Memories Off Another
第45話
「かったるい・・・」
授業が終わっての第一声をぽつりと呟いた。
「・・・何時にも増してだるそうだな、おまえ」
相沢が呆れたように呟く。
「ほっとけ」
相沢の言葉に関しては事実なので反論はしない。
やっぱり桧月のいない学校などどうにもこうにも気力が入らないのだから仕方ない。
「今日はまっすぐ帰るのか?」
「うーん」
そうしたいところだが、双海との約束がある。
気持ち的にはこのままその約束を無かったことにして帰りたいくらいかったるいのだが、そういうわけにもいくまい。
「ちょいと待ち合わせがあるからそういうわけにもいかんのだ」
「・・・・・・・とりあえず待ち合わせに遅れないようにな」
「・・・まぁな」
苦笑しながら教室を出て行く相沢を机にあごを乗せた姿勢のままで見送る。
起き上がる気力がまるで湧いてこないのは困った。
「はいはーい、そこ掃除の邪魔だからさっさと帰ってねー?さもないと強硬手段に訴えますよー」
と、掃除用具を手にした笑顔の飛世に脅されて渋々立ち上がる。
「人を脅迫するのもほどほどにな」
「むー、人聞きの悪いことを言うなぁ。そっちこそ相方がいないからって何時までも寂しがっていないよーにね」
そうだよ。寂しいんだ、文句あるか、コラ。
と、心の中だけで反論する。
「誰が相方だ、誰が?」
「ちゃんと言って欲しい?」
にっこりと毒気のある笑顔を浮かべる飛世。
突っ込む気力もない俺は静かにため息をつくだけで答え、そのまま背を向けて教室を出て行った。
「あ、ちょっとっ、無視すること無いじゃないっ!おーいっ!・・・・」
背中に飛世の声が聞こえた気がしなくもない。
「で、双海はどこに行きたいんだ」
「俊一さんにおまかせします」
一秒で即答された。
正直、任されてもどこをどう案内すればいいのか皆目検討がつかない。
俺らがよく行くゲーセンなんか案内してもしゃーないしなぁ・・・。
双海が喜びそうなところ・・・・・・やっぱ本か?
うーん、なんか穴場そうな本屋ってあったっけか?
俺の脳に記憶されてる本屋の情報を隅々まで検索する。
藤川とかに行けばそれなりにでかい本屋はあるけどそこら辺の案内は今坂たちにでも押し付ければいい。
と、いうか藤川まで行くのがかったるい。
どーせならこう、もっと近場で知る人ぞ知る秘境みたいな本屋とか・・・・。
「あった」
不意に俺の脳の検索結果に一軒の本屋がはじき出された。
「はい?」
「いや、双海が喜びそうな場所を一箇所思い出した」
漫画とかその辺りの本屋で売ってるものは売ってないが、代わりにレアそうな本がたくさん置いてあった小さな本屋を。
「俊一さんがそう言うからには期待しちゃいますよ?」
くすっといたずらっぽく微笑む双海。
「外れても責任は持たんがな」
貧乏くじを引くのは俺の十八番だからな。
と、内心で続けシカ電へと乗り込んだ。
「・・・なんだか元気がないように見えますけど何かありましたか?」
「・・・あ?」
目的地である桜峰に向かう電車の中でポツリと双海が切り出した。
元気が無いように見えるのは桧月に会えてないからという自覚はあったが、そんなに人から見て分かりやすいほど落ち込んでたか、俺?
「別に何も無いけど、そんな風に見えるか?」
内心の動揺を表に出さずに訊き返す。
「・・・・・・なんとなく、ですけれども。普段以上に気だるそうに見えますよ」
「・・・むぅ」
付き合いの浅い双海にそう思われるくらいなのだから俺もまだまだ修行が足りない。
「何かあっても大したことじゃない。気にすることは無いさ」
多分、三日後とかにさらに滅茶苦茶凹む事になってるだろうけどなっ!
