Memories Off Another

 

第28話

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、天野。おまえのこと呼び出してる子が来てるぞ?」

5時間目が終わった休み時間。

桧月から受けたプレッシャーで消耗してぐったりしてた所にクラスメイトがそんなことを伝えにきた。

「あー、誰よ?」

「あっち」

クラスメイトが指差した所を見るとそこにはさっきまで一緒にいたみなもちゃんがいた。

「俺?桧月じゃなくて?」

「あぁ、おまえ」

桧月ならともかくなんで、俺を呼ぶのかイマイチよくわからない。

桧月に視線で問いかけると

「いってらっしゃ〜い」

と、言って手を振られた。

何処か釈然としないものを感じつつ、俺はみなもちゃんのところへ向かった。

「おまたせ。どしたの?」

「はい。えっと、さっきは大事な用件を言い忘れてまして」

「・・・・・・用件?」

「今度の日曜日ってお時間ありますか?」

「日曜日?えーと、夜からバイトだけどそれまでなら暇・・・・かな」

俺が言うとみなもちゃんはパッと輝くような笑顔になった。

「でしたら、一緒にオチバミ行きませんか?」

「オチバミ?」

・・・・・・って、なんじゃらほい?

「はい、オチバミです」

「・・・・・・オチバミ?」

聞いたことあるような無いような言葉だ。

「オ・チ・バ・ミ・です」

「何、それ?」

「オチバミはオチバミですよぉ」

説明になってない。

・・・・・・よくわからんが、彼女の中ではメジャーなことらしい。

「みんなでドンチャン騒ぎするアレです」

「・・・・・あぁ、アレかぁ」

と、一応は頷いて見せたものの、もしかしなくてもそれってお花見のことじゃないだろうか。

そう思ったが、みなもちゃんのあまりに嬉しそうな笑顔を見て突っ込めなくなる。

まぁ、確かにこの時期じゃお花見というには語弊があるだろうし、『落ち葉見』と、いうなら問題はないのかもしれない。

そんな言葉はないと思うが。

「それで、日曜日どうですか?」

「・・・・・・・まあ、用もないからいいけど」

「良かった。約束ですよ。今度の日曜10時に海辺の公園に来てくださいね」

「お、おう」

みなもちゃんの勢いに押されながらも俺は頷く。

「えへへ、わたし、お弁当いーっぱい作っていきますから楽しみにしててくださいねっ」

そう言い残すとみなもちゃんは嬉しそうに駆け出していった。

「・・・・・・・廊下は走っちゃいけないって教わらなかったか?」

俺自身よくわからないうちに約束してしまい、気持ち的にも状況的にも思いっきり置き去りにされた気分だった。

 

 

 

 

首を傾げながら席に戻ると当然のように桧月が話しかけてた。

「オチバミの約束してきたの?」

「あぁ・・・うん、まぁ」

桧月が話の内容を知ってるのはあらかじめみなもちゃんに聞いてたのだろう。

「にしてもわざわざここまで来なくても、桧月に伝言頼むなりなんなりで良かったろうに」

「うん、わたしもそう言ったんだけどみなもちゃん、どうしても自分で誘いたかったらしいよ」

「ふーん」

なんでそうなるやら。

「それで、デートに誘われた感想はどう?」

デート?何を言ってやがりますか、この方は?

「誰が誰とデートなんだ?」

「俊くんがみなもちゃんと♪」

「・・・・・・・・・ちょっとタンマ」

額に手を当ててゆっくりとさっきのみなもちゃんとの会話を再生する。

・・・・・・・確かに会話の流れからするとそういう気もしなくもない。

だが、冷静になって考えろ。

デート?俺がみなもちゃんと?

