Memories Off Another
第43話
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小夜美さん、静流さんとの恐怖の一日から約一週間。
俺とその愉快な仲間たちはとある病院に来ていた。
「ねぇねぇ、みなもちゃん。喜んでくれるかなぁ?」
「ま、少なくともがっかりはしないだろ。・・・まぁ、唯笑の顔見たらがっかりするかもしれないが」
「むぅぅっ!智ちゃん、それどういう意味?」
「ねぇねぇ、みなもちゃんってどんな子?双海さん会ったことある?」
「いえ、私も話に聞いていただけで実際にお会いするのは今日が初めてです」
うん、やかましいことこの上ない。
どー考えてもこの大人数で来るのは失敗だった気がしなくもない。
「病院なんだからあんま騒ぐな。患者さんたちに迷惑だぞ」
「う、はーい」
俺が投げやりに後ろの連中に言うと、ここが病院だということを思い出したのか皆静かになる。
一応説明しておくと、明日はみなもちゃんの手術の日。
と、いうわけでいつもの面子でお見舞いに来たわけだ。
ここにいるのは俺、智也、今坂、双海、音羽さんの計5人。
信も来たがっていたが流石にこれ以上大人数で押しかけても迷惑だろうということで自重させた。
「317・・・・・・、とここか」
病室の前に掲げれたプレートに確かに「伊吹みなも」、そしてもう一人の名前が書かれていることを確認する。
コンコン、とノックすると
「はーい、どうぞー」
と、みなもちゃんの元気な声が聞こえてくる。
「よっ」
「やっほー、みなもちゃん久しぶりー」
「元気してた、みなもちゃん?」
「はじめまして、だね。私は音羽かおる。今坂さんと三上くんのクラスメイトです」
「お初にお目にかかります。双海詩音と申します。音羽さんと同じく今坂さんのクラスメイトです」
俺を先頭に皆それぞれ挨拶やら自己紹介をしていく。
一通り皆がみなもちゅんに声をかけるのを見届けて俺はもう一人のこの部屋の住人に目を向ける。
「そっちも特に問題はなさそうだな、桧月」
「あははっ、わたしは元々健康体だもん。当たり前でしょ?」
そう、この病室のもう一人の住人とは桧月のことだ。
と、いっても別に桧月が怪我や病気になったというわけではなく、みなもちゃんのドナーということで検査を兼ねて昨日から入院しているわけだ。
その間、俺が学校で寂しい思いをしたのはまぁ、誰にも秘密だ。
・・・・・・・素直にサボっちまえば良かったか。
「何か変なこと考えてる?」
と、そんな同でもいいことに後悔し始めていた俺の顔をひょいと、覗き込んでくる桧月。
「いや、そんなことないぞ。それより・・・」
「ん?」
マジマジと桧月の姿を見つめる。
普段の生活では滅多に拝めないパジャマ姿というレアものだ。
「カメラでも持ってくりゃ良かったかな・・・」
ボソッと小声で呟き、心底惜しいことをしたと思った。
「な、ななな・・・」
俺の視線と言葉が何を意味しているのか理解したらしい桧月は顔を真っ赤にして身を隠すように手で自分の肩を抱く。
「しゅ、俊くんのばかっ!エッチ!」
「ふふん、人の弱みは最大限に生かさないとな」
そんな桧月が可愛くて自然とそんな憎まれ口が出てしまう。
ってか別に普通のパジャマ姿でエッチも何も無いだろうに。
まぁ、俺にとってはこれ以上ないくらい目の保養になるわけだけだが。
「大丈夫、大丈夫。普通に似合ってて良い感じだぞ?うん、普段見れないからすげー得した気分♪」
普段殴られている分、ここぞとばかりにからかう。
俺の声にはだいぶ笑いが含まれてるが嘘は言ってない。
顔が相当ににやついてるのは、まぁ、隠しようがない。
「うーっ!!」
あ、ちょっと涙目だ。
「俊くんの・・・俊くんの・・・・・・」
「ん?」
肩を震わせて俯く桧月に無防備で近づいた俺が甘かった。
「バカっ―――!!」
「おぶぁっ!?」
桧月渾身のアッパーカットが俺のあごを撃ち抜いていたのだった。
「うー、いてぇ・・・・・・・」
「今のは俊一さんが悪いです」
「うん、弁解の余地はないね」
「わははっ、調子に乗るからだ」
「あはは、流石彩花ちゃん、強いっ!」
「・・・・・・ふんだっ!」
桧月にあごを撃ち抜かれ生死の境を彷徨った俺に皆の視線は冷たかった。
「ま、俺は悪人だから問題ないがな」
「開き直らないっ!!」
桧月が鬼のような形相で怒鳴る。
「病院で騒ぐのは良くないぞ?」
「誰のせいよ・・・!」
わなわなと肩を振るわせられても困る。
「さぁ?カルシウムが不足してるんじゃないか?」
