Memories Off Another

 

第30話

 

 

 

「おろ・・・」

「・・・こんにちわ」

屋上へと向かう途中でバッタリと双海に出くわした。

さっきまで考えていたことが頭をよぎって無意味に双海を意識してしまう。

「・・・えと、双海はこれから図書委員の仕事?」

「はい」

「土曜でもあんのか・・・大変だな」

俺だったらそんな拘束時間の長い委員は是非とも御免こうむりたい。

「それほどでもありません。私が好きでやってることですから」

「ふーん」

「天野くんはどちらに?まだお帰りにならないのですか?」

「ん、あぁ、いや。俺は飯食ってから帰ろうかなと思って」

一旦、言葉を切って双海か目を逸らしてポツリと呟いた。

「・・・まぁ、せっかく弁当もらったんだし。家で食うのも味気ないからな」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

互いに沈黙。

チラッと双海を伺うと特に何を言うでもなくジーっとこっちを見ている。

つーか、そこで黙るな、双海。なんだか無性に恥ずかしいことを言った気がして照れくさくなってくる。

「・・・・・・ふふっ・・・・・あははっ」

双海と視線を合わせないでいたらいきなりに双海が可笑しそうに笑って始めた。

まるで今までこらえていたものが溢れ出たように。

「・・・・・何、笑ってんの、おまえ」

「だ、だって、天野くん、自分で言ったことに照れてるんだもの・・・ふふっ」

俺が憮然として聞くと双海はクスクス笑いながら言った。

「別に照れてない・・・」

くっ、一人で無駄に考えてことがバカみたいだ。あほらし。

「わたしもお昼まだなんです。良かったら一緒にどうですか?」

俺の言葉などさらっと無視する双海。

この誘い自体は別に断る理由はないが・・・・。

「そりゃ、別にいいけどさ・・・・・・・おまえ実は結構性格悪いだろ?」

「さぁ、何のことですか?」

そう言って歩き出す双海の目は実に楽しそうだった。

 

 

 

 

 

