Memories Off Another

 

第34話

 

 

10/22

 

いつもどおりの朝のホーム。

そこで電車を待ちながら俺は考えごとをしていた。

昨日のみなもちゃんとの会話が次々と脳裏に浮かぶ。

前に進む勇気。

みなもちゃんはそれを俺から貰ったと言っていた。

・・・・・・・どの口がみなもちゃんに偉そうな講釈たれてたんだか。

前に進んでいないのは俺だ。

状況を言い訳にして自分から動くことを拒んでいた。

桧月の心の中には俺ではなく智也がいる。

だから動けない?何もしない?

「―――――ます」

思考が進むうちに自分に腹が立ってきた。

二人の状況が変わらないから俺が進めない?

違う。

二人が変わらないなら俺が動いて変わればいいだけの話だ。

そもそも事態の進展を見守ってから動くなんてのは俺の柄じゃない。

「――――ございます」

自分で決めて、動いて、変えていけばいい。

現状に・・・桧月に対して何も言えずにただの友達でしかない今の状況に満足なんかしているはずがない。

たとえ結果がどうだろうと動かなければ何も変わりはしない。

だから。

決意して、自分から動かす。

――――そう決めた。

「おはようございますっ!!」

「うおっ!?}

耳元から突き抜ける声。

その突然の出来事に身をすくませて仰け反る。

慌てて振り向くと冷たい視線の双海がこちらを凝視していた。

「ふ、双海?」

「おはようございます。朝から無視するなんて随分冷たいんですね」

「あ?何のことだ?」

俺が双海を無視?そんなことをする理由がどこにもない。

っていうか双海さんの視線が物凄く怖い。

いつもの無表情なんだけどその視線は妙に俺を責めているというか・・・・。

「さっきから何度も声をかけましたけどことごとく無視されました」

「は?いつ?」

まるで身に覚えがない。

「たった今です。本当に気づいていなかったんですか?」

そう言われてみれば思考の最中に何か声が聞こえてた気がしなくもない。

「・・・・・すまん。考え事してて本気で気づかなかった」

片手を顔の前に上げて謝る。

うむぅ・・・・・・まさか、声をかけられてるのに気づかない程、考え込むとは・・・重症かもしれない。

そんな俺を双海はいまだに冷めた視線で俺を見つめる。

え、と・・・・・気づかなかったこと本当に怒ってる?

双海の視線が凄く居心地が悪い。

たらりと額を冷や汗が伝う。

「わたしが挨拶をしても天野くんは返事を返してくれないのですね」

はぁ、と深いため息をつく。

・・・・・・・・・言われてみれば、俺は挨拶を返していなかったかもしれない。

「あ、あぁ、すまん。おはよう」

「・・・・・・・」

ふいっと双海は俺から顔を逸らして線路側へと向き直る。

「あの・・・・双海?」

「・・・・・」

無視。まるで俺の存在などないものとして振舞っている。

「もしもーし」

「・・・・・・」

またも、無視。

むぅ。

どうしたものか思案していると澄空行きの電車が到着するアナウンスがホームに響く。

双海がそれにつられるかのようにホームに到着する電車へと目をむけ・・・・一瞬だけ俺と目が合った。

たらりと。

俺の頬を冷や汗が伝っていた。

理由は言うまでも無い。

双海の視線が物凄く怖かった。

最初のときの感情を覆い隠した視線なんて目じゃない。

まるで道端に落ちているゴミでも見るからのような視線で俺を一瞥していた。

ホームへ到着した電車のドアが開き、双海と一緒に乗り込む。

「・・・・・あの、・・・・・・双海・・・さん?」

恐る恐る声をかける。

「・・・・・・・」

返答は無い。

完全な無視。

俺の声など完全に無いものとして扱っていらっしゃる。

あー、うん。おもいっきり怒っていらっしゃいますか?

