当に効率悪いな、コレ。まともに攻撃エネルギーに変換すりゃ粉々にしてお釣りに来るだけの魔力使って、数十秒しか動き止められないとか色々ひでぇ。
 幸いにして傀儡兵は近くにあるものしか反応せず、動きを止めた間に距離を取れば追ってこない。だからこそ攻撃力並以下の俺でも役には立てているわけだが。

「……」

 自分の拳と動きを止めた傀儡兵を見比べる。本当に効かないかちょっと試してみるか。
半身を開いて拳を引く。

「どっせいっ!」

 気合一閃。腰の回転に合わせ、魔力を乗せた拳を思い切り振り抜く。右手に衝撃。拳の直撃した傀儡兵はその衝撃に大きく吹き飛ぶ。が。

「…………まるで効いてねー」

 確かに吹き飛んだ。だが、その金属の鎧はほんの僅かに凹んでいるだけで、ダメージらしいダメージを与えたとは思えない。もし、傀儡兵がまともに動けたら 吹き飛ばすことすらできたか怪しい。たしかにこれではクロノのいうとおり、まともにやったら傀儡兵とすら戦えそうにない。

「ふっ、所詮はEランクか」

 泣けてきた。思いっきり部屋の隅で体育座りしたい気分だが、そんなことしてるとまた傀儡兵が動き出すのでとっととクロノと合流しよう。
 そっと瓦礫から顔を覗かせて見ると、クロノが杖をデカイ傀儡兵に突き立てているところだった。
 杖を突きたてられた傀儡兵は大きくその体を震わせ、その直後に崩れ落ちていく。
 ブレイクインパルス、だったか?物体の固有振動数をどーたらこーたらで粉砕する魔法。人間に使ったらどうなるか考えたくない魔法の一つである。
 とりあえず周囲を見渡し、危険はないことを確認。一足飛びで瓦礫を飛び越えようと踏み出す。

「おおっ!?」

 庭園全体を揺さぶるような振動が襲い、足場の瓦礫が崩れ落ち、跳ぼうとしていた俺は中途半端な踏み込みで宙へと放り出される。
 上下が逆転した視界には、三メートルくらいはありそうな巨大な岩の塊が迫り来る。やべ。

「勇斗!!」

 クロノの声が遠い。流石にあれだけでかいのは俺の力じゃどうにもならない。踏ん張りが利かない空中ならなおさらだ。
 俺に出来ることは少しでもダメージを少なくするために、魔力を集中し、亀のように体を縮こまらせるだけ。

「――――っ!」

 数瞬後に訪れる衝撃に思わず目を閉じる。
 だが、次に俺が感じたのは硬い岩の衝撃ではなく、ふにょんとしたやわらかい感触だった。
 ふにょん?

「?」

 どこか身に覚えのある感触に目を開ければ、そこにはアルフの顔のどアップ。
 なるほど。手の甲に感じたこの気持ち良い感触の正体はこれか。

「危ない所だったね」
「助かった。ありがとう」

 アルフに抱きかかえられたまま礼を言う。なんという役得。助けてくれたのがアルフで良かった。
 なのはやフェイトではこんな素敵な感触は得られなかった。おっぱい!
 できることなら手の向きを変えたいところだが、今後に色々支障が出るのは確実なので自重する。

「よっ、と」

 アルフが床に着地し、当然のように俺も下ろされる。出来ればプレシアのとこまで抱き抱えて欲しいところだが仕方ない。

「無事か!」

 珍しく慌てた様子を見せるクロノに若干の新鮮さを感じずにはいられない。

「アルフのおかげで。ってか、なのは達んとこに向かったんじゃないの?」

 クロノへの応対もそこそこに疑問に思ったことを尋ねる。てっきりなのはの方へ合流したと思ったんだが。

「それがさぁ、聞いてよ、もうっ」

 途端にアルフの顔がにやけてクネクネしだしたので、ぎょっとしながら後ずさる。

「確かに最初はあのなのはって子の所に行ってたんだけどね?フェイトが自分からあの子のこと助けにきたんだよぉっ!」
「は、はぁ」
「あの子、あんたの言うとおり自分で立ち上がってくれたんだよっ!あたしゃ、もう、嬉しくってさぁっ……!」

