Memories Off Another
第27話
「俊一さんって、部活とか入ってないんですよね?」
「まぁ・・・・かったるいし、バイトもあるし」
みなもちゃんの質問に答えながらパンにかぶりつく。
可愛い女の子二人に囲まれての昼食は悪い気分じゃないがどことなく気恥ずかしいものも感じていた。
いつも桧月と今坂と行動している智也に対してほんの少しだけ感心してしまう。
「おまけに協調性もないしね」
桧月が茶化すように言うが、それに関してはまったくその通りなので反論しない。
「・・・・・・俺にそんなものを求めるほうが間違ってるんだ」
「協調性がないっていうよりは、ただ単に照れ屋なだけなようにも見えますけど・・・・・」
「・・・・は」
あごに手を当てて首を傾げるみなもちゃんを見て俺は思わず苦笑していた。
どこをどう解釈したらそういう結論に至るのだろう。
「あ、それはあるね。すっごい無愛想なくせに、すっごい照れ屋なとこあるもん」
「・・・いや照れ屋違うし。そんなことよかみなもちゃん、俺に話があったんじゃないの?」
「俊くん・・・・・顔赤いよ?」
「気のせいだ」
俺が素っ気無く言うとなぜか二人はくすくすの忍び笑いを漏らす。うむ、非常に面白くないぞ。
「あははっ、えっと、わたしの用事はですね・・・・・」
そういってみなもちゃんは彼女の荷物の中をがさこそと探りだし、一冊のスケッチブックを取り出す。
「わたしの描いた絵を俊一さんに見てもらいたいたくって」
「絵?・・・あぁ、そういえばみなもちゃんって美術部だっけ」
「はい、それで俊一さんに感想いただきたいなぁって」
みなもちゃんから差し出されたスケッチブックを受け取る。
「・・・・・感想と言われても、別に俺絵のことなんてわからんから大したこと言えないぞ?せいぜい良いとか悪いとか」
「それでもいいです。俊一さんにどうしても見て貰いたいだけですから。えへ」
そういってはにかむみなもちゃんに対して言葉に詰まった俺は桧月に助けを求める視線を向ける。
「俊くんって意外に絵が上手いし、案外アドバイスできちゃんじゃないかな」
さらっと無責任なことを言われた。
「いや、待て。いつ、何を根拠に絵が上手いと断言する?」
「去年の美術の授業で絵を描いたとき」
0.1秒で即答された。
「俊くんの絵、クラスで一番良い絵だったと思うよ」
「いや、それは桧月の勘違いか、感性がおかしいかどっちかだと思うぞ」
確かにあのとき描いた絵は自分でも割りと良い出来かなぁとは思ったが、一般的に見て上手いと言うほどではないと思う。
「後半の台詞はわたしのことバカにしてる気がするんだけど、気のせいかしら?」
「気のせいです」
幾分、殺気のこもった口調に危険を感じて首を縦に振った。
「もうっ・・・。でも、本当に俊くんの絵、良かったと思うよ。わたしはああいう感じの絵、好きだよ」
「そりゃどーも・・・・」
桧月が発した「好き」という単語に反応して頬が熱くなっているのを感じ、どうしようもなく照れ臭くなって視線をあさっての方向へ向ける。
「あはっ、俊くん、照れてる。可愛いー」
「照れてません、はぁ・・・・・」
疲れる。深いため息をつきながら、俺はみなもちゃんから渡されたスケッチブックの表紙をめくる。
「へぇ・・・・」
そこに描かれた景色に思わず感嘆の声をあげてしまう。
ゆっくりと一枚一枚をめくっていき、そこに描かれた風景に少なからず驚かされる。
「・・・・・どうですか?」
恐る恐るといった感じでみなもちゃんが感想を求めてくる。
「・・・・うん、凄い。上手くは言えないけど良いと思う」
スケッチブックに描かれた風景はそれもこの近辺のものらしく、俺にも見覚えのある風景が多かった。
絵のことになんかまったく疎い俺でもそこに描き出された情景に心を奪われるものがある。
自分にとって見慣れた風景のはずがまったく違う場所を描いているようにも見えた。
だが、そこに違和感はなく、どことなく懐かしいものすら感じさせてくれる。
見る者を確かに惹き付ける何かが、みなもちゃんにはあった。
「これってさ、澄空駅の近くにある公園だよね。わりと見慣れた景色なのにこんな一面もあるんだなっていうか・・・」
上手い表現が見つからず、言葉に詰まる俺をみなもちゃんは真剣に見つめている。
「うーん、と、普段は気付かない一面を引き出しているっていうか、凄く良い絵だと思う。なんていうか・・・・あったかいものを感じる?
