Memories Off Another
第51話
11/9(金)
「よおっ」
「お、おはよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
普段どおりの挨拶。
の、はずが何かぎこちなかった。
俺が挨拶すると桧月は目を逸らすようにして自分の席に座り込んでしまった。
その様子が妙にわざとらしい。
昨日は特にそんな様子は無かったけどそれなりに時間を置いたことで変に意識し始めてしまったのかもしれない。
俺自身、表面的には平静を装っているつもりで内心はドキドキなのだから仕方ないか。
片肘つきながら横目で桧月の様子を伺う。
俺以外の相手には特に普段と変わりない様子で接している。
そのままじっと眺めていると、こちらを向いた桧月と視線が合う。
途端にサッと視線をずらす桧月。
その慌てた様子に苦笑が漏れ出てしまう。
「不器用な奴・・・」
ボツリと小声で呟いた言葉とともに内心ではホッとする反面、チクリと心が痛んだ。
桧月が俺のことを意識してくれているということは、多少なりとも俺自身に対して何かしら思っていてくれる、ということなのだろう。
告白した翌日で何事もなかったかのように振舞われたらそれはそれで切ない。
それだと丸っきり可能性ないのと同義だからなぁ・・・。
かといって今のように避けられるような態度を取られるのも正直しんどい。
まぁ、しばらくはしゃーないか・・・・。
流石に昨日の今日で智也とのこともまだ決着付いてないだろうし、しばらくは我慢しよう。
とはいったものの頭で割り切ってもそれが平気かっていうとまた別問題なんだよなぁ。
結局、放課後まで今日一日桧月とまともに会話することはなかった。
桧月が微妙に俺を避けるのはバレバレだったし、俺も無理に話しかけようとも思わなかった。
頭ではわかっててもこう、頭のなかで釈然としないわけで・・・・うーん。
「・・・ん・・・・俊一さんっ」
「お?」
突然呼ばれた声に振り向くと、そこには微妙に不機嫌そうな顔で双海が睨んでいた。
「もう、さっきからずっと呼んでたのに無視するなんて酷いんじゃないですか?」
頬を膨らませながら、俺の隣に並ぶ双海。
「え?あ、あー、と。すまん。考え事してて気づかなかった」
「何を考えてたんですか?」
「んー」
一瞬考えた後、どう受け流そうが迷う。
「まぁ、大したことじゃないから気にするな」
苦笑して双海に答えると何か思いつめたような瞳でこちらを見つめてくる。
「・・・・・・」
「双海?」
「・・・・・・嘘」
「へ?」
ポツリと呟く双海に対して間抜けな声を上げる俺。
「私じゃ俊一さんの力になれませんか?」
双海の切実な声。
「・・・・・・むぅ」
なんだかわからんが双海が凄い真剣だ。
「本当に大したことない・・・・」
つもりなんだけどなぁ。
双海がキッと睨むので続く言葉を飲み込んでしまう。
「・・・俊一さんは私のことを色々助けてくれました」
いや、そこまで言われるほど大したことはしてないんだけど。
「俊一さんにとって大したこと無くても、私にとっては大きなことなんですよ」
「おまえはエスパーかっ!?」
もしかして心を読まれてる!?
「俊一さんの顔を見れば考えてることくらいわかりますよ」
クスっと笑みをこぼす双海。
「・・・・・・うぐぅ」
うぐぅの音しか出てこねぇ。
「誰かに話すだけでも気持ちは楽になるものですよ?」
「・・・・・いーけどさ、本当にたいしたことじゃないぞ?」
「えぇ、私は構いません」
どーにもこーにも双海には勝てんなぁ。なんか悔しい。
「とりあえず俺この後バイトだからルサックでな」
「はい」
「先に言っておくけど奢らんぞ」
「それは残念です」
言葉とは裏腹に双海は笑顔だった。
「で、何であなたがここにいるんですか?」
「何で、と言われてましても・・・わたしもこれからバイトですから」
目の前で睨む双海さんに対してにっこりと微笑む。
今、私はルサックの客席で俊一くんの隣に座り、その真向かいに双海さんという配置だ。
双海さんに言ったとおり、私がこれからバイトがあるのも本当。
ただ、やることがないので少し早めに来たことが私にとっての幸運だった。
従業員控え室に荷物を置きに来た俊一くんとバッタリ出会った私は彼に違和感を覚えた。
妙に憔悴しきってるというか、酷く疲れている顔をしている。
多分、本人は自覚してないのだろうけど、一年以上彼のことを見てきた私の目は誤魔化せない。
何があったのか、自分では相談に乗れないのか、そう訊いたらあっさりと彼は私に話すことを了承してくれた。
なんだかんだ言って彼はガードが甘いところがあるのだ。
「片瀬さんと同じようなことを言ってるヤツがもう一人いるから続きは客席のほうでな」
と、いうことで現在の状況になる。
正直、私のほかにも俊一くんのことを気付いた人がいて、同じように彼の力になろうとした女の子がいたことはちょっぴりショックだった。
そしてそれが双海さんということで、私は再確認。
彼女も私と同じ気持ちを持つ人だっていうことを。
多分、向こうも同じことを考えてるんだろうなぁ。
桧月さんに、双海さん。私には二人もライバルがいるのかぁ・・・。
「い、いや、片瀬さんも双海とおんなじようなこと言い出したからこの際、まとめて話そうかな・・・と」
俊一くんの声が心なしか怯えてるように聞こえるのは気のせいかな?
