Memories Off Another

 

第44話

 

 

 

 

 

 

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桧月とみなもちゃんのお見舞いから二日後。とどのつまいはみなもちゃんの手術後の翌日の月曜日。

俺は堂々と授業をサボって屋上の指定席に陣取って空を眺めていた。

みなもちゃんの手術はもちろん成功したと、昨日のうちに今坂から連絡が入った。

本音を言えば手術のときに立ち会いたかったが俺がいたところで結局何もすることはないので、普段どおりバイトを入れていた。

手術のことが気になってちょびっとミスって片瀬さんに色々突っ込まれたのは秘密だ。

みなもちゃんは手術後のリハビリやらでもうしばらく入院が続くらしい。

とはいえ、手術は無事に成功したのだからしばらくすれば今までどおり、いや今まで以上に元気なみなもちゃんの姿を見ることができるのだろう。

桧月のほうも検査やら療養やらでよくわからんがあと三日ほど入院とか。

ま、今坂の話を聞く限り、桧月も問題があるわけではないので退院翌日には普段どおり学校に来るのだろう。

「そんときはきっちり決着を着けないと、・・・な」

広げた手のひらを太陽にかざし、ゆっくりと拳を形作る。

自分がこれから起こす行動とその結果。

どんな結果になろうとも躊躇ったりはしない。

ま、とりあえずの結果は容易に想像が着く上に惨敗するのが目に見えてるのは若干凹むが。

それでも前に進むために。

自分の手でことを起こすことが重要なのだ。

「―――――っし!」

パンッと自分の両頬を叩いて気合を入れて一気に起き上がる。

と、同時に3時間目の授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 

 

と、気合を入れたところで桧月がいない上に腹の虫が鳴り響く4時間の授業なぞかったるいことこの上ない。

俺のやる気ゲージは瞬く間に急降下の一途を辿って机にうつ伏していた。

そして授業終了のチャイムと同時に復活する俺。

「うしっ!」

「・・・・・本当に分かりやすいなお前」

呆れたように相沢が呟く。

「馬鹿か、お前。昼飯といったら学校で一番重要なイベントじゃないか。そんな時間に寝ててどーする」

「言いたいことは分からないでもないが、なんでお前はそんなに偉そうに力説するんだ?」

相沢の冷たい視線に俺は胸を張って答えた。

「それが俺だから」

「・・・・・・・・そうか」

なぜか相沢は心底脱力したように口を閉ざした。

「さ、購買行ってきますかね」

「あぁ、ゆっくり行ってくるといい」

しっしっと追い払うように俺を見送る相沢。

ち、弁当組はこれだから・・・などと逆恨みのようなよくわからんどーでも良いことを考えながら購買へと向かう、前にちらりと隣の席を見る。

当たり前だけどその席は空席だ。

・・・何度見てもわかってはいるけどどうにも気が抜けるな。

ふぅ、やれやれ。

 

 

 

「俊一さん」

「俺を呼ぶ声に振り返るとそこに双海詩音が立ち塞がった」

「立ち塞がってません。それになんで実況してるんですか?」

俺の下らんボケに即座に突っ込みを入れてくる双海。多少白い目で見られてるのはきっと気のせいだ。

「いや、なんとなく」

「やっぱり三上くんと友達なだけはありますね」

「誰がどう聞いてもそれは褒めてないだろ」

「ええ、もちろんです」

むぅ、本当に言うようになった。なんだか最近会うたびにこいつは明るくなったというか手ごわい反応をしてくる。

これが本来の双海、ということなんだろうか。

「で、何の用だ。俺はこれから昼飯を調達せねばならんのだが」

と、俺が聞くとなぜか急に双海は緊張した顔つきになる。

「こほん。え・・・とですね?」

「おう」

「その・・・お昼一緒に食べませんか?」

双海と一緒に昼?

「それは別に構わんが・・・どういう吹き回しだ?」

「その・・・ですね。ちょっとおかずを作りすぎちゃって・・・え、と・・・私一人では食べきれないので、あの、よかったら一緒に食べませんか?」

なんか色々言葉が足りてない気がするのだが、これは要するに、だ。

「えーと、また俺に弁当作ってきてくれたってこと?」

「・・・はい、そういうことになりますね」

っていうか、双海顔真っ赤だぞ?

