Memories Off Another
第39話
10/23
「さて、智也くん?約束は覚えてるだろうな?」
「ぐっ・・・」
放課後。ようやく俺と智也のクラスのテストが全て返却された。
ほかの誰もが忘れても当事者たる俺は忘れはしない。
いつぞやに約束した俺と智也の勝負。
テストの合計点数が低いほうが昼飯一週間奢ると言う過酷な勝負だ。
結果から言えば今回は俺の勝ち。
智也の合計点とは52点の差をつけていたが、自分でつけた智也とのハンデが50点。
そのハンデ分を考慮するとその差はわずか2点。
昨日までの中間報告では10点差で負けていたため、そんなハンデつけるんじゃなかったと心底後悔しかけていたが、これで一安心だ。
「仕方ない・・・約束は約束だ」
苦い顔で了承する智也。
「これに懲りて少しは普段の授業を真面目に受けることだね、智・也?」
と、締めくくったのは言うまでもなく桧月だ。
「くそっ、俊っ!!次は負けないからなっ!」
「ふんっ!いつでも来い、何度でもお前に奢らせてやるっ!!」
「お前ら、本当に飽きないな・・・・」
と、呟くのは信。
「ちなみに信くんはどうだったの?」
「いやぁ、触らぬ神に祟りなし、というところかな?あはは〜」
と、とぼける信。
こいつはこいつで結果が芳しくなかったらしい。
どのくらいやばかったのかは親友のよしみで聞かないでおこう。
「一応突っ込んでくけど使い方間違ってるからな、それ」
「あはは、それぐらいわかってるって、お?」
信が廊下に響く音に気づく。
次第に迫りくる音に俺は智也から足を一歩引いて後ろに下がる。
「とーもーちゃーんっ!!」
「ぐほぉっ!!」
今坂必殺のタックルが炸裂っ!!
痛恨の一撃っ!!
三上智也は吹っ飛んだ!!
三上智也に98000のダメージっ!!!
「あはは、唯笑ちゃん、今日も元気一杯だねぇ」
「うんっ、せっかく皆揃ったんだし一緒に帰ろ?」
「あぁ、それはいい考えだ。さっすが唯笑ちゃん!」
・・・・・信、おまえの台詞すっげぇ棒読みくさい。
「どうでもいいけど智也は動かないな」
「おーい、智也。生きてる〜?」
俺の呟きに続いて桧月が声をかけるがうつ伏せに倒れた智也はぴくりとも動かない。
「ちーん。三上智也は死んでしまった」
倒れ伏した智也に向かって俺は合掌する。
「おお、智也よ、こんなところで死んでしまうとは情けない」
続いて信が空を仰ぐポーズをとって某ゲームの台詞を真似る。
「って、勝手に殺すなぁっ!!」
がばっと起き上がる智也。
「ちっ」
思わず舌打ち。
「生きてか、しぶといヤツだ」
信も心底残念そうだ。
「ぶぅ、そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「そうだぞっ、智也。唯笑ちゃんにタックルされるなんてなんて羨やましい」
「聞いたか、唯笑。今度から信にタックルかましてやるといい」
「そそ、オレなら何時だって大歓迎。唯笑ちゃんを暖かく受け止めるよ」
歯の浮くような台詞をさらりと吐けるのも信の長所・・・か?
「えぇ〜、唯笑は智ちゃんがいいのっ」
そう宣言するなり、今坂は智也の腕に抱きつく。
「えーいっ、ひっつくな、うっとうしいっ!」
「ぶぅ、智ちゃんのいぢわるっ!」
あ、信が落ち込んでる。
若干の同情をこめて俺は信の肩を叩く。
「気にするな、あいつの趣味が特殊なだけだ」
信の背中があまりにも哀愁を漂わせているので気休めにもならない言葉をかけてやる。
「・・・・あぁ、そうだな」
そう答える信の声に覇気はなかった。
「こほん」
と、白々しい咳払いに振り返るとそこには双海と音羽さんが立っていた。
どーでもいーけど双海とはやけにエンカウント率高いなぁ・・・。
「あれ?詩音ちゃんと音羽さん?」
「いきなり現れてどうした?」
桧月に続いて俺が声をかけると二人は微妙に渋い顔で
「天野くん、つれない言い方するなぁ」
「今坂さんに一緒に帰ろうって誘われたんです・・・強引に」
「ふーん」
こりゃ、驚いた。
音羽さんはともかく双海がそれに乗ってくるとはちょっと意外だ。
俺が思っていたより早く双海はクラスに馴染み始めてるのかもしれない。
たんに今坂が強引なだけかもしれんが。
「ま、一緒に帰るのは構わんが俺と信はこのままバイト直行するから寄り道はできんぞ」
「バイト・・・?アルバイト・・・・ですか?」
双海が不思議そうな顔で俺を見つめる。
「そそ、ルサック浜咲店。俺がキッチンでこいつはウェイターがメインでやってるんだ。双海さんもよかったら今度来てくれよ」
すかさず信が俺の肩を組んでノッてくる。おまえさっきまで落ち込んでたんじゃないのか。現金な奴め。
「はぁ・・・」
「ま、こいつの目つきの悪さは筋金入りだからウェイターってのは意外に思うかもしれないけどな」
智也まで人のことを指差してこんなことをほざき始める。
別に反論はしないが今坂を腕にくっつけたまま言っても様にならないぞ。
「あ、せっかくだし今度と言わずに今から行かない?双海さんはこれから用事とかある?」
音羽さんが名案とばかりに手を叩いて提案する。
「え、あ、いえ・・・別にありませんけど」
なぜ、その一瞬の間に俺を見ますか、双海さん?
