Memories Off Another
第18話
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授業中。ボケーっと教師の話を聞き流しながら横目で隣の桧月を眺める。
彼女は俺とは違い、真面目に教師の話を聞いてノートを取っている。
・・・・・・・・・・ふぅ。
双海さんとの誤解をどーにかして解けないものかとずっと考え込んでいたがまったくいい案が浮かばない。
だが、よくよく考えてみれば俺はもともと桧月にとっては仲の良い友達程度にしか見られていない。
誤解されてどーこー以前の問題なわけだ。
・・・・・・アホくさ。
いい加減、悩むだけ時間の無駄だということに気づけ、俺。
確かに双海さんのことは多少なりとも気にかかっているのは確かだが、それはそれ。
俺が好きなのは桧月彩花。桧月が誰を好きだろうと、どう勘違いしようと、それは変わりはしない。
今はそれでいいはず。自力で今の状況を変えることは出来ないかもしれないが俺にも一度ぐらいはチャンスは来るはず。
億に一つぐらいの可能性かもしれないがそれに賭けるしかない。
自分で考えてなんだが、死ぬほど分の悪い賭けだな。
思わず失笑してしまう。
「?」
俺の視線に気づいたのか桧月が不思議そうな顔をして俺のほうを見る。
「どうしたの?」
「髪・・・・寝癖ついてる」
俺はとんとんと自分のこめかみの辺りを指でつつきながら言った。
「えっ、ウソっ?」
桧月は慌てて自分のこめかみのあたりを触るが寝癖などついてない。
「うん、ウソだ」
「え?」
呆気に取られた桧月の顔を見て、してやったりと言った顔で俺はほくそ笑む。
「・・・・・・俊くん、後で覚えておきなさいよ?」
桧月は笑顔で宣告するが目が笑ってない。
そんな桧月が面白くて、可愛くて。やっぱり俺は彼女のことが好きなんだと実感してしまう。
「さぁ?もう、忘れたな」
俺は笑いながら窓の外へと目を逸らした。
今日も良い天気だ。
で、土曜ということで今日の授業は午前中で終了。
普段ならこのまま家に帰るなり、信たちと遊びにいくかのどちらかに絞られるのだが。
「彩ちゃーん、一緒に帰ろー」
うちのクラスのHR終了と同時に今坂が教室に入ってきた。
その後ろには智也と音羽さんも一緒だ。
「相変わらずお前らのクラスは終わるのはえーな」
「ま、恐妻家の伊東先生だし。な、音羽さん」
「うん。こっちとしてはHRが早く終わる分には大歓迎だしね」
智也と音羽さんがなにやらうんうんと頷きあってる。
「伊東先生が恐妻家?それとHRが終わるのと何の関係があるの?」
「知らん」
桧月の疑問に俺も頷く。因果関係がさっぱりだ。
ちなみに伊東先生というのは智也達のクラスの担任だ。
「あ、えっと桧月・・・・彩花さんだよね?」
今坂に駆け寄られた桧月に音羽さんが声をかける。
なにやらその視線は意味ありげだ。
「え、あ、はい。そうですけど・・・・」
「はじめまして、音羽かおるです。今坂さんや三上くんから色々お話は聞いてるよ」
「狂暴だとか、暴れたら手つけられない乱暴者とか?」
「誰がよっ!?」
「ぐぉっ!?」
脳天におもいっきり衝撃が走った。
机で頬杖つきながら呟いた俺の脳天に桧月の光速の肘鉄が打ち込まれたのだ。
「ぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・っ!」
頭を抱えて悶絶する俺。
いてぇ。こないだの本棚直撃より素でいてぇぞっ!?
