Memories Off Another
第29話
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「おろ・・・・?」
朝の駅。改札前で一人の女の子が胸に手を当てたまま祈るように深呼吸をしていた。
普通なら気にも留めずに放って置くのだが、それが知り合いならばそういうわけにもいかない。
「・・・・・・なにやってんだ、双海?」
「あ、あっ、天野くん!?」
俺が声をかけると物凄く焦った様子で双海が反応する。
どうやら声をかけるまで俺の存在に気づかなかったらしい。
「お、おはようございます・・・」
「あぁ、おはよう」
双海は自分を落ち着かせるように何事もなかったかのように挨拶するが、やっぱり落ち着きが無い。
なにか、妙に緊張しているというかそんな感じだ。
「で、こんなところで何やってるんだ?誰か待ってんの?」
「あ、は、はい。実は、えと、その、いえ別に」
「・・・・・・変な奴。誰か待ってるのはいいけど、そろそろ行かないと遅刻するぞ」
いつもと違った双海の様子に首を傾げつつも俺は改札へと歩き出す――――が、制服の裾を引っ張られた。
振り向くと俺の制服の裾を掴んでいた双海がさっと手にした紙袋を突き出してきた。
「あ、あの、これ・・・」
「へ・・・・・・」
「もし、良かったら、その・・・・・・どうぞ・・・」
事態が飲み込めず呆然としていた俺に双海が視線を合わせずに言った。
なんか、微妙に怒ってるように見えるのは俺の気のせいだろうか?
いや、でも顔がどことなく赤いし照れてるだけ・・・・か?
「はぁ、ありがと・・・」
そんな双海に驚きつつ、紙袋を受け取る。
「ちなみに何がはいってんの?」
「お弁当・・・です」
相変わらず双海は俺と視線を逸らしたまま言う。
「ふーん、弁当ねぇ。・・・・・・・って、え!?弁当、俺に?」
受け取った紙袋と双海が発した言葉の意味をようやく理解する。
え?ちょっ・・・・え?は?
訳がわからないまま混乱し始めた俺は受け取った紙袋と双海を交互に見やる。
「その、天野くんには色々と・・・お世話になってますし・・・。ちょっと、お弁当のおかずを作りすぎたついでです」
最後のほうはなんか取ってつけた言い訳のようにしか聞こえないけど、やばい・・・・。
かなりジーンときた。理由はどうあれ女の子にお弁当貰うなんてシチュエーションが自分に起こるなんて思いもしなかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・天野くん?」
紙袋を受け取ったまま硬直した俺を不審に思った双海が首を傾げる。
「あ、いや、その、い、いいのか?本当に貰っちゃっても」
「今までのお礼ですから・・・このぐらいさせてくださいっ」
そう言った双海はツンそっぽを向いてしまう。
「サンキュ。ありがたく貰っとくよ」
「・・・・・・はい」
チラッと横目で俺を見た双海は静かに頷いた。
そして俺の視界に澄空方面の電車が発車するのが見えた。
・・・・・・・あれ、俺今日結構ギリギリの時間で家を出たよな?
「・・・・・・って、今何時!?」
「え?あ、きゃっ、もうこんな時間!?」
腕時計に目をやった双海がサッと青ざめる。
気づけば遅刻する瀬戸際の時間だった。
「やべ、急ぐぞ、双海っ!!」
「は、はいっ」
「くぁ・・・・・・・・」
始業開始のチャイムと同時に教室に駆け込んだ俺は息も絶え絶えに机に突っ伏した。
「今日はギリギリだったねぇ・・・どしたの?」
そんな俺を桧月は物珍しそうに見ている。
「はぁ・・・・はぁ・・・・ま、小さくてでっかいことがあったんじゃないか・・・?」
「小さいのか大きいのかどっちなのよ・・・・そもそもなんで疑問系?」
「なんでだろうなぁ・・・」
投げやりに答えたまま顔を桧月から外へと向ける。
むー、ちょっと気まずい。
双海から弁当貰ったときは物凄い感動したけど俺は別に好きな子がいるわけで。
いや、別に双海が俺に対して特別な感情どうこう持ってるとかは絶対ないだろうけど、理由はどうあれ他に好きな子いるのに弁当とか貰うのどうよ?