 いつの間にか溢れ出した涙を拭いながら語るアルフ。
 尻尾がぱたぱた揺れるのを見るまでもなく、嬉しさで感極まってるのはわかるんだが、ここで惚気られてもちょっと困る。

「フェイトがね、ちゃんと終わらせて、ちゃんと、本当の自分を始めるって……ひっく」
「そっか」

 ちょっと過程が変わったかもしれないが、ちゃんとフェイトは自分で立ち上がってくれたらしい。
 元から俺が心配する必要なかったんだろうけどさ。
 今でも脳裏にその光景を思い浮かべることができる。傷ついたバルディッシュと共に立ち上がるフェイトの姿。助けに来たフェイトの姿を見て、うんうんと頷くなのはの笑顔。
 あぁ、あれを見たときには本当にテンションが上がったものだ。と、いうか今現在進行形でテンション上がってきた。

「で、君はフェイトに言われてこっちの救援にきたわけか?」
「えっ?あ、そうそう。フェイトやなのはがあんたのこと頼りないから面倒見てくれってさ。あんた、あんまり信用されてないんだねぇ」

 頼りないのは事実なだけに文句は言えないが、ぐりぐりと人の頭を抑えながらそんなに嬉しそうな顔なのは何故かね。
 そこにガラッと何かが崩れ落ちた音。振り向けば、またさっき俺が動きを止めた奴がこちらに向かおうとしている。

「てめーらはひっこんでろっ!」

 腕を一閃させて、傀儡兵の動きを止める。本っ当に効率悪いな、これっ!

「……君、また出力上がってないか?」
「時間が勿体無い。急ごう」

 クロノの言葉に口の端を吊り上げることで答え、走り出す。
 脳内BGMはフェイトの復活時に流れたあの曲だ。テンション上がらないほうがおかしい。

「あんた、飛べないんだろ?あたしに乗っていきな」

 アルフが狼形態となって併走する。

「サンキュッ!」

 アルフの背中に手を伸ばし、その背に飛び乗る。
 人間形態で抱き抱えてくれるほうが感触的にはありがたいが、これはこれでアリだな。アルフライダーとでも名乗るか。

「語呂が悪すぎるな……」
「何がさ?」
「や、こっちの話」
「それより団体さんのご到着だ」

 前方には傀儡兵たちの壁。馬鹿でかいのから小さいのまで、大小勢ぞろいのお出迎えだ。

「おまかせっ!」

 チャージは既に完了している。片腕を振り抜き魔力を放出。
 動きを止めた傀儡兵をクロノが撃ち抜き、道を作る。

「待ってろよ、プレシア!絶対に泣かしちゃるっ!!」







『取り戻すのよ。こんなはずじゃなかった世界の全てを!』

 アースラを通じてリンディさんとプレシアの会話が聞こえてくる。
 ちとまずい。計13個のジュエルシードによって発生する次元震。なのはが駆動炉を封印したとしても次元断層が発生する可能性があるらしい。
 リンディさんでも抑えきれないことに舌打ちをする。

「あそこだ!あの先がプレシアのいる部屋だ!」
「よし!」

 アルフが指差した扉は半ば崩れ落ちた瓦礫に埋もれていた。クロノは迷うことなく砲撃を撃ち放ち、道を作る。
 こっからはクロノくんによるスーパー名言タイム。

「世界はいつだって!こんなはずじゃないことばっかりだよ!ずっと昔からいつだって!誰だってそうなんだ!」

 クロノが飛び込んで叫んでいる間に、砲撃で発生した粉塵に紛れた俺とアルフは散開し、瓦礫の裏をこそこそと移動する。
 今のプレシアには何を言っても通じやしないし、こちらとしても最初から話をするつもりはなかった。勿論、オーバーSランクの魔導師相手に真っ向勝負する気などさらさらない。
 ジュエルシードはプレシアの杖に格納されているのか、目視で確認することは出来ない。とにもかくにもあの杖を分捕るのが先か。
 プレシアを挟んで反対側にいるアルフと念話でタイミングを図る。

