Memories Off Another
第24話
「えー、それでは、中間テスト終了を祝してかんぱーいっ!」
「いぇーいっ!」
「おつかれーっ!」
何をするにもまずは腹ごしらえということで俺らは駅前にあるワックの一角を占領している。
息の詰まるテストが終わった後ということもあって、皆それぞれが生き生きとしていた。
無論、それは俺も例外じゃない。
「ってゆーか、それは智也にだけは言われたくねぇ」
「なにっ、俊。どーいう意味だ、それは!?」
「言葉どおりだが、何か?」
「はーいはい、智也も俊くんも喧嘩しないのー」
いつもどおりに智也と俺が口論に発展しようとするとやんわりと桧月が仲裁に入ってくる。
「桧月は関係ないから放っといてくれ」
「そうそう。彩花の出る幕じゃない」
そう言って、口論の続きを始めようとする・・・が、異様なプレッシャーを感じ、思わずその根源へと恐る恐る目を向ける。
そこには笑顔の桧月がニンマリと笑顔で微笑んでいた。
が、その笑顔から発せられる異常なプレッシャーが俺達から戦意を根こそぎ奪い取る。
「二人とも・・・・せっかく皆が集まって楽しくやろうっていうのに、私を怒らせたい?」
その一声でスーッと全身から血の気が引いて鳥肌が立っていくのを感じた。
たらりと冷や汗が頬を伝う。
「い、いや、ごめんなさい」
「オレが、悪かった。だから、怒るな、彩花。な?」
笑顔の桧月から発せられた言葉に反射的に謝ってしまう俺達。
智也の顔が青ざめている。遺憾ながら、俺も同じような表情をしてるんだろう。
我ながら凄い情けない気がするが、怖いものは怖いから仕方ない。
あの表情と発する気とのギャップが余計に恐ろしいのだ。
「うん、わかればよろしい」
そういってようやく桧月は極悪なプレッシャーを収めて、俺はホッと安堵のため息をつく。
プレッシャーだけで俺らを脅えさせるから心底恐ろしい。
「くくっ・・・・くっ、相変わらず二人とも彩花ちゃんには頭上がらないんだな」
信が腹を抱えて笑いを堪えている。
その様子が異常に腹が立った。
「黙れ、信。おまえなんか、女の子だったら誰にでも頭が上がらないじゃないか」
「そうそう、この間だって林女の子の子に振られたくせに」
林女というのは林鐘女子高等学校の略でここらでは偏差値の高いお嬢様学校だ。
「ぐぬっ!?な、なぜ、お前がそんなこと知っているっ!?」
狼狽する信に俺はピッと親指を立てて言ってやった。
「こないだ、片瀬さんにバッチリ聞いた」
「片瀬さんって・・・・・だれ?」
聞いたことのない名前に音羽さんが反応する。
「俺と信がバイトしてるルサックでバイトしてる林鐘女子高等学校の子」
片瀬さやか。俺と信よりちょっと遅れてルサックでバイトを始めたちょっと大人しい良い子だ。
「ま、信が女の子にちょっかい出して振られるなんて今に始まったことでもないしな」
「そうそう、大体良い人で終わるのがお約束だもんな」
智也の言葉にうんうんと頷く。
「くっ、おまえら。さっきまで喧嘩してたのにいきなりコンビネーションプレイでくるとは卑怯だぞっ!」
「だって事実だもんなぁ、智也」
「あぁ、まったくだ。他の皆もそう思うだろ」
「信くん、見損なったよ・・・・・」
「ふーん、稲穂くん、サイテー」
「女の敵だよ・・・・・信くん」
女性陣も便乗して信に絶対零度の視線を投げかける。
うむ、みんなノリが良くて助かる。
「うわぁぁぁっ、そんな目でオレを見ないでくれぇぇっ!」
稲穂信、撃沈。
「よし、俺らの勝ちだなっ」
「おうっ」
智也と二人でパンッと手を叩き合う。
「本当に、仲が良いんだか悪いんだか・・・・」
桧月が呆れたようにため息をつくが、その表情からはこの状況を結構楽しんでいるのが伺えた。
「では、一番、音羽かおる。『Little Wish 〜lyrical step〜』いきまーす」
中間テスト打ち上げ第2ステージはカラオケに移行。
しかも何故かチーム対抗戦の点数勝負だ。
正直、俺は歌うのは嫌いじゃないけど上手くはない。
