Memories Off Another
第17話
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・・・・・・・・かったるい。結局昨日も帰ったあとロクに勉強できなかった。
いや、さ。確かに今の俺っつーか、桧月にとって智也以外は恋愛対象外なんだろうけどさ。わかってるけどさ。
さすがに好きな子にあーゆー誤解されたらさすがの俺も傷つくさ。
帰ってふて寝したさ、ちくしょー。
そして現在時刻は7時5分。場所は中目町駅前。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何で俺はまたこんな早起きして学校に向かってマスカ?
答.早く寝すぎて2度寝できなかったから。
・・・・・・・何か間違ってる気がする。
俺の気持ちとは裏腹に綺麗に晴れ渡る青空を見上げ、一人思い耽る。
ま、なるようにしかならんか。
人間開き直りは大事だ。
そう気を取り直して改札へと向かおうと・・・・・・・して、俺は足を止めた。
理由は簡単。
双海さんが改札口からホームに入ってくのが見えたからだ。
さすがに昨日の今日で朝っぱらからあの子に会うのはちょっと気が引ける。
・・・・・・・・・・・・・・。
とはいっても別に彼女が何かしたわけでもないし、俺もやましいことをしたわけではないので避けるのもおかしい。
いや、でもこのことを万一桧月に知られたらさらに深みはまりかねんし・・・・・。
うー、どうしたもんか・・・。
って何を悩んでいるんだか。
「アホくさ・・・・・」
呟いて再び俺は改札へと歩き出した。
俺が双海さんを気にする理由・・・・・・か。
確かに昨日桧月に言われたとおり、俺から女の子に話しかけるってのはあまりない。
そして双海さんが俺の中で桧月以外の他の女の子より気になる存在であることも間違いでもないと思う。
ただ、それは双海さんを異性としてどうこう意識しているわけではない。
・・・・・・・ふと、数年前の自分を思い浮かべる。
同時に双海さんと初めて会ったときの彼女の雰囲気を思い出す。
「どうも・・・・な」
自ら壁を作り、必要以上に他人を拒絶する。
それが他人事のように思えなくて彼女を意識してしまったのかもしれない。
ホームで彼女はいつか見たときと同じように手の中の文庫本に目を向けながら電車を待っている。
俺は彼女の位置から少し離れたベンチに腰を降ろし、電車を待つ。
どーも、今はどうでもいいことを考えすぎて誰かと話す気にならない。
別に特別親しいわけでもないんだから、わざわざ声をかける義務もないだろう。
このまま双海さんに声をかけず、違う車両に乗って学校へ行けばいい。
「ふぁ・・・・・」
俺はベンチに腰を降ろしたまま、大きく開けた口を隠しもせず欠伸をしながら思いっきり伸びをした。
そして何気なく双海さんのほうを見た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつの間にかこちらに目を向けていた彼女と、バッチリ目があった。
もう、これ以上ないくらい完璧に。
なにやら意味ありげな視線で軽く会釈をしてくれる双海さん。
「・・・・・はは」
一方の俺はというと苦笑しながら手を振って返すしかできなかった。
もしかしなくても今の間抜けな欠伸面を目撃されてましたか?
・・・・・・・さすがにこのまま予定通りに違う車両に乗り込むってのもなんかアレだしなぁ・・・。
仕方なしに俺は立ち上がって双海さんの方へと歩き出した。
「よ、相変わらず早いんだな」
「天野さんは随分と大きな欠伸でしたね」
双海さんは一見無表情に近い表情で言うがその目はあからさまに楽しげなものが浮かんでいる。
「・・・・まぁ、朝は強いほうじゃないんでね」
・・・はーっ、やっぱ見られてたのね。
別に減るもんでもないからいいんだけどさ。
「その割には今日も早いんですね」
「ま、浅くて狭い事情がありまして・・・・・」
「浅くて狭い・・・ですか?」
まさか自分がその原因の話題の一端をになってるとは夢にも思わない双海さんは不思議そうに呟く。
「ああ、浅くて狭い」
「・・・・その浅くて狭い事情を聞いてみてもよろしいですか?」
「いや・・・・・、企業秘密ということで」
微妙に声が嬉しそうな双海さんと視線を逸らして答える。
好きな女の子に双海さんとの関係を誤解されて不貞寝しましたなんてとても言えません。
勘弁してください。マジで。
「そう言われると是非、教えていただきたくなるのですけど?」
「・・・・・・・・・・双海さんってそういうキャラだったっけ?」
「さぁ、どうでしょう?」
目がものすっごく楽しそうなんですけど?
もしかして俺って遊ばれてますか?
なんか昨日からこんなのばっかなのは気のせいでしょうか?
