Memories Off Another

 

第21話

 

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「・・・・・・・・ホント、いつもここにいるんだな」

図書室に入ってすぐのカウンターにいるのが当たり前の彼女に対して俺は苦笑する。

「・・・こんにちわ」

双海は俺に軽く会釈した後、その背後にいる桧月と今坂に視線を送る。

「あ、私たち先に席取って置くね」

「ご〜ゆっく〜り〜」

その視線で何を勘違いしたのか、桧月と今坂はニヤニヤしながらそう言い残しながら奥の机へと向かっていた。

・・・・・・・・もうわざわざ弁解するのもアホらしい。

桧月の態度に関しては内心、思いっきり泣きたいけどなっ!

俺は静かにため息をつく。

かったる。

「今日もテスト勉強ですか?」

「まぁ・・・そんなところだ」

答えながら俺は双海の手元に視線を落とす。

その手にしている本は明らかに教科書やノートの類ではない。

「今、勉強してないってことは明日のテストはよほど自信があるってことか?」

俺は半ば答えを予想しつつも聞いてみた。

「・・・古典は勉強しました」

「他は?」

「・・・・・」

予想通りのリアクションありがとう。双海って結構読みやすい子かもしれん。

・・・・・・ふと、試したいことを思いついた。更なる誤解を招きかねんがこの際、試してみるか。

「双海さえ良かったらまた一緒に勉強しないか?今日なら俺より頼りになる奴も一緒だしな」

「いえ・・・わたしは」

双海は伏目がちに言葉を濁す。

やっぱ他の人間がいるから警戒してるんだろうか。

今までの双海の様子を見たり、聞いたりしている限りでは極力人との関わりを避けているようだけど・・・。

「俺は英語の勉強するから双海が教えてくれれば非常に助かるんだが・・・・・・」

「・・・・・・」

俺が言うと双海は躊躇うように視線を動かす。もう一押し・・・・かな?

若干、声のトーンを落としながら俺は続けた。

「まぁ、俺が誘って迷惑だってんなら、無理にとは言わないけど・・・」

つーか、自分で言ってて白々しい台詞だ・・・・。俺は本来こんなこと言うキャラじゃないぞ。

「・・・・・・そんなことはない、ですけど・・・」

「なら、決まりだな」

「・・・・・・はい」

強引に話を進める俺に双海さんは諦めたように準備を始める。

さて・・・・なにか起きるかな、と。

 

 

 

