Memories Off Another

 

第31話

 

 

10/21

 

 

「かったる・・・・」

呟いて辺りを見回す。

時間は9時45分。

みなもちゃんとの約束もあって日曜の朝っぱらからこんなとこに来ている。

休日のこの時間はいつも寝ているのが常だ。

当然ながら非常に眠い。かったるい。

反面桧月に会えることを考えると非常に内心ワクワクしてるのは、もうほっとけ。

「・・・・・・・と、いうか何処にいるんだよ」

公園の入り口に立った俺は途方にくれながら呟いた。

よく考えたら待ち合わせはこの公園ってだけで公園のどことは指定していない。

この公園はかなり広く、入り口だけでも3,4つある。

この中を桧月たちを一人捜し歩く自分を想像してみた。

「・・・・・・・かったりぃ」

一瞬で気力が萎えた。

とりあえずそんな真似をするのはご免こうむりたいので素直に携帯を取り出す。

「おろ」

折りたたみ式の携帯を開くと同時にディスプレイにメールの着信を知らせるライトが点滅する。

桧月からだ。そのままメールの内容を確認する。

『後ろだよ』

「・・・・・・」

ぽんと肩に手が置かれる感触。

無言のまま振り返ると肩に置かれた手から伸びた指が頬に突き刺さる。

「おはよっ、俊くん」

俺の頬に指を突き刺したままにっこりと笑う桧月。

その少し後ろではみなもちゃんを始め、智也と今坂もいた。

今坂とみなもちゃんは小さく手を振りながら。智也にいたってはニヤニヤ不快な笑みを浮かべている。

「・・・・・・おはよう」

俺は内心で桧月とのやりとりを嬉しく思いながらも憮然とした表情で桧月達に向き直る。

ちなみに桧月の指は依然と突き刺さったままだ。

それどころかツンツンと突っついて来るがここは無視を決め込む。

「おはようございます、俊一さんっ」

「おはっよー」

「よっ」

3人の挨拶に片手を挙げて返事を返す。

ツンツン

「俊一さん、今日はわざわざありがとうございました」

ぴょこんとおじぎをするみなもちゃん。

「いや、まだ来たばっかだし。それに礼を言われるようなことはしてないぞ」

「あ、そういえばそうですね。じゃ、改めまして・・・・」

すーっと深呼吸をするみなもちゃん。

ツンツン

「今日はよろしくお願いしますっ」

改めてぺこっとお辞儀をするみなもちゃん。

・・・・・・・何を?

「まぁ・・・・こちらこそ」

と、思いつつそんなみなもちゃんに苦笑するしかなかった。

ツンツン

「って!おまえは何時まで人の頬を突つく気だっ!!」

「あ、うん。何時まで無反応でいられるかなーって思って」

そう言って少しだけ首を傾げる桧月。

からかうでもなく、悪意を持っているわけでもなく純粋に疑問に思ってただけらしい。

「なんだよ、それ・・・・」

たまに不可解な桧月に思いっきり脱力してしまう。

「さぁさぁ、俊一さんに彩花ちゃんもこんなところになってないで早く中に入りましょう」

「うん、そうだね」

「お、おう」

みなもちゃんに押されるがままに桧月ともども公園の中へと入っていく。

「ほーら、智ちゃんも早くぅっ」

「わーかったから引きずるなっての!」

ちらりと振り向くと智也が今坂に抱きつかれながら引きずられてるのが目に入った。

・・・・・・まるで散歩した犬に引きずられる飼い主の図だ。

「俊一さん・・・・今、智也さんと唯笑ちゃんに対して思いっきり失礼な想像してませんか?」

「ほう、なんでそう思った?」

「思いっきり唯笑ちゃんたちを可哀想なものを見るような目をしてましたけど・・・」

俺の疑問に苦笑しながら答えるみなもちゃん。

「いや、飼い主を引きずる犬と引っ張りまわされる飼い主みたいだなと思って」

「俊くん、あのねぇ・・・・・・」

言いかけてちらっと智也たちに目を向ける桧月。

「・・・・・・・」

そのまま無言で押し黙る。

フォローのしようがなかったらしい。

「あ、あははは」

みなもちゃんは乾いた声で笑っていた。

 

