Memories Off Another

 

第22話

 

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「ふぁ・・・・・よく寝た」

本日の戦闘(テスト)も無事に終了し、座ったまま軽く伸びをする。

「なんで、おまえはテスト時間中に寝るかね・・・しかも一日2科目も」

相沢が呆れたようにため息をつく。

「まったくね。人が必死に問題解いてるのに、安らかな寝息まで立ててくれちゃって」

「ほーんと。その余裕はどこからくるんだか」

テスト時間の半分以上をうつ伏せになって過ごしてた俺の様子が気になってたのか、飛世や桧月までやってくる。

なんていうか飛世に至っては微妙に殺気まじりに睨んでくれてるのは気のせいだろうか。

「余裕も何も・・・・現国や英語なんて一度解いたらそんなに何度も見直しするもんでもないだろ」

現国なんて必要なとこだけ読めばさっさと終わるし、勉強する必要があるのはせいぜい漢字くらいだ。

英語は俺が苦手なことを差し引いても基本は教科書の出題範囲からだから前もってちゃんと勉強しておけば
定期テスト程度ならばサクサク解けるようになる。

・・・・まぁ、発音とかアクセントとかそういった部分は全て勘でやっているが。

自慢じゃないがそのあたりは勉強してもさっぱり覚えられる気がしない。

「見直し以前にお前の場合、テスト開始からうつ伏せになるまでの時間が異様に短いんだって」

「テスト開始20分後にはもう寝てるもんねぇ・・・」

相沢の言葉に頷きながら、しみじみといった感じで桧月が言う。

「これでわたしよりも点数上だったらどうしてくれようかしら」

「それ、ものすっごい逆恨みだからな。どうにもしなくていいぞ」

「むぅーっ!」

俺の的確な指摘に飛世はとても不満そうだ。

俺からすれば理不尽極まりない。

「まぁ、どうしても怒りが収まらないんだったら相沢が飯奢るからそれで我慢してくれ」

「なんで俺がっ!?」

「あ、そうなの?ありがとー」

俺の言葉に慌てふためく相沢と一転笑顔の飛世。

相沢はともかく、飛世は見事としか言いようのない変わりようだ。なんつーか、ノリが良い。

「いやいや、奢らないから絶対に」

ニンマリと笑う飛世に相沢は引きつった顔できっぱり断る。

「まぁ、口ではそう言っても相沢はしっかりと奢ってくれるから期待してていいぞ」

「うん、期待してるね。ユウユウ♪」

「いや、しなくていいって。むしろするな」

ユウユウ・・・・って、飛世がつけた相沢のあだ名か?

なんというか、まぁ。微妙なコメントしか出せないネーミングセンスだ。

「またまたぁ、そんな謙遜しなくてもいいってば」

「謙遜じゃないっ!おい、俊っ!」

「ふわぁ・・・。さて、午後はどうすっかなぁ」

あくびをかみ殺しながら窓の外へと視線を向ける。

今日もいい天気だ。

「こらっ!さらりと無視するなっ!」

「あはは、冗談だって。ユウユウもそんなに慌てることないのに」

「まったくだ。そんなんじゃ一流のお笑い芸人としてやっていけないぞ?」

「誰がお笑い芸人だ・・・・・」

ニヤリとする飛世と俺に辟易したように相沢が呟く。

「飛世さん、相沢さん。仲が良いのは結構ですけど、HR始ますから自分の席に戻ってくださいね」

気づくといつの間にか教壇には担任の姿があった。

周りを見渡せば他のクラスメイトたちは皆、自分の席に座っていて立っているのは相沢と飛世だけだ。

「あぅっ・・・」

「・・・・・・・」

それに気づいた二人はバツが悪そうにそれぞれ自分の席に戻っていく。

ちなみに桧月はいつの間にか自分の席へと戻ってきちんと座って、こちらに小さく手を振っている。笑顔で。

・・・・・・・抜け目ない奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてHRも無事に終わり、放課後となる。

「今日も図書室で勉強してく?」

「いや、とりあえず速攻で帰って寝る」

教室を出るときに桧月と一緒になったのでなんとなく二人でそのまま昇降口へと向かう。

「あれだけ寝て、まだ寝たりないの・・・・?」

「いや、明日が俺にとってのヤマだから早めに寝といて徹夜に備えようと思って」

「俊くんって、ふっつ〜に考えたら色々間違ってる行動してるよ」

俺の言葉に桧月はいつもどおりため息をつきながら言った。

「ま、普通にやる必要もないしな、そういや今日は今坂は一緒じゃないのか?」

歩きながら珍しく今坂と智也のクラスを素通りしたので桧月に聞いてみる。

「うん、唯笑ちゃん今日は用事があるから先に帰るって言ってたから」

「ふーん」

取り立てて今坂の用事に興味のない俺はそれ以上気に留めることもなく、口を閉ざした。

「おろ?」

靴を履き替えて外に出たところで見知った顔を発見する。

あそこにいるのは智也と・・・・・ええと、音羽さんだっけか?