「なんでお前がいんの」

奥の机に座っていた桧月と今坂を発見したのはいいが、そこにいたのは二人だけではなかった。

桧月と今坂は俺が双海を伴って来たのを見て軽く驚いていたようだが、それよりも俺はその机に座っているもう一人に目を向けていた。

「見てわからんのか。テスト勉強だ」

確かに。智也の手元には教科書とノートが広げられている。

「・・・・・・ま、いいか」

どうせ一人で勉強してたところに桧月たちに見つかって押しかけられたってとこだろう。

「えーっと、今坂と智也には説明するまでもないと思うが、双海詩音さん。一緒に勉強しようって流れになったんでよろしく」

つーか、自分で言っててなんだが、何がよろしくなのかさっぱりわからない。

どうにもこうにもニヤニヤしてる桧月の視線が居心地悪くて仕方ない。

「双海詩音です」

双海はそれだけ言って頭を下げる。その表情は以前と同じように無表情なものになっている。

「俺は三上智也だ。前にも言ったと思うけど・・・」

「・・・どこかでお会いしましたか?」

双海のその言葉に智也はガクッとうな垂れる。

「・・・・・・いや、覚えていないならいいや。よろしく」

「はい」

「唯笑のことは知ってるよね、詩音ちゃん?」

「はい・・・同じクラスですから」

「一応、俺も同じクラスなんだが・・・」

小声で智也も呟くがそれは双海の耳には入っていないらしい。

「私は桧月彩花。智也と唯笑ちゃんの幼馴染で俊くんのクラスメイト。よろしくね」

「・・・・・・はい」

「んじゃ、ちゃっちゃとやりますか」

そういって俺は桧月の隣に座り、双海は俺の隣に座る。

ちなみに桧月の向かい側には智也。その隣に今坂という配置である。

「その前に、双海さんにちょっと質問があるんだけど、いい?」

桧月が意気揚々と聞いてくるのに対して双海は無表情な顔で桧月の顔を見る。

「俊くんと双海さんって付き合ってるの?」

「はい?」

ガンッと鈍い音がしたのと双海が間の抜けた返事をしたのはほぼ同時だった。

「俊くん・・・・頭、痛くない?」

「・・・・・・んなことより、いきなり何言い出す、お前は」

机に打ち付けた頭をさすりながらジロリと桧月を睨む。

「だって、クラスメイトとしてはやっぱりそういうの気になるじゃない。ねぇ今坂さん?」

「ねぇ桧月さん?」

「お、おまえらなぁ・・・」

「何、おまえらそういう関係だったの?」

「黙れ」

智也を一喝して、ちらりと双海を横目で見る。

「・・・・・・・・・双海?」

鞄からノートを取り出そうとした姿勢のまま固まっている双海がいた。

「詩音ちゃ〜ん?」

「え?あ、はい」

今坂が双海の顔の前で手をひらひらさせると、ようやく双海がフリーズ状態から解凍される。

「で、本当の所はどうなの、双海さん?」

俺は静かにため息をついてノートの準備を始める。

どうせ俺が何言ってもやぶへびになりそうだから、この際双海にまかせよう。

「別に・・・天野さんとはそういう関係ではありません」

「あ、そうなんだ。でも仲は良いんだよね?」

「そうなんですか?」

桧月に聞かれた双海は俺に振ってくる。

「そうなのか?」

そして俺は今坂に振る。

「そうなの?智ちゃん?」

「そうなのか、彩花?」

「そこっ、ループさせない」

桧月のチョップが俺の頭に炸裂する。

なぜ俺が桧月にどつかれる。

「図書室では静かにしてください」

「あっ・・・・ごめん・・・なさい」

双海に注意された桧月がシュンと大人しくする。

「図書室では静かにしてください」

「・・・・・・ムッ」

チョップのお返しとばかりに双海の口調を真似ると桧月は頬を引きつかせ、睨み返してくる。

その視線が恐ろしかったので思わず目を逸らす。

・・・・・・・客観的にみて少し情けないかもしれない。

「で、本当のところはどうなの?」

身を乗り出して聞いてくる今坂に俺と双海は顔見合わせる。

「・・・どうと言われても・・・普通だよなぁ?」

「そう、ですね」

「でも、双海さんがまともに話してるのオレは見たことないけどな」

「そうかもしれませんね」

双海は無表情モード全開で表情も、智也に対する返事も素っ気無い。

その証拠に双海の視線は既にノートへと向けられている。

「ま、いつまでもダベってないでそろそろ始めようぜ」

「うん、それもそうだね」

「智也も今日調子悪かったんだったら、しっかりと勉強しないとダメだよ」

「わかってるよ。だからこうしてここに来てるんだろうが」

なんでただ勉強するだけでこうも騒がしくなるんだか。

俺が原因の一端を担っている気もするが、多分気のせいだろう。

やれやれ。

 

 

