Memories Off Another
第19話
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さて・・・テストに対して真面目に取り組む理由ができたのはいいとして、今日はどうっすかねぇ。
如何に理由があろうとも中間テストごときに丸一日中勉強に取り組もうなどという意欲は俺にはない。
せっかく休みの日にこうして昼前に起きて、天気も良いことだしその辺りをブラブラするのも悪くはないかもしれない。
所詮相手は智也だしな。夜だけでも十分だろう。
・・・・・・・・・ゲーセンでもいくか。
我ながら典型的ダメ人間の見本だな。
この前に桧月たちとやった新作ゲームをやりに澄空まで来てしまった。
テスト前日に何しに来てるんだ、俺は。
色々と間違っている気もするが、まぁ、そんなことを気にしてたら人生楽しめない。
今は明日のことは忘れてゲームに集中することにする。
数回プレイしてようやく3ステージ中、2ステージまでクリアーすることができた。
前にプレイしたときは1ステージもクリアーできなかったのだが、智也たちとの対戦でそれなりにスキルが上がったようだ。
・・・・・・・・・腹減ってきたな。
時間を見るともう13時を回っていた。
昼飯でも食ってくるか・・・・。
俺は昨日同様バーガーワックでテイクアウトし、学校近くの公園に来ていた。
あの騒々しい店内で一人で食うのも味気ないし、こう天気が良いのだから外で食べるのも悪くないだろう。
心地よい風を全身で感じる。
・・・・・・・・・このまま昼寝ってのも悪くないかもしれん。
――――背後に人の気配を感じた瞬間、背後から回された何者かの手がスッと視界に入る。
覆われる視界。
「だーれだ?」
と、言われても。
俺が今更この声を判別出来ない訳がない。
「桧月」
「・・・・なーんだ、即答かぁ」
俺が答えると視界を塞いでいた手があっさりと開放される。
振り向くとちょっとつまらなさそうな顔をした桧月が立っていた。
しかも休日にも関わらず制服だ。
「そこはさ、わかっててもちょっとはボケて、笑いを取るとこだと思うけど?」
「ボケは俺の専門じゃないしな。その辺は今坂とか智也に譲るさ」
そもそも誰の笑いを取るとこなんだか。
「そう?俊くんもボケの才能はあると思うけど」
「いや、それは全然嬉しくないから」
「あははっ、でもよく私だってわかったね」
「・・・・・ま、勘はいいほうだからな」
「ふーん、そっか」
「座れば?」
立ったままの桧月に俺が座っている隣を指差しながら言った。
「うん、お邪魔します」
促されるままに俺の隣に座る桧月。
「ほい」
桧月にポテトを差し出すと彼女は「ありがと」と言って俺と同じようにポテトをつまむ。
「それより、こんなとこまでわざわざどうした。おまけに制服で」
「借りてた本が読み終わっちゃって。続きが気になっちゃったから先生に無理いって借りてきちゃったの」
てへ、と笑って舌を出す桧月。
「それはそれはテスト前に随分な余裕で・・・・」
並みの生徒がそんなことしたら普通に先生に説教を食らうところだろう。
優等生である桧月の人徳ってやつか。
テスト前に図書室の本を読む桧月の神経の図太さともども感心してしまう。
「別にそういうわけじゃないけど・・・そういう俊くんこそ、今日はどうしたのよ?」
「んー、息抜きにゲーセン行ってた」
息抜きが必要なほど勉強もしてないが。
「・・・・・・俊くんこそ、テスト前に大した余裕じゃない?」
お説ごもっとも。
「ま、俺はいつもこんなんだけどな。それでも今回はちゃんと勉強してるほうだぞ」
「そうなの?」
「あぁ、今回は勉強しなきゃいけない理由もできたことだしな」
「勉強しなきゃいけない理由・・・?」
ちょこんと首を傾げる桧月。
「そ、智也と昼飯一週間分、賭けた」
ニヤリと笑う俺。そんな俺を見て桧月は呆れたようにため息をついた。
「はぁ・・・そんな理由作らないでもちゃんと勉強しなさいよ」
「ただ、勉強するだけじゃ張り合いないだろ」
「そういうのは普段から真面目に勉強してる人のセリフだよ」
「かもな。で、智也のほうはちゃんと勉強してるのか?」
俺が聞くと桧月は額に手を当てて「うーん」と、考え込む。
