Memories Off Another

 

第32話

 

 

 

 

 

 

「ほら、俊一さん。こっちですよ」

「へいへい・・・・・・」

元気なみなもちゃんの後を追いながら苦笑してしまう。

しっかし桧月はなんであんなこと言ったのだろう?智也も今坂も何か知っているような素振りだったが・・・。

まさかみなもちゃんから愛の告白とか?

「・・・・・・・は」

一瞬よぎった考えに失笑する。ありえねぇ、ありえねぇ。

今までの自分の行動を振り返ってみればまかり間違ってもそんなことがあるはずがない。

「いー眺めですねぇ」

みなもちゃんが立ち止まりその横へ並ぶ。

「確かにいい眺めだな」

そこからは海の景色が一望することができた。

海をさえぎるものはなく、水平線の先まで見てとれる。

「それで?俺になんか話があるんじゃないの?」

みなもちゃんを横目しながら話を切り出す。

「愛の告白です」

「・・・・・・」

みなもちゃんは間髪いれずに即答した。

「冗談だろ?」

「はい、もちろん」

一息入れた俺の言葉にまたもや笑顔で即答するみなもちゃん。

「・・・・・・・・」

なんだろ。こうホッとしたことはホッとしたんだが、そこまできっぱりはっきり言われると男としては物凄く複雑な気分だ。

「ちょっと長くなるんで座りませんか?」

微妙に憮然とする俺に構わずみなもちゃんは傍のベンチを指差す。

今坂もだがこのコも結構マイペースで良い度胸をしている。

「じゃあ、飲み物買ってくる。何が良い?」

「え、と・・・・果汁のジュースで」

「了解」

遠慮がちに呟くみなもちゃんの言葉に首肯し、近くの自販機で俺とみなもちゃん二人分のジュースを買ってくる。

「一応言っておくけど奢りな」

ベンチで座るみなもちゃんの額に当てるようにジュースを差し出す。

「え、でも」

「弁当の礼。美味かったからな。ふぁ・・・・」

みなもちゃんの言葉を遮って欠伸をかきながらその隣へと腰を下ろす。

「彩花ちゃんと唯笑ちゃんには?」

「今坂の弁当はほとんど智也が受け持ったしなぁ・・・・・桧月は桧月で別途勝手に向こうから請求してくるだろ」

みなもちゃんの質問に答えながらベンチにもたれ掛かり缶へと口をつける。

「へぇ・・・・やっぱり俊一さんって彩花ちゃんのこと好きなんですね」

「ぶふぅっ!?っ!!」

俺は盛大に口に含んだ紅茶を吹き出した。

「げふっ!がはっ!ごほっ!げほげほっ!!」

おまけに思いっきりむせた。

「い、いきなり何を・・・・・」

むせたせいで涙目になりながらみなもちゃんを恨めがましく睨む。

「俊一さんって意外とわかりやすいんですねぇ」

みなもちゃんは俺の視線など何一つ気にせず人のことを観察するようにポツリと呟いた。

「いきなりそんなこと言われりゃ誰だって吹き出すわっ!!」

「またまたー、そんなに照れなくてもいいじゃないですか」

「照れるとかそういう問題じゃないっ!」

「えへへーっ、隠したってわかりますよ。彩花ちゃんのこと見る俊一さんの目、すっごく優しいもん」

怒鳴る俺の心を見透かしたようにみなもちゃんは笑う。

「・・・・・はぁ?」

動揺する俺に畳み掛けるようにみなもちゃんは続ける。

「わたし、ずっと俊一さんのこと観察してたからわかりますよ。俊一さんいつも彩花ちゃんを見てるし、すっごく大事に想ってるって」

「・・・・・・・」

そう言ってジッと見つめてくるみなもちゃんに反論の言葉が沸いてこない。

「・・・・・うぐぅ」

その視線が居心地悪くて思わずみなもちゃんから目を逸らしてしまう。

みなもちゃんはそんな俺の様子を見てまたくすくすと笑っている。

・・・・・・・俺みなもちゃんに遊ばれてますか?

つーか、そんなに俺ってわかりやすいのか?

