Memories Off Another

 

第59話

 

 

11/18(日)

 

 

詩音とデートの約束の後、瞬く間に時が過ぎていった。

何しろ学園祭が近いだけに、放課後も遅くまで残る日々。

どーでもいいことだが、智也と信はコオロギを捕まえるのに一生懸命だった。俺も一緒に捕まえないか、と誘われたが自分とこのクラスの準備で精一杯だ。

そして何よりさぼったら桧月が怖い。真面目にやってる振りをしつつ、問題にならない程度に手を抜くのが人として一番賢いやり方だろう。

奴らに捕まえたコオロギをどうするのか聞いたときに、智也が誇らしげに話していたカキコオロギという単語は俺の幻聴だ。そうに違いない。

……そうだといいなぁ、としみじみ思う。でも智也と信だしなぁ。

どうせ去年のようにロクでもないオチになるのは明白だがとりあえず生暖かく見守ることにしよう。

奴らを止める使命は今坂を始めとする学祭実行委員に押し付けて、俺は静観を決め込む。

俺に出来るのは学年内でやつらの賭けが成功するかどうかを取り仕切ることのみだ。

今坂たちの力及ばず、犠牲者が出た暁には……謹んで黙祷を捧げよう。

そんなこんなでバイトも今月からは控え気味。とはいえ当然片瀬さんとも顔を合わせるわけで。いや、同じバイトなんだから当然だけど。

お見舞いの件で礼を言ったら、林女の学園祭のチケットを貰って、二人きりで回って欲しいと誘われてしまった。

林女はお嬢様学校だけあってその学園祭にも生徒らに配られるチケットがないと敷地内に入ることすらできない。

ゆえに一部ではプラチナチケットと呼ばれ高額で取引されるとかなんとか信が言ってた。たかが学園祭でプレミアなんてつけるなよ、と言いたい。

それはそれとして、誘われたことそのものは嬉しいよ、片瀬さん?でもね、詩音もだけどボクに好きな人いるの知ってるよね?

なんでそこまで平然と誘えるんですかっ、と。それぞれに小一時間ほど問いただしたい所なんだが墓穴を掘るだけの気がしてとてもできません。

詩音とは既にデートの約束をしているだけに片瀬さんだけ断るわけにもいかない。

ってゆーかさ?上目遣いで目をうるうるさせながらこっち見るの禁止!断るに断れねぇよっ!

可愛いとか断ったら罪悪感を感じるとかそんなチャチなもんじゃねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だぜ。

……こーゆーのも優柔不断と言うんだろうか?

いや、でも俺はっきりと好きなヤツ宣言してるしなぁ。相手もそれを知ってるし。

あー、うー。ぐすん。

ちなみに桧月は桧月であの後、詩音とデートに行けって言った時の真意を教えてくれた。

以下、回想。

 

 

「あの……ごめんね。俊くんの気持ち知ってるのにあんなこと言って」

む。確かにあん時は傷付いたし、色々言いたいこともあったがそんな顔されたはこっちはもう怒れない。

我ながら情けないとも思うが、これも惚れた弱みとでもいうべきか。

「ま、過ぎたことはしゃーないけどさ。理由はくらいは教えてくれよな」

「うん、あんまり上手く言える自信はないんだけど……せっかく俊くんのことを見てくれる子がいるんだからその子のこともちゃんと見てあげて欲しいなっていうか」

その後の言葉をどう繋げたものか首を傾げる桧月。

「俊くんがね、私のこと、その好きって言ってくれたのは凄く嬉しいよ。でも、それで他の子の良いところを見過ごしちゃうのは勿体無いって言うか……え、と、ゴメン。これじゃ何言いたいのか全然わかんないよね」

あはは、と困った顔で笑う桧月。

まぁ、言わんとすることはわからんでもない。

「よーするに、自分以外の子ともちゃんと向き合って、ちゃんと知って、それでもお前のこと好きでいられるかってことだろ?」

「え、あ、うーん。そういうこと……なのかな?」

「ドラク○5で言えば、ビア○カとフ○ーラのどっちを選ぶか一晩よく考えろ的な」

「そーゆう危ない発言はしないっ!」

「でも当たらずとも遠からずってとこだろ?」

「う、まぁ……そうかもしれないけど」

俺が指摘すると返す言葉に詰まる桧月。

「つーか、その台詞まんまお前にも返すからな」

「うっ」

「自分で言うのもアレだが、俺お前に対して結構わかりやすいアプローチしてたけどお前全く気付かないし。鈍いとかそーゆーレベルじゃないだろ?」

「ううっ……」

図星をさされてどんどん小さくなる桧月。実際問題、俺の桧月に対する態度は傍から見たら相当わかりやすかったと思う。それでも人のことを仲の良い友達程度にしか思ってないんだから相当なもんだろう。

