Memories Off Another

 

第35話

 

 

 

 

「おはよう・・・・・・って、どうしたの、朝から浮かない顔して」

開口一番桧月の口から出た言葉はこんなだった。

「わかるか?」

「・・・うん、まぁ。俊くん、ポーカーフェイスに見えて実際は物凄くわかりやすいし」

微妙に嬉しくない評価を下された。

「そよか」

その評価とは関係ないため息をつきながら自分の席へ座る。

「で?」

桧月が何かあるなら話せと目線で訴える。

「大丈夫だ。大したことじゃないから気にしないでくれ」

むしろ話したほうが(俺にとって)大事になってしまう。

とりあえず自分から地雷を踏むような真似は避ける。

「そう?ならいいけど」

こういうときの桧月は話が早い。

今坂辺りならしつこく話をするよう迫ってくるのだが、桧月はそんなことをしてこない。

俺がこういう風に話を切った以上、本当に大したことがないとわかっているからだ。

「それより昨日はありがとうね。色々と」

「礼を言われるようなことをした覚えはないけどな」

桧月の言葉に肩をすくめる。

実際、みなもちゃんと少し話をしただけで桧月自身に礼を言われることはしていないはずだ。

「うん、私が言いたかっただけ」

桧月のほうも俺の反応を予想していたようであっさりと返してくる。

それはそれで面白くないが、これまた予想範囲内ではある。

「で、みなもちゃんの手術って何時なんだ?」

「2週間後の土曜日。今日から入院してしばらくは検査やらなにやらで大変らしいよ」

「ふーん、そっか」

2週間後・・・・・か。桧月もドナーとやらで数日は休むことになるのだろう。

みなもちゃんの大変な時期に行動して問題を起こすわけにはいかない。

必然と動くのはその後になってしまう。

俺としては明日にでも行動を起こしたいことだがそういうわけにもいかないらしい。やれやれ。

「桧月はドナーなんだろ?やっぱり何日か入院するのか?」

「うん、私も検査とか色々あるからね。来週の木曜日から病院にお泊りってことになるのかな」

「なるほど」

頷く俺に桧月がちらっと上目遣いで俺を見上げる。

「私が入院したらお見舞いに来てくれる?」

「行かないと後が怖い」

もちろん俺は大げさに肩をすくめて答える。

「むっ、俊くん、それどういう意味?」

「別に他意はないぞ?借りは返せるときに返しておかないといつまでも立っても返せないしな」

「この場合、他意が無いほうが問題にならない?」

むすっとした顔で桧月が睨んでくる。

「多分気のせいだ」

「むぅぅぅ」

そんな風に桧月と話していると。

「そこの天野くんと、桧月さん?そろそろHR始めたいんだけどいいかしら?」

いつの間にか教壇に立っていた担任の先生がにこやかに微笑んでいた。

「くぁ・・・」

「あぅ・・・」

爆笑の渦に包み込まれた教室の中で俺と桧月が身の狭い思いをしたのは言うまでも無い。

くそぅ・・・・・今日は厄日か。

 

 

そして一日は何事もなく終わり、あっという間に放課後。

「わたしはこのまま帰るけど俊くんは?」

「俺も帰りたいところだが、先約があるんでな」

はぁ、とため息をつく。

ちょっと自分の迂闊さが恨めしい。

「へぇー、誰と?信くんとか智也?」

「いや、今日は違う。まぁ、気にするな」

興味津々の桧月に欠伸を欠きながら投げやりに答える。

ここで馬鹿正直に答えたら、自分を追い込むだけだ。

ただでさえ微妙な立場にあるのにこれ以上自分の立場を追い込みたくない。

・・・・・・もう、手遅れだいう考えが一瞬頭を過ぎったが気にしない。気にしない。うん、大丈夫だ、きっと。

「ふーん、何か隠してる?」

桧月は座っている俺の正面に立ち、顔を覗き込むようにかがんでくる。

「気のせいだろ」

何かを探るような視線を真正面から受け止める。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

こうやって真正面なら睨み・・・もとい見つめ合うのは凄く照れ臭いが、ある意味役得だ。

出会った当初なら赤面して俺のほうから視線を逸らしていただろうが、この程度なら問題ないくらい俺も図太くなった。

なんだかんだ言ってもやっぱり桧月は可愛い。

絶対に口に出しては言わないが。

やがて桧月のほうから視線を外す。

「ま、いっか。詮索しないであげましょう」

「それはどうも。おまえ凄く偉そうな」

「・・・・腕組んでふんぞり返ってる俊くんが言うセリフじゃないと思う」

「・・・・・・お互い様、かな」

「・・・・・・そうかもね」

「ふっ」

「くすっ」

一瞬の間をおいて二人同時に吹きだして笑いあう。

あー、やばい。やっぱこいつといると楽しいわ。

「それじゃ、私は帰るね」

「あ、ちょっと待った」

帰ろうとした桧月を思わず引き止める。

「ん?」

さて、反射的に声をかけたまではいいが何も考えてなかった。

俺は何をしたいんだろうな、誰か教えてくれ。

「ああ・・・いや、えーとだな」

「?」

うーん、どうしたもんだかと考え込んだ途端、脳裏に一つのアイディアが浮かんだ。

だが、いいのか?それは俺にとっての諸刃の刃だ。

一歩間違えば自爆。

だが、上手くいったら・・・・・?

どうなるんだろうな。

自分で自分の閃きに首を傾げる。

「俊くん?」

「あぁ、えぇとだな。今日は一人で帰るのか?」

「うん、そのつもりだけど」

「これからちょっと付き合わない?」

「何に?」

「本の整理」

「・・・・・・」

俺の言葉の意図が読めなかったのだろう。

桧月の目が訝しげに細められる。

「何か企んでる?」

「さて・・・どうなんだろうな」

自分でもよくわからん。企んでいるといえば企んでいるかもしれんが、微妙なとこだ。

「実はだな・・・・・・」

俺は朝の出来事を桧月に話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 06/6/28
06/07/28 一部修正


>このまま個人的には、詩音ルートで行ってもらいたいな〜。微妙に詩音がツンデレですね
そこはそれ。今後の展開のお楽しみに〜。次回は詩音とのデート編ですよ。

>彩花ファンから一言。もう俊×詩音でいいよ。。。彩花にはスパロボで頑張ってもらうとして。
>・・・いや、全てを見通してそうな片瀬さやか嬢というのありかも。
>それはそうと、毎回楽しく読ませていただいてますのでこれからも頑張ってください!特にこれからおもしろくなってくるでしょうし。
片瀬さんが意外に人気高くてびっくりな今日この頃。出番少ないのに・・・・。
MOのほうでも詩音は出てきますが他のキャラに比べると大分登場が遅れますね・・・・。問題はいつから連載開始するかですがー、

> 作者様が彩花×俊派なのならこれのほかに短編って感じで一つ書いてみたらいかがでしょうか?
うーん、オリキャラで短編を書くのは多分無理ですね。片瀬さん視点とかならアリかも。
もし書くとしたら分岐ルートって感じですかね。もしAnotherをゲーム化したらどっちも思う存分書けますがw

>今回は挿絵が入りとてもよかったです。話的にも詩音ルートっぽいです。これからも頑張ってください。
>片瀬さんも捨てがたいけど、詩音に一票。
絵のほう気に入っていただけたようで何よりです。今後も少しづつ挿絵のほう増やす方向で考えています。
俊一×詩音が圧倒的だけど片瀬さんも奮戦。
彩花・詩音・片瀬さんでカラー化しますか?