・・・・・・・・・ありえねぇ。

桧月をよくよく観察してみると、何か黒いものを感じた。

こういうときの俺の直感はよく当たる。

・・・・・・・・・・・・・・・嫌な方向にだけな。

「・・・・・・・おまえらも来るって言ってたぞ?」

桧月をジト目で睨んで言った。

「えっ!?なんでみなもちゃんバラしちゃったのっ!?」

「・・・・・・・ほぉ」

「・・・・・あ」

しまったと言わんばかりに開いた口に手を当てる桧月。

「ひ〜づ〜き〜?」

「あ、あはは、俊くん、目が怖いよ」

珍しく桧月がうろたえる様を見せる。

「てい」

「痛ッ!?」

すかさず俺は桧月の額に軽くデコピンを放った。

「つまんねーことで人をハメようとするからだ」

「うーっ、だからって暴力振るうことないじゃない」

額を押さえながら抗議する桧月が可愛くてついつい笑みがこぼれてしまう。

「いや、それお前には言われたくないから」

桧月の強烈な容赦の無い攻撃に比べたら俺の一撃なんて蚊が刺したようなもんだと思う。

「俊くんのはいつも自業自得じゃない」

「今回の桧月のも同じもんだと思うが?」

「うーっ」

「ふふん」

可愛く睨みつけてくる桧月に俺は不敵な笑みを浮かべる。

だが、それを中断させたのは第三者の声だった。

「天野に桧月。仲が良いのは結構だが、そろそろ授業を始めたいんだがなー」

と、5時間目の担当教師の冷めた声。

続いてドッと巻き起こる教室中からの笑い声。

「くぁ・・・・・・・・・・」

「あぅ・・・・・・・・・」

俺と桧月は二人して赤面しながら押し黙るしかなかった。

 

 

 

 

「たーく、酷い目にあった・・・・」

「誰のせいよ、誰の?」

「半分はお前のせいだろ?」

6時間目が終わったあと、俺たち二人は授業開始を遅らせたペナルティという名目の元、
HR終了後に授業で使った機材の片付けという有難くない雑用をする羽目になった。

不幸中の幸いというか、機材の量はそんなに多くなかったので機材を準備室に運んだ後はそのまま昇降口へ向かっている。

(当然、自分たちの鞄も機材と一緒に持ってきた。)

「たまにはアレくらいの冗談言ったっていいじゃない」

俺が言うと桧月は小さく頬を膨らませて反論する。

キミのアレくらいの冗談は俺にとって物凄く性質悪いです、ハイ。

「だったら、普段俺に対する暴力ももうちょっと手加減してくれ」

「何よぉ、前に『俺に対して気遣いするなって』言ったのは俊くんでしょ」

昔その台詞を桧月に対して言ったときのことを思い出し、無自覚のうちに苦い顔をしていた。

改めて思い出すと物凄く恥ずかしいことを言った気がする。

「あ〜、あれはまぁ、その、ここで持ち出すのは勘弁してくれ。俺が悪かった」

俺の表情を見て満足したのか、にっこりと満足げに笑う。

「うん、素直でよろしい」

・・・・・・・くっそう、なんか俺、絶対こいつに勝てない気してきた。

これも惚れた弱みというやつだろうか?