その後は5人全員黙々とテスト勉強を続ける。

たまに会話があっても何かわからないところを誰かに質問して教えてもらう程度だ。

一時間ほど経って俺の集中力が切れたので周りの様子を伺ってみる。

智也と今坂はノートを見ながら暗記しているようだ。隣の桧月は教科書とノートを見比べながらたまにノートに何かを書き込んでいる。

そして双海は歴史の教科書を見ながら何か難しい顔をしている。

「歴史は苦手?」

俺が聞くと双海は顔を上げて頷いた。

「・・・・・・はい。年表を覚えるのが大変です」

「あぁ・・・確かに基本は丸暗記だもんな」

ま、年表に限ったことでもないが。

「ね、ね。詩音ちゃんって外国の学校にいるときに日本の歴史とか勉強しなかったの?」

ふと、気付けば今坂をはじめ、他の連中も手を止めている。

「向こうの学校では生徒が自分でカリキュラムを選択できましたから。私は日本が嫌いなのでペルーの歴史だけを選びました」

「え・・・日本が嫌い?」

双海の言葉に今坂が戸惑いの表情を見せる。智也と桧月も似たような顔をしていて、平然としているのは俺だけだ。

まぁ、自分達の国が面と向かって嫌いと言われれば当然の反応かもしれない。

「嫌いです」

きっぱりと言い切る双海にその場の誰もが、何を言っていうべきかわからずに沈黙する。

日本が嫌い・・・・・・ねぇ。

「・・・・・・・それで日本人も嫌いってわけだ」

俺が言うと双海は一瞬びくっとした反応を見せ、他の3人はぎょっとした顔で俺を見る。

双海は俺のほうを向くと静かにきっぱりと言った。

「嫌いです」

双海の顔はこれまで以上に無表情な仮面に覆われていた。

「・・・・・・ふーん」

俺はある意味予想通りの反応だったので、それ以上は何の感慨も表さずに勉強を再開しようと思って・・・・。

今度は俺がぎょっとする番だった。目の前の今坂が今にも泣き出しそうな顔でうるうる双海を見つめていた。

「詩音ちゃーん。・・・・・・・唯笑たちのこと嫌いなの?」

「え?え、と、その・・・い、今坂さん?」

さすがの双海も今坂のそんな反応は予想していなかったのか、面白いほどうろたえている。

「お、落ち着け。唯笑。こんなところで泣くんじゃない」

「そ、そうだよ。唯笑ちゃん。双海さんだって、別に唯笑ちゃんのことを嫌いって言ってるわけじゃないんだから」

智也と今坂が必死に今坂をなだめているがさほど効果はないようだ。

「だって、だって日本人が嫌いってことは日本人の唯笑も智ちゃんも彩ちゃんも俊くんもみんな嫌いってことなんでしょ?唯笑そんなのいやだよぉっ」

「あ、天野さんっ!」

そんな今坂の様子に双海が慌てふためき、さっきまでの無表情が一瞬で消えうせ、困惑した顔で俺に助けを求めてくる。

そんな双海に俺は軽く噴き出しながら今坂に言った。

「ま、落ち着け、今坂。双海は確かに日本人が嫌いっていったけど、今坂や桧月が嫌いとは言ってないだろ?
 本当に嫌いだったらこんな風に一緒に勉強してないって。な?」

俺が話を振ると双海はコクコクと頷く。

「え、あっ、はい。もちろんです。だから今坂さんも泣くのはやめてください」

「・・・・・・・・本当、詩音ちゃん?」

えぐえぐと、涙目で詩音に問う、今坂。

「・・・・・・はい、本当ですよ」

そう言って今坂をなだめる双海はまるで・・・。

「泣きわめく子供とそれをなだめる母親の図・・・・・・だな?」

「うん、本当だね」

俺がそっと桧月に耳打ちすると桧月もおかしそうに笑った。

智也も落ち着き始めた今坂を見て、やれやれといった顔をしている。

そして双海はニヤニヤしている俺を見て、恨みがましそうな目つきで睨んでいた。

俺はそんな双海の視線を軽く受け流して勉強を再開する。

ま、作戦の第一段階は成功・・・ってとこかな?

「私も一つ質問があるのですが、いいですか?」

双海の言葉にみんなの視線が集まる。

一見、その表情は無表情を取り戻したかに見えるが、その声には微妙に冷たいものが混じっている気がする。

「私は天野さんと桧月さんがお付き合いされてるのだと思っていたのですが、違うのでしょうか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?

その場にいる誰もが双海の言葉の意味を理解するのに数瞬の間を要した。

「昨日、近くの公園でお二人をお見かけしましたが、まるで恋人同士みたいに仲が良さそうでしたけど」

俺と桧月が恋人・・・・・・・・?

