Memories Off Another

 

第41話

 

 

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「いい、小夜美?重要なのは勝負の過程よ。互いの技の応酬と激突っ!それこそが真剣勝負の醍醐味じゃないっ!」

力こぶを作って力説する静流さん。

「かーっ、わかってないのは静流のほうじゃない。プロレスなんて派手なばかりで一瞬の緊迫感がないのよ。いい、そもそも真剣勝負っていうのはね・・・」

静流さんに真っ向から反論する小夜美さん。

二人とも電車ん中でそんな熱く語らんでも。

澄空市内を走るシカ電に揺られ、二人のおねーさま方に挟まれながら俺はそっとため息をついた。

 

今日はせっかくの日曜日。

なんでこのおねーさま方とこんな状況になっているかというと、一週間前、ルサックでの出来事が原因だ。

バイト中に客として来店した小夜美さんと、その保護者、静流さんと成り行きでプロレスを見に行くことになってしまった。

購買のおばちゃんが復帰し、小夜美さんとも学校で会わなくなったこともあり、その約束を忘れかけていた二日前に静流さんからメールが届くことでようやく思い出した。

そして澄空駅で待ち合わせし、プロレスが行われる後薬園に行くため、今シカ電に乗っているわけだ。

「大体、一瞬で勝負がついたら楽しめないじゃない」

「あのねぇ、その一瞬の駆け引きが一番大事なのよ。それがわからないから静流は・・・」

ちなみに二人は電車に乗った直後からこんな調子で熱い議論を交わしている。

この前もルサックで散々語ったくせによくも話題が尽きないもんだ。

興味はあるものの、そこまで熱く語れるほどに詳しくない俺は時折二人の会話に相槌を打ちながら流れ行く景色を眺めていた。

今日もいい天気だねぇ。

 

 

電車に揺られること一時間強。

ようやく俺たちは後薬園ホールのある水門橋駅へと到着していた。

「まだ時間早いみたいですけどどうするんですか?」

静流さんから受け取ったチケットと今の時間を見比べると開始時間までまだ一時間以上もある。

「この近くにケーキの美味しい喫茶店があるのよ。そこで時間を潰すのが私たちの恒例なのよ」

「はぁ」

笑顔で先を歩く静流さんの後に続く。

「その喫茶店はね静流セレクションだけあって、本当に美味しいのよ。私が味を保証するわ」え

小夜美さんも静流さんに負けず劣らずの笑顔で歩いていく。

桧月たちもそうだが、どうして女の人がケーキとかそういう話題になると途端に生き生きしてくるのはお約束なんだろうか。

 

 

「ね、ところでさ、俊一くんって彼女いるんだよね?」

「ぶふっ!?」

運ばれてきた紅茶に口をつけたとたん、いきなり小夜美さんが訳の分からないことを言い出した。

おかげで思いっきり噴き出しかけてしまったぞ。

「へぇー、そんなんだ。意外と隅に置けないのね」

「いやいやいや、いませんから」

勝手に話が進んでいきそうだったので慌てて否定する。

「意味わかんねーっす。いったい何処からそんな情報が!?」

「またまたー、隠さなくてもいいじゃない。あの髪の長い子が彼女なんでしょ?よく一緒に仲良く話してるの見かけるもの」

髪の長い?ってことは桧月のことか?いや、そりゃあいつが俺の彼女だったらそりゃ、もう絶対無敵で誰にも負ける気はしないってゆーか、天下は俺のもの?

あぁ、いかん。一瞬暴走しかけた頭を振って冷却する。

「あー、別にあいつは彼女じゃなくて仲の良い友達ですよ」

たしかに俺はあいつに好意を持ってるけど正確には彼女っていうか俺の一方的な横恋慕?

いかん、自分で言ってて物凄く悲しくなってきた。

「えー、そうなの?ホントにホント?」

じっと小夜美さんが真正面から見据えてくる。

悔しいがそんな事実は一切ないのだから仕方ない。

「ホントにホントです」

「なーんだ、つまんなーい。せっかく話のネタにしてからかおうと思ったのに」

「うわ、この人ズバリ言い切ったよ」

「普通、そういうのは本人のいないところで言うものよ」

静流さんも呆れ顔だ。

「それはそれとして・・・好きな子ぐらいはいるんでしょ?」

「・・・・・・・」

くっ、やはり小夜美さんの親友だけあって結局は類ともか!?