って、自分で言っててよくわかんねぇや。とにかく俺は凄く気に入ったよ、うん」
「あ、ありがとうございます。でもちょっと、褒めすぎですよぉ・・・」
顔を赤くして照れるみなもちゃん。
「いや、そんなことないって。本当にそう思っただけだし。大丈夫、俺はお世辞は滅多に言わない。な?」
俺が桧月に同意を求めると、うんうんと頷きながら言った。
「うん、俊くんが素直に褒めるなんて滅多に無いことだから自信を持っていいよ。明日は雨かも」
「・・・・・・どういう意味だ、それは?」
「そのまんまの意味だけど?だって、俊くん素直じゃないから人のことあんまり褒めないじゃない」
「失礼な。捻くれてても、褒めるときにはちゃんと褒めるぞ」
「だから滅多に言ってるでしょ。普段は褒たとしても、せいぜい悪くないとか、その程度じゃない」
「そうなの?」
「うん、少なくとも誰かのこと褒めるときは大抵、その人がいないところで褒めるもんね」
・・・・・・・・・・言われて首を傾げる。言われて見るとそんな気もしなくもない。
「・・・まぁ、そういうときもある」
「いつもじゃなくて?」
「・・・・・多分」
みなもちゃんの質問に気弱に答えた俺を二人が笑っていた。
無論、俺がそれに対して居心地が悪そうな顔をしていたのは言うまでも無い。
「俊一さん、良かったら放課後美術室に来て見ません?」
ひとしきり笑ったあと、みなもちゃんは唐突にそう切り出してきた。
「なんで?」
「他にもわたしの描いた絵とか見てもらいたいですし、他の部員の子が描いた絵もありますから」
「・・・・・いや、俺がいくと他の部員に邪魔じゃないか?」
流石に部外者がノコノコと部活中に入るのはまずいだろう。
「いえっ、全然っ!そんなことないですよ、絶対に」
慌てた様子でみなもちゃんが俺の言葉を否定する。
「どうせ、部員の大半が幽霊部員ですし、そんなに人も多くありませんから絶対に大丈夫ですっ!」
やけに必死になるみなもちゃんの態度に怪訝なものを感じる。
「・・・・・・・・・一応先に言っておくけど、美術部に入る気はさらさら無いからね?」
「・・・・・・俊一さん、まだわたしそんなこと言ってません」
「いや、なんとなくそんなこと言われそうな気がしたから」
ついでに自分でまだとか言ってるし。
「うー」
「唸られても」
「いいじゃない。どうせ俊くん部活やってないんだし」
桧月がみなもちゃんに助け舟とばかりに口を挟んでくる。
「その言葉、そのまま返す」
「う”」
何故か、桧月の顔がこわばる。
見るとみなもちゃんの顔も引きつってるように見える。
「わ、わたしは・・・ねぇ、みなもちゃん?」
「う、うん・・・・・・あ、彩花ちゃんはちょっと事情がありまして・・・・」
二人のそんな態度に疑問を頂いたが、ふとあることを思い出した。
「すまん、俺が悪かった。桧月が絶望的なまでに絵、下手なのを忘れた」
「ちょ、そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないっ!!」
「いや、だって事実だし・・・・・・・ねぇ、みなもちゃん?」
「は、はい・・・・・・彩花ちゃん、昔から美術の成績だけは悪かったらしくて・・・・」
「あーっ、みなもちゃんまでっ。別にわたしだって好きで絵が下手なわけじゃ・・・・」
あはは・・・・と、目を逸らして力無く苦笑するみなもちゃん。
そう、桧月は勉強もできて運動も平均以上にこなして料理も上手いのだが、美術の成績だけは飛びぬけて悪かった。
去年の美術の授業でもその才能(?)は遺憾なく発揮され、特に絵を描いたとき、そこには異次元空間が描かれていた。
「別に誰も責めてないし、悪いとも言ってないって」
「うーっ」
「くくっ」
顔を赤くして唸る桧月だが、そんな様子も可愛くてつい噴き出してしまう。
「まぁまぁ、彩花ちゃん、誰にでも欠点の一つや二つはあるから・・・・」
「桧月の場合、他にも怒りっぽいとか凶暴とかいう欠点もあるけどな」
みなもちゃんが桧月を慰めているのを茶化すと、スッと桧月の目が細まった。
「俊くん・・・・・・・・・・」
桧月の小さな、だが、はっきりとした一言に俺は反射的に身構える。
「口は災いの元っていう諺知ってる?」
「え、えーと。みなもちゃん。美術部の件は俺はバイトがあるから不可ってことで」
俺は桧月を刺激しないようにゆっくりと立ち上がって、桧月から距離を取る。
「えーと、そろそろ昼休みも終わりだから。じゃ、そゆことでっ!」
そう言い残し、俺は一目散にその場から離脱した。
「あはは、俊くんったら、隣の席なんだから逃げられるはずないのに」
「彩花ちゃん・・・・・・俊一さんをいじめるのもほどほどにね」
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Up DATE 05/11/24