だから点数勝負はあまり歓迎じゃないんだが・・・・・・。
「頑張ろうね、俊くん」
「おう」
桧月と一緒のチームになった時点でノリ気になってる俺。
我ながら現金だと思うが嬉しいものは嬉しいから仕方ない。人間自分の気持ちに素直なのが一番だ。
ちなみにチーム編成は、俺、桧月、音羽さんチームvs智也、今坂、信チームとなっている。
編成はじゃんけんで決めたのだが、俺以上に歌が下手な信と一緒のチームにならなかったのは不幸中の幸いだ。
二人が同じチームになったらその時点でチームの勝利はありえないだろう。多分。
「離れて生きるときも信じるものがあるから♪ ねぇ 心はいつも きっときっと一つだね♪」
一番手ということで今歌っているのは音羽さん。
彼女はスピーカーから流れる曲をバックに綺麗な歌声を響かせている。
「音羽さんって歌、上手いんだな・・・」
智也が感心したように呟く。
「だなぁ」
桧月とか今坂もそこそこ上手いほうだと思うけど、音羽さんはそれ以上に上手い。
ただ上手いだけでなく、曲と音羽さんのイメージがいい感じにシンクロしている。
「音羽さん、サイコー!!」
「えへへ、どーもー」
「ふっふー、さーて、早速オレ様の出番だな」
音羽さんが歌い終わるのと同時に信が意気揚々とマイクを手に立ち上がる。
この中で一番歌が下手なくせにどっからあの不敵な自信が沸いてくるのだろう?
「ね、天野くんはどんなの歌うの?」
興味津々といった感じで音羽さんが聞いてくる。
「どんなの・・・・と、言われてもなぁ。GRAYとかミスチルとか割と適当に節操なく選んでる感じ・・・なのか?」
「いや、そこ疑問系で返されても私は困るんだけど」
音羽さんは、困ってると言うわりには全然そんな表情もせず真顔で返してくる。
「・・・まぁ、特に何系ってわけでもなく、自分が気に入って歌えそうなのを選んでる感じだな。基本的に金も無いからCDも買わないでレンタルで済ませてるし。」
「でも、最近は返しに行くのが面倒くさいからって、借りにいくのも渋ってるんだよねー?」
いつものタイミングで桧月が突っ込んでくる。
「む・・・・」
「あはは、でも天野くんってそんな感じするね。うん、納得」
「いや、そこで納得されても微妙なんだが」
「まぁまぁ、男の子が細かいことは気にしないの」
「そういうこと。大丈夫、天野くんがどんなにだらしくて情けない子でも友達辞めたりはしないから」
「いや待て、CDを借りに行くのを面倒くさがるだけでそこまで格下げされるのか?」
流石にそれは酷すぎると思う。
「あはは、冗談だって」
「そうそう、そんなに慌てなくても大丈夫」
ケラケラと笑う音羽さんと桧月。
・・・・・・・・・・・くっ。違うクラスのくせに桧月と音羽さんの即席コンビネーションは中々に手ごわい。
「つーか、ダメ人間度ならそっちのやつらのほうが格上だって。そこの二人が去年の文化祭で何やったか知ってるか?」
マイクを持って誰もまともに聞いてない歌を熱唱している信と今坂と話している智也を指差す。
「文化祭・・・・・・?三上くんと稲穂くんが何かやったの?」
「あぁ、開店一時間で撤去されたという伝説の駄菓子屋を作り上げた男たちだ」
その後ヒバゴンに捕まり2時間にも及ぶ説教を受けたというのはクラスの誰もが知っている有名な話だ。
「い、一時間で撤去って・・・・どんな駄菓子屋なのよ」
「消しゴムをガムと称したり、チョークの粉をラムネとして売ったりする・・・・まぁ、詐欺まがいの商売だな」
「・・・・・三上くんと稲穂くんて、昔から常識無かったんだね」
頭痛に悩まれたような顔で音羽さんがため息をつく。
音羽さんが転校してきてまだ数日のはずだが、既に彼女の中では智也と信は常識のない人物としてインプットされているらしい。
ある意味さすがと言うべきか。・・・・・・・・・智也と信の非常識度が。
「って、俊っ。何音羽さんに吹き込んでるんだよっ!」
俺たちの会話を聞きつけた智也が会話に割り込んでくる
「いや、単なる事実だろ?」
「おまえも思いっきり準備に加担してたろうがっ!」