「何度も言うけど本当にたいした話じゃねーからな?つっても言いふらされるのも面白くないからその辺は頼む」
念を押すように言う俊一くんの言葉に双海さんと二人で頷く。
「・・・・・・好きなやつに告って振られた」
そう言ってぷいと窓の外に逸らす俊一くん。
あっさりと言う俊一くんに私と双海さんは言葉を失う。
いや、俊一くんに話すように促したのはこちらなのだけど。
そのことを後悔する間もなく俊一くんは続ける。
「で、まぁ、そいつがなんつーか・・・・・・変に俺のこと意識してて、ぎこちない関係?うーん」
俊一くんは自分でも上手く言葉に出来ないのか、適切な言葉を捜すように思案する。
「とにかくまぁ、なんかギクシャクしててそれでまぁ、ガラにもなく落ち込んでた・・・・・・っていうとこ、なのかな。うん。」
自分で言った言葉を自分で納得するように頷く俊一くん。
「あの、申し訳ありません。その、私」
「あ、私もっ」
俊一くんに話を強要したことを謝る双海さんに私も続く。
力になりたいから話を聞きたいっていうのは私の一方的な都合だった。
話すことで楽になれることもあるだろうけど、その逆もあるっていうことを彼の事情を知りたいが為に、無意識のうちに排除していた。
ちくりと胸が痛むのと同時に後悔と罪悪感で胸が一杯になる。
「おうっ!?ストップ、ストップッ!落ち着け二人ともっ」
私たちの様子に慌てた俊一くんが私たちの言葉を遮る。
「別に二人が謝る必要は無いぞ?確かに凹んでるのは本当だけどそこまで繊細な神経はしてないしっ。ってゆーか謝られたらこっちが困るっ」
オタオタしだした俊一くんに思わず苦笑が漏れる。
やっぱりこの人は自分のことより目の前に困った人を優先してしまうんだろう。
私たちのため、というよりは素でやっているんだろうけども。
「つーわけで、謝るのも後悔するの俺に気を使うのも全部禁止っ。同情とか哀れみとかそんなのも一切合財なしっ!オーケー?」
こんなことを言われてしまったら私も双海さんも黙って頷くしかないでしょうに。
私と同じように双海さんも呆れたような苦笑を浮かべていた。
「・・・・ま、それに結果も元々分かった上でしたことだしな」
「俊一くんの好きな人って桧月さんのことですか?」
ぴしぃっ!、と俊一さんの動きが固まり、その顔が引きつる。
ギギギッと音を立てそうな勢いで私のほうに顔を向ける。
「な、なんでわかっ・・・・・た?」
あの、いくらなんでもそんな分かりやす過ぎるリアクションはどうかと思いますよ。
「そんなの俊一さんが彼女を見る目を見てればわかりますよー」
「くあっ・・・・」
私が苦笑しながら言うと彼は頭を抱えながら苦悩しだした。
好きな人のことだったらそのぐらいすぐにわかっちゃうんですよ?
「えー、と、とりあえず落ち着かれてはいかがですか?」
と、のたうち回る俊一くんを見かねた双海さんが一言。
「・・・お、おう」
ズズーっと自分のアイスティーを飲む俊一くん。
なんだか無駄に憔悴しきったように見えるけど・・・・え、と、言わないほうが良かったのかなぁ、なんて思わなくもない。
「あの俊一さん、さっき結果がわかっていたっておっしゃられましたけど・・・」
「ん?あぁ、だってあいつに好きなやついるの知ってたし?器用そうに見えて不器用だから今日の反応も予想通りといえば予想通りだからな」
「・・・・・・なんでそこまでわかってて告白したんですか?」
さっきまでの苦笑を浮かべていた双海さんが真剣な表情で俊一くんを見つめる。
彼女の言葉は私の気持ちも代弁していた。
他に好きな人がいるのを知っていてもその人を好きになってしまうのはどうしようもない。
私自身がそうだから。
でも、その上でさらに告白して一歩踏み込むとなるとまた話は違ってくる。
もしかしたら今までの関係すらも壊れてしまう可能性があるのだから。
関係が進展する可能性が限りなく低いのがわかっているのなら。
今の関係を維持し続けたいと思うのも当然だと思う。実際、今の私がその状態なのだから。
「いや、別にあいつが誰を好きでも俺の気持ちに変わりはないし?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
平然と言う俊一くんに私も双海さんも目を丸くする。
「今、負けてたってこれから俺が勝つチャンスはゼロじゃないからな。うん、だったらとことん踏み込んでアピールしたほうが得だ」
そう言いながら自分の手の平にパシッと拳を打ちつける俊くん。
口に出して気持ちが盛り上がってきたのか彼の表情に不敵な笑みが浮かび上がっていく。
「そーだよな、最初っからそのつもりだったのに何を落ち込んでたんだ。アホくさ。欲しけりゃどんな手段を使っても奪いとりゃいいだけの話だもんな」
くくくっと笑いを浮かべる俊一くん。
まぁ、いつもの俊一くんに戻ったんだろうけど・・・傍から見るとちょっと危ない人だ。
「えっと・・・もしかして自己解決しちゃいました?」
「ん、少なくとも元気にはなった。二人ともサンキュな」
私が声をかけるといつもの笑顔で笑いかけてくれる。
「あの、別に私たちは何もしてないと思うのですが・・・」
双海さんの言葉に私もうんうんと、頷く。
結局、私たちは話を聞いただけで何も言葉をかける前に彼は自己完結してしまったのだから。
「いや、こうして自分で自分の気持ちを確認するきっかけを作ってくれたからな。きっと俺一人で考え込んでたら変にどツボにはまってた」
だからありがとな、って。
・・・・・・元気になってくれたのは嬉しいけど、恋する乙女としては俊一くんの結論にはちょっとやるせないものがあるのだけれど。
双海さんもどこか複雑そうな顔をしている。
鈍感なのも度が過ぎると罪ですよ?
