Memories Off Another
第20話
10/15
ねみぃ・・・・・・。
家から駅までの道のりを歩きながら俺は大きなあくびをかく。
昨日は夕方までテスト勉強をサボってた分、夜から朝にかけてまで一睡もせずに勉強したからだ。
ちなみにいつも学校に行く時間より30分ほど早い。
ちょうどキリのいいところまで勉強が進んだのであとは学校で暗記とか簡単なチェックだけをやるつもりだ。
ねみぃ、だりぃ、かったりぃ。
とりあえずテストが終わったら即、帰って寝よう。
「おろ?」
そんなことを考えながら歩いていると駅の改札に見知った顔を見つけた。
彼女はなぜか改札の前で文庫本らしきものを読んで立っている。
誰かと待ち合わせでもしてるんだろーか。
「よっ、おはよう」
俺が声をかけると彼女は読んでいた本からこちらへと目を向ける。
「おはようございます、天野さん」
そう言って挨拶してくれた双海さんの表情は特に笑顔ってわけでもないけど、最初ほど無関心って感じでもない・・・かな。
「素朴な疑問なんだが、こんなとこでどうしたの?誰かと待ち合わせ?」
「・・・・・・待ち合わせではありませんが、人を待っていたのは確かですね」
「ふーん、誰を待ってんの?」
・・・・・・俺が聞くとなぜか双海さんはクスッと小さく笑う。
「何故、そこで笑う?」
「いいえ、別に」
別にと言いながらしっかりと目が笑ってるんだが。
俺が怪訝な顔で見てると双海さんは鞄から一冊のノートを取り出し、俺に差し出す。
「お借りしたノートです。ありがとうございました」
「・・・・・・おおっ」
そういえば古典のノートを貸したような気がしなくもない。
「さ、いきましょうか」
俺は双海さんからノートを受け取り、鞄にしまおうとすると、双海さんはさっさと改札のを通り抜けてしまう。
慌てて俺もその後を追う。
「えっと・・・もしかして双海さんが待ってたのって、俺?」
ちょうどホームに入ってきた電車に乗りながら恐る恐る聞いてみる。
「はい、私は天野さんのクラスを知りませんし、ノートを返すのに特に待ち合わせもしていませんでしたから」
・・・言われてみればそうかもしれない。えっ、ちょっと待て・・・・・ってことは・・・。
「・・・・・・・・もしかしなくても随分前から俺のことあそこで待ってた?」
「・・・・・・はい」
こともなげに頷く双海さん。どことなく顔が赤くなった気がするのは気のせいだろうか。
ちなみに俺はサーっと血の気が引いていくのを感じた。
「・・・・・・・ちなみにどのくらいの時間?」
なんとなく双海さんの性格からして物凄い時間から待っていそうで怖いんだが・・・。
「・・・・始発の時間からですけど?」
・・・・・・・・・すいません、嫌な予感ビンゴです。
今から2時間半も前から待ってたのか・・・。
「その・・・・すまん」
軽い頭痛を感じながら俺は双海さんに謝った。
「なぜ、そこで天野さんが謝るのですか?」
そんな不思議そうな顔で見られても困るんだが。
「いや・・・俺がちゃんと待ち合わせの約束してれば、そんなに双海さんを待たせることはなかったからさ」
「・・・・・・私が勝手に天野さんを待っていただけですし、天野さんが責任を感じる必要はないと思いますよ?」
「んー、それはそうかもしれないんだが、なんというかこう・・・・・・すっきりしないもんがあるんだよ」
「すっきり・・・しない・・・・ですか?」
「そう。なんというか後味が悪い。俺の気分が悪い。だから謝る。そういうことだ」
少なくとも俺がもっと考えていれば、双海さんに余計な時間を割かせることもなかったのだ。
責任がどうこうというより俺の気持ちが釈然としない。ただ、それだけの問題だ。
「と、言うわけですまん。んで、ありがとう」
俺がもう一度謝ると双海さんは心底不思議なものを見つめるような視線を俺に向ける。
呆れと感心がごちゃ混ぜになっているようなそんな顔だ。
「・・・・・・ウソ」
「は?」
「ウソです。いくら私でも始発から待ってなんかいませんよ。本当は30分ほど前からです」
「・・・・・・・・・」
「いつも来る時間より10分だけ早く来ていただけですから。本当に天野さんが気にする必要はありませんよ」
何事もなかったかのような表情でしれっと言ってくれる。だが、その瞳には明らかに楽しげなものを含んでいる。
まぁ、それでも双海さんを待たせたことには変わらないのだが。こう釈然としないものが込み上げてくるのは何故だろう。
憮然とした俺の顔が面白かったのか、双海さんはクスクスと笑い始めてる。
最初に会ったと随分キャラが違うな、おい。
「ふふっ、すみません。・・・・・・・・・本当、天野さんは変わった方ですね」
そういった双海の口元は思いっきり緩んでる。
「・・・・・・・知らん」
こうやって遊ばれてる感がするのは非常に面白くない。
俺は憮然とした顔を崩さず素っ気無く答えた。
・・・・・・この恨みはらさでおくべきか。いつか必ずこの借りを返すと俺は深く心に刻んだ。