「もう、失礼ねっ!誰が狂暴なのよ」
「い、今の光景は・・・誰がどう見ても狂暴な奴にしか見えんだろ・・・っ」
俺の突っ込みに唖然とした顔の音羽さんも、「あ〜あ、言っちゃった」と、いった顔の今坂、思いっきり当然といった顔の智也がそれぞれに頷く。
桧月には見られないタイミングでな。
「俊くん・・・・・・まだ足りない?」
にっこり笑顔で脅迫する桧月様。授業中のことまだ根に持ってらっしゃるんでしょうか。
「すみません、桧月様。私がわるぅございました」
「ん、よろしい」
桧月の笑顔からようやく不可視のプレッシャーが消える。
「あ、ごめんね、音羽さん。桧月彩花です。こちらこそよろしくね」
「あ、うん。よ、よろしくね、あはは・・・」
そういって桧月と笑いあう音羽さんだが、その笑顔はどことなく引きつっていた。
「あ、桧月が狂暴化するのは今のところ俺と智也だけだからその辺は安心していいよ」
「俊くん・・・・・それはどう意味かしら?」
不可視のプレッシャー再び。
「えーっと・・・・・ご想像におまかせします。あー、それよかあれだ。腹も減ってきたことだし、ワックにでも行こうぜ」
「あ、あぁ。そうだな。俺は音羽さんとの約束もあるから俊と行くけど、彩花たちはどうする?」
「え、あ、うーん。そうだね、わたし達も一緒に行きたいところなんだけどみなもちゃんと約束してるから」
「そうなのか?」
「うん、ちょっと。色々用があって・・・・ね」
「?」
俺が桧月に訪ねると今坂が代わりに答えた・・・・・が、その表情はいつもの今坂とは違って暗いものを感じさせた。
「じゃ、そういうことだから。智也、音羽さんたちに迷惑かけないようにしっかり勉強するんだよ?」
「そんなことわかってるよ」
「うん、よろしい」
そんな桧月と智也のやりとりを見ながら俺はそっと音羽さんに耳打ちした。
(どう見ても子供とその保護者のやりとりだよなぁ・・・)
(うん、いえてる・・・・)
「じゃ、智ちゃん、しっかりね。音羽さん、俊くん、智ちゃんをよろしくねっ」
「あははっ、努力はしてみるよ」
「おう、みなもちゃんによろしくな」
「こらっ!唯笑っ!おまえまで俺を子ども扱いするな!」
そんなこんなでにぎやかに俺と智也、音羽さんは桧月と今坂と別れ、3人でバーガーワックへと向かった。
「・・・・おまえ、俺の奢りだからって頼みすぎだろっ!」
「あー、知らんな」
俺は智也の叫びを無視して買ってきたポテトをつまむ。
ちなみに俺のトレイにはテリヤキバーガーにチキン竜田、ベーコンエッグバーガーにポテトとドリンクのLサイズが乗っている。
無論、自分の金ならこれだけの量は頼まないが、智也の奢りとあれば話は別だ。
「三上くん、なんだったらわたしも少しは出すから・・・」
智也の悲痛な叫びに感化されたのか音羽さんが自分の財布を取り出したが、さすがにそれは智也が止めた。
「いや、いいって。これは俺が勝手にやったことだし」
「そうそう、どうせ智也は定期的に桧月からの愛妻弁当の差し入れがあるしな」
―――ズキン。
いつもの痛みは普段どおり無視する。
「な、何が愛妻弁当だ!?勝手なこと言うなっ!」
智也・・・・真っ赤になって凄んでも迫力はまったくないぞ。
「へーっ、三上くんと桧月さんはそういう関係なんだ?」
俺の言葉に音羽さんは興味津々といった感じだ。
「ち、違うって!あいつはただの幼馴染でっ!」
「うんうん、それで?今坂さんと桧月さん、どっちが三上くんの本命なのかな?」
まるでTVか何かのレポーターのようにマイクを持った振りをして智也に詰問する音羽さん。
なんだかその姿が妙にハマッてる気がした。
「お、音羽さん・・・・勘弁してくれって・・・・」
俺は何食わぬ顔でドリンクを飲みながらヘナヘナと机に突っ伏す智也を横目で眺めていた。
まぁ、別に俺は嘘も言ってないしな。
「ま、智也のそこら辺の事情はおいおい追求するとして・・・」
「せんでいいっ!」
「音羽さんの得意科目と苦手なのってなんだっけ?」
智也の事情はシカトしといて音羽さんに尋ねる。
とりあえず、一応勉強を教えるという立場にあるからには彼女の得手不得手を把握しておく必要があるだろう。
「得意なのは国語、苦手なのは前に言ったとおり数学だよ」
「ちなみに智也は?」
「音羽さんに同じ」
とりあえずこいつは役立たず決定。
「天野君は?」
「苦手は英語と古文。他はまぁ、その範囲によりけりだな」
「今回の数学は?」
「今からやる」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
微妙な沈黙が辺りを支配する。
「ま、今日は数学に重点を置いて、わからなければそれぞれ質問するってことで」
俺が結論を出すと二人も頷き、
「それが一番無難かな」
「じゃ、食い終わったら開始だな」
こうして3人の勉強会が開始された。
俺はひたすら数学の問題集に取り組む。
基本的に数学そのものは嫌いだが、かといって真面目にやって理解できないほどじゃない。
英語や古文に比べればはっきりとした答えが導き出せるのでその辺はわかりやすい。
難しい問題でも問題集の解答にはちゃんとした解説が載っているので一度やり方さえ覚えてしまえば応用が利くしな。
ま・・・・・あんまり複雑な奴だと素で投げ出したくもなるし、楽々に解いていくという訳にもいかない。