「・・・・・そうなの?」
音羽さんは何故か、俺ではなく桧月に聞く。
そして桧月はコクリと頷き、淡々と話し始めた。
「ウン、クラスの準備の合間を縫って智也と信くんの3人でいっつも何かやってたもんねぇ」
「お言葉だが、俺はそこの二人とは違って自分の仕事はきっちりやった上での行動だからな」
クラスの仕事をサボって駄菓子屋の準備をしていたこいつ等と一緒にされては困る。
「智ちゃんと共犯なのは一緒でしょーが・・・・」
今坂まで呆れたように突っ込んでくる。
「あいにくだが、俺は準備だけだ。当日は一切ノータッチだからな」
何しろ合流するまえに既に店が潰れていたという素晴らしいオチがついてたからだ。
「何をエラそーに。彩花に捕まってクラスの仕事を抜け出せなかっただけだろうが」
「ふっ。だが、ヒバゴンに捕まるよりは遥かにマシだったと思うがな。怒らせてどっちが怖いかは明白だろうが」
「・・・・・参考までに聞きたいんだけど、天野くんは桧月さんと城ヶ崎先生のどっちが怖いの?」
音羽さんの質問に俺は腕を組んだ姿勢できっぱりと即答した。
「もちろん、桧月だ」
そして間髪いれず頭に鈍い衝撃が走った。
「くおぉぉっ」
「どう意味かなぁ?俊くん」
頭を襲った鈍痛に堪えながら顔を上げると、隣の桧月がカラオケの曲目を手にしたまま、引きつった笑顔で笑いかけていた。
「っていうか、今そのカド使った?」
「うん、思いっきりね♪」
・・・・・・・・・・分厚い本のカドは立派な凶器足りうると思うのはボクだけしょうか?
「客観的に誰がどう見てもお前のほうが怖いって・・・・・」
俺は桧月から視線を逸らしながらボソリと言った。
他のみんなも桧月の凶行に渇いた笑みを浮かべている。
智也にはいたってはボソリと呟いた俺の言葉に深く頷いていた。
「俊くん・・・・・・その言葉の意味、詳しく教えてもらえる?」
手にした凶器を揺らしながら桧月が迫ってくる。
・・・・・・あえて言葉に出していう必要アリマスカ?
っていうか、日に日に凶暴になってるだろ、お前。
「おまえら、オレの歌を聞いてくれぇぇぇぇっ!」
俺がどう切り替えそうか思案しているところに、信の悲痛な叫びが部屋の中に響き渡った。
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Up DATE 05/10/14
感想を送ってくださる皆さん、いつもありがとうございます。
ハードディスクが逝ったおかげで1ヶ月空きましたが、次回はもっと早く上げられるはずです。多分。
感想を読んでると俊一×詩音派が多いようで。他のカップリングとかの希望とかはないのかなー、と気になってみたり。
今回から送っていただいた感想に少しづつレスしていこうかな、と。
つっても一行レスで非常に申し訳ないですが・・・・。
■>>できたら唯笑×智也も書いてください!!いそがしいところ御免なさい!!本当にできたらでいいですから・・・。
気長にお待ちくださいとしか言えません。でも結構書く気になっていたり・・・・・問題は時間かなぁ・・・・。
■>>オリキャラが違和感なくメモオフの世界にとけこんでいました。あとヒロインは誰でしょうか?あやか、詩音、私的には詩音がいいなーと思っています。執筆がんばってください!
・・・・ヒロイン誰でしょう?現時点ではあやかか、しおにゃんのどっちかですが・・・。次回第3のヒロインが・・・・?(多分、嘘)
■>>主人公がかなり性格悪くてすっきりしなかった
性格悪い主人公でごめんなさい。とはいえ、今更性格変える気もないのでこのまま続けさせてもらいます。
■>>中々、オリジナリティがあって面白かった。こういう外伝風の話が良かったです〜〜。いつも見てるんで夜露死苦〜〜〜。やる気出過ぎ!Σ(´∀`;
やる気って誰のやる気でしょう・・・・?期待に答えられるようリリカルまじかるガンバリマス(違
■>>詩音をこのままヒロインに!お願いします!
その一声が今後のヒロイン争奪戦の行方を決める!・・・・・・・・・かも