桧月に背を向けぺろりと舌を出し、それを見たみなもちゃんや今坂がクスクスと笑い出す。
「むうぅぅぅぅっ!!」
桧月の機嫌が物凄い勢いで傾いていくのが気配でわかるね。
まったくからかいがいのあるやつだ。
「あははっ、本当に彩花ちゃんと俊一さんは仲良しなんだねっ」
みなもちゃん、そう言ってくれるのはありがたいが、桧月の機嫌に油を注ぐようなこと言わない。
「しゅんくーん?病院から出た後覚えてなさいよー?」
そんな甘ったるい声出されてもなぁ。
「そうだな。お前のパジャマ姿だけはしっかりと目に焼き付けておこう」
「!?」
俺はしっかりと首肯して言った。
何しろ次は何時見られるかわからん貴重なお宝だ。いつでも脳内リピートできるようにしとかないと。
「って、おぅ?」
再び顔を赤くする桧月をしっかり目に焼き付けようと凝視しようとしたら、いきなり耳を引っ張られた。
「桧月さんで遊ぶのはその辺にしてください」
「・・・・・・双海?」
意外な人物の意外な行動に俺は呆気に取られた。
おぉぅ・・・・まさかあの双海がこんな行動に出るとは流石に予想できなかったな。
・・・って、なんかだんだんと耳をつまむ指に力入ってませんか!?
「あのー、双海さん?なんだか指に物凄い力が入ってるんですけど?」
「うふふ、きっと気のせいですよ」
そう笑顔で宣言されても何か妙に怖くて耳が本気で痛いんですけどー。
「わかった。ギブだからいい加減その指を離してください」
俺が降参の意を表して両手を上げると、ようやく双海は俺の耳を開放してくれる。
「まったく、もう・・・」
「・・・・・・・」
何がもうなのかさっぱりだが、とりあえず俺の耳は物凄く赤くなってるんだろうな。
「あは、天野くんの耳真っ赤だね」
音羽さんの一言でドッと笑いに包まれる一同。
「む、笑い事じゃなくて本気で痛いんだぞ」
「それは自業自得っていうんだよ、天野くん?」
「さよーでございますか」
それは百も承知だが、意外なとこに伏兵が潜んでいたものだ。
今度からは双海に対しても注意を怠らないようにしよう。
「さてさて、俊くんによる余興が済んだ所でここで私たちからみなもちゃんにプレゼントがありまーす!」
さっきから言いたくてうずうずしてたんだろう。今坂がとあるものを入れた袋を後ろ手にしたままみなもちゃんの前にずいと歩み寄る。
「え?なになに」
俺を除く全員がニヤニヤした顔でおたおたするみなもちゃんの様子を見つめる。
そんなに勿体つけるもんでもなかろうに。
「んふふー、じゃーんっ!!」
今坂が手品のアシスタントのごとく一気に袋から目的のブツを持ち上げる。
「わぁっ・・・・!」
それを見たみなもちゃんが感嘆の声を上げる。
「千羽鶴・・・・・・!」
「えへへー、みんなで折ったんだよー。みなもちゃんの手術が上手くいきますようにって」
「そうそう、ここにいる私たちだけじゃなくてクラスの友達とかも巻き込んでねっ」
その巻き込まれた人筆頭である音羽さん。
もちろん、みなもちゃんと面識がない双海も信もその口だ。
音羽さんと双海がこうしてやってきたのはクラスの代表という意味もある。
・・・・・・・いつも戻り今坂が強引に誘っただけとも言うが。
ちなみに購買のおばちゃんが復帰して退屈していた小夜美さんにも声を掛け、静流さん共々協力してもらったのは余談である。
「いやー、みんな頑張ってたぜ。何しろ、それを作り始めたのは今週になってからだからね」
智也、偉そうに胸を張るのはいいが、この面子の中でお前が一番数折ってないからな。
おまえが偉そうにするのは若干筋違いだ。
「・・・あ、ありがとうございますっ!とっても嬉しいです。えへ」
言ってる間にもみなもちゃんは感極まったのか、その目には嬉し涙を浮かべている。
「良かったね、俊くん、みなもちゃんこんなに喜んでくれたよ?」
笑顔の裏にも何か嫌な空気を漂わせて桧月が笑って近づいてくる。
「そうだな。じゃ、俺はちょっと喉が渇いたんでジュースでも買ってくる」
その後の展開を本能的に察知した俺はすばやく病室からの脱出を図る。
・・・・・・が、そうは問屋は卸さなかった。
俺が移動する前にガシっと右腕を掴まれる。
「詩音ちゃん、そっちのほうお願い」
「はい、こうですね」
すかさず左腕も双海にホールドされる。
「・・・・・・何の真似だ?」
俺はなす術もなく右腕を桧月、左腕を双海にがっちりと捕まえられていた。
見ようによっては両手に花で「ラッキー♪」な状況に見えるかもしれないがそんな甘っちょろいものではない。
「容疑者が逃げる前に確保しただけだよゥ」
桧月さん、この状況でハートをつけられてもあまり嬉しくないのですが?