「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ!だけど自分の勝手な憎しみに無関係な人間まで巻き込んで良い権利はどこの誰にもありは「不意打ち上等ーっ!!」

 クロノの言葉を途中で遮って瓦礫から飛び出した俺は、両手に掴んだ石ころを全力で投擲。視界の端でクロノが顔を顰めた気がするが気にしない。
 俺の魔力を付与したところで石には何の効果もないので、ただ力任せに投げつけただけ。だが、ただの石とてそれなりの大きさと速度を持って撃ち出せば十分凶器と成り得る。身体能力を強化した俺の腕力ならば当たれば痛い程度では済まない。多分。
 勿論、ただの石ころなどプレシアにとっては身じろぎ一つせず止められるだろう。

「プレシアァッ!!」
『Blaze Cannon』

 戦闘力皆無に等しい俺は囮に過ぎない。
 アルフが瓦礫から飛び出し、拳を振りかざす。同時にS2Uからも蒼い閃光が迸る。アリシアのカプセルが背後にある以上、プレシアは受ける以外の選択肢はない。
 俺の投擲した石は宙に発生したガラスの結晶のような障壁に弾かれ、アルフの拳とクロノの砲撃もそれぞれ同じように手と杖の先に生じた魔法陣のシールドに受け止められる。狂ってもオーバーSランク。そう容易くはいかないか。

「邪魔よっ!」

 拳と砲撃の一撃は魔法陣の爆発で弾かれ、相殺される。
 プレシアが発した声と同時に彼女とアリシアを取り囲むように無数の光球が現れる。
 ヤバイ――と声を発する前に、退避行動へ移る。

「うおぉっ!?」

 雨あられと降り注ぐ雷の矢を必死に身を捩ってかわす。幸いというかこちらに飛んで来た数はそう多くない。
 すぐさま瓦礫の影に飛び込んで伏せる。フォトンランサーが破壊して飛び散った破片が落ちてくるがそんなのは気にしていられない。

「その声、さっき散々好き勝手言ってくれた坊やのようね……」

 プレシアの攻撃が止んだと思ったら、そんな声が聞こえてきた。
 ばれてーら。カサコサと伏せた体勢のままその場を離れる。同じ位置にいるのはまずい。
 クロノとアルフの反応がないが、さすがにあれで終わりということはないだろう。だとしたら俺の出来ることは何か?囮として少しでもプレシアの気を引く。それしかない。
 ないけど……やりたくないなぁ。まともに突っ込むのもごめんだが、キレたプレシアさんに目を付けられるのも御免被りたい。さっきは勢いのまま、思うまま を口走ってしまったが、時間を置いて考えるとアレはない。言ってることが無駄に青臭くて恥ずかしかった。っていうか、プレシアに言葉で言って通じるなら誰 も苦労しませんよー。
 ノリと勢いって怖い。

「ナカニダレモイマセンヨ」
「そこっ!」
「うひぃっ!?」

 思わず発した声にすかさずランサーが発射された。壁にした瓦礫が撃ち砕かれ、頭上を掠めていく。

「危ねぇな、オイッ!問答無用で攻撃してくんじゃねぇよっ!?」

 咄嗟に足をバネにして前転宙返り。一瞬先まで体があった箇所に穴が開いた。うわぁ。

「子供相手に何、殺る気満々なんだよっ!?大人なら子供を労われーっ!」

 叫びながらその場から走り出し、次の瓦礫へと身を潜めるが、プレシアは容赦なくランサーを撃ち放ってくる。
 そのどれもが俺自身を狙うのでなく、ギリギリ俺に直撃しないように足元や眼前の壁を狙っている。
 くそっ、完全に遊んでやがる。一撃で仕留めるのではなく、猫が鼠をいたぶるようにじわじわとこちらを追い詰める気だ。俺はそれに対して足を止めることもできず、ただ無様に走り、転げまわることしかできない。