「双海・・・・機嫌悪い?」

つつー、と汗が頬を伝う。

じろり、と双海が俺を一瞥する。

その冷めた視線に背筋が凍りつく。

だが、それも一瞬。

すぐに俺に興味を失ったかのように視線を外してしまう。

やばい・・・・まじにおっかねぇ。

うん、あれは怒った桧月の次くらいに恐ろしい。

このまま双海にあんな態度を取られ続けたらこっちの身が持ちそうに無い。

むぅぅ・・・・どうしたものか。

こないだのテストより十倍は真剣に思考をめぐらす。

と、いってもそうそう名案が浮かべば苦労はしない。

何も思い浮かばないまま電車は澄空へと到着する。

「あ、双海。ちょっと待った」

俺のことを気にも留めずに先に降りる双海を慌てて追いかける。

「双海、俺が悪かった。だからいい加減、機嫌を直してくれ」

「・・・・・・」

そんな俺の声も無視してスタスタと歩いていく双海。

むぅ・・・意外に根を持つタイプなのか、あいつ。

うーん、どうしたもんだか。

双海の後ろを歩きながら再び悩む。

ふと、この前一緒に弁当を食べたときのことを思い出す。

そういえば缶紅茶にいたく不満を漏らしてたっけ。

紅茶には何か特別なこだわりでもあるのかもしれない。だったらそれが糸口になる可能性もある。

・・・駄目元で試してみるか。

「あー、双海、さん?お詫びとして美味い紅茶をご馳走しようと思うんだが・・・・どうだ?」

双海の肩が一瞬ぴくっと反応するが、それ以上の反応はない。

「えーと、ほら。図書委員の仕事があるってんなら一応俺も手伝うけど・・・・・」

「本当ですか?」

くるっと今までが嘘のようなレスポンスで双海が振り向く。

「お、おう」

「本当の本当に本当?」

やや上目遣いで何かを期待するような眼差し。

「もちろんだ」

その瞳にちょっとドギマギしながらも頷く。

「なら約束ですよっ♪」

再びくるっと反転して再び双海は歩き出す。

そこにはさっきまでの重苦しい雰囲気は微塵も感じない。

どころか足取りそのものが浮かれているようにも見える。

なんか・・・・・こう・・・・釈然としないものが・・・・。

「・・・・・・なぁ、双海?」

湧き出す違和感に耐え切れず双海に問いかける。

「はい、なんですか?」

「さっきまで俺のこと無視してたのって・・・別に怒ってたわけじゃなかったりした?」

「はい。初めから怒ってなんかいませんよ?ただ天野くんがわたしのことを無視していた回数だけわたしも同じことをしてただけです」

そういってクスクス笑う双海。

「ほう」

「あ、でもさっきのは天野くんが自分から言い出したことですからね。ちゃんと言ったことは守ってくださいね」

「・・・・・・・・・・」

憮然と押し黙る。

同じことをしただけ?

じゃ、あの絶対零度の視線はなんだったのか。少なくとも俺はあんな脅すような視線は向けていない。

「おまえ・・・・・絶対に確信犯だろ」

先を歩く双海の背中にポツリと呟く。

「ふふっ、さぁどうでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

なんとなくそうじゃないかと思ったけど、今はっきりと確信した。

こいつ絶対に性格悪い。黒い。悪魔だ。

迂闊なことを口走った自分の甘さを悔やむ。

くそっぅ・・・双海め。

学校へ続く坂道を登りながら、俺は双海への復讐を心に誓った。

 

 

「放課後、図書室でお待ちしています」

下駄箱で双海はそう言い残して先に教室に向かっていった。

「・・・・・・誰も今日行くなんて一言も言ってないぞ」

憮然とした俺の呟きに答えるものは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 06/6/13


>今度は小夜美さん達とのイベントか〜、話が進むにつれて内容が濃くなってきて読みごたいが増しますね〜、この調子でがんばってください
・Yes.sir. 読んでくださる皆さんの期待に添えるよう全力全開でやっていきますよ〜。

>お姉さんズ登場。
>しかし、俊くんが好きなのは彩花なのにもかかわらず、ストーリー的には完全に詩音さんですね。個人的には彩花スキーなんですが詩音さんの方が断然合ってるといった印象を受ける主人公ですな。
>もう、こうなったらほたる出してもっと引っ掻き回してやれ!(ぉ
いや〜、ほたるの登場は多分2ヶ月以上後なので無理です(ぉ
っていうか作者も彩花×俊派なのにどんどん詩音ルートに・・・・orz

とりあえず結果は予想しつつもフォーム欄に一個加えたのでよろしければ投票どぞ〜。

今回挿絵も描いてみたけど見れば見るほどバランスおかしくて失敗・・・・orz
時間あるときに描き直すかも・・・。