 

 

 

「おい、俊。そっちもっと広げてくれ」

「こうか?」

大きな銀杏の木の下でレジャーシートを広げる。

広げられたシートの上では女の子3人組が嬉々としてお弁当を広げていく。

「じゃーん、これが唯笑たちが作ったお弁当だよ〜」

「彩花ちゃんと唯笑ちゃん、わたしとみんなで作ったんですよ」

「いーっぱいあるからたくさん食べてネ」

「おぉう・・・・」

みなもちゃんと桧月の声を聞きながら密かに感動する俺。

形の良いサンドイッチにおにぎり。お弁当のお約束とも言えるタコさんウインナーを始めとした数々のおかずだち。

一部本能が警告を発するものが混じっているのを考慮してもある種夢のような光景だ。

昨日の双海といい、俺にもようやくツキが回ってきたのかもしれない。

「んじゃ、ま。遠慮なく頂きまーす」

言って真っ先に俺は桧月が取り出したサンドイッチへと手を伸ばす。

形崩れもなく、見た目も良い。

見た目の観賞もそこそこに口の中へ放り込む。

「・・・・・・どう?」

なんとなしに俺の様子を伺う桧月。

不安とかそういった感情は抱いていないようだが、やはり自分の作った食べ物の感想は気になるのだろう。

サンドイッチを飲み込んだ俺は簡潔に感想を述べた。

「美味い。最高」

言って、すぐ次のサンドイッチへと手を伸ばしてすぐさま口の中一杯にサンドイッチを頬張る。

そんな俺の様子を見て桧月は満足げな表情を見せる。

「うぐっ、げはっ・・・、な、なんだこれ?」

今坂から受け取ったパスタを食べていた智也がいきなりむせていた。

「えへへー、唯笑特製のパサパサパスター♪」

自慢げに語る今坂だが智也は桧月から受け取った水を飲み干すの精一杯で聞いちゃいない。

「んぐんぐ、ぷはーっ!!」

涙目で水を飲み干す智也を横目に俺は今坂に尋ねた。

「パサパサパスタって何・・・?」

「パサパサパスタはぱさぱさパスタだよー。パサパサした食感がウリだよ」

・・・・・・ぱさぱさのパスタって、それはもはやパスタと呼べるのだろうか?

「はい、智ちゃん。どんどん食べてね」

「うっうぐっ・・・・・」

笑顔の今坂ににじり寄られる智也。

・・・・・・・極上の笑顔を浮かべる今坂に智也は抵抗の術がないようだ。

頑張れ智也。

俺はそんな智也に生暖かい視線を向けながら他のおかずへと手を伸ばしていく。

「このおにぎりってみなもちゃんが作ったの?」

「はい。おかかにたらこに野沢菜。いっ〜ぱいありますよ」

みなもちゃんから渡されたおにぎりを受け取って一口かじる。

ふむ、これはたらこか。

「料理好きなんだ?」

「そうですねぇ。お弁当とかはいつも自分で作ってますし。あ、彩花ちゃんにもときどき教わってるんですよ」

「桧月に?」

「はい、彩花ちゃんってとってもお料理が上手いんですよ。わたしの密かな目標なんです」

「へぇ・・・・」

視線をそのまま桧月に向ける。

その先では今坂から受けたダメージで疲弊している智也をフォローする桧月がいた。

「・・・・・・」

ちょっと面白くない。

「・・・・くすっ」

「ん?」

視線を戻すとみなもちゃんがくすくす笑っていた。

「どうした?」

「いえ、彩花ちゃん達相変わらず仲がいいんだなぁって」

「そうだな」

見てるこっちがむかつくくらい。

自分の矮小さを実感しつつもそう思わずにはいられなかった。

「あ、みなもちゃん。あれ作ってきてるよね?」

「うん、もちろん」

今坂とみなもちゃんがなにやら話してる。

「あれって?」

「うふふー、これです。伊吹家秘伝、きゅうちゃんですっ」

「・・・・・きゅうちゃん?」

ってなんじゃらほい?