「あ、でも彩花ちゃんとか唯笑ちゃんは絶対に気づいてないですよ」

「あぁ、そりゃ良かった」

投げやりに応えながらベンチに寄りかかりふてくされた顔で缶紅茶を飲みなおす。

気づかれてたら俺は本気で泣く。

「そもそもあいつも今坂も智也しか目に入ってないからな。そんな心配はハナからしてないよ」

言って手にした缶を所在なさげに揺らす。

「確かに・・・・・そうですね」

でも、とみなもちゃんは続ける。

「彩花ちゃんは自覚がないだけで俊一さんのこと結構意識してますよ」

ゆっくりとみなもちゃんを振り返る。

俺を見上げるその瞳からはさっきまでの楽しげな光は失せ、穏やかな光を湛えていた。

「なんでそう思う」

「だって彩花ちゃん、智也さんの次に俊一さんのことばかり話してるんですよ」

智也の次に・・・・・ねぇ。

「彩花ちゃんのお話に出てくる男の人って智也さん以外では俊一さんぐらいしかいないんですよ?」

「ふぅ・・・・ん」

と、言われてもその程度では桧月が俺を意識している理由にはならない気がする。

「彩花ちゃんいつも言ってました。「今、わたしが生きていられるのは全部俊くんのおかげなんだ」って」

「大げさな奴・・・・・」

ふと、桧月と会ったばかりのときを思い出す。

「全然、大げさじゃないですよ。わたし彩花ちゃんの気持ちよくわかるから」

「・・・・・・?」

みなもちゃんの言葉にわずかな疑問が浮かぶ。

なんでみなもちゃんが桧月の気持ちを理解できるのだろう。

そう疑問に思ってるとみなもちゃんが突拍子も無いことを言い出した。

「わたしも俊一さんに命を救ってもらったんですよ」

「はい?」

「わたしも俊一さんに命を救ってもらったんです」

正直意味がわからない。

俺がみなもちゃんに会ったのはついこないだのことだし、そもそも俺は人の命にかかわることなんざしたことがない。

まぁ、桧月の場合は客観的に見たらそう見えなくも無いんだろうけど。

だがみなもちゃんに関しては何もしていないはずだ。

「わたし、小さいころからずっと体が弱くて入院ばかりしてました」

困惑する俺をよそにみなもちゃんが海を眺めながらポツリポツリと語り始めた。

「治る可能性の低い、命に関わる病気なんです」

俺は口を挟むことはせず、ただ黙ってみなもちゃんの話に耳を傾ける。

「自分がそんなに長く生きられないかもしれないって知ったとき、すごく怖かった。入院して夜が来るたびに怖くて震えてた」

明けない夜。そんな言葉が俺の脳裏に浮かんだ。

いつ、自分がそんなときを迎えるかもしれない恐怖。俺には到底想像することもできない領域なんだろう。

「でもね、そんなときはいつも彩花ちゃんに唯笑ちゃん、智也さんが励ましてくれたの。大丈夫だよ、って」

そしてみなもちゃんは彩花達との思い出を次々と話していく。

みなもちゃんが初めて智也と出会ったときの話。

入院を繰り返すことで学校の友達が少なかったみなもちゃんには、その3人との時間が本当にかけがえの無いものだということ。

3人から受け取った音声を再生するメッセージカード。桧月と今坂がみなもちゃんを励まそうと夜の病院に忍び込んだこと。

みなもちゃんはそのどれもを本当に愛おしそうに話していく。

俺の知らない桧月の話。みなもちゃんのこんな話を聞いているときにも限らずほんの少し嫉妬を覚えてしまう。

そして自分の狭量加減に心の中で舌打ちする。

「でも・・・・・やっぱりダメなの。どんなに彩花ちゃんたちと過ごす時間が楽しくても、どんなに大丈夫だよ、頑張れって励ましてくれても一人になるとどうしても怖いのっ!」