二人で何やら話しながらちょうど校門を通り過ぎていった。

「智也と・・・音羽さん?」

俺に遅れて靴を履き替えた桧月が小さな声で呟く。

ちら、と桧月を横目にすると、そんな音羽さんと二人でいる智也の様子が気になるらしい。

ただ、俺達から智也たちまでは結構距離があるので、全力ダッシュしなければ追いつけないだろうし、当然むこうが俺達に気づくはずもない。

「智也と音羽さんが気になる?」

「え?そ、そんなことないよっ。別にあの二人はクラスメイトなんだし、一緒に帰ってても不思議なことはないし」

俺が聞くと桧月はあからさまにうろたえながら答える。

そんなにうろたえてたら言葉にまるで説得力はない。

「そ、ならいいけどな」

俺は苦笑しつつ、校門へと歩き出した。

二人が気になるとはいえ、わざわざ走って追いつこうとは思わないらしく桧月も俺に並んで歩く。

こう見えて桧月は結構ヤキモチ焼きっぽいしなぁ・・・。

クラスメイトとはいえ、智也が自分のよく知らない女の子と二人で歩いてるのは少し気になってしまうんだろう。

なんとなくだが、桧月がそわそわしてるように感じてしまう。

やれやれ・・・・・・しょーがない。

「っし、智也達まで追いつくとするかっ!」

「え?」

桧月の間の抜けた返事を合図に俺は猛然とダッシュを開始する。

「ちょ、ちょっと俊くんっ!?」

後ろから聞こえてくる声に桧月も慌てて走り始めたのがわかる。

校門を走りぬけ、猛然と下り坂を駆け抜ける。

ターゲットはもちろんいわずと知れた智也。

数十秒もしないうちに智也を射程内に捉える。

「とーもーやぁっ!!!」

「はっ!?」

「え?」

俺の叫びに振り向く智也と音羽さん。

同時に俺は地を蹴って膝を突き出す。

「うぉぉっ!?」

智也はダッシュの勢いそのままに渾身の力を込めた俺の飛び膝蹴りを紙一重でかわす。

「はぁっはぁっ・・・・・チッ!」

「チッ、じゃねぇっ!いきなり何すんだ、お前は!?」

「はぁ・・・はぁ・・・いやぁ、昇降口でお前の後ろ姿見かけたもんでな。思わずその背中に飛び膝蹴りをしたくなってな。
 たまにあるだろ、そういうことって?」

慌てふためく智也に俺は息も絶え絶えに答える。

「わたしはそんなの初めて聞いたけど・・・?」

「はぁ・・・はぁ・・・だったら覚えとくといい。明日のテストに出るぞ」

呆れたように言う音羽さんに俺は笑って応える。

「出てたまるかっ!」

悪態をつく智也だが、そこにようやく桧月が追いついてきた。

「ハァ・・・ハァ・・・・・もぉー、いきなり置いてかないでよぉ・・・」

「なんだ、彩花も一緒だったのか?」

「ハァ・・・ハァ・・・・うん」

さすがに桧月も全力ダッシュは疲れたらしく息を整えるのに必死だ。

・・・・・俺も人のこと言えないが。

「お前ら・・・・バカ?」

智也にだけはが言われたくないセリフだったが、俺も桧月も完全に息が整うまであえて反論はしなかった。

 

 

 

 