桧月と智也みたいに幼馴染とかならともかく別にそういう関係でもないしなぁ。
弁当を貰えたのは物凄く嬉しいんだが物凄く複雑な気分だ。
無論、俺が一人で無駄に色々考えてるだけだけどのも重々承知しているつもりだけど・・・・。
「うぐぅ・・・・・」
「何、一人で唸ってるのコレ」
「さぁ?だって俊くんだし」
飛世さんに桧月さん。人が勝手に悩んでる横で聞こえるように好き勝手言うのもやめてくれ。
「さて・・・・これからどうしたもんだか」
時間は既に昼。今日は土曜なので以降の授業はなく、普段なら後はH.Rを済ませて帰るのみだが・・・。
「帰るんじゃないの?」
「んー、ちょっとな」
俺の独り言に律儀に反応してくれた桧月に気の抜けた返事を返す。
朝から一人で無駄に色々考えてたものの、貰ったものは有難く貰っておけばいいという結論に達した。
双海もあくまでお礼だと言っていたし。
もっとも自分の行動を振り返ってみても弁当を貰えるほどの大したことをした覚えはないのだが。
まぁ、それはさておきせっかくの弁当を家で一人で食べるという味気ない真似はしたくない。
とはいえ、誰かと一緒に弁当を食べるのは論外。
俺が自分で弁当を作ることなどまず有り得ないから余計な詮索される。
桧月に妙な誤解をこれ以上されるのも勘弁。
一人で弁当を見られずに食える場所。
と、なると選択肢は自ずと限られてくる。
「・・・・・・屋上か」
「屋上?何かあるの?」
「いや、こっちの話。桧月はもう帰るのか?」
俺が訊くと桧月はにっこりと嬉しそうな顔で頷いた。
「うん、これから唯笑ちゃんとみなもちゃんと3人で明日の買い出し」
「へぇ・・・・それはそれは」
明日はみなもちゃんと約束したオチバミの日だ。
この分だと明日も桧月とみなもちゃんの手作り弁当にありつけそうだ。(今坂の料理は色々とよろしくない噂を聞いているので智也に任せる)
自然と頬も緩んでしまう。
「明日は思いっきり楽しもうね」
「おう」
じゃ、と手を振って教室を出て行く桧月を見送る。
うん、明日も良い日になりそうだ。
「ふ〜ん、何々明日はお二人でおでかけですかー?」
にゅっと俺の目前にマイクを模したように手が突き出される。
「・・・・・・帰れよ、お前」
一瞬でさわやかな気分をぶち壊してくれた相手をジロリと睨みつける。
「あはは、相変わらずお二人は仲の良いことで」
俺の視線など気にも留めず飛世はケラケラと笑い飛ばす。
「あのなぁ、ちゃんと話聞いてたか?二人じゃなくて他にもいるっつーに」
「うん、ちゃんと聞いてたよ」
「・・・・・・・・」
・・・・・・何食わぬ顔でしれっと言いやがるこの女。
「あはは、そんなに怖い顔しないで。シュンとムーちゃんが仲が良いってのは本当のことでしょ?」
「・・・・・・ムーちゃん?」
もしかしなくても桧月のことだろうか?
「そ、私が桧月さんにつけたアダ名」
「由来は?」
「桧月の月を英語にするとMOON。だからムーちゃん。どう?」
自信満々に胸を張る飛世。
俺は桧月の疲れきった苦笑を思い出し、飛世に憐憫の視線を向けた。
「・・・・・・・・」
「な、何よ、その可哀想なものを見る目つきはっ!?」
「いや・・・・・・桧月も大変だなぁと思って」
「ちょ、それどーゆうイミよ?」
「・・・・ふっ、言葉どおりだ。じゃあな、あだ名大魔神」
それ以上は飛世と関わるのは時間の無駄と判断した俺は鞄と弁当を手にその場を後にした。
教室で飛世が何か喚いていたのはきっと気のせいだろう。
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Up DATE 05/1/30