油断することなく辺りを警戒し、危険がないことを確かめる。

「・・・OK、誰もいないな」

屋上へとやってきた俺達はそこに誰もいないことを確認してやっとそこに足を踏み入れる。

「何をそんなに警戒しているのですか?」

双海は無駄に警戒している俺を不審に思っているようだ。

「いや・・・・変に誤解するバカとかあることないこと言いふらすアホに見つかると面倒なんでな」

暗に桧月と信のことを指しながら、入り口の裏手へと回る。

裏に回ったのは他のところよりは死角になりやすいからだ。

一人だったら入り口上の指定席へと行くところだが双海が一緒だとそういうわけにもいかない。

「ん、ここでいっか」

「・・・失礼します」

俺が手近なベンチに座ると少しの間を挟んで双海が隣に座る。

俺は早速双海から受け取った弁当の包みを解き、蓋を開ける。

「・・・・・おおぅ」

軽く感動する俺。

そこには形の整えられた玉子焼きやたこさんウィンナーなどの定番のおかずと栗ご飯が入っていた。

「・・・・・」

双海がそんな俺の様子を恐る恐る伺っているのがわかる。

やはり人に自分が作ったものを食べてもらうというのは緊張するものなのだろう。

「で、は・・・・いただきます」

包みと一緒に添えられていた箸を手に弁当へと手を伸ばす。

まず、栗ご飯を一口。続いて玉子焼きを一口。

「・・・・・うん、美味い」

「・・・・・・・」

俺の一言に双海が安堵の息をついたのがわかる。

「これ、全部双海が作ったんだよな?」

「はい、そうですけど」

「ふーん、双海って料理上手いんだな」

俺は他のおかずへと次々に箸を伸ばす。

手作り弁当なんて本当に久しぶりだし、それが可愛い女の子からもらったものだということを考えれば箸が進むのも当然だろう。

おまけに味も見た目も文句なし。

「そ、そんなに急いで食べなくても・・・・」

「ん、もぐ、いや、普通に美味いからさ。もぐ」

そんな俺の様子に呆れてるのか驚いてるのか微妙な双海に一言だけ返して、再び弁当との戦闘を開始する。

ちなみに双海はまだ自分の弁当の蓋を開けてもいない。

呆然としたまま俺が弁当をがっつくのを凝視している。

若干、視線が気にならないでもなかったが、俺は箸の速度を緩めることなく食べ続ける。

「ごちそうさまでした」

蓋を開けて3分も経たずに食べ終えた俺は大きな満足感に浸っていた。

量的には若干少なかったけどそれ以上に気持ち的にお腹一杯です。

「サンキュ、双海。物凄く美味かったよ」

双海は俺の様子に少し呆れたような顔をしていたが、

「喜んでいただけたのなら光栄です」

と、笑顔を見せてくれる。

「いや、こんな美味い弁当貰って喜ばないわけにはいかないだろ」

言って、手元の弁当箱を見る。

「えーと、この場合洗って返したほうがいいのか?」

「いえ、そのままで結構です」

「そうか。じゃ、どうも本当にご馳走様でした」

心からの感謝の言葉とともに弁当箱を双海に返す。

「どういたしまして」

「・・・・・・・どーでもいいけど双海は全然食べてないのな」

「・・・・もしかして、量が少なかったですか?」

「いや、そうじゃなくて食べるのが遅いなって。つーか、俺、そんなにモノ欲しそうな顔してたか?」

そんな風に思われてたら物凄く心外かつ少しショックだ。

「あ、すみません。そういう意味ではないのですが・・・・・大体わたしが遅いのではなくて天野くんが早すぎるのです」

「そうか?」

それは双海の弁当が美味かったからだ・・・・・・・と、言おうとして何度も繰り返すのも照れくさい気がして、適当な言葉でお茶を濁した。

「そうです」

きっぱりと言い切った双海は再び自分の箸を動かそうとして

「・・・・・あ」

動きを止めた。

「どうした?」

双海は自分の鞄をガサゴサと何かを探し始める。

・・・・・・だが、目的のものは見つからなかったのかわずかに落胆の表情を見せる。

「水筒・・・・・忘れてしまったみたい」

「・・・・・・あぁ」

飲み物がないってことね。

言われてみれば俺も喉が渇いている。

一気に掻きこんだからなぁ・・・・。

「よし、弁当の礼も兼ねて、何か飲み物奢ろう。何がいい?」

「え、でも・・・・」

「自販機か購買に売ってるもの限定だけどな。ちなみにここで遠慮はなしだ」

双海が断る前に釘を刺しておく。

双海は一瞬考え込んだ後ゆっくりと口を開く。

「では、紅茶をお願いします」

「了解。あったかいのでいいか?」

「はい、お任せします」

「オッケ。じゃ、行ってくる」

「はい」

頷く双海を残して俺はその場を後にした。

 

 

「ほい、おまたせ」

「ありがとうございます」

双海のリクエストどおり買ってきた紅茶の缶を双海に手渡してからベンチへと腰掛ける。

「・・・・・・まずい」

「ん?」

俺が自分用に買ってきたお茶に一口つけると、横の双海が苦い顔で手に持った缶とにらめっこをしていた。

「・・・・え、と・・・・どうした?」

「まずい・・・・・・日本の紅茶はこんなものなのですかっ?」

「え、いや、まぁ、それは市販の缶ジュースだし。ランクでいや最下級みたいなもんだとは思うけど・・・・」

普段の双海からは想像も出来ない勢いにちょっとたじろいでしまう。

「・・・・・・」

俺の言葉に双海は深刻な顔で手にした缶を見つめる。

「・・・・・そんなにまずいか、それ?」

「・・・・・・はい」

うーん、俺はいつもその銘柄のヤツを平然と美味しく飲んでるわけだが・・・・こだわりの違いなのかなぁ。

「じゃ、俺の日本茶と交換するか?一応こっちも缶には違いないから味の保障はできんが・・・・」

「・・・・いいんですか?」

「俺は別にその紅茶でも平気だし。まぁ・・・・とりあえず飲んでみる?」

「・・・・・では、一口だけ」

そっと俺が手渡した日本茶に口をつける。

「こっちは大丈夫?」

「・・・・はい、大丈夫です」

ふぅっと静かに息をついた双海に苦笑してしまう。

「それは良かった」

双海と交換した紅茶を一口飲む。

うーん、別にそこまでまずいとは思わんけどなぁ・・・。双海って紅茶の味にうるさいんだろうか。

「・・・・・・・ぁ」

双海がそんな俺を見て何かに気づいたような素振りを見せる。

「ん?」

「・・・・・あ、いえ、その・・・・・なんでもありません」

そう言って目を逸らす双海。

心なしか顔が赤くなってるような。

「・・・・・・・・これ・・・って・・・・間接キス・・・・よね」

「あ?」

双海が何か呟くが声が小さくてよく聞こえない。

「・・・・なんでもないです」

俺と目を合わそうとせず答える双海。

どう見てもなんでもないようには見えないが・・・・・変なヤツ。

その後俺は双海が食べ終わるまでゆっくりと紅茶を飲みながら食後のひとときを過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 06/3/12


>ア〜詩音の弁当イベント最高ー!この調子でオリキャラ×詩音でいってくれるのに期待してます
既に作者の意図無視してイベント進行しております。

つーか、更新遅くなってほんっとごめんなさい。ノ○フz乙
更新頻度上げるようもっと頑張ります・・・。