・・・・・・・どーでもいいが、こんな計算普通の社会において使う機会なんて絶対ないぞ。
「天野くん、ちょっといい?この問題なんだけど・・・・」
「ん、と・・・これはだな」
音羽さんからの何度目かの質問。
音羽さんが質問してくるところは一通り理解できた問題ばかりなのでさほど困ることはなかった。
と、いっても部分の説明などはできないので俺なりの解答の出し方を一からやってみせ、
疑問があればそれに答えていくといったものだ。
「あ、なるほど。ここはこうやって解くんだ」
「そ。ま、なんでここがそうなるかまでは俺も理解してないけどな」
「ううん、解答の出し方さえわかれば十分だよ、ありがとう」
「ん」
数学が苦手といったが、彼女なりに結構頑張ってやっているようだ。
俺が教えたところは熱心にノートにやり方をメモしていってくれている。
智也のほうはというと、音羽さんが習っていない範囲で初歩的なところは彼女に教えることができるみたいだが、
少しひねった問題だとそうもいかないらしい。
ま、今坂に聞いた話だといつも授業を寝てるこいつがスラスラ問題解いていたら非常にムカつく。
色々苦戦しているようだが、こいつ自身が俺に聞こうとしていないならば、こちらからわざわざ教える必要もあるまい。
「・・・・・なんだよ?」
俺の視線に気づいた智也がこちらを見上げる。
「いや、苦戦してるなぁって思って」
すると、智也は何を思ったのか、一瞬顔を伏せ、こう言った。
「・・・・・・・・・・・・・勝負だ」
「は?」
何ていいました、この人。
「今、なんつった、お前?」
俺が聞き返すとビシっと俺に指を突き立てて宣言する。
「勝負だと言ったんだ、俊!今回のテストでどっちがより多く点数を取れるかなっ」
「・・・・・・なんでいきなりそうなるの?」
音羽さんも呆然としながら呟く。
俺も無言でうなずく。
「俊、おまえ・・・俺より数学が出来るからといって調子に乗ってるだろ。だからこの際、どっちが上かはっきりさせてやる」
先生、俺コイツの思考回路が理解できません。
「・・・・・・」
確かに智也の奇行は今に始まったことじゃない。
だが、今の流れでどうしてこういう発言が飛び出すのだろうか。
「・・・ま、それは構わんが本気か?おまえ、俺にトータルで一回も勝ったことないじゃないか」
俺も普段は勉強しないし、テスト勉強も全くしない時もあるから学年の平均点を下回ることはある。
だが、こうやって今回はある程度真面目に勉強しているわけで、そんな俺にいつも赤点ラインの智也が勝負を挑むのは正気とは思えない。
「ふっ、それは過去のこと。今回の俺を今までの俺と一緒にするなよ」
本気らしい。つーか、その自信はどこから出てくるんだろう。
「ま、いいけど・・・で、今回は何を賭ける?」
勝負をするなら何かを賭ける。これが信を含めた俺たちの中でのお約束だ。
「そうだな・・・昼飯一週間分」
「いいだろう。乗った」
・・・・・だが、このままやったのでは俺の勝ちは見えている。
過去の結果や今の智也の現状を見る限りでは俺のほうが圧倒的にアドバンテージがある。
今から智也がやる気になったとはいえ、一夕一朝でそう変わるものでもあるまい。
「でも、このままじゃ面白くないな・・・」
「何?」
初めから勝ちが見えてる勝負も悪くはないが、それでは面白くない。
「よし、こうしよう。今までの結果からすると俺の勝ちは固い。だからハンデとして50点。どうだ?」
「ほう・・・言ってくれるな。今の言葉、後悔するなよ?」
俺の提案に智也はニヤリと笑う。
「フッ、生憎と分の悪い賭けは嫌いじゃない」
俺も負けじと不敵な笑みで笑い返し、二人でフッフッフッと笑いあう。
「なんだかなぁ・・・・」
そんな俺たちを見て音羽さんは静かにため息をつくのだった。
「二人とも今日はありがとうね。本当に助かっちゃった」
あの後、ワックで計5時間ほど勉強した帰り道、音羽さんは言った。
「いや、こっちも真面目に勉強する機会ができたから、気にすることはないよ」
「そーゆことだな。結果としてこっちも面白い賭けができそうだしな」。
智也に捕捉するように俺も言った。
正直、テストそのものは平均点程度が取れればいいのだが、昼飯一週間分がかかってくれば話は別だ。
「テストが終わったら信とか桧月とか今坂を誘って打ち上げにでもいくか?」
「あ、いいね。それ」
「そうだな、そうするか」
「じゃ、決まりだな」
こうしてテスト最終日に新たな楽しみが出来たわけで。
昼飯一週間分もかかってるわけだし、来週は少し気を入れていきますか。
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UP DATE 04/3/26
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今回は8割ほど書き上げたとこで花粉症と風邪をダブルで喰らい、一週間近く放置してしまいましたよ。
一気に続きを書きたくても咳と目の痛みで全く集中することもできず。
中々辛い、状態が続いてました。来週はAfter Rainの最終巻が発売にも関わらずスケジュール的にすぐにプレイできないかも・・・。
ついでに告知。
KIDセレクション3rdに申し込みしてきました。とりあえず当選するかどうか通知待ち。