「へぇー、そうだったんだ」

智也たちに合流した俺達はそのまま智也と音羽さんが一緒に帰るいきさつを聞いていた。

なんでも漢文の辞書を借りる借りないの話から一緒に勉強することになったらしい。

それで二人してヤックに行こうとしてたとか。

「でも辞書くらい智也に借りなくても図書室に行けばいくらでもあるんじゃないのか?」

「「あ」」

俺が突っ込むと智也と音羽さんが間抜けな声を出して互いに顔を見合わせる。

「そういえば・・・・そうだったねぇ、あはははは」

「ま、まぁ、こういうこともたまにはあるからなっ!」

二人とも苦い顔で笑いあう。

「偉そうに胸張って言うセリフじゃないがな」

俺は特に表情を変えることもなく、淡々と突っ込む。

「う、うるさいっ!ほっとけ」

「そ、それより、良かったら二人も一緒に勉強してかない?そのほうが私も色々と心強いし。ね?」

心強い・・・ね。ま、智也の普段の授業態度を知ってたらあまり当てにできないだろうしなぁ。

自分のことはこの際棚に上げておいてしみじみと納得してしまう。

「私はいいけど・・・・俊くんは?」

「んー、今日は帰って寝るつもりだったから明日の分の教科書とかノートとか全部置いてきたんだよ。だから今回はパス」

このまま一緒にヤックに行くことはできるが、流石にノートも教科書もない状態では勉強のしようがない。

「天野くんって勉強できるほうなの?」

俺の行動を余裕から来るものだとでも思ったのか、音羽さんが聞いてくる。

「いや、全然。基本はせいぜい平均点だ」

「それで帰ってからすぐ寝るんだ・・・・・・」

感心してるのか呆れているのかなんとも言えない表情で音羽さんは呟く。

「ふっ・・・・今回の勝負はもらったな」

さらに何を勘違いしているのか知らないが智也が調子に乗り始める。

「ほう・・・・やけに自信たっぷりじゃないか。そんなに今日のテストの出来が良かったのか?」

「ふっふっふ、当然パーフェクトだっ!」

大げさな身振りを交えて胸を張る智也だが、その一瞬前に表情が翳ったのを俺は見逃さない。

智也が虚勢を張るのなんざ毎度のことだから見破るのは容易い。

「・・・・・・ふっ」

「・・・・・なんだ、その笑いは。そういうお前はどうだったんだよ」

俺の嘲笑に智也は頬を引きつかせる。まだまだ青いな。

「さぁな、想像に任せる」

俺は肩を竦めるだけでそれ以上言及しない。

まぁ、解答欄を一つずつずらしたとかいう漫画みたいなミスさえやらかしてなければ80〜90点はいけるはずだ。

「・・・・・・ふっ」

「・・・・・・ふっ」

智也と二人で互いに不敵な笑みを返して笑いあう。

「ふーん、二人ともやっぱり仲良いんだね」

そんな俺達を見て音羽さんが感心したように言う。

「それは違うぞ、音羽さん。別にオレとこいつは仲が良いわけじゃない」

俺がその言葉にどう反応すべきか考えるより先に智也が答える。

「じゃ、なんなの?」

何がそんなに楽しいのかは知らないが音羽さんは興味津々だ。

俺はそのまま口を挟まずに智也の次の言葉を待つ。

「あー、それはだな。そうっ拳を交えて言葉を交わす天敵だっ!」

「は、はいっ?」

なるほど。そう来たか。智也の意味不明の言葉に音羽さんは目を丸くする。

智也は期待を裏切らずにわけのわからないことを口走ってくれる。

桧月も頭痛でも感じてるのか苦い顔で智也を眺めている。

「まぁ、智也のいうことは8割がた話聞き流して良いから。今坂みたいにイチイチ真に受けてたら身が持たないしな」

当たり前だが、少なくとも俺は拳を交えて言葉を交わしたこともなければやろうとしたこともない。

「うん、それは大丈夫。三上くん隣で数日過ごせば嫌でもわかるって」

「あ、納得」

「・・・・・・二人ともさりげなくオレのことバカにしてないか?」

「そんなことないよ、ねぇ?」

さらりと智也の言葉をかわす笑顔の音羽さんに俺は頷き、

「バカにするも何もただ事実を言ってるだけだ。な、桧月」

「・・・・・・・ノーコメントっていうことにしておこうかな。智也のために」

桧月は若干哀れみを込めた目で智也を見ながら言った。

ノーコメントというつつ、その表情で桧月がどう思ってるのか一目瞭然だった。

「・・・・・・くっ」

 

 

結局、俺はそのままヤックに行く3人と駅前で別れ、一人で帰る羽目になった。

・・・・・・・ちょっと惜しい機会を逃したかなぁ。

 

 

 

 

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Up DATE 04/8/29