「そうなんですか?」
「そうなのです。っていうかそう言う双海のほうがよっぽど変化あったよな」
「え?」
きょとんとした表情を浮かべる双海。
「この数日でだいぶ積極的に話すようになったようだし、表情も随分柔らかくなったよな。最初会ったときとはまるで別人だ」
「そう・・・・ですね」
流石に自分でも自覚があるようで目を泳がせている。
「弁当を餌に人を吊り上げたり、だんだん本性剥き出しになってきてるもんなぁ」
「ほ、本性剥き出しってなんだか凄いイヤな言い方ですね・・・」
「ふっ、本当のことだから仕方あるまい。この間みなもちゃんのお見舞いに行ったときにも酷い目に合わされたしなぁ」
「こほん、あれはみなもさんに本当のことを伝えるためであってほかに他意はありません」
「俺を拘束する理由にはならんだろ」
「ふふっ、だってそのほうが楽しそうでしたから」
「思いっきり他意あるじゃねぇか・・・」
「そうとも言いますね」
「うわ、開き直りやがったな」
「ええ、これも俊一さんのおかげですよ?」
双海は楽しそうな顔で笑い返す。
「意味がわからんつーの」
ま・・・双海が明るくなったのはいいことか。
そんなこんなで桜峰に着いたら思わぬ人物に出くわした。
「あれ、天野くん?」
改札を出たところでばったりと出会った片瀬さんがきょとんとした顔で俺と双海を見比べている。
「・・・・・・もしかして、デートですか?」
と、どこか睨むような目つきの片瀬さん。
やれやれ。また妙な勘違いを・・・。俺は静かにため息をついて、
「そんな風に見えるか?」
と、いつもの表情で言った。
「・・・・・・じーっ」
わざわざ擬音を発しながら片瀬さんは俺と双海を凝視する。
「違うみたいですね」
やがて、片瀬さんはホッと安堵のため息をつく。
「当然だ」
「・・・・・・もぅ」
「?何か言ったか、双海?」
小声で双海が何か言ったような気がするが声が小さくてよくわからなかった。、
「いいえ、別に」
・・・・・・そう言いつつ、何故にふてくされた顔をしてるんだ?
ま、いいか。
「えー、と、二人は初対面、だよな。こっちが同じ学校の友達で・・・」
双海を指差しながら片瀬さんに紹介する。
「双海詩音と申します」
「あ、どうも」
ぺこりと互いにお辞儀をする。
「俊一さんには色々お世話になってます」
と、何故か含みのある言い方をする双海。なんだかよくわからんが引っかかるな。
対する片瀬さんのほうはピクッと一瞬だけ顔が引きつった気がするのは気のせいだろうか。
「で、こっちが同じバイト仲間で」
「俊一くんの親友で片瀬さやかです。よろしくお願いします」
・・・・・・あれ?今、片瀬さん俺のこと名前で呼んだ?ってか、親友って?
「親友・・・ですか」
「はい、バイトを始めた当時から色々お世話したりされたりの仲なんです。ね?」
「あ、ああ。まぁ、そうだな」
何か片瀬さんの妙な迫力に押されて反射的に頷いてしまう。
おまけに双海まで一瞬ムッとした表情を見せる。
なんだか片瀬さんと双海の間で妙な空気が漂っているような気がするのは気のせいでしょうか?
つつー、と冷や汗が俺の額を伝う。
「それで、俊一くんと双海さんは桜峰に何か用でもあるんですか?」
「あぁ、それは「俊一さんがお弁当のお礼に是非、街を案内させてくれ、とおっしゃるものですから」
「言ってない。断じて俺はそんなこと言ってないぞ」
「お弁当・・・ですか?」
じろり、と片瀬さんが俺を睨む。
その眼光の鋭さに俺は思わず一歩後ずさってしまう。
「あぁ、昼に双海から弁当を貰った・・・んですけど」
別に後ろめたいことはしてないのだが、何故に敬語で話してるんでしょうか、俺。
「ふーん・・・・・・でも、桜峰って別に案内するようなところってあんまりないですよね?藤川とかならともかく」
双海ではなく、俺に問いかける片瀬さん。
「あぁ、だから「わたしにとっておきの穴場の場所を紹介してくれるらしいですよ。ね?」
だから人の台詞をさえぎるな。
「穴場というかただの古本屋なんだけども・・・・・・」
「桜峰の古本屋って・・・・・・文誠堂のことですか?」
「いや、店の名前は知らん。海岸沿いの店だったけど」
「あ、じゃあ文誠堂のことですね。確かにあそこは普通の本屋さんとかには置いてない本もたくさんありますから穴場といえば穴場ですね。さっすが、俊一くん」
と、言われても別に俺が凄いわけじゃないのだが。
「と、まぁ、とりあえず俺らはそんなところだ」
何がまぁなのか自分でも分からんが。
「ふーん、なるほど・・・」
何か納得したようにうんうん頷く片瀬さん。
「それじゃ、俊一さん。そろそろ私たちは行きましょうか?」
「ん、そうだな。じゃ、そういうことだから。またな」
と、片瀬さんに手を振って目的地へと歩き出す。
のだが。
ぴったりと俺の横に並んで歩く片瀬さん。
「・・・・・・・・あの、片瀬さん?」
「はい」
なんでしょうか?と、笑顔で問いかける片瀬さん。
「どうして片瀬さんが一緒に来るんですか?」
と、俺の代わりに双海。
「たまたま目的地が一緒だっただけですよ?」
目的地が一緒って・・・
「片瀬さんもその本屋に用があるのか?」
何が面白いのか片瀬さんは笑顔で頷き、
「はい、ちょうど頼んでおいた本が入ったという連絡がありまして。ちょうど取りに行くところだったんですよ」
「ほう」
それはまぁ、なんというか大した偶然だ。
「もう、偶然って言うか、運命ですよね」
「どういう運命なのか、さっぱり分からんがな」
と、素っ気無く答えるも片瀬さんはさらにくすくす笑い、
「ふふっ、そうですね」
何か知らんが凄く上機嫌だ。なんなんだ、一体?
