Memories Off Another

 

第53話

 

 

 

11/10(土)

 

 

俊が彩花、信が唯笑に告白してから二日が経った。

俊と信は変わらない。

信と二人で話もしたが、俊の予想通り玉砕したようだ。

だが、信に落ち込んだ様子はなく、ただ一言だけオレに言った。

「お前が決着つけてやれ」

二人揃って玉砕したにも関わらず、今は何事もなかったかのようにケロっとしている。

それがありがたくもあり、少しばかり申し訳ない気持ちにもなった。

そして、オレと彩花、唯笑の三人は表面上、何事もなかったかのように振舞っている。

だけど、どこか棘が刺さったまま抜けないような。そんな違和感が三人の間に生まれていた。

原因なんてわかりきっている。そして、その解決法もオレは知っている。

俊にも言われた。

オレが選べ、と。

今の関係が心地よかった。だけどずっとこのままでいられないのもわかってた。

いつかは踏み出さなければならないことも。

ここまでお膳立てされた以上は、やっぱりオレが自分で選ばなければならない。

それが、唯笑と彩花に対しても、俊や信たち親友二人の気持ちに答えることになるのだろう。

オレは携帯を取り出し、二通のメールを送信した。

 

 

 

 

 

 

「話があるの」

今日の放課後、そう唯笑ちゃんが言ってきた。

私も唯笑ちゃんに話をしようと思っていたところなので、私もすぐにそれを承諾した。

俊くんに告白された翌日。

智也も唯笑ちゃんも、そして私もどこかぎこちなかった。

二人に何があったのかはわからない。わからないけど、多分、俊くんが何かやったんじゃないかな、となんとなく想像がついた。

普段は、面倒くさがって何もやりたがらないくせに、いざというときはびっくりするくらい行動力を見せる人だから。

澄空の喫茶店に二人で入る。

二人分の飲み物が運ばれても無言。

お互いに何から話していいのかわからず言葉を探していた。

「彩ちゃん」

先に言葉を発したのは唯笑だった。

すうっと息を吸い込んで唯笑ちゃんは静かに、だけど力強く言った。

「唯笑、智ちゃんに告白する」

唐突な、だけどシンプルなその言葉に私は息を飲む。

先に言われてしまった。

「信くんに言われたんだ。好きならその気持ちをちゃんと智ちゃんにぶつけろって。ちゃんと言葉にしなきゃ意味のないこともあるって」

「・・・・・・うん」

「彩ちゃんはどうするの?」

唯笑ちゃんは知ってる。ううん、お互いに、と言うべきだろうか。

私たちは二人とも同じ人を想っている。そしてお互いにそれを知っている。

今まで一歩を踏み出せなかったのは、お互いがお互いに遠慮してた、というのも少なからずある。

だけど今は。

「私も、智也に好きだって言うよ。私も唯笑ちゃんに負けないくらい智也のこと好きだもん」

「うん、うんうん。そうだよね♪」

私が言うと唯笑ちゃんは嬉しそうにうんうんと頷いている。

普通、親友同士で同じ人を好きだっていったら、もうちょっと違う反応をするべきなんじゃないかなって思う。

でも、私きっと唯笑ちゃんと同じで嬉しそうな顔をしてるんだろう。

「私も俊くんに言われたんだ。私たち三人の気持ちをちゃんと、ぶつけあって決着つけろって」