「黙秘権を発動します」

俺が無表情を演じて言うと小夜美さんがしたり顔で笑う。

「ほっほ〜う?このビューリホー女子大生の小夜美さんと、お姉さまは魔女?の静流さん相手に黙秘権なんて通じると思う?」

「いや、そのお姉さまは魔女?ってところに物凄く突込みを入れたいところなんですが」

ビューリホーなんたらにはもう触れまい。

「小夜美、その漫才コンビみたいな呼称、勝手に使うのはやめてくれない?」

「漫才コンビみたいっていうか、漫才コンビそのもの?」

誰がどうみてもボケの小夜美さんと突っ込みの静流さんは立派な漫才コンビだと思うのだが。

「ふふ、俊一くん?何か言ったかしら?」

「・・・いえ、何も」

静流さんの笑顔から発せられるオーラを読み取った俺は適当に言葉を濁した。

やっぱり小夜美さんの親友だけあって見かけどおりの人じゃないらしい。

「あ、じゃあ、一緒にルサックでバイトしてた女の子は?あの子も可愛くて結構仲が良さそうだけど?」

「何がじゃあなのかさっぱりですが、あの子もただのバイト友達です」

確かに片瀬さんは可愛いがそれ以上でもそれ以下でもない。

「ぶー、つまんなーい」

「俺は小夜美さんの玩具じゃありませんから」

そんな風に顔を膨らませられても事実は変わらないし、素直に俺の事情を話す理由にもならない。

「ふーん、俊一くんって見かけどおりにクールなのねぇ。とても私の妹と同じ年とは思えないわ」

「静流、これはクールじゃなくて生意気っていうのよ?」

小夜美さんの言葉はさておき、静流さんの妹という点が俺の興味を引いた。

「へぇー、静流さんに妹がいるんですか?」

「えぇ、ほたるって言ってね。浜咲学園に通ってるの」

「ふーん、浜咲かぁ」

そういえば昔、信が可愛い子が多いとかどうとか言っていた気がしなくもない。

「あ、一応言っておくけど、ほたるには好きな子がいるから手を出そうとして無駄よ?」

「いや、会ってもいない子にそんな気は起こしませんって」

信じゃあるまいし。

「ふふっ、それもそうね」

静流さんのほうも本気ではなかったらしく穏やかに微笑む。

うーむ、こういう笑い方をする女の人は今までいなかったなぁ。

バイト以外で年上の人とこうやって話すことは無いので色々新しい発見がある。

「そうね、機会があったらこんど紹介するわ」

「そうっすね、そん時にはよろしく」

まぁ、そうそう機会があるとも思えないが・・・・・。

 

 

 

「おぉぅ・・・」

後薬園ホールの中に足を踏み入れた途端、怒号のような歓声に息を呑んだ。

まだ、試合が始まる前にもかかわらず物凄い熱気に満ちていた。

「ふふっ、試合が始まったらこんなもんじゃないわよ?今のうちに色々と覚悟を決めておいたほうが良いわよ」

と、静流さんは微笑みながら先頭を切って歩き出す」

「そりゃ、命をかかける覚悟が必要があるものね・・・」

「は?」

小夜美さんが暗鬱とした面持ちでなにやら呟いたが声が小さすぎてよく聞き取れなかった。

「ううん、なんでもないわ。さ、いきましょ♪」

「はぁ・・・・」

そうやって俺を促す小夜美さんの笑顔になにやら不吉な予感を感じずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 07/4/2


>俊と詩音、彩花との三角関係の中に新たな刺客が参上しそうです!!
>これからも応援しますので頑張ってください

ありがとうございますー。彼女が刺客となるかどうかは・・・まだ秘密w

とりあえずキリが良かったので今回は短め。
続きの後編は早いうちにあげますー。