「・・・・・・」
どうでもいいが、にこにこ笑顔の片瀬さんと対照的に反対側にいる双海が物凄い不機嫌オーラを出しているのは僕の気のせいですよね?
ちらりと横目で双海の表情を盗み見ると別に表情そのものは怒ってない・・・・・・はずなんだけど。
「どうかしました?」
双海が俺のことを見ると同時に悪寒が走るのは何故でせう?
「・・・なんか双海怒ってる?」
「うふふっ、変な俊一さん。私が怒る理由なんて何もないじゃないですか」
「まぁ・・・」
そのはずなんだけど双海さんから漂ってくるこのオーラは何ですかっ!?
とは聞けない俺。
なんというか触らぬ神に祟りなし、という言葉が脳に浮かんで離れない。
二人に挟まれながら空を見上げる。
既に陽は傾き、空は真っ赤に染まっていた。
・・・・・・・なんで俺こんなことになってるんだろう。桧月は何してんのかなぁ。
俺は静かにため息をついた。
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Up DATE 07/5/25
>とりあえずその同人誌購入者に挙手をw
一名様ごあんなーい!
>彩花ファンと言いつつ紅茶好きの私としては詩音ティーには結構惹かれるものが・・
>ファーストをやってから何気に紅茶飲む機会増えたんですよね~
自分も某本好きな人のせいで思いっきり紅茶の摂取量増えました♪
>次回は本屋さんですか・・・・・・まさかあの人が出てくる?
まだ出てきませんでしたー。
>>出したら買ってくれる人挙手!
>住んでるのが地方なこともあるのですが同人誌は今まで買ったことが無くって興味はすごくあるのですが
>購入は難しいかも。目の前にあれば絶対に買うんですけどね。
まぁ、そのときは通販するのでご安心をーっ!
>しかしAnotherもすでに44話、文書の量でも文庫本をはるかに超えてますよね。
文章能力が低いので無駄に長くなっている部分も多いのですが・・・(汗
44話でもまだまだ続きますよー。
>ホントこれからの展開が楽しみですvv。
さて、俊一は彩花と詩音、どちらを選ぶのやら…♪(ちなみに、私は彩花派ですv)
>それにしても、出版化ですか! もし余裕があれば、私は喜んで買いますよ!!
だが、ここで片瀬さんが頑張るっ!
あと、本のほうは出版化っていうほど大げさなものではないので・・・(汗
とりあえずご期待に沿えるものを描けるように頑張りますー。
>買います!!
>……その発売イベントに行ければの話ですがw
通販するので問題なし!
>俊クンがいよいよ動き出そうと決意を決めたところに、詩音も動き出した。
>詩音のお誘いが街案内のためだけではなく好意でやったと自分は信じたい!腹黒い詩音はヤダーーーーーwww
>今後の俊、彩花、詩音の関係が楽しみです、これからも頑張ってください。
腹黒い詩音でゴメンナサイw
>買いますともぉ!!・・・ただしいけそうにないので通販で(汗)
>さてさて、本編は急展開を迎える・・・前に詩音さんとのほのぼのですね。ああ…これで当面はシリアスかと思うと貴重なほのぼのイベントになりそうです。
>しかしシリアスも楽しみ!はたして俊のお相手は正ヒロインの彩花か?それとも最近自覚が出てき始めた詩音が逆転なるか!大穴の片瀬さんが引っくり返すのか!
>楽しみにしています。
さて果たして今回のお話はほのぼのと言えるのか・・・。
片瀬さんの人気が思ったよりあったので片瀬さんの出番が増えそうですw