Memories Off Another

 

第48話

 

 

 

11/8(木)

朝、登校してぼんやりと窓の外を見ていると、桧月が教室に入ってくるのが見えた。

「あれ?俊くんが私より早く学校に来てるなんて珍しいね?」

「数日振りに会って最初に言うセリフがそれか?コラ」

「あはは、ごめんごめん。おはよ、相変わらず目つきが悪いね」

「おう、そっちも相変わらず腹黒だな」

数日ぶりに叩き合う軽口。

うん、退院したてとはいえ、普段どおりの桧月のようだ。安心した。

「あはは、誰が腹黒なのかな〜」

天使のような笑顔で殺意のオーラを放つ桧月。

ある意味器用なヤツだ。

「ま、それはそれとして、体調のほうは問題ないのか」

「え?あ、うん」

きょとんとした顔で桧月はうなずく。

「私はもう全然平気だけど・・・何々、心配してくれたの?」

「まぁ、な。やっぱお前がいないと何か物足りなくてな」

「・・・・・・え?」

俺の言葉にあからさまに動揺する桧月。

そんな桧月の様子を心から楽しむ俺。

「からがい甲斐のある相手がいないとつまらんからなー」

ククッと笑いが漏れる。

「・・・・・・」

きょとんとした顔からにんまりと笑う桧月。

もちろん殺意のオーラ全開だ。

あぁ、やっぱこいつと話してると本気で楽しいな。

「ところで今日の放課後空いてるか?」

「人を散々からかっておいて他に言うことは無いのかな?」

「ないな。で、空いてる?」

「・・・はぁ」

さらっと殺気を流す俺に諦めが付いたのか力を抜いてため息を漏らす桧月

「ちょっと二人で話したいことあるんだけどさ、どう?」

「ん〜」

桧月はちょっと考える仕草をすると、

「えへへー、駅前のお店でケーキの新作が出てるんだけどぉ」

笑顔で催促してきやがった。

「喜んで奢らせていただきます」

ぺこりと頭を下げる。

事前に桧月を怒らせていた俺にもちろん選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、美味しかった」

桧月と二人並んで店を出る。

「喜んでもらえて何よりだ」

桧月は目当てのケーキセットの味にご満悦のようだった。

俺も桧月のと同じケーキセットを頼んだんだが、後でその値段見てびっくりだ。

まぁ、味は確かに美味かったんだけどさ。

・・・・・・明日の昼飯は節約しないといかんかなぁ。しくしく。

まぁ、桧月の満足そうな笑顔見てるとそれくらいはちっとも負担にならないがな。

「で、俊くんの話したいことって何なの?」

店の中ではみなもちゃんの様子や桧月が休んでた間の学校での出来事など雑談しかしていなかった。

・・・さすがに店の中で告白なんてムードも何もあったもんじゃないからなぁ。

「んー、ちょっくら歩かないか?」

と、桧月の返事も待たずに歩き出す。

「・・・俊くんと二人でこうやって歩くのって珍しいよね」

「・・・普段は大抵、誰かしらひっついてたからなぁ」

智也とか信とか今坂とか今坂とか・・・・っ!

二人で話すことは少なくないけど大抵は教室の中とか近くに誰かしらいる状況がほとんどだった。

こうして二人っきりってのはあまり多くない。

・・・・・・よくよく考えたら俺から桧月一人を誘ったことってあんまり無いな。

自分で思っていた以上にチキンだったかもしんない。チョビッと反省。

ゆっくりと歩きながらやがて海の見える公園へと辿りつく。

・・・ま、この辺りが適当か。

幸いと付近に人気も多くない。

「桧月」

「ん?」

先に足を止めた俺に桧月が振り返る。

夕日を背にして微笑する桧月。

自分がこれから伝える言葉を意識したせいか、今の桧月はとても幻想的で、綺麗に見えた。

ふぅ・・・。

深く深呼吸。

結果は自分でわかってる。

覚悟も出来てる。

後は・・・踏み出すだけだ。

前に進むための一歩を。

 

 

 

 

「俺はお前が好きだ」

 

 

 