双海の弁当ねぇ・・・。

「別に双海に弁当を貰う理由はないんだが・・・」

そこで言葉を切って思考をめぐらせる。

桧月の顔が一瞬浮かぶ。

「・・・ま、断る理由も無いか。ありがたく貰っとくよ」

「・・・はい」

頷いてどこか嬉しそうな顔をする双海。

双海のこの反応ってもしかして俺のこと・・・。

と、考えてアホくさくなった。そんわけあるはずもないな。

自分のアホな妄想を打ち消して当面の行動に考えを向ける。

「と、なると何処で食べるか、だが・・・屋上は混んでそうだし・・・」

いつかに屋上で双海を見かけたことを思い出す。

「グラウンドのベンチでいい?」

「はい、お供します」

「・・・・・・・・」

微妙に沈黙した俺を疑問に思ったのか双海が首を傾げる。

「どうかしましたか?」

「いや、なんか時代劇を思い出した」

「はい?」

「気にしないでいい。行こう」

 

 

 

「ごちそーさまでした」

「・・・あいかわらず食べるの早いですね」

きょとんとした双海が俺が持った弁当箱を覗きこむ。

見れば双海の弁当箱は半分も減ってない。

「ま、双海の弁当は美味いからな。それぐらい食が進むってもんだ」

「ふふっ、そう言ってもらえると作ってきた甲斐があります。はい、どうぞ」

そう言って双海はコップに注いだお茶を差し出してくれる。

「お、サンキュー」

コップの中身を見ると紅茶のようだ。

「紅茶?」

「はい、淹れたてでではないので多少、味は落ちてしまいますが・・・」

「ふーん」

美味そうな香りに誘われてつい、と口をつける。

「・・・・・・・・・」

こくんと、紅茶が喉を通った瞬間、硬直する俺の体。

「どう、ですか?」

「・・・・・・・・・」

「俊一さん?」

「・・・・・・・すげぇ、美味い」

俺はやっとの言葉でその一言を搾り出した。

「なんていうか・・・・ちょっとしたカルチャーショックを受けたというか・・・」

今までに飲んだ紅茶とはまるで違う。いや、今まで飲んでいたものを紅茶と言っていいのかどうかすら疑わしい。

それほどこの紅茶の味は別格だった。

なるほど、普段からこんな美味い紅茶を飲んでいたら缶紅茶なぞ飲めたものではあるまい。

「ふふっ、気に入っていただけたようで何よりです」

その双海のしてやったりという顔になんとなく敗北感を覚えながらも残った紅茶をずずーっと、飲み干す。

「おかわり」

「はい」

差し出したコップに双海がポットの紅茶を注いでくれる。

・・・・・・なんかこうしてると二人でピクニックというかデートでもしてる気分になるな・・・。

って、俺は何を考えてやがりますかっ!?

そう意識した途端に顔の温度が急上昇しているのを自覚した。

「俊一さん?顔赤くなってますよ?」

「・・・この紅茶のあまりの美味さに興奮してるんだ。気にするな」

双海の言葉に訳の分からない返答をする。

「はぁ、そうですか・・・」

微妙に納得していない顔をしながらも双海はそれ以上突っ込まないでくれる。

この辺りは素直で大変よろしい。

「・・・・・・ふぅ」

ゆっくりと深呼吸してバカな妄想を振り払う。

何、やってんだか、俺は。

ちょっと自己嫌悪。

「ところで、俊一さんは今日お暇ですか?」

「あん?」

一人落ち込んでるところに唐突に双海は話を切り出してきた。

「稲穂さんから俊一さんは今日バイトがお休みだとお聞きしたのですが、何か予定ありますか?」

「いや、別にそんなものないけど」

なんで俺の予定なんぞを信から聞いてるんだ。

「俊一さんさえ、よろしければ街を案内してもらいたいのですがどうでしょうか?」

「街を案内って・・・」

双海は転校して2ヶ月以上も経ってるのに今更俺が案内するところなんてあったっけ?

と、俺が考えていることを読み取ったのだろう。

「私、友人と一緒にこの街を散策したことがなかったので、是非俊一さんに地元の人しか知らないような穴場のお店を案内してもらいたいんです」

・・・・・・はて、俺の知識にそんな穴場なぞあっただろうか?