俊くんが背中を押してくれた。だから私も踏み出さなきゃいけない。

「今までは唯笑ちゃんの気持ちも知ってたから、踏み出せなかった。だけどお互いに遠慮して相手に譲るのって何か違うんだよね」

「・・・うん、そうかもしれないね」

それも一つの方法ではあると思う。

だけど、こんな私に気持ちをぶつけてくれた人がいるから。

自分の気持ちを素直にならなきゃいけないんだと思う。

「私と唯笑ちゃん、二人の気持ちをちゃんと智也にぶつけよう」

「うんっ!」

その結果、私たちの関係がどうなるかはわからない。

だけど三人の絆は絶対に壊れたりなんかはしない。それだけははっきりと信じられる。

「じゃあじゃあ、どうやって智ちゃんに言おっか?」

唯笑ちゃんが身を乗り出しながら言う。

「うーん、そうだねぇ。いきなり二人同時に言ったら多分、智也固まっちゃうよね」

「あはは、だよねぇ。かといって告白するから心の準備してきてくださいっ!っていうのもアレだしねぇ」

「うーん」

「うーん」

唯笑ちゃんと二人で唸る。

俊くんに言われた方法がベストかなって思うけど、やっぱりできる限り自分達で考えた方法で告白したい。

その後も二人であーでもない、こーでもないと意見を出し合う。

そんなことをしてるうちにお互いの携帯からメールの着信音が鳴り響く。

「あ、珍しい。智也からだ」

智也は性格的に面倒くさがりだから自分からメールを出すってことを滅多にしない。

どころか、電話してもメールしてもまるっきり返事が無いってことすら日常茶飯事。

普段から携帯して持ち歩くから意味があるんだよって言ってもちっとも聞きかないし。

「彩ちゃんも?唯笑も智ちゃんからだよ」

二人で視線を合わせた後、互いに頷いてメールを読む。

そこにはこう書いてあった。

 

『唯笑と彩花、二人に話がある。16時に×××公園で待ってる   

                                      智也』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、彩ちゃん。智ちゃんがどっちを選んでも恨みっこなしだよ」

「もう、そんなの当たり前でしょ」

唯笑ちゃんと二人で軽口を叩きながら公園への道のりを歩く。

私達三人が小さい頃から何度も遊んだ思い出の公園へ。

「ね、唯笑」

私は初めて唯笑を呼び捨てで呼んだ。

今までの妹のような幼馴染ではなく、自分と対等な相手として。

「ん、なーに?」

呼び方の変化に気付いていないのか、それとも気にしていないのか。

「頑張ろうね」

私が言うと唯笑は一瞬だけぽかんと顔をして、それから大きく頷いた。

「うんっ」

多くの言葉を語る必要は無い。だって、私達三人は今までずっと一緒に過ごしてきたんだから。

智也が私じゃなくて、唯笑を選んだとしても、きっと笑顔でいられる。

だって、智也と同じくらい唯笑のことが大切だから。

自惚れかもしれないけど、きっと唯笑も私と同じ気持ちなんだと思う。

だから、ほんの少し関係が変わってしまったとしても、私三人はずっと一緒だと信じていられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「智ちゃん」