「ふふ。あなたはを家に入り込んだ虫けらを労わるのかしら?」

 お約束過ぎる返答に泣けてくる。

「こんないたいけな子供に対して虫けらとか感性おかしいだろっ!」

 足元を吹き飛ばされた勢いで一回転して転ぶ。仰向けに倒されるが、すぐに全身をバネにして跳ね起きる。

「いたいけな子供?誰が?」
「まったくだ」

 プレシアの声に応えたのは俺じゃない。どこからか現れたクロノがプレシアの頭上からデバイスを振り下ろす。

『Stinger Snipe』

 一条の閃光が螺旋を描きながらプレシアへと迫る。そして同時に雷の弾丸が降り注ぐ。設置型のフォトンランサー・マルチショット。
 プレシアが左手をかざして発動させたシールドがスティンガースナイプを弾き、ランサーはオートで発動したと思しき障壁に遮られる。そこへ飛び込む一筋の 影。アルフが飛び込んだ勢いのままに拳を叩きつける。叩き付けた拳も障壁によって遮られるが、アルフはそれでもなお拳を振り抜こうとその場に踏みとどま る。

「うあああぁっ!」

 咆哮。アルフの拳が遂にプレシアの障壁を破り、消失させる。プレシアの反撃を警戒したアルフはすぐさま後退し、距離を取る。

「スナイプショットッ!」

 その隙を逃がすクロノではない。弾かれた光の鞭を撒き戻し、リチャージ。初撃に勝る速度で撃ち出される。
 迫り来る光を迎撃しようとフォトンランサーが放たれるが、光の鞭はそのことごとくを撃ち砕き、プレシアに肉薄する。
 プレシアが手にした杖でそれを薙ぎ払う。杖の先端が紫の魔力光に包まれ、光の鞭と衝突した瞬間に爆発する。
 これで終わり、ということは絶対にない。俺はコレ幸いとばかりに距離を取り、大きく息を吸い込む。

「勇斗!君はもういい。下がってろ!」

 言われるまでも無い。だが、プレシアには言いたいことが一つだけ残っている。瓦礫の頂上に陣取り声を大にして叫ぶ。

「自分の年を考えてファッション決めろ、おばはん!そんなんだから将来、娘が露出狂になるんだよっ!このヒス持ち年増ーっ!」
「そんなこと言ってないで早く帰れ!このバカッ!」

 あ、アルフがこけてる。

「って、おぉっ!?」

 言いたいことを言ってすっきりしたのも束の間、爆煙の中から魔力の鎖が飛来する。
 慌てて飛びのいてそれをかわすも、続く二本目の鎖が、空中で俺の脚を絡め取る。

「しまっ……どわぁぁあっ!?いてッ!いてっ!」

 地面に叩きつけられ、物凄い勢いでプレシアのほうへと引き寄せられる。いてぇっ!
 頭がゴツンゴツン地面にこすりつけられてるがなっ!すぐに両手で頭を覆うも痛いものは痛い。

「バカッ!」
「このっ!」
「邪魔しないで」

 すかさずクロノとアルフが動こうとするが、床から湧き出した傀儡兵たちが間に割り込んでくる。
 二人にとって少数の傀儡兵たちなど相手にはならないが、プレシアにとってはほんの僅かの時間を稼げればそれで十分だった。

「動かないで」

 傀儡兵たちを蹴散らしたクロノ達の動きを止めたのはプレシアの声と、そのプレシアに首を掴まれた俺の姿だった。

「動けばこの子の命はないわよ?」
「ぐっ……!」

 片手でギリギリと首を締め上げられ、苦痛の呻きが漏れる。
 くっそ、調子に乗りすぎて下手こいた。自らの失態を悔やむも時すでに遅し。
 子供の体とはいえ、首を片手で持ち上げられるだけでも結構しんどいのに、さらに締め付けられるのは中々に堪えるな、これ。

