Memories Off Another

 

第26話

 

 

 

 

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「ふむっ・・・・!」

俺は屋上へと出ると、気合を入れて伸びをし、全身で風を浴びる。

流石にテスト翌日から、本格的に授業を進める教師もそう多くない。

午前中の4時間を終えた時点でテスト返却が3つ+まだ採点が終わっていないため、軽くおさらいのような内容の授業が1つ。

テスト返しの授業なんて採点ミスがあるかどうかさえチェックすればとりあえず問題ない。

ついさっきまで睡魔に身を委ねていただけに、この風は目覚ましとしてもちょうど良かった。

「いい風だね・・・・」

そして俺の傍らには風に髪を靡かせて目を細める桧月がいる。

昼休みの、俺は桧月と二人っきり(ここ重要)で屋上に来ていた。

何故かというと話は今日の朝まで遡る。

 

 

「ねぇ、俊くん、今日の昼休みって何か予定ある?」

朝、登校してきた俺に桧月は挨拶もそこそこに唐突に訊いてきた。

「いや、別に無いけど」

俺がなんでそんなことを訊くのか問い返す前に桧月はさらっと聞き捨てならないことを言ってのける。

「そ、良かった。みなもちゃんがね、俊くんと話したいことあるからお昼一緒にどうですかって」

「・・・・・・・・は?」

一瞬、桧月が言った言葉の意味が理解できなかった。

「みなもちゃんがね、俊くんと話したいことあるからお昼一緒にどうですかって」

「いや、繰り返さなくていいから」

一言一句違わず同じ台詞を言う桧月に一応、突っ込んでおく。

「別に構わないけど・・・・・・俺にみなもちゃんと二人だけで会えとかいうオチはないよな?」

「うん、わたしも一緒だよ」

「そっか」

それを聞いて思わず安堵のため息が出ると、同時に心の中でガッツポーズをとる。

良かった。いきなりみなもちゃんと二人っきりで飯を食えと言われてもなんとなく対応に困る。

そして何より桧月と一緒に昼飯を食べられる特典付き。

これがあればどんな話をされようとも、他の予定を全部キャンセルして喜んで行かせてもらおう。

表面上はなんともない風を装い、内心で浮かれながら俺は自分の席に座ろうとして、

「それとも、みなもちゃんと二人っきりのほうが良かった?」

ガタタッと音を立てて俺はこけた。

「あははっ、もしかして図星だった?どうしてもっていうならわたしは遠慮しておくけど?」

派手にこけた俺を見下ろしながらいたずらっぽく笑う桧月。

何故にキミは俺と他の子をそんなにくっつけたがりますか?泣くよ?

「いや、一緒に来てくれお願いします頼むから絶対に」

俺は地面に転がったまま一息で懇願した。

「・・・・・・・たこやき一つでどう?」

「・・・・・・・流石にそれはセコくないか?」

「あはは、冗談、冗談」

仏頂面の俺を桧月が可笑しそうに笑う。

・・・・・・・完全に遊ばれてる気がしなくもない。

いつまでも転がっていても仕方ないので今度こそちゃんと椅子に座りなおす。

「で、みなもちゃんが俺に話があるっていったけどどんな話?」

「それは会ってからのお楽しみ・・・・かな?」

「なんだ、それ」

「まー、まー、細かいこと気にしない。どーせ、昼休みなればわかるんだから。ね?」

「・・・・・ま、別にいいけど」

 

 

 

 

と、まぁ、こんな経緯で俺たちは購買を経由して今に至る。

桧月と一緒に購買に行ったので、小夜美さんが俺を待っている桧月を目ざとく見つけて散々冷やかされたのは些細なことだ。

そういう誤解をされたのは少しと言うか物凄く内心喜んでいたりするが、現実はかけらも甘くない。

「ん?」

俺の視線に気づいた桧月がこちらを向く。視線で「どうしたの?」と問いかけていた。

「いや、みなもちゃんはまだみたいだなって」

「うん、そうだね」

俺が見惚れていたとは微塵も思っていないだろう彼女は再び視線を空へと戻す。

つられて俺も同じ方向へと目を向ける。

(ふぅ・・・・)

まーったく、こいつは人の気持ちも知らずにいい気なもんだこと。

そんな自分勝手なことを思っていると、屋上の出入り口から見覚えのあるツインテールの女の子が出てきた。

彼女はきょろきょろと辺りを見回すと、手を上げて振っている桧月(と傍らの俺)を見つけて駆け寄ってくる。

「こんにちわ、俊一さん、彩花ちゃん。ひょっとして待たせちゃいました?」

「いや全然」

「うん、私たちもちょっと前に来たばっかりだよ」

「良かったー。授業が少し延びちゃったんで慌ててここまで来たんですよ」

急いで来たせいか、彼女は呼吸を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。

「――――みなもちゃん、あんまり無理しちゃダメだよ」

不意に、桧月が真面目な顔で真剣にみなもちゃんに言った。

「あはは、これくらい大丈夫だって。もう少しの辛抱なんだしね」

「・・・・・もう」

笑顔でこたえるみなもちゃんに桧月は複雑そうな顔でため息をついた。

「あはは、彩花ちゃんは心配性だなぁ」

・・・・・なんだろう、この違和感。そういって笑うみなもちゃんにもどこか影がさしているように感じた。

そんなに大したやりとりでもないのに妙な胸騒ぎを覚えてしまう。

そんな訝しげな俺の視線に気づいたのか、みなもちゃんが慌てたように取り繕う。

「俊一さん、今日はわざわざ来ていただいてありがとうございましたっ」

「いや、別に何もしてないうちからそんなこと言われても困るんだが・・・・・」

俺はそんなみなもちゃんに苦笑するしかない。

そしてそんな俺の気持ちと同調してか腹の虫がくーっと鳴った。

「「・・・・・・」」

舞い降りた沈黙。

「・・・・・・・とりあえず飯食わない?」

俺の申し出に二人は同時に噴き出して笑うだけだった。

 

 

 

 

 

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Up DATE 05/11/15


 半分書き終わった辺りでPCが一回落ちてそこまで書いたものが全部消えました。orz

一度こういうトラブル起きるとやる気が激しく落ちるのが大問題。

もっとこまめにセーブする癖をつけないとなぁ・・・・。

■>>詩音と電話での会話良い感じでした!俊×詩音派の私としては感涙です!次回も楽しみに待ってます

 前回の話が予想以上に長くなってしまったんでちょっと詰め込みすぎたかな、とも思ったんですが気に入っていただけたようでなによりです。

ただ、本編のほうでは3,4話辺り詩音の出番が激減する・・・・・・かも。