「今日、出てくるときに智也の部屋覗いたんだけど、出かけてるっぽかったんだよね・・・」
「それはそれは・・・」
せっかくの日曜日に勉強もせずに出かけるするとは。俺も嘗められたもんだ。
・・・・・・・・まぁ、俺も人のことは言えんか。
そのまま俺が残りのポテトとテリヤキバーガーを食い終えるまで二人して沈黙する。
俺がごみをくずかごに投げ入れてそのまま沈黙していると唐突に桧月が口を開いた。
「・・・・・・私ね、時々夢を見るんだ」
「どんな」
俺はベンチの背もたれに寄りかかり、桧月を横目にする。
その表情はどこか寂しげなものを漂わせていた。
「3年前のあのとき・・・・・・もし、俊くんが私を助けてくれなかったときの夢」
「・・・・・・」
「夢の中の私はね、そのまま助からなくて死んじゃうんだ」
「いきなり終わりじゃん」
俺が言うと桧月は静かに首を振って続けた。
「夢には続きがあって、私は私がいなくなった後の智也や唯笑ちゃんのことをずっと見守ってるの」
「・・・うん」
「でもね、智也は私が死んじゃったのを自分のせいだって、自分自身を責め続けてずっと・・・ずっと苦しんでるの」
あの事故のとき、確か桧月は智也に呼び出されたと聞いている。
もし桧月がいなくなった場合・・・俺が智也の立場だとしたら・・・・・・・。
桧月の夢の中の智也と同じように自分自身を責め続けたかもしれない。
「唯笑ちゃんも・・・私がいなくなったこと、そんな智也を見てずっと辛い思いをしてるんだ。
そして私も・・・・・・そんな二人をただ見守ることしかできない」
「でも、こうしておまえはちゃんとここに生きてるだろうが」
俺は悲しげな顔で語る桧月の言葉を遮るように言った。
「夢の話がどうだろうと現実のおまえはこうして生きて、智也も今坂もアホみたいに元気でやってる。それで十分だろ」
俺は呆れたようにため息をついて桧月は反対の方向を向く。なんとなく照れくさかったから。
「・・・・・・うん。わかってる」
桧月の表情は俺からは見えない。だが、その声からはさっきまでの憂いを帯びたものでないことだけははっきりわかった。
「ただ、改めてお礼を言いたかっただけ。俊くんのおかげで私は今こうしてここにいて・・・・・智也も・・・・・唯笑ちゃんも・・・・・
みなもちゃんも・・・・・私も・・・・・皆で笑って楽しくいられるんだよって」
桧月のその言葉になんていったらいいかわからず俺はそっぽを向いたまま頭を掻く。
その言葉が嫌とかそういうんじゃなくてこう・・・くすぐったいっていうか、なんというか。
「別に・・・・・・そんなこと改めて言うほどのもんでもないだろ」
「あははっ、照れない、照れない」
「・・・・・・・」
ちっ・・・・・自分でも頬が赤くなってきてるのがはっきりとわかる。
なんかもの凄く面白くないぞ。
スッと桧月が立ち上がる気配がして、なんとなく振り向いてしまう。
桧月は俺の正面に立って優しく微笑んでいる。
「本当にありがとう、俊くん」
静かな声で。
だけどとびっきりの笑顔で。
桧月は言った。
「・・・・・・おう」
俺はその笑顔に対してただそう返すだけだった。
そして照れくさくなって顔を逸らす。
桧月はそんな俺をどこか楽しそうに笑って見ていた。
なんか照れくさい。だけど非常に心地よい時間だった。
だが、その時間はいきなり鳴り響いた携帯の着信音によって終わりを告げた。
「あ、ちょっと待っててね」
そういって桧月は自分の携帯を取り出して電話に出る。
「智也?え、地理のプリント?ううん、わたしはもう完全に暗記したから捨てちゃったけど」
どうやら電話の相手は智也らしい。
「はぁーっ!?そんなこと私に言われても知らないわよ。大体、普段から智也がちゃんとしていないのがいけないんでしょーがっ」
まーた、いつもの痴話喧嘩が始まったらしい。ホント、飽きないねぇ・・・。
「うん、じゃ、どーしても見つからなかったらまた連絡しなさい。・・・・・もう」
「智也なんだって?」
「地理のプリントなくしたって。あの丸暗記すればいいやつ」
「・・・・・・・・はっ」
心底呆れたようにため息をつく桧月。
笑い飛ばす俺。
・・・・・・・前にもなんか似たようなことなかったか?