「ところでさっきから気になってたんだが、その紙袋には何が入ってるんだ?」
今日はテストしかないのだから普通はそんなに荷物もないと思うんだが。
「図書室から借りた本です」
「・・・・・・随分な量があるんだな。何日分?」
「一日分ですけど」
「・・・・・・・・・・・・・」
至極真面目な顔でさらっと言ってくれる。
この顔は多分、冗談じゃなくて本気だ。
ちらっと双海の紙袋はぎっしりと分厚い本がこれでもかというくらい入ってる。
すみません、それ常人が一週間かかっても読める量ではないと思います。
「どうかしましたか?」
「いや、別に」
学校への坂道を双海と並んで歩く。
互いに何かを話すでもなく、ただ並んで歩いているだけ。
最近なんかよく双海と一緒に登校している気がする。
相変わらずなんだろうね、この状況は・・・。
「では、私は図書室に行くのでここで」
「ん、あぁ。じゃ、またな」
校舎に入ったところで双海と別れる。
「はい、ごきげんよう」
ペコリと軽くお辞儀をする双海に対して俺は軽く手を振って見送る。
・・・・・・さて、俺もさっさと教室に行って、悪あがきでもするか。
「ふぬっ・・・・!」
今日一日のテストから開放され伸びをして体をほぐす。
「どうだった?化学の調子は」
前の席の相沢が振り返って聞いてくる。
「ん、まずまずってとこだろ。しっかりと一夜漬けを頑張ったからな」
「一夜漬けでなんでそこまで偉そうに自信を持てる?」
「定期テストなんて一夜漬けで頑張れば多少はなんとかなるだろ。それにおまえだってそんな変わらんだろ」
「まぁな」
「ちなみに普段から勉強してれば一夜漬けも必要ないからね」
横から手厳しい突込みを入れてくれる桧月。
「だとさ、飛世」
「なんでそこで私に振るのよっ?」
桧月と一緒に話してた飛世はいきなり俺に話を振られて慌てふためく。
「照れるな、同じ一夜漬け同盟の仲間じゃないか、なぁ相沢」
「そうだとも、水臭いぞ。とと」
「あ、あのねぇ・・・勝手に変な同盟の仲間にしないでくれる?」
まるで頭痛にでも悩まされているかのように飛世は頭を抑える。
「ほう・・・・ならば飛世は一夜漬けなどせず、日々の勉強をしっかりとしていると?」
「え、と・・・・それは、ねぇ?」
俺の突っ込みにたじろぎながら飛世は桧月へと助け舟を求める。
「私に同意を求められても・・・」
「フッ」
「ハッ」
相沢と二人で飛世を鼻で笑う。
「むうぅ・・・」
「はーいはい、3人ともそこまで。まだテスト初日なんだからそんなつまらない事言い合ってる場合じゃないでしょ」
「それもそうね・・・。二人ともこれで私に勝ったと思わないことね」
「勝ち負けの基準がさっぱりだけどな」
目を鋭くして言う飛世に俺は肩をすくめて見せる。
「はい、俊くんもいつまでも喧嘩売らない」
ヒュンと風を切る音がしたと思った瞬間、頭に痛みが走る。
「・・・・・・いてぇよ」
俺はズキズキと痛む頭を抑えながら桧月の手にした下敷きへと目を向ける。
今度の凶器はアレか。最近桧月さんの攻撃頻度が増してきたのは気のせいでしょうか?
「あ、あはは。じゃ、私は帰って勉強するから。また明日ね」
微妙に冷や汗をかきながらそそくさと退散する飛世。
「うん、また明日ね」
「・・・・・・逃げたな」
そう言う相沢もしっかりと帰る準備をして立ち上がっている。
「じゃ、今日はとっとと帰って勉強するわ。二人ともまた明日な」
「おう」
「うん、バイバイ」
そそくさと逃げ帰る相沢と入れ替わりにいつもの天然お気楽ボケ娘が入ってくる。
「よっ、智也の様子はどうだった?」
「え、智ちゃん?んーと、最初はなんだか元気がなかったんだけど唯笑とお話しているうちにいきなり怒り出してどっか行っちゃったよ?」
「・・・・・・ふーん、なるほど」
最初に元気がなかったってことは今日のテストの結果があまり芳しくなかったんだろう、多分。
俺のほうは絶好調とまではいかないまでも、まずまずの結果だ。とりあえずは一歩リードといったところか。
とはいえ、ハンデの点数分を考えるとあまり楽観視はできまい。
「桧月達はこのまま帰るのか?」
「ううん、私達はこのまま図書室で一緒に勉強しようと思ってるけど・・・俊くんは?」
「うーん・・・」
桧月達は図書室かぁ・・・。
このまま帰ってひとまず寝ようかとも思ったが、桧月と一緒に図書室に行くのも悪くないか。
「俺も図書室いくかな・・・・・・」
気だるそうに言って立ち上がる。ま、実際眠くてだるいけど。
「よしっ、じゃあ3人で図書室にれっつらごーっ!」
「・・・・・・・・・いつでも元気だな、おまえは」
恥ずかしげもなく大きな声を出す今坂に俺は静かなため息をつくのみだった。
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Up DATE 04/6/21
長くなったので一旦ここで切りです。
21話は今月中に・・・。