「え?」

桧月の目が軽く見開かれる。

多分、一瞬、俺の言った言葉の意味がわからなかったんだろう。

そんな桧月に苦笑しつつ、俺はもう一度静かに言葉を紡ぐ。

「俺は桧月彩花が好きだ。友達としてじゃなく、一人の女の子として」

桧月の顔が見る見ると赤くなっていく。

「・・・あっ、えっ、俊君?」

「ずっと・・・好きだった。多分、初めて会ったときから」

そう、あの雨の日。

ただ一度すれ違った瞬間に俺は桧月に心奪われた。

そのときからずっと、俺は桧月の事を想い続けていた。

俺の言葉に桧月は顔を紅潮させたまま、少しだけ困ったような顔をする。

・・・・・・ま、わかってたことだけさ。

「俺と付き合って欲しい。で、おまえの返事を今、聞かせて欲しい・・・・と、言いたいところなんだがな」

言って、苦笑する。

「え?」

桧月は俺の苦笑の意味がわからず、困惑の表情を浮かべる。

「今はいいや。結果はわかってるし」

「?」

「お前が智也のことを好きなのを知ってるからさ」

「・・・あ」

桧月の顔を見つめながら俺は言葉を続ける。

「ただ、言っておきたかったんだ。俺自身が前に進むために、な」

桧月は黙って俺の言葉を聞いてくれている。

「今まで言えなかったのは結局怖かったんだよな。告白して・・・今の関係が壊れるのが、さ」

桧月が智也のことを想っている以上、俺の想いが届くことは無い。

「けど、だからって何もしないでいたら結局前には進めない。それじゃ、ダメなんだよな」

「・・・っ」

俺の言葉に桧月も息を呑む。

桧月が智也に対して告白しないのも・・・きっと、俺と同じ理由だと思う。まぁ、今坂のこともあるんだろうけどさ。

「で、ここからは俺の身勝手な言い分。言いたいことを上手く伝えられる自信はないけど聞くだけ聞いてくれ」

「・・・・・・うん」

「俺は桧月に智也とのこと、はっきり決着を付けて貰いたい。桧月と智也、それに今坂が今のままはっきりしないってのはさ、俺にとって精神衛生上よろしくないんだよな」

軽く自嘲の笑みを浮かべる。ホント・・・自分勝手だよな、俺は。

「三人ともさ、ずっと、このまま・・・ってわけにもいかないだろ?どうせなら早い段階でシロクロはっきりさせてほしい。俺の気持ちにケジメをつけるためにも」

桧月は答えない。じっと俺の言葉を聞いている。

「智也にとって桧月と今坂はさ、二人ともきっと同じくらい大事で、かけがえの無い存在だと思う。多分、どっちかが告白すればあいつは受け入れると思う」

「・・・・・・」

「お前と今坂のことだからさ、下手したら自分の気持ちを押し殺して相手の背中押しかねないだろ?」

「・・・うん。そうかもしれないね」

「けど、それだと俺はなんかイヤだ。どっちかが譲って決着をつけるんじゃなくてさ、おまえら三人の気持ちをぶつけた上で決着をつけないといけないと思う」

まぁ、普通の三角関係だと色々こじれて泥沼になりそうなもんだけど。

「他の奴らだったらグダグダになりそうだけどさ、お前らならきっと大丈夫。どんな結果になろうと上手くやっていける」

ふっー、と一息つく。

「だから変わることを恐れないで欲しい。誰が傷つくことになっても・・・きっと乗り越えられるはずだから、さ」

・・・・・・我ながら歯が浮きそうな台詞だ。

だけどこれは今まで桧月たちを見てきて俺が感じたことだ。間違っていない自信はある。

「俺の身勝手な言い分はこれで終わりっ。桧月がどうするかは桧月の勝手だがな」

短い沈黙の後、桧月は頷いた。

「・・・うん。そう、だね・・・。ずっとこのままでなんて・・・いられないん、だよね」

桧月は自分の胸に手を当てて目を閉じる。

そしてゆっくりと目を開く。

「うんっ・・・ありがとう、俊くん」

そういって桧月は笑顔を見せる。

「別にいいさ。俺は俺の言いたいことを言っただけだしな」

そう。俺はあくまで自分のために・・・そのためだけに動いているに過ぎない。

「あ、あと一つだけ言っておきたいことある」

「・・・何?」

「俺は何があろうとお前のことが一番好きだ。例え・・・智也がお前を選んだとしても、だ。お前が笑っていられるならどんなことでもする。なんでもできる」

あぁ、俺、今、物凄い恥ずかしいこと言ってる。

桧月がまた虚を突かれた顔をしている。

「だからもし何かあったとき俺のことを頼ってくれたら俺は凄く嬉しい。お前が俺以外の誰かを好きでもそれは変わらないから」

そう言って俺は桧月に背を向ける。

ダメだ。恥ずかしくてもうこれ以上、桧月に顔を合わせられない。

耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。

「俺の話はここまで。また・・・明日な」

「・・・・・・うん、また明日」

桧月がどんな表情をしているのかはわからない。

俺はそのまま駅とは反対方向へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 07/10/25


あぅ・・・前回より物凄く間が空いてしまいました。ごめんなさい。

なんとか今月中にもう一本書けるように頑張りますので見捨てないでください(汗

>今回は俊君と信の決意表明でありました(まる)
>勇ましく信と打ち合わせをしたまでは良かったけどその後に弱気になるのは
>俊君もやっぱり人の子というところですか(笑
>思わず、あすかを見習えと思ったんですが言うと即答で「出来るか!!」
>と帰ってきそう。
>とりあえず俊君にはアンコールの新曲「キミが居た証拠に」を進めます(笑
普段なんだかんだで強気でも意外と小物チックな面もあります(笑

>PS:アンコールがまだプレイ出来ないだなんてご愁傷様です。
>内容は控えますが、残念な部分もありますがそれが気にならないくらい
>爆笑するところがあるので良いですよ〜
>続編はゆっくり待ちますので出来るだけ早くプレイ出来ることを祈ってます
まぁ、製作中に一度会社が倒産してしまったので、そのしわ寄せが来てるところは少なからずあるんでしょうね。
とりあえずお待たせし過ぎてしてごめんなさい(滝汗

>次回は激しくシリアスっぽそう。ほのぼのがとうざかっていくぅ・・・w
>いきなり話は変わりますが、メモリーズオフヒストリーの製品画面みて、この作品を思い出しました。だってまんまだしw
自分で書いててシリアスしきれているのかどうか疑問です。
ヒストリーはもろに彩花と詩音でしたからねー。あれで彩花が澄空制服だったらモロにw

>俊クン達の計画がついに実行される。これからの人間関係が楽しみです
まぁ、根が単純な主人公なので必要以上にダークになったりはしなはずです。多分。