そして今度は俺の携帯が鳴り始める。
相手は公衆電話。十中八九、携帯をもっていない智也からだろう。
「もしもし?」
『あ、俊。俺だ、智也だけど』
声の様子から相当切羽詰っているのがわかる。
「地理のプリントなら貸さんぞ?」
『なにっ!?何故それをっ!?』
「まぁ、それはともかく昨日お前が自分から持ちかけた勝負覚えてるか?」
『うっ・・・・』
「そんなわけだ。勝手に頑張れ」
俺は冷酷にいつも通り淡々と言った。
『・・・・・卑怯だぞ』
ほんの少しの沈黙の後、智也は搾り出すように声を出した。
「あ?」
『自分だけ優位に立った状態で勝って満足なのかっ!お前は!?男らしくないとは思わんのかっ!?』
・・・・あー、まーた、智也の脳内理論が爆発してらぁ。
アホらし過ぎて付き合ってやる気も起きん。
「おまえの理論に付き合ってやる必要は何一つ無いな。俺を恨むくらいなら自分の迂闊さを悔むんだな」
『お、おまえというやつは・・・・・』
「クククッ、どうしてもっていうなら考えないでもないぞ?俺の目の前で3回廻ってワンと鳴いて、
「俊一様、どうか愚かな私めにそのお力をお貸しください」と、土下座して頼めばな」
『ふ、ふざけんなっ、誰がそこまでするかっ!くそっ、覚えてろよっ。テスト終わった後に泣きを見るのはおまえだからなっ!』
そんな負け犬の典型的なセリフを残して智也は通話を切った。
「俊くんってさ・・・・・・」
「ん?」
携帯をしまう俺を桧月がジト目で見ていた。
「ほんっと、意地悪な性格してるよね」
「お褒めに預かり光栄だ」
俺はそれに対してニッと笑って見せるだけだ。
桧月のほうもその反応が予想できていたのか、クスクス笑っている。
「さて、と・・・俺はそろそろ帰るかな。桧月はどうする?」
立ち上がって軽くのびをする。気分的にかなり良い状態になったことだし、これなら家に帰ってもいい調子で勉強できるだろう。
「私も帰るよ。帰り道に俊くんを見かけたら声かけただけだしね」
「そか。じゃ、途中まで一緒だな」
言いながら二人で並んで澄空駅へと歩き出す。
「そういえばみなもちゃん、俊くんがよろしくって言ってたこと伝えたら喜んでたよー」
「別にそれぐらい大したことじゃなかろうに」
「そうかもね、でもみなもちゃんはみなもちゃんで喜ぶ理由があるから」
「なんだ、それ?」
「秘密♪今度、みなもちゃんに会ったときに聞いてごらん」
「意味深な言い方を・・・・」
「あははっ」
呟く俺を桧月は楽しそうに笑って見ているだけだった。
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UP DATE 04/4/19
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