や、智也しか目に入ってなかったのは知ってるけどさ。

「つーわけで、罰として学園祭は一緒に回ろうな」

「うぅ、わかりましたぁ……って何でそうなるのっ!?」

「いーじゃんかよ、それくらい。さっきの詩音とのことでのお前の言葉に俺、結構傷ついたんだぞ?マジ泣きしかけたくらい」

「あぅ」

流石に自覚があるらしく、桧月から反論の言葉は出てこない。

「それに人に偉そうなこと言うならまず自分が実践しないとな?」

「うぅ、わかりましたぁ……」

項垂れながらさっきと同じ言葉を繰り返す桧月。

うし、商談成立!多少、強引な気もしなくもないが、これくらい押せ押せでいかないと桧月は振り向かせられない。

転んでも只で起きる俺ではないのだ。

「話は変わるけど俊くん」

「ん?」

「詩音ちゃんのことはどう思ってるの?」

「どう、と言われてもなぁ。正直、波長の合う友達くらいにしか思ってなかった」

「ふーん」

とか言いつつも、その目線で更にもっと詳しく聞かせろと問いかける桧月。

「まー、確かに可愛いとは思うけどさ。恋愛の対象とかそーゆー風には思ってないな。うん」

「でも、俊くんが名前で呼ぶ女の子って詩音ちゃんだけだよね?」

「それはさっきも言ったろーが、あいつが呼べっつったんだもん。うっかり苗字で呼んだら物凄い顔して睨まれたんだぞ?」

あれは怖かった。もう抵抗なんぞしようものなら後々酷い目に合わされるんじゃないかと思ったね。

「ふーん、そうなんだ。でも、なんだかんだで詩音ちゃんと仲良くなってるんだよね」

どこをどう聞いたらそんな風になりますかね、こんちきしょう!

「ちょっとは妬いたりしない?」

「うん、全然♪」

即答しやがりましたよ、このやろう。本気でそう思ってるのが伝わってきてとってもどちくしょうっ!

「ちなみに俺がお前を名前で呼ぶときは恋人になったときな」

「え?」

桧月が呆気に取られた顔で固まる。

かと思うとその顔が見る見る間に真っ赤に染まっていく。

ちなみに言った俺も実は物凄く恥ずかしかった。

「ななななな」

「にぬねの?」

「違うッ!何言い出すのよ、急に」

「うーむ、顔を真っ赤にして慌ててる桧月もこれはこれで……」

「そこっ、変なこと言わないっ」

「はっはっは、ささやかながらのお返しだ」

]本当にささやか過ぎるお返しで色々物足りないけどなっ!

「もう」

照れ隠しのつもりか桧月は早歩きでどんどん先に行ってしまう。

「はっはっは、照れるな、照れるな」

「むー」

顔を真っ赤にして睨んでくる桧月。うむ、可愛いにもほどがあるだろう。

桧月の百面相に満足しつつ、ふと気になったことを聞いてみる。

「あー、と、学祭回るの本当にオッケーなんだよな?本気で嫌がってたりしないよな?」

さっきはなんとか話をまとめたものの急に不安になってきた。多分、大丈夫だとは思うけど本気で嫌がられてたら流石に無理強いはできない。

桧月はぽかんとした顔をしてこっちを見ている。

うん、その微妙な沈黙の間が怖いな。早いとこ何か言って欲しい。

「……ぷっ、あはは」

内心ビクビクしていたらいきなり桧月が吹き出した。

「そんな捨てられた子犬みたいな目をしなくても大丈夫。別にイヤじゃないよ。ちゃーんと付き合ってあげるから」

「ん、そか」

その言葉と笑顔で心底安心した。うん、大丈夫、まだチャンスはある。イケイケゴーゴージャンプだ。

攻めて攻めて攻めまくる。ここまで来たら照れたりためらったりしてる場合じゃないわけで。

くすくすと笑い続ける彩花の隣で俺は固く決意した。

 

 

以上、回想終わり。

と、いうわけでそろそろ詩音との待ち合わせ時間。待ち合わせ時間より10分くらい早めに着けそうだ。

うーん、よく考えなくてもこれって俺の初デートなんだよ。

・・・・・・・・・やべぇ、今更ながらに緊張してきた。

ちょっとズレてるとこあるけど詩音もとびっきりの美少女だもんなぁ。緊張するなという方が無理だ。

気分は連邦の白い悪魔にヒートホーク一本しか持ってないザ○Uで挑むジオン兵?

うむ、落ち着け、俺。たかだか女の子と一緒に遊園地に行くくらい今時の高校生なら極めて当然のことだっ!多分!きっと!そーだといいなっ!