自分の顔の温度が急上昇していくのがわかる。

「え、それって彩ちゃんと俊くんがデートってこと?」

「そ、そうなのか?二人とも」

今坂は半信半疑、智也は若干うろたえながら俺たちに迫ってくる。

「あ、あれはたまたま会っただけで、そんなんじゃないってっ」

「そ、そうだよ。私と俊くんがそんな関係なはずないじゃない」

おたおたしながらも桧月ははっきりと否定する。

そこまできっぱり言い切られるとそれはそれで寂しいものがある。

「ふーん、やっぱりそっか」

そこの今坂、「やっぱり」は余計だ。

「まぁ、おまえらならそんなところだろうな」

お前に納得されるとなんか腹立つぞ、こら。

「・・・・・・と、まぁそんなところだ」

俺は微妙に精神的ダメージをダメージを受けながらも双海に向き直って言った。

なんか、今日ダメージを受けてることが多い気がするのは気のせいかなぁ。

「・・・・・・そうですか。わかりました。突然変なことを聞いてすみませんでした」

双海は俺らの言葉に納得したのか、それ以上追求することもなく手元の教科書へと視線を向ける。

そんな双海の様子を見て、やがて俺と他の3人も自らの勉強を再開し始めた。

・・・・・・にしても俺と桧月が恋人同士・・・・・かぁ。

ノートを眺めつつもチラッと桧月をと横目にする。

実際にはそんな関係に程遠い現状だが、たとえ一瞬でも他人から見たらそういう風に見えたっていう事実に
俺は再び顔の温度が上昇していくのを感じた。

ちょっと、いやかなり嬉しいかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、まぁ、現実はかなり厳しいわけで。

それを自覚するとまた凹んできた。

・・・・・・・・・・俺ってなんだかなぁ。

 

 

 

 

「え、詩音ちゃん。一緒に帰らないのぉっ!?」

図書室の閉館時間となり、帰り支度を始めたとき、今坂が困惑した声を上げる。

「はい、私は本の整理がありますから」

「そんなの、皆で手伝えばパパッと終わるんだから、一緒に帰ろうよぉ」

駄々っ子モードを発動した今坂だが、それに対し双海はきっぱりと言った。

「いえ、これは私の仕事ですからそういうわけにもいきません。結構です」

「えぅ・・・・・・・」

にべもない言い方に今坂もそれ以上言葉を紡ぐこともできないようだ。

そんな今坂の頭をポンポンと智也が慰めるように叩き、桧月が宥める。

「頑固だねぇ・・・・・・」

「はい」

俺の言葉に双海は素直に返事する。

「ま、本人がこう言ってるんだ。今日のところは俺らだけで帰ろうぜ」

双海の様子に苦笑しつつ、俺は皆を促す。

「でもぉ・・・・・・・」

「唯笑ちゃん」

「別にこれが最後の別れじゃあるまいし。今日は諦めろ、唯笑」

「・・・・・うん。詩音ちゃん今度は一緒に帰ろうね?」

双海は今坂の言葉を聞くとチラリと俺を見て、

「・・・・・・そうですね」

静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

「さて、どうする?」

図書室で双海と分かれた後、校門のところで皆に問いかけた。

「どうするって何が?」

智也が俺の質問の意図が掴めず、不思議そうな顔で聞いてくる。

「双海をここで待って、一緒に帰るか否か」

言って俺はニヤリと笑う。

「ほえ?」

「あ、なるほど」

俺の言葉にきょとんとする今坂と智也。ポンッと手を打って納得した様子の桧月。

「双海は仕事は手伝うなって言ったけど待つなとは言ってないしな。どうする?」

「もちろん、待つ待つっ!ね、智ちゃん、彩ちゃん!」

「あ、あぁ」

俺の言葉の意味を理解した今坂は子犬のようにはしゃいで喜ぶ。

智也は困惑しながら、桧月は苦笑しつつも頷いた。

「しかし、おまえよくそういう悪知恵働くよな。感心するよ」

「おまえほどじゃないけどな」

智也にだけは言われたくない台詞に俺は肩をすくめるだけだ。

「どっちもどっちだと思うけどね」

桧月の突っ込みはこの際、聞こえなかったことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・みなさん、何をなさっているのですか?」

校門を出たところで、双海は俺たちを見つけて立ち止まるが、無表情を崩すことはなかった。

いや、無表情に見えても、その瞳はほんのわずかだが動揺しているのが見て取れた。

「別に。たまたま校門で話し込んでただけだ」

俺はとくに何の感情も見せずに淡々と言った。

「そうそう別に双海さんを待ってたわけじゃないぞ、なぁ唯笑?」

「うんうん♪」

「・・・・・・・・・・・・」

双海は一瞬、考え込むような素振りを見せるが、すぐにそのまま歩き始める。

無論、双海を中心に今坂、桧月、智也の3人が歩調を合わせるように歩き出す。

3人の中心にいる双海は今坂や智也のペースに困惑しつつも会話に巻き込まれている。

俺は4人の少し後ろをついていきながら、その様子を満足気に眺めていた。

 