今まで淡々と話してきたみなもちゃんの声に悲痛な想いが現れ始める。

震える自分の体を抑えるように自分の肩を抱くみなもちゃん。

「それに彩花ちゃんたちは優しすぎるから・・・・わたしがそんな風に苦しんでるって知ったら智也さんも唯笑ちゃんも彩花ちゃんも悲しませちゃうから・・・」

「だから・・・・・・その苦しみを打ち明けることもできない・・・・か」

俺の言葉にみなもちゃんは顔を伏せたまま頷く。

確かにあいつらは俺と違ってお人好しばかりだ。みなもちゃんの痛みを自分の痛みのように感じてどうしようもないことに悩んでしまうのだろう。

そしてあの3人はみなもちゃんが自分達には話してくれない何かに苦しんでいることに感覚的に気づいていた。

でもそれをみなもちゃん本人に問いただすわけにもいかない。

なまじ近すぎるがゆえに打ち明けられないこともある。

さっき桧月が言った「みなもちゃんをお願い」ってのはこういう意味だったんだろう。

「俺は医者じゃないからな、みなもちゃんの病気に対して何もできない」

俺はみなもちゃんに投げかける言葉を捜しながらポツリと呟く。

「一人になった時に怖くなるのも人として当然だと思う。桧月たちに心配させたくないって気持ちもわかる」

俺がこれから言おうとしていることは多分、みなもちゃんを傷付けることになる。

でも俺はありきたりの励ましの言葉を投げかける術を知らない。

ただありのまま、心に浮かんだ考えを伝えることしかできない。

「けど、それはあくまでみなもちゃん自身の問題だ。他の誰にもどうすることもできない」

横でみなもちゃんが顔を上げる気配がする。

「一人のときに怯えるのも、桧月たちに心配をかけまいと悩むこと自体にも何の意味もない」

顔をあわせることはせずに淡々と言葉を紡ぐ。

「一人で震えていたって病気は何も解決しないし、みなもちゃんが心配をかけまいと明るく振舞ったところで親しい桧月たちにはなんとなくでも見破られる」

俺はみなもちゃんの悩みを全て否定している。

「みなもちゃんがいくら悩んだところで結局何の解決にもならないし、意味の無い独りよがりでしかないんだ。誰がどう言い繕ったところでな」

横でみなもちゃんが震えている気配が伝わる。泣いているんだろうか?

自分の言葉がみなもちゃんを傷つけるとわかっていても止めることをしない自分にやや辟易してしまう。

「くくっ・・・・」

「・・・・・くくっ?」

みなもちゃんの声に怪訝なものを感じて横を見る。

「くく・・・・あははっ」

「あはは・・・・・・・?」

笑っていた。

自分の肩を抱いた姿勢でみなもちゃんは必死に笑いをこらえようと笑っていた。

Why?

いや、待て。俺何か笑うような話してたか?

「み、みなもちゃん?」

「ああ、あはは・・・・ご、ごめんなさい。本当に彩花ちゃんの言うとおりだったから」

笑いのツボにでもはまったのかみなもちゃんは目元に涙まで浮かべていた。

桧月の言ったとおりって・・・・・。

「ちなみにあいつは何て言った?」

みなもちゃんが笑ってることに微妙に安堵しつつ、何か納得いかないものが胸の内を渦巻いている。

「え、と、ですね。悩みとか辛い話をしても絶対に俊くんは励ましの言葉は言わない。それどころか悩みとかそういったものを気持ち良いくらい全部否定してくるから真に受けちゃダメだよって。本当にその通りでしたね」

クスッとみなもちゃんは笑う。

「・・・・・・・」

ヤロウ。桧月に自分の行動が読まれてるのが物凄く悔しい。

おかげでシリアスな雰囲気が全部消し飛んでしまった。

まぁ、確かに重苦しい雰囲気は俺も嫌いだが・・・・・・この憮然とした気持ちをどうしてくれよう。

「でも俊一さんの言ってること間違ってないと思います」

そんな俺の気持ちを察したのかみなもちゃんが言う。

「間違ってはなくても解決にもなってないけどな」

言ってため息をつく。

「俺はみなもちゃんみたいな境遇になったことはないから、みなもちゃんの苦しみを理解してやることはできない。だからこれから少しわかったつもりで話す」

「・・・・・・はい」

「もし、俺がみなもちゃんの立場になったとして・・・・やっぱり一人になったときは怖くなると思う。それがどんなに意味の無いことだってわかっててもな」

こくんとみなもちゃんが頷く。みなもちゃんも俺に言われるまでもなくそんなことは理解していただろう。

わかっていても抗うことのできないことが世の中にはたくさんある。

「けど、それ以上にやりたいこと、成したいことがたくさんあるはずなんだ。例え自分が明日、明後日には死ぬかもしれないとしてもな」

それは今こうして話している今だって変わることは無い。

「今、自分がそれをできない状況にいたって、それをやっている状況、実現する場面を思い浮かべる。そしたらさ、すっごくわくわくしてこないか?」

言ってる内に自分自身がそんなワクワクしてきた。

「でさ、今、それができなくてもそれをやるために何をしたらいいのか、何か準備できることは無いのかって考える、もしくは実行していく。それを考えるだけでもさ、無駄に怯えたり悩んでる時間すら勿体無いと思わない?」

みなもちゃんがきょとんとした顔で俺を見ていた。

「・・・・・って、自分で言ってて何が言いたいんだかわからんな」

というかよくわからんことを熱く語り始めた自分が少し恥ずかしくなってきた。

みなもちゃんの悩みはそんな次元の話じゃないはずなのに。

「わかりますよ。ようは今の自分がやりたいことを考えたり、それに対してできることをやれば悩む暇なんて無いってことですよね」

「・・・・・・・・・・まぁ、そういうことになるのかな」

「たとえ、それが自分にはできないとわかってても?」

みなもちゃんが呟いたのは静かだか重い一言だった。

「・・・・・・・俺は諦めが悪いからな。人にできないって言われても自分が納得しないかぎり試すし、明日死ぬってわかってもやっぱりそのときにできることをやると思う。たとえそれが無駄になるとわかっててもさ」