「よーし、じゃ、決まりだねっ。ほかのみんなもそれでいいよね」
おー、とみんなが音羽さんの提案に賛成の声を上げる。
別に俺も桧月が来るなら異論はないので反対はしない。
俺がバイト中にみんながダベるのも、まぁ、いつもどおりだ。
そんなこんなで俺たち総勢7名で連れ立ってルサック浜咲店へと向かった。
「信、ちょっといいか?話がある」
俺がそう言って信を早めにルサックの控え室に連行した。
他のみんなは既にルサックの一角で陣取っていることだろう。
「なんだ、話って?」
控え室には俺と信の二人だけ。
17時からシフトに入るのは俺たちだけなので当分は他に人も来ることはないだろう。
「おまえさ、桧月のいとこが手術するって話は知ってるか?」
俺の意図が読めないのだろう。信はどこか訝しげな顔をしながらも答える。
「あぁ、みなもちゃんだっけ?智也と唯笑ちゃんから話は聞いたことはある」
それがどうした?と表情で問いかける信に俺はどう話したもんか言葉を選びながら話す。
「桧月が一週間ぐらい入院することも?」
みなもちゃんの手術にはドナーである桧月が必要不可欠だ。
詳しいことは俺も知らないが、その関係で桧月も検査やらなにやらで一週間ほど入院することになるらしい。
「あぁ、それも聞いた」
だったら説明する手間が省ける。
「桧月が退院したらあいつに告白する」
俺と信の間に沈黙が舞い降りる。
俺の突然の言葉の真意を図っているのだろう。信の表情も真剣なものに変わっている。
「・・・本気か?」
「あぁ、いい加減、次のステージにいかないと話にならないだろ?俺も、あいつらも・・・な」
信は俺の桧月に対する想いを知っている。桧月が誰を想っているかも。
「おまえはどうする?」
そして俺は信が今坂に対して想いを抱いているのも知っている。
「俺は桧月を焚きつけるぞ。今のままじゃ何も変わりはしないからな」
そしてその結果がどうなろうとも、それを受け止めて、前に進んでいく。
「・・・」
信は黙って俺の言葉に耳を傾ける。
「桧月だけ後押したんじゃ、不公平だしな。お前が何もしないなら俺が今坂も焚きつけるぞ」
桧月と今坂。多分、どちらかが動けばもう一人は遠慮して譲ってしまうのだろう。
智也はバカだから・・・同じくらいに二人のことを大切にしてる分、そういう状況になったらその結果に甘えてしまうだろう。
だけどそれじゃ俺が納得しない。
譲り合って智也に選ばせるんじゃない。
互いに自分の気持ちをはっきりさせて、それを智也に伝えさせて3人で答えを出すのがベストだと俺は思う。
「・・・・・・それがお前の出した答えか?」
「あぁ。例え誰が傷ついても、な」
だけど、あの3人なら、きっと、それを越えていく。そうに決まっていた。
いざ、その状況になったとき、自分に何ができるかなんてのはわかりはしない。
その時々で考えて、悩んで、それでも動いていくしかないのだから。
「どうせ誰が何言ってもお前は聞かないもんな」
「そのとおり、よくわかってるじゃないか」
諦観したようにため息をつく信に俺は不敵に笑い返す。
「結果が見えていても・・・何もしないよりはマシか」
自分の覚悟を決めるようにゆっくりと呟く信。
「分の悪い賭けほど見返りは大きいもんだぞ?」
「バーカ、俺は石橋を叩いて叩いて叩き壊してそれを歩伏前進で渡るほど慎重な男だぞ?そんな賭けにはのらねぇよ」
信は俺の言葉を軽く笑い飛ばした後、自嘲するように言葉を続ける。
「ただ、何もしないで後悔するよりは何かして後悔したほうがマシだもんな」
「ま、そういうことだ。倒れても前のめりってな。で、だ・・・」
「ん?」
「石橋を叩き壊したら歩伏前進だろーが逆立ちだろーが渡れねぇよ、ド阿呆」
俺の突っ込みに信は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「っぐ、いいんだよ、それくらいオレは慎重だってことなんだよっ」
「それは慎重って言わない。本末転倒だろが、そんなのはただの間抜けって言うんだよ」
「・・・・おまえ、相変わらず突っ込みに容赦ないな」
バイトをやる前にどっと疲労した顔をする信に俺はニヤリと笑って言ってやった。
「やるときは徹底的に、が俺の主義だからな」
TOPへ SSメニューへ Memories Off Another Index BACK NEXT
Up DATE 06/11/22