「ここで逃げようとしても無駄ですよ?」
「凄く楽しそうだな、双海?」
「ふふっ、そうかもしれませんね♪」
俺とただ一人を除いて、他の面子は何が楽しそうか物凄くニヤニヤした表情を浮かべている。
何がそんなに楽しいんだ、お前ら。物事の楽しみ方を絶対に間違ってるぞ。
「え?なになに?何が始まるの?」
一人状況を理解してないみなもちゃんがきょとんと置いてけぼりを食らっている。
「んふふー、実はね、千羽鶴を折ろうって言い出したのは俊くんなんだよっ」
今坂がこらえきれないといった感じでどうでもいいことを暴露する。
「え?そうなの?」
みなもちゃんが俺を見るが、即、俺の首、右15度に旋回、視線、右上の虚空に移動。
「えへへー、みんなでみなもちゃんのお見舞いに行こうって話になって、何を持っていこうかーって話してたら、俊くんがボソッと言って決まったんだよ」
「うんうん、唯笑たち時間ないから無理だよーって言ったんだけど、俊くん自信満々に「どうにでもなる」って言い切ったもんねー」
「そんな昔のことは忘れたな」
「そうですね、たった五日前のことですよね?」
「くっ、双海、おまえも俺の敵か!?」
「まぁ、実際クラスのやつらの力も借りてどうにかなったんだけどさ」
「天野くんなんてバイトもあるのに一番数を折って来たんだもんねー?」
「それは俺一人じゃなくてバイトの物好きなやつが勝手に手伝ってだな?」
主に片瀬さんとか片瀬さんとかあと他数名。
「うんうん、それでもダントツで一番数多かったもんねー?」
「・・・・・・・」
くっ、これなんて吊し上げ?
「そうだったんですか・・・・・・、うふふっ、俊一さん、ありがとうございます♪」
「あー、別にどうでもいいけどさ」
「うふふ、俊くん、耳まで真っ赤だよ?」
さっきのお返しとばかりに桧月が楽しそうに茶化す。
「ふふっ、本当に俊一さんは照れ屋なんですね」
「あー、うるさい、うるさい、うるさい!どーでもいいが、いい加減この手を放せっ!」
「ダーメっ、放したらすぐに逃げるでしょー?」
「ですね」
くっ、なぜにお前らこんな短期間でそんなコンビネーションが組めるんだ!?
こうして俺は桧月と双海に確保されたまま、しばし吊し上げ地獄を食らう羽目になった。
くっ、俺が一体何をしたというんだ!?
・・・・・・・まぁ、みなもちゃんは心の底から喜んでくれていたっぽいので結果オーライとはしておくけどさ。
その後は面会時間終了までいつもどおりくだらない話や智也と信のおバカな話題で盛り上がったりしていた。
とりあえずみなもちゃんは終始笑顔でいてくれたのでお見舞いは成功だろう。
ついでに桧月もいつもどおり元気だったのを確認できたしな。
明日の手術で俺たちに出来ることは何もないが、きっと朗報を聞くことが出来るだろう。
そんな根拠も理由も無い確信を抱きつつ俺は帰路へと着いた。
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Up DATE 07/4/18
>静流さんの猛攻を防げたの君しか居ない!!!俊クンお疲れ様です!!!
>次回、俊クンは一体誰を遊園地、もといデートに誘うのでしょうかとても気になります。やっぱりここはあの人を誘うのでしょうか?次回の話期待しています頑張ってください
チケットのことは当分、忘却の彼方に飛ばして話を進めてますw今回はダブルヒロイン大暴れでしたが、どうでしょ?
>冬の江戸大祭り・・・詩音さんしかいませんよね。
>というか詩音のフラグはたちまくりだなぁ。年上ズが言ってたのもどっちかはっきりしてないし。
>なにより彩花そのものへのフラグが(泣
つ[彩花以外の名前欠片も浮かべてないフラグ潰しの主人公]