とりあえず平常心平常心。人は人。俺は俺。決してパニっくってなどいない。

待ち合わせ場所の中目町に着いた。時間は10分前。詩音の性格だと絶対にもういるような気がして仕方ない。

とか、思ってたらあっさりとターゲット発見。こっからじゃ駅の柱が陰になってて後ろ姿しか見えないけどあの髪は間違いなく詩音だ。

「詩音」

「はい」

俺が近寄って呼ぶと詩音は手にした文庫本から顔を上げて、こちらを振り向いた瞬間――――俺の時間が止まる。

「おはようございます、俊一さん。今日はよろしくお願いします……俊一さん?」

「……はっ!?」

詩音が俺の顔の前で手を振ってくれたおかげで再び時が動き出す。

「どうされたんですか?」

「あー、いや、その……なんというか」

詩音の私服姿綺麗で見惚れた……とは口に出せない。

白いロングスカートに大きめのラウンドネックから白い胸当てアクセントを出してるカットソー。その上にはカーディガンを羽織っている。

シンプルな出で立ちだけど必要以上に着飾らないことで詩音という素材を良く活かしたコーディネイトだった。正直くらっと来た。

やばい、冗談みたいに可愛い。

そーいや、詩音の私服姿って始めて見た気がする。

普通ならここで褒めるべきなんだけど、俺の立場で率先して褒めちゃまずいよなぁ。

まごまごした俺を不安に思ったのか、途端に詩音の表情が曇る。

「え、と……せっかくのデートだからできるかぎりお洒落してみたんだけど、変……かしら?」

「いやっ、そんなことは全然ないっ!むしろ逆、あんまり綺麗過ぎて見惚れたっ!」

言った傍からの中で盛大に号泣な俺。あぁ……俺って嘘のつけない性格なのね。しくしく。

詩音は一瞬ぽかんとした後、少しだけ頬を染めて、

「ありがとうございます。一晩中悩んだ甲斐がありました。お世辞でも嬉しいです」

「いや、お世辞とか言えないから」

目を逸らしながら小声でボソッと呟く。詩音が鏡の前で服を並べて悩んでるところを想像する。

くっ、なんて破壊力だっ!詩音は化け物かっ!?

「ふふっ、そのようですね」

俺の声がしっかり聞かれていたようで詩音は嬉しそうに微笑む。

「ふふっ、今日一日、思い出に残る一日にしましょうね」

「……おう」

こうして、俺と詩音のデートはスタートしたのである。

うん、初っ端から主導権奪われまくりだねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 08/8/22


んじゃまー、詩音に雰囲気が似てるクロエ先輩にwktkしつつ、メモオフ6プレイしてきます。 ノシ

>なんか、ほのぼのした修羅場、って感じでした…どんなだ。
>そして彩花の目の前で詩音とのデート決定。相変わらず愉快な人生送ってますねぇ。
本人的にはそうとうに笑えない状況ですがwちゃんとしたデートは次回〜。

>彩花さんが一歩完全に引いて詩音の出番ですか
>残念だと思いつつもこのSSの詩音は私の好みの性格になりつつあるかも
>もしあのイベントが起こってあの展開になれば・・・
>リクエストはしませんがちょっとだけ期待して次を待ってます(笑
まー、流石に智也が唯笑とくっついたからってすぐに気持ちを切り替えれるもんじゃないですからね。
俊くんと向き合うにはもうちょっとかかるでしょう。
詩音は俊くんとか片瀬さんの影響で大分押せ押せになってますwどっちかだけならここまでにはならないんでしょうが。
詩音イベントは次回が山場ですかねー。

>俊一がものすご〜く羨ましい様な可哀想そうな…。完全に、女難の相、出てますねv(爆) 続きがとても気になります。
>やはり、私の更新を楽しみにしているSSの一つですv。
>…ところで、俊一の過去って一体どうなんでしょう?
>初めから読み直していて、ふと思いました。外伝でもいいので、書いていただけたら幸いですvv
ありがとうございますー。俊くんの過去ってほど大げさなもんはないんですけどね。多分、次回辺りでその辺りは書けるんじゃないかと。
その前に本編アフターのパラレル短編が入るかも。
俊くんの状況は傍から見てると羨ましいけど本人の立場からすると中々難しいところですよねー。嬉しいけど嬉しくないというかw

>いい意味でやばい
気に入っていただけたなら幸いです。

>智也の問題も終わり、更に混沌と化しそうな今日この頃。。。
>俊への思いの違いから、彩花を全面に出すのは難しそうだなと思いつつ、今日も草場の陰から応援してます。
まー、そー簡単には向き合うの難しいですよね。彩花はようやくスタート地点といった感じです。
逆に言えば彩花のターンはこれから作れるってことですよねっ!
って、だから何故に草葉の陰!?