でも。
俊一くんがそう考えるのなら・・・私も同じことしてもいいですよね?
私は一つの決心をしていた。
「ね、駅まで送ってもらっていいですか?」
今日のバイトが終わって、私は俊一くんにそうお願いした。
彼に送ってもらうのは今までにも何度かあったから今回も快く承知してくれた。
駅までの道のりを二人きりで歩く。
「俊一くん」
彼の道を塞ぐようにして後ろを振り向く。
目の前にはいつもどおり、ボケっとした顔の俊一くん。
これからその表情がどんな風に変わるのかを想像したら自然と笑顔が零れてしまう。
同時に胸がドキドキする。
けど、彼がそうしたように私も一歩を踏み出したい。
誰よりも彼の傍に居たいから。
「私、俊一くんのことが好きです」
「え?」
彼の目が大きく見開かれる。
私の気持ちなんて微塵も気付いてくれなった人。
でも、私は彼が落ち着く暇なんて与えてあげない。
「ずっと・・・・・・ずっと前からあなたのことを見ていました。あなたのことが誰よりも好きです」
もしかしたら一目惚れだったかもしれない。
初めて会った時から優しくて、ずっと、ずっと大好きだった。
「あなたに好きな人がいることも知ってました。私のことをただの友達のとしてしか見ていないっていうこともわかってます」
ずっとあなただけを見てきたから。
そして固まっている彼に少しずつ近づいていく。
「それでも、自分でもどうしようもないくらいあなたが好きです」
胸がドキドキして破裂しそう。
でも、それでも私は止まれなかった。
「――――っ!?」
唇に柔らかい感触。
それも一瞬。
目の前には顔を真っ赤にして動揺する俊一くんの顔。
俊一くんだけじゃない。私自身、耳まで真っ赤になってるのが実感できる。
心の底から気持ちを込めて宣言する。
自分の偽りのない気持ちを。
「だから、桧月さんにも双海さんにも・・・私、負けませんからっ!!」
これ以上、彼の顔を見ていられなくて。
私は彼に背を向けて駅へと駆け出した。
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Up DATE 08/1/26
と、いうわけで今回は片瀬さんのターンでした。次回は詩音のターンッ!・・・・・・・のはず
>アンケート結果は同数ですか、舞台裏で作者さんの悩む姿が見えるようです(笑
>これから告白シーンが続くでしょうが期待してますね。
>私は彩花を応援していますが、アンケートが同数なら作者さんの一番気に入った展開で
>進めるのが一番かなと思うんです。
>一番感情移入しやすく、一番気持ちの乗る展開で続きを書かれるのを期待してます。
現在進行形で悩んでますw
と、いうわけで今回は片瀬さんの告白ターンでした。
うーん、今回の話を書き始めたときはこんな展開にしようとはまったく思ってなかったのに。
気付いたらこんなオチになってました。
>シリアスが終わった……あのタイミングで(´Д`)
>ま、まぁ俊君だしねっ
>シリアスキツイもんねっ
>……ぐっじょぶ(´ω`)b
俊くんがシリアスを保てるのは3分だけですっw
>全部見させてもらいました。面白いので続きが楽しみです。
>魔神○帝で爆笑している俺がいました。
ありがとうございます〜。これからも上手い具合にパロネタを使えたら・・・と企んでおります。
>私も増えた彩花派です。私的には主人公×詩音もすてがたいのてすが、主人公の気持ちを知って揺れ動く彩花とのCPを読みたいと思いました。続きがどうなるか楽しみにしています。
今回もうちょっと彩花との話を書くつもりだったのに・・・こんな続きになりましたっ。