俺が頭に疑問符を浮かべている間に今坂がみなもちゃんからきゅうちゃん(?)を受け取りそれに口をつける。

今坂はとても美味しそうにキューキュー言っている。

とりあえず普通のおにぎりじゃないのは間違いなさそうだ。

・・・・・・・うん、見なかったことにしよう。

 

 

 

 

 

 

「あー、食った食った。ごちそう様」

ぷはーッとみなもちゃんから受け取ったお茶を飲み干す。

「おまえ・・・本当に残り全部食うとは」

智也が呆れたように呟く。

「おまえと違って俺は差し入れしてくれる幼馴染はいないんでな。食えるときに食うのが俺の主義なんだ」

それに桧月の作ったものとなれば残すわけにもいかない。

「俊一さん凄いです」

「ふえー、でも本当によく食べたねぇ」

今坂も感心したように空になった弁当箱を見渡す。

女の子達は見た目どおりの少食である程度食べたらお喋りに夢中になっていた。

残された大量のお弁当は俺と智也で処理することになったが、智也はパサパサパスタのダメージが大きかったらしく途中でリタイヤ。

そして残った3人前はゆうにあった量のお弁当はすべて俺の胃袋に収まったわけだ。

「・・・・・・とはいえ、流石にしばらくは動けん」

言って仰向けになる。さすがにあれだけの量を食べたとなると腹がきつい。

「もうっ、行儀が悪いよ」

「育ちが悪いからな」

呆れたような桧月のため息を聞きながら目を閉じる。

吹き抜ける風が頬に当たり眠気を誘う。

柔らかな風当たりが心地よかった。

ここで桧月の膝枕とかあったら最高に幸せだが、流石にそこまで今は望めない。

桧月たちのお喋りをBGMにしばしの時間を過ごす。

「俊一さん、俊一さん」

誰からに体を揺さぶられる。

「・・・・ん?」

目をあけるとそこにはみなもちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。

起こされた以上そのまま寝ているわけにもいかず体のほうも身を起こす。

「俊くん。みなもちゃんがね、食後の散歩に行きたいんだって」

「うん」

桧月の言葉に頷く。

「と、いうわけでみなもちゃんと二人で行ってきてネ」

「あぁ・・・・・・・・・・・って、はい?」

桧月の言った言葉の意味が理解できず思わず訊き返す。

なんで俺がみなもちゃんと二人で?

桧月の意図がいまいち理解できない。

「そういうわけなんでいきましょ、俊一さん」

「おぉ?」

訳もわからないうちにみなもちゃんに腕を引っ張られる。

「ちょい待て。靴ぐらい履かせてくれっ」

「もぉ、早く来てくださいねっ」

そう言い残してみなもちゃんはたたっと駆け出していく。

「・・・・おい」

状況が把握できず桧月に説明を求める視線を送る。

それを受け止めたのは桧月の真摯な表情だった。

桧月だけではない。今坂も智也も今まで見たことのない真剣な表情で俺を見つめていた。

予想外のことに仰け反る俺に暇を与えずに桧月は静かに言う。

「みなもちゃんをお願い」

「・・・・・・おう」

桧月の言葉に込められた重みに俺は反射的に答えていた。

桧月がどう言った意味で俺に今の言葉を投げかけたのかはわからない。

ただ、それに込められた想いが桧月にとって、みなもちゃんにとっても何か大きな意味があるのだろう。

何の説明もないってのがイマイチ釈然としないが、後で追求すればいい。

「貸しにしとくぞ」

一言だけ残して俺はみなもちゃんの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TOPへ  SSメニューへ Memories Off Another Index BACK NEXT

採点(10段階評価で、10が最高です) 10
お名前(なくても可)
できれば感想をお願いします

Up DATE 06/4/15


>詩音がとてもかわいかったです。これからも頑張ってください
Yes.sir. 応援どもです。

>早く続きが見たい。スパロボ的なものも
しばらくはAnotherの更新速度あげるつもりで頑張ります。SRWのほうは・・・あまりお約束もできませんが気長に待っていただければ・・・と。