言葉を切って上を見上げる。

そこにはいつもと変わりない蒼い空が果てしなく広がっている。

「要するに俺は頭が悪いんだ。結果がどうだろうとやりたければやる。自分でできないと納得したら諦めたら、他にやれることを探す。何か考えてそれに縛られて何もしないのが嫌いなだけだ」

みなもちゃんのほうに振り向いて少しだけ苦笑する。

「結果的に何もできなくても、な。要は自己満足かな。何もできなくても何かしたい。やっていないと気が済まない。もちろん何もできなくなって動けないときもよくあるけど」

「なんとなくですけど・・・・・・わかるような気がします」

みなもちゃんが俺の言葉をかみ締めるようにうんうんと頷く。

「大丈夫だ、言ってる本人が一番よくわかってないから」

「何事も簡単に諦めたらいけない・・・ってことですよね?」

「いいや、諦めてもいいと思うぞ」

「え?」

俺の言葉にみなもちゃんが驚く。

「人間、何をどうしたってできないことはできないし。俺の場合どうでもいいことは速攻で諦めるしな」

「・・・・・・・」

「ただ、自分が諦めたくないって思ったときだけ足掻けばいいさ。足掻くだけ足掻いて何もできなくなったら諦めて別のことを探すってとこかな」

「それでも諦めれなかったら・・・・?」

「そんときはただ信じるしかないな。自分を信じて・・・・・・想い続ける。自分の願いを信じて想い続けて・・・なにかできることが思い浮かんだりすればそれをやればいい。ただ信じて想うだけでも意外と力が湧いてくるもんだぞ」

「強いんですね、俊一さんは・・・・」

「どうだかな・・・他にやりかたを知らないだけだし。ついでに言えばみなもちゃんのことは俺からすれば他人事だ。だから知った風なことも言えるんだよ。実際に今言ったことができてるかどうかまでは知らん。自分が限界だって思ったら割と簡単に諦めるしな」