「って、あれって智也と詩音ちゃん?」

桧月の視線の先を追うと下駄箱で何か話してる双海と智也がいた。

智也はさっさと靴を履き替えて出ようとするが、双海が靴の履き替えに戸惑っているようだ。

「・・・・・本当だ。珍しい組み合わせだな。とりあえずおっかけるか」

「うん」

そうと決めたら自分たちのクラスの下駄箱にダッシュで向かって靴を履き替え、玄関を出ようとする二人に速攻で追いついた。

早歩きで歩く二人の間に割って入って声をかけた。

「二人で何急いでるんだ?」

「きゃっ!?」

「おわっ」

思いっきり驚かれた。

智也はどうでもいいけど軽く小さな悲鳴を上げた双海に俺は内心小さなショックを受けた。

無論、そんなことは表に出さないが。

「んな驚かなくてもいいだろうに・・・・」

「す、すみません。別にそういうわけでは・・・」

あたふたする双海を見てちょっとだけ安心すると同時に微笑ましい気持ちになる。

「おまえが突然出てくるからだろがっ!」

「智也が何かやましいこと考えてたからじゃないの?」

「うおっ、彩花までいたのか!?」

「いちゃ悪い?」

「・・・・いや、そんなことはないけど」

冷めた声色と一睨みで智也を黙らせる桧月。

こいつ、智也が双海と二人で帰ろうとしてたことに妬いてるな・・・・・・。

俺のときとは反応がまったく違う。この十分の一でもいいから俺のときも妬いてくれればなぁ・・・。

「こんにちわ、詩音ちゃん」

「・・・・こんにちわ」

俺のそんな思いも知らずに桧月は双海へ声をかける・・・・・・が、挨拶を返す双海はじっと俺と桧月を見比べる。

「・・・・・・・何?」

「いえ、別に・・・・・・。すみません、少し急いでますので」

俺が疑問に思って訊くと双海は素っ気無く答えて外へと向かってしまう。

「あ、双海さんちょっと待った。場所わからないだろ」

そう言って智也が慌ててその後を追う。

もちろん俺と桧月も後に続く。

「へぇ・・・詩音ちゃんと二人でどこ行くの?」

とある箇所を強調して桧月が智也に問い詰める。

「栗拾い」

即答した智也の答えに俺は鼻白んだ。

「・・・・・・・・・なんでまた」

俺が訊くと今度は双海が答える。

「今日は父が帰ってくる日なんです」

「・・・・・・今日は?」

「双海さんのお父さんは考古学の教授でさ、普段は忙しくて家に帰ってこないんだってさ」

俺の疑問に智也が答えながら続ける。

「それで双海さんが栗ご飯を作りたいらしいから俺が栗林まで案内をするってことになったわけ」

「栗ご飯・・・・ねぇ。その辺に売ってる栗じゃダメなのか?」

「智也さんにも同じことを聞かれましたが、日本の野菜は汚染されてると聞いています。だから自然のものを手に入れたいと思います」

双海はきっぱりとそう言いきった。

「いやぁ・・・・・大丈夫だと思うが」

でないと今頃日本に住む人間の大半がエライことになってる気がする。

「確証が無い以上、最善の手を尽くしたいと思います」

俺の呟きに双海ははっきりと宣言した。

「詩音ちゃんって意外と頑固なんだね・・・・」

双海のそんな様子に桧月も呆れたような感心したような微妙な表情をしている。

「まぁ、こだわるのはいいとして・・・・・・この辺に栗林なんてあるのか?」

俺の素朴な疑問に智也はニヤリと笑う。

「まぁな。ちょっとした心当たりがある。な、彩花?」

「え?ん、と・・・・・・・・・あっ、あの場所?」

いきなり振られて戸惑う桧月だったが、すぐに合点がいったように頷いた。

「・・・・・どこよ?」

俺が聞くと桧月と智也は二人で目配せして、

「着いてからのお楽しみ・・・・・ってところかな」

「ま、そういうところだ」

「・・・・・・・・・さよか」

笑顔で答える二人に俺は軽く身勝手な嫉妬を覚えて投げやりに答えた。

毎度のことではあるがこうやって俺の知らないところで繋がっている二人(ともう一人)の距離感にはやるせない想いを感じてしまう。

「あの・・・・・・天野くんと桧月さんはどこまで行かれるのですか?」

「ん?いや別にやることも無いからこのまま最後まで付いていくつもりだけど。な?」

「うん。それと、わたしのことは彩花って呼んで。わたしも詩音ちゃんって呼ばせてもらってるし。ね?」

「・・・・・はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

智也と桧月に先導されてついた場所は澄空駅から10分ほどの公園だった。

「こんなところに栗林なんてあるのか?」

「まぁな。この裏に回ると・・・・」

智也の後を追って着いた場所。そこには大粒の栗がたくさん実っていた。

「すごい!いっぱいある!!」

「ほぉ・・・・・よくこんなとこ知ってたなぁ」

感嘆の声を上げる双海とこの場所、両方に感心しながら呟いた。

「この公園はね、昔わたしと智也、唯笑ちゃんの3人でよく遊んでたとこなの。それでかくれぼをしてたときに偶然見つけたんだ」

「ふーん、ま、いいや。採るなら採るでちゃっちゃとやっちまうか」

「はい!」

興奮した双海が元気よく返事をする。

うーん、双海の新たな一面を発見した感じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくの間、4人で黙々と栗を拾う。

さすがの4人での共同作業だと短時間でも随分な量の栗を拾うことができた。

「これだけありゃ、4日分は軽くあるんじゃないか?」

栗ご飯にどれだけの量が必要なのかはさっぱりわからんが。

「そうだな。ま、このあたりで切り上げ・・・・・ひいっ!?」

いきなり情けない声を上げた智也を見るとその眼前には竹槍が突き出されていた。

・・・・・って、竹槍!?

「うらー!なにをしとるんじゃい!!」

竹槍を突き出したおっさんの声に弾かれる様に智也は動き出した。

「やばい、逃げるぞ!!」

「は、はい?」

智也は困惑する双海の手を掴み、一目散に走り出した。

「桧月!!」

「うんっ!!」

もちろん俺と桧月もその後に続く。

後ろでおっさんが叫んでいる声が聞こえるが当然そんなものは無視だ。

智也を先頭に入り組んだ路地を走り抜ける。

なんか、この前も同じ展開があったなぁ・・・・。

 

 

 

「はぁ、ここまでくれば安全だ」

ようやく足を止め一息つく俺たち。

「はあ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・智也、いつまで詩音ちゃんの手握ってるの?」

息も絶え絶えになりながらしっかりと突っ込む桧月。

「って、あっ!ごめん」

桧月に言われてようやく自分がまだ双海の手を握っていることに気づいた智也は慌てて手を離す。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・・・・・ハァ・・・・」