たまに問屋からレア物のプラモが流れるような穴場の模型店ならば知っているが。

「ダメですか?」

「別にダメじゃないけど、双海の期待に添えるようなとこ案内できる自信ないぞ。限りなく」

「構いません。俊一さんがどんなお店を知っているのか興味もありますから」

双海は笑顔できっぱりと言い切った。

「まぁ、いいけど・・・一応言っとくがそういうのは今坂とか信のほうがそういうのは適任だぞ?」

「大丈夫です。今坂さんには今度の休みに誘われていますから」

「強引に?」

「ええ、強引にです」

言ってることの内容は裏腹に双海の機嫌は悪くない。

どうやら完全に今坂らとよろしくやってるようだ。

「ま、そこまで言うならいっか。弁当と紅茶の礼もあるからな」

「ふふ、そう言ってくださると思ってました」

双海の笑顔になにやら黒いものを感じた。

「・・・・・・なぁ、もしかして今日弁当をくれたのってこの口実のためか?」

「さぁ、どうでしょう?」

「・・・・・・・・・」

俺内部で双海の腹黒ポイントが50上がった。

参考までに俺内部で他のやつらの強化は智也が150、信が250、今坂が1、桧月が3000だ。

こうして俺は放課後双海と二人で街を散策することになった。

しかし、双海が喜びそうなとこってどこだ?

・・・・・・本屋?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 07/5/11


>今回の俊クンは随分と彩花に強気でしたね、退院後の俊クンの運命が楽しみですww
>ダブルヒロイン事、彩花と詩音のコンビには流石の俊クンでも勝てなかった!!特に詩音の俊クンに対する行動が新鮮でよかったです^^
>次回の話を期待しています頑張ってください

詩音も俊及び周りにつられてどんどん変化してますからねー。原作とはもう別人かも(汗

>みなもちゃんがヒロインでもいけるかな、と思いました。
>現在のヒロイン候補→ 彩花 詩音 片瀬さん みなも
>おおっ!4人も!!

もし、このSSをゲーム化したらそこにととも加えてさらに5人。
来年になれば相摩姉妹も加えてさらに7人だっ!

>ダブルヒロイン、良かったです♪詩音もだいぶ柔らかくなったなぁ(←遠い目

硬い詩音が好きという人も一杯おられると思いますが、こういう詩音はアリなんでしょうかねぇ?
答えは聞いてないっ!

>彩花を応援しながらも片瀬さんが結構きになる話でした。「むー」は反則ですよクリティカルにきました(笑

何気に片瀬さんがヒロインとして急浮上したという噂もw次回をお楽しみにっ!(謎

>41、42話
>メモオフ最強(と思う)の静流さんの攻撃をしのげるとは・・俊君レスリングかなにかやっているかな?
>プロフィールがきになる、きになる。
>小夜美さんはまだ強くなる前みたいですね。パンの箱に潰されて動けない人が後に・・・(after rain)
>ちょっと気になったのがちらっと名前が出た、たるたる、ひょっとして次回作への複線?(笑

そうですねー、俊くんのプロフのそのうちちゃんと公開しましょうか。需要があるのかどうか謎ですがw
彼の場合、ただ単に打たれ強いだけだと思いますがw
小夜美さんは受けに回ってるだけですよ。静流さんと違ってちゃんと理性保ってるので、無闇に(?)人に迷惑掛けませんw
たるたるに関しては・・・・ニヤニヤ。


>この手術が成功したらみなもの一番の願いがかないそう、after rainでもちゃんと生きてるけど臓器移植が必要な病気をどうしたのか?なぜ生きてられるのか?が説明なかったのでしっくり来なかったんですよね。
>元気なみなもも早く見てみたいです

原作で足りない部分を好き勝手に保管できるのもSSの醍醐味ですからね。
みなもちゃんは好きなキャラなのでちゃんと救済できて良かったですw

>この後の展開はいろいろ予想を立ててるんですけど片瀬さんはひょっとして幸せなエンドを迎えられない??
>まだまだ隠しプロフィールとかありそうなので完結後に裏話込みで公開してもらえたらうれしいです。
>あと無理言えばショートストーリーでいいので結ばれなかったキャラのIFの話も作ってほしかったりして(笑

片瀬さんに関してはこのまま何もせずに終わらないのでご安心をw
裏話やIFストーリーなんかも構成は考えてはいるのですが、実現するかどうかはさっぱりわかりませんw
同人誌で一冊Anotherの設定とか詰め込んだ本出したいなーとか考えてますが、需要がなさそう(汗
出したら買ってくれる人挙手!