呼ばれた声に振り向くと、そこには唯笑と彩花の二人が並んで歩いていた。

「悪いな、いきなり呼び出して」

「ううん、私達も智也に話すことがあったから」

「そっか」

二人がすぐ傍まで来てからゆっくりとベンチから立ち上がる。

「さて、何から話したもんかな」

覚悟は決めた。しっかりと選ぶと決めた。

だけど、いざこうして二人を目の前にすると何から話していいものか言葉が浮かんでこない。

俊や信はどういう気持ちだったんだろう。

「ほいじゃあ、唯笑たちのほうから話していいかな?」

「ん、ああ。別にいいけど」

頷くと、スッと彩花が一歩前に出て俺の正面に立つ。

そして真剣な顔でゆっくりとその口を開いた。

「智也、私は智也が好き。小さい頃からずっと、ずっと大好きだった」

不意な告白に思考が止まる。

「次は唯笑の番だよ」

今度は唯笑も一歩踏み出し、言葉を紡ぐ。

「唯笑も智ちゃんのことが好き。大好き。彩ちゃんに負けないくらい智ちゃんのこと好きだよ」

立て続けの告白。

二人のオレに対する気持ちはうすうす感じていた。

それに対して今日答えを出すつもりでいた。

だが、さすがにこの展開は予想外だ。

頭を思いっきり殴られたような感覚に脳が混乱している。

「あ、えっと・・・」

パニックになった思考をなんとか落ち着けようとする。

だが、そこに追い討ちをかけるように彩花が続ける。

「私たちの気持ち、ちゃんと伝えたよ」

「だから、智ちゃんにもちゃんと選んで欲しい。智ちゃんからちゃんと答えを聞かないと、私たち前に進めないもん」

てへへ、と唯笑が笑う。

彩花のほうも照れ笑いを浮かべていた。

「参ったな・・・先に言われちまった」

二人の笑顔につられて苦笑を浮かべる。

「心配しなくてもちゃんと選ぶさ。元々そのつもりでお前らを呼んだんだしな」

「そっか」

「やっぱりー」

二人のほうはそれを予想していたらしくうんうんと頷いている。

それでもその顔から緊張感が漂っているのは隠せていなかったが。

「俊や信に言われたよ。ちゃんとお前らにオレから言ってやれってさ。人に言われてやっと行動するんだから情けないよな」

大きくため息をつく。

あの二人は親友だけど、いや、だからこそそこまで言わせてしまった自分が情けない。

唯笑や彩花の気持ちには気付いていたが、あの二人の気持ちまでは気付けなかった。

今にして思えば、二人の行動の端々から「あぁ、なるほど」、と頷くことができるんだけど。

「それは私たちも同じ・・・かな」

「うん、唯笑も彩ちゃんも、智ちゃんから言ってくれるのを待ってただけだもん。こういうことはちゃんと言葉にしていかなきゃダメだったんだよね」

「それでも、まだ手遅れじゃないよな」

俺の言葉に二人はゆっくりと頷く。

「ずるい言い方になるかもしれないけどさ、オレにとってはやっぱり二人とも同じくらい大切な存在だったけど、」

だけど気付くことができた。いや、気付かされた。

同じくらい大切な存在であっても、そこにはほんの僅かな、だけど決定的な違いがあることを。

「それでも、オレが一番傍にして欲しいのは・・・」

オレはそこで言葉を切り、しっかりと二人の大切な幼馴染の瞳を見つめる。

 

 

 

 

そして、オレは一人を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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採点(10段階評価で、10が最高です) 10
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Up DATE 08/4/15


>最高です! 
>話が進んで行くたび、どんどんはまっていく自分がいます。(笑)
>前回、今回と非常に良かったです。 私は俊×彩花派なのですが、詩音にも片瀬さんにも応援したくなりました!
>今後、どのように展開していくのか凄く楽しみです。
>…ですが、やはり私は俊と彩花が好きなので、この二人が結ばれることを期待します
詩音とか片瀬さんメインの話を書くごとに俊くんが深みにはまっていく気がしますw
とりあえずこれで彩花、唯笑、智也の関係に一区切り、ってとこです。
俊くんが誰と結ばれるかわかるのはもうちょい先になりそうです。

>前半、俊君の混乱ぶりをたっぷり堪能しながら読ませてもらいました
>後半、詩音が出て引越しイベントは予想はしてたんですが・・・
>アンゼロットですか(笑)思わず吹きだしてしまいました。
>採点で10点入れたかったんですけど私にとって10点は本編だけにしたいので
>9点にしてます、でも9.5はつけたかったかも(笑
>次の智也・彩花・唯笑編も期待してますね
>追伸)片瀬さんの初カラーですか、これと俊くんの悶えてる様子で片瀬さんのイメージが固まりました(笑
そりゃあ、あんな不意打ち食らえば混乱しますともw
片瀬さんに比べると詩音の押しがいまいち弱い感がありますけども、今後、詩音の逆襲なるか?、というとこでしょうか。
片瀬さんに関してはそのうち全身画とか設定画みたいな感じでちゃんと描いてあげたいですねぇ。
自分でデザインしときながら描くたびに雰囲気変わるとか orz

>詩音のはいかイエスには爆笑させていただきました(*^_^*)いろんな意味で詩音はすごいですね
や、だって紅茶好きなとことか見た目とか似てるじゃないですか?

>最っ高!!どうなるのか楽しみです。
>はいかイエスネタは某世界の守護者からですか?
色んな意味で読者さまの予想を裏切っていく展開にしたいと思っています。
今回は正直自分でも出来がイマイチ感が強くて技量不足が泣けてくるとこですが。
もちろんはいかイエスネタはそれですよー。だって似て(ry