肩で息をしている双海は息が切れてそれどころじゃないらしい。

「はぁ・・・・・・お前って逃げるとき絶対に誰かの手掴んで逃げるよな・・・」

「う、うるさいっ!たまたま偶然だっ!」

「・・・・・・・・・」

智也の弁明に俺と桧月は冷たい視線を向けるだけだ。

「・・・・・あ、あのおじさん、ずいぶん怒ってたみたいだけど・・・・・・」

そんな俺たちのやりとりも気にかけず、双海が疑問を投げかけきた。

「あれはな、栗の精だ」

「え?」

「はぁっ?」

「・・・・・・」

智也の荒唐無稽な発言に双海の目が点になり、俺が呆れた声を出し、桧月が絶対零度の視線を向ける。

「ちょっと、多く採りすぎたらしい。だから栗の精の怒りをかってしまったんだ」

俺たちの反応を気に留めず、智也はさらに意味不明の言葉を続ける。

「ほら、かなり刺々しい妖精だったろ?」

あんな妖精がいたら世界中の子供の夢が灰燼に帰す。

「いやぁ、でも大丈夫。後でさっきの方角に向かってイガを置いて、3回頭を下げればいいんだ」

「・・・・・・今坂さんと一緒にしないで下さい・・・・」

双海は呆れ顔で冷たくあしらった。

「う・・・・・・つい、いつものクセが」

「アホ」

「・・・・・・バカ」

うろたえる智也に俺と桧月が追い討ちの言葉を投げる。

「う、うるさいぞっ、そこ!」

「これって、もらっていいの・・・・・・・いいんですか?」

双海が手にした袋に入った栗と智也を見比べながら言った。

どうでもいいけどまた双海の言葉遣いが変になってるな。

「うーん、大丈夫。あそこってウチの親戚だからさ。後で謝っておくよ」

「ま、今更返しに行くわけにもいかんしなぁ・・・」

「うふ、ふふふふふ」

俺が智也の声に頷くと、双海の笑い声が聞こえてきた。

「あ、詩音ちゃんが笑ってるっ!」

「お、本当だ。珍しいこともあるもんだ」

「だ、だって・・・・・あはははは」

笑ってる双海につられる様に俺たちも笑い出す。

俺からすれば双海が笑うこと自体は珍しくないが、こうして皆で笑い合えるようになったのはきっといい傾向だと思う。

「天野くんも・・・・三上さんも・・・・彩花さんも・・・変な人・・・・」

ひとりしきり笑いあった後、双海がポツリと呟いた。

「待て、なんでそこに俺が一番最初に来る!?」

「わはは、妥当なとこじゃないかっ!!」

「一番変なお前に言われたかねぇっ!ていうか、双海も十分変だからな?」

「そうですか?」

「俺が保障しよう」

「そんなこと保障されてもねぇ・・・・」

鷹揚に頷く俺に桧月が呆れた声を出す。

「大丈夫、桧月が凶暴なのは俺が保障する」

「ちょっ!何それっ!?」

「見たまんまじゃねーかっ!!その振り上げた拳が証拠だっ!」

「うっ・・・・!」

「ふふっ、・・・・・本当に、変な人達」

そんなやりとりをしながら俺たちは澄空駅へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、これ」

「え?」

中目町駅で桧月達と別れた後、俺は自分が拾った分の栗を双海に差し出す。

「どーせ、俺が持って帰っても使い道無いから一緒に使ってくれ」

「そう・・・・なんですか?」

「あぁ、今の俺は一人暮らしだし、栗ご飯はおろか栗の調理などできん」

胸を張って言う俺に双海は俺が差し出した栗と俺の顔を交互に見る。

智也と桧月はそれぞれ栗を持ち帰っていたが、どーせ智也の分も桧月の手に渡ることだろう。

その栗を使って調理されたものが智也に届けられるのは想像に難くない。

と、いうか想像したらなんかムカついてきた。

「と、いうわけだから俺の分も遠慮なく使ってくれ。アホみたいに拾ったから量だけはあるしな」

「わかりました。遠慮なく頂くことにします」

「じゃ、またな」

「天野くん」

俺が手を振って背を向けたところに呼び止められた。

「ん?」

首だけで振り返ると双海は真面目な顔でこっちをじっと見つめていた。

「本当にありがとうございました」

「・・・・・・・・・礼なら智也に言ってくれ。別に今日の俺は何にも大したことしてないからな」

言ってそのまま歩き出す。

栗ご飯・・・・かぁ。

晩飯何にしよう。今日一日のことを振り返りながら俺は晩飯の献立をかなり真剣に悩みながら歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 05/12/24