 

 

 

 

 

やがて中目町の駅につき、俺と双海は桧月たちと別れ、二人で歩いてた。

「・・・・・随分、疲れた顔してるな?」

「・・・・・・誰のせいですか」

俺がからかうように言うと憮然とした声で双海は答える。

「さぁ、誰のせいだろうな」

俺は肩を竦めてさらっと受け流す。

「・・・・・・・・・」

双海はそんな俺の様子に諦めたようにため息をつく。

そのまま俺たちの間に沈黙が降りる。

双海が何を考えているのか。今の彼女の横顔からはそれは読み取れない。

「天野さん」

やがて双海が不意に口を開く。

「ん?」

俺が振り返ると双海は足を止め、ジッとこちらを見つめていた。

「・・・・・あなたはなんで私が日本のことを嫌いって言ったとき、日本人のことも嫌いってわかったんですか?
 それに・・・・・・私が日本人のことが嫌いなことを知っていても今までと変わらずに接してくる・・・・・・どうして?」

「・・・・・・・・・・・・・」

双海の表情は深い困惑に包まれていた。俺に対する疑問と戸惑い。

「・・・・・・・俺も一時期、人間が嫌いな時期があったからな。なんとなくそう思っただけだ」

俺は双海の顔を真っ向から見つめ返し、静かに言った。

「・・・・・・・そう、なの?」

「まぁ、な。格好悪いから詳細は秘密だけど、な」

俺の言葉が意外だったのか、双海の瞳が驚きに揺らぐ。

「んで、二つ目の質問だが・・・・・・そうだな、勿体無い・・・・からかな」

「勿体・・・・ない?」

言葉の意図が掴めなかったのだろう。双海は不思議そうな顔で見つめ返してくる。

「双海が日本人を嫌いだとしても、日本人全てを嫌いになるのは勿体無いってことさ。例えば桧月や今坂。・・・・・おまけに智也。
 あいつらさ、お人好しだし、バカで変な奴らでやかましいけど、根がいい奴らだってのは双海もわかったろ?」

俺が言うと双海はためらいがちながらにもその首を縦に振る。

「双海がどういう理由で日本人を嫌いなのか俺は知らないし、興味もない。だけどそういう狭い視野で全てを否定するってのは勿体無いと思ってさ」

そこで俺は言葉を切って次の言葉を思案する。

「だから今日はちと強引にでも双海を俺らと同じ視点・・・・と、いうかなんていうか、うーん」

上手い言葉が見つからず、俺は目を泳がす。

「双海をさ、ちゃんとした仲間・・・っていうのかな?一度引っ張り込んでみたかっただけ・・・・ってところ、かな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」

俺が話し終えると双海は大きなため息で返してくれた。

「今坂さんたちが少し変わった方たちだというのも否定しませんが・・・・・・」

「が・・・?」

双海は今までに見せたことのないとびきりの笑顔で言った。

「天野さんが一番変で、変わり者でお人好しでバカな良い人だと思いますよ」

・・・・・・・・・・こらこら。

「変でバカなのはいいとしてもお人好しで良い人ってのは取り消せ」

「・・・・・変でバカなのはいいの?」

笑顔から一転して少し呆れたような不思議に思っているかのような顔で呟く。

「・・・・一万歩譲ってな。生憎だが俺は自分以外の誰かの為に行動なんてしたことない。全部自分がやりたいからやってるだけだ。
 間違っても他の奴みたいに善意で行動してるわけじゃない」

「・・・・・・・・・子供の理論ね」

俺が胸を張って言うと双海はバカにしたようなジト目で言う。

「あ?」

「大丈夫です。天野さんは筋金入りのばかで変わり者で、お人好しで良い人ですよ。私が保証しますから♪」

だから何故、そういう恥ずかしいことをとびっきりの笑顔で言うかな、こやつは・・・。

「ま、そうやって勘違いするのは勝手だがな・・・・」

俺はそろそろ相手をするのがアホくさくなって再び帰り道を歩き始めた。

「ふふっ」

帰り道が分かれるまですぐ後ろについてくる双海の笑い声が非常にかったるかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Up DATE 04/6/28