感心したようなみなもちゃんの視線から目を逸らし、投げやりに言う。

そんな俺の様子にみなもちゃんは何を思ったのか、くすっと笑みをこぼすだけだ。

なんか俺、この子に笑われてばっかだなぁ・・・。

「そういや、さっき俺がみなもちゃんの命をどうとか言ってたけど、あれってどういうこと?」

「あ、それはですね、彩花ちゃんがわたしの特効薬ってことです」

「・・・・・はい?」

みなもちゃん、それ端折り過ぎ。

みなもちゃんの話を要約すると、みなもちゃんの病気はドナーを見つけて移植出術をすれば治療可能ということらしい。

だが、この病気はドナーを探すのが一番困難らしい。

適合するドナーが見つかる可能性は数百から数万人に一人。

そもそもドナー登録者の数がそんなに多くは無いのだろう。それが、治る可能性が低い一番の理由らしい。

「えーと、要するにだ。桧月がみなもちゃんと適合するドナーってことか?」

「はい、そういうことです。だから彩花ちゃんの命の恩人である俊一さんは、わたしの命の恩人でもあるんですよ」

あぁ・・・そういうこと。

そっか。みなもちゃんは治るのか。

そのことに大いに安堵している自分がいた。

「んな、大げさな・・・・。そもそも俺が助けなくても桧月が死んでだと決まってたわけじゃあるまいし」

言ってため息をつく。

だが、みなもちゃんは俺の言葉に首を横に振る。

「彩花ちゃんが言ってましたよ。俊一さんが助けてくれなかったら絶対に今ここにいることはできなかったんだって」

そういや、事故現場とか事故の状況を知った医者とか警察の人がそんなようなこと言ってたような気がする。

一歩間違えていれば即死の可能性があったとかどうとか。

「・・・・・・・」

「だから、俊一さんはわたしの恩人なんですっ」

「まぁ、そう思うのは勝手だけどな・・・・」

「それで俊一さんにお願いがあるんですけど・・・・・いいですか?」

「そのお願いが何なのか聞かないと判断のしようがないな」

「あは、そうですね」

みなもちゃんが笑う。

「わたしの絵のモデルになってください」

「・・・・・・・・誰が?」

「俊一さんが」

「・・・・・・・・・・なんで?」

「約束が欲しいんです」

「・・・・・・・?」

その言葉の真意がわからず首を傾げる。

「さっき言いましたよね。わたしの病気は手術すれば治るって」

「あぁ」

「それで今度手術をするんです。近いうちに・・・」

「・・・・・・・手術の成功する確率は?」

頭に浮かんだ考えがそのまま口をついて出た。

「9割以上ってお医者さんは言ってました・・・・・・」

「ふーん」

9割以上ってことはほぼ手術が成功するのは間違いないんだろう。

だが、そういったみなもちゃんの表情は決して明るくない。

いくら成功率の高い手術とはいえ、命に関わる手術だ。そう簡単に安心することはできないのかもしれない。

「やっぱり怖い?」

「・・・・・・はい。お医者さんも彩花ちゃんたちも大丈夫って言ってくれますけどやっぱり手術は怖かったです」

怖かった・・・・・・ね。

「もう過去形なんだな」

「俊一さんのおかげですよ」

「・・・・・・・」

みなもちゃんの言葉に目を細める。

「わたしずっと前から俊一さんとこうして二人でお話したかったんです。彩花ちゃんを助けた人はどんな人なんだろうって」

「自分勝手で気まぐれで自己中心的なやつだな」

俺の言葉にみなもちゃんはただ笑ってみせる。

「ぶっきらぼうで無愛想で照れ屋で意地っ張りで気まぐれでお人好しですごく優しくて思いっきり変な人」

「・・・・・・・」

「彩花ちゃんが言ってた通りの人でしたよっ」

「・・・・あいつもみなもちゃんも感性壊れてるんじゃないのか?」

みなもちゃんの言ったことに対して軽い頭痛を覚えてため息をつきながら言った。

「あははっ。でも俊一さんのおかげで手術が怖くなくなったのも本当ですよ」

「・・・・・・さっきまでの話でどうしてそうなるのか俺には理解できんがな」

と、いうかなんでこのコはこんな恥ずかしいセリフを平然と言えるんだろう。

聞いてるこっちが恥ずかしくなる。

「わたしもやりたいこといっぱい思い出しましたから、怖がってる暇なくなっちゃったんですよ」

「それは良かったな」

「わたし、手術をすることがずっと怖かった。今まで手術をする勇気も持てなかった。だから俊一さんに会って話したかったんです」

「・・・」

「自分のことを省みないで見ず知らずの彩花ちゃんを助けた人に強さを分けてもらいたかったから・・・」

そこでみなもちゃんは言葉を切ってとびっきりの笑顔を俺に向ける。

「そして今こうして、前に進む勇気を貰うことができちゃいました」

「・・・・・・・別に俺は強くなんかないぞ。勇気を持てたってんならそれは最初からみなもちゃんの中にあったんだろ」

「うふふっ。じゃあそういうことにしておいてあげますね」

「他に何も無いっつーに。で、さっき言ってた約束ってのはどういうことだ」

さっきから微妙に話が脱線している気がする。

「えへへ、そうやって約束しておけば、何が何でも手術を成功させて約束を守らなきゃいけないじゃないですか」

「なるほど・・・・そういうことね。でも、だったら別に俺じゃなくても良くないか?」

「いーえ、もう決めちゃいましたから俊一さんじゃないとダメです」

きっぱり言い切られた。

「ま、別にいいけど・・・・・・」

それでみなもちゃんが元気でいられるっていうならお安い御用だ。

「はい、約束ですからねっ」

「・・・了解」

「あ、彩花ちゃんにも同じ約束をしてますから。絵を描くときは二人揃ってお願いしますね」

「はい?えーと、それはつまり?」

「はい、彩花ちゃんと俊一さんのツーショットの絵を描かせてもらいます」

・・・・・・俺と桧月のツーショットの絵?

想像してみる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・物凄く悪くない。

「・・・絶対約束だからな?」

「うふふっ。はい、任せてください!」

みなもちゃんは力強く首肯した。

「あー、それと桧月には俺の気持ちは絶対内緒だからな」

「はい、もちろんですよ」

わかってます、という顔でみなもちゃんは微笑む。

「わたし、俊一さんのこと応援してますから頑張ってくださいね」

「・・・・・・おう」

つーか、よく考えたら俺、この子にすっごい弱み握られたのな。

これからはもうちょっと自分の行動を鑑みよう・・・・・。

 

 

 

 

 

この後、桧月たちのところに戻った俺達は何事もなかったかのように午後のひとときを過ごした。

ただ、別れ際に桧月が言った言葉、

「ありがとう、俊くん」

と、言う言葉が俺の脳裏に焼きついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 06/4/23