「くそっ!」
「ちっ」

 さしものクロノも俺という人質がいては思うように動けない。アルフも動けずに舌打ちする。

「この子の命が惜しければ、そちらのジュエルシードを渡しなさい。そうすればこの子は返してあげるわ」

 俺の首を締め上げながらプレシアはゆっくりとクロノへ視線を巡らせる。
 プレシアがあとほんのわずか力を込めれば、俺の首はあっさりとへし折られてしまうのは想像に難くない。

「……断る」

 僅かな逡巡のあと、クロノはきっぱりと断言する。
 ジュエルシードを渡せば幾多の世界を巻き込む次元震が発生する。子供一人の命と比べるべくも無い、当然の答えだった。

「でしょうね」

 プレシアのほうも本気で取り引きしようと思ってはいなかったらしく、素っ気無い声を出して、その視線を俺へと向ける。

「よくも随分と好き勝手に喚いてくれたものねぇ?あなたにはたっぷぶっ!?」

 嗜虐の笑みを浮かべたプレシアの声は途中で途切れる。理由は簡単、俺が脱ぎ捨てた靴が顔面直撃したせいだ。

「こ、このっ……!」
「ふぁ、ふはは……ざまぁ」

 怒りの表情を見せるプレシアに嘲笑を向ける。喉が締められてるせいで、声が掠れてるのが様にならない。
あと、もう少し。

「バカッ!この状況で相手を怒らせてどうする!?」

 クロノの罵声が聞こえてくる。まぁ、確かにクロノの言うとおりなんだが、このまま首を絞められっぱなしはストレスが溜まる。少しでも一矢報いておきたいと思うのが人情だと思う。生きていて価値が生じる人質だからこそ、この程度ですぐに殺されることはないだろうし。

「母さん!」
「フェイトっ!」

 アルフの声に視線を向ければ、駆け寄ってくるフェイトの姿が目に入る。

「何をしに来たの」

 プレシアの言葉にフェイトの足が止まる。

「もうあなたには用はないわ。消えなさい」

 フェイトは一瞬、悲しげに目を伏せるがすぐにキッとした視線をプレシアに向ける。
 いける。

「あなたに言いたいことがあって来ました」
「……あなたっ!?」

 プレシアが驚愕の声を上げる。相手はフェイトではなく、この俺。気付くのがほんの僅かに遅い。もう俺の準備は整っている。
 俺は締められた時からプレシアの腕を掴んでいる手に力を込め、嘲笑を浮かべる。

「吹き飛べ」
「待っ」

 その言葉をトリガーに魔法を発動させる。
 俺の制御力が極端に低いせいで、魔法として発動させるときに魔力は制御を失い暴走する。暴走した魔力はその力を純粋な破壊エネルギーへと変化させ、爆発を引き起こす。無論、使用した魔力が大きければその規模も破壊力も格段に上昇する。早い話がただの自爆。
 例え、プレシアとも言えどもこれだけの至近距離、不意打ちならば防御も間に合わないはず。魔力も十分な量をチャージしていたから、破壊力も問題ない。
 俺の手から膨大な閃光が溢れ出し、瞬く間に俺とプレシアを飲み込んでいく。訓練でもこれだけの魔力を暴発させたことはないので、どれだけの規模になるかはわからない。
 まぁ、フェイト達ならこの距離でもなんとかガードは間に合うだろう。
 この出力で魔力を暴発させれば、死にはしないまでも確実に俺は意識を失う。プレシアが気絶するかどうかは微妙な線だが、本人も次元魔法の使用で体に負担がかかってる以上、ただでは済まないだろう。あとはクロノに丸投げだ。
 視界を閃光が埋め尽くす中、俺は意識を手放した。



■PREVIEW NEXT EPISODE■

自らの犠牲を厭わず、プレシアと自爆した勇斗。
全てが終わるかに思えたその時、予想だにしない危機が勇斗達を襲う。
そして勇斗は新たな力を手にする。

勇斗『変身』

 

 

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UP DATE 09/7/21

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