「あー、そういえばテスト勉強どう?昨日も同じこと言ったかも知んないけど」
定刻どおりにやって来た電車に二人で乗りながら俺は話題を変えるべく言った。
「・・・・・」
途端にほんの少し双海さんの顔が曇る。
「・・・・・その様子だとあんまはかどってないみたいだな」
「・・・・・・・はい」
一見、勉強ができそうな雰囲気の双海さんだけど意外に苦手なのかもしれない。
「なんか苦手な教科が進まないとか?」
「いえ、そうではなくて・・・」
俺の質問に双海さんはバツが悪そうな顔をして言った。
「その、本ばかり読んでいてまったく手をつけてないんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オイオイ」
「家に帰宅した後にやろうと思ってたんですが、つい本に夢中になってしまって・・・・」
「あぁ、そぉ・・・・」
「すみません、せっかくテスト範囲を教えていただいたのに。天野さんの厚意を無駄にしてしまって・・・」
「いや、んな大げさな。別に大したことしてないし。それにテストまでまた時間はあるし無駄にしたわけじゃないだろ。
ってか、俺だって人に胸張っていえるほど勉強してねぇ」
そんなことで負い目みたいなものを感じられてはかえって俺が困る。
「なんだったらこれから図書室で一緒にやるか?どうせ俺も早く行ってもやることないし」
「・・・え」
「あー、双海さんって英語得意なんだよね?俺、英語苦手でさ、双海さんさえ良ければわからないとこ教えて貰いたいんだけど」
俺がそういうと双海さんは一瞬考え込む素振りを見せた後、静かにうなずいた。
「わかりました、私で良ければお供いたします」
「うし、よろしく。双海先生」
ピッと敬礼をかます俺。
・・・・・・・・・って、なんでこういう展開になってる!?
見方によっては俺が積極的に双海さんにアプローチしてるように見えるぞ。
いや、客観的にそうとしか見えない気がする。
・・・・・・・・・・・・・昨日の今日で何やってんだろう、俺。
額に手を当ててちょっと落ち込んでみる。
「?、どうかしましたか?」
「いや、自分の行動にちょっと疑問を・・・」
なんつーか、考えなしで行き当たりばったりで行動してるなぁ、と。
「はぁ・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やがて電車は澄空駅へと到着し、二人並んで改札を出る。
お互い特に会話もなく静かに歩くだけだ。
とはいっても、別に気まずい雰囲気ではなく、ごく自然な感じだ。
・・・・・・・・・・・・そういや女の子と二人っきりで登校なんてあんまり記憶がないな。
それも違うクラスの女子と。
自分でもなんでこんな状況になったのかよくわからん。
ちらっと横目で双海さんを見る。
桧月と同じ長い髪。でも髪の色は亜麻色で桧月とは違った感じで綺麗だと思う。
雰囲気もどこか日本人離れしているが、とても落ち着いた感じがする。
「・・・・・どうかしましたか?」
俺の視線に気づいた双海さんが不思議そうな顔で首を傾げる。
「・・・・いや、双海さんの髪って綺麗だなって思って」
「私の髪・・・・・ですか?」
「あぁ、同じ髪でも俺のなんてボサボサだしなぁ・・・。長くてサラサラで・・・綺麗で凄く良いと思うよ」
自分の前髪をつまみながら言う。
「・・・・・・・・・ありがとうございます。私も母から受け継いだこの髪は気に入ってます」
双海さんは自分の髪を触りながら何か慈しむような雰囲気で言った。
「そっか。双海さんの髪は母親譲りなんだ」
「・・・はい」
再び訪れる沈黙。
・・・・・・・・なんだろうな、この感じは。
沈黙が苦痛にならない穏やかな雰囲気とでも言おうか。
自分でも不思議なくらい落ち着ける雰囲気だ。
・・・・・・・・ほかに好きな子いるのに何やってんだかなぁ、俺は。
図書室に入ると俺たちは適当な机に並んで座り、それぞれ教科書やノートを広げた。
「双海さんってなんか苦手な教科とかある?俺ばっか教えてもらうのも悪いから、俺が教えられる範囲ならできる限り力になるけど」
俺が言うと双海さんは一瞬考え込み、
「古典・・・・古典を教えていただけますか?」
「古典・・・・うん、オッケ。それならノートがあるからセーフだ」
古典そのものは俺も苦手だが、今回はこのノートがあるから問題ない。
もちろん、俺が授業にとったものではなく、桧月のノートを写したものだから捕捉もバッチリだ。
一度、自分で写したものだからある程度の内容も頭に入ってる。
「それではよろしくお願いします、天野さん」
そういって双海さんは微かに微笑んだ。
「・・・おう、こちらこそ」
・・・・・今一瞬、双海さんの笑顔に見とれてしまった。
昨日、桧月たちが妙なこというから変に彼女を意識してしまったのだろうか。
俺は動揺を隠しながら椅子に座りそそくさと勉強を始めた。
変に意識する必要なんてどこにもないんだ。
俺はそう自分に言い聞かせていた。
その後、俺たちは予鈴がなる15分前までお互いにわからないところを聞いたり教えあいながら勉強していた。
「もうこんな時間か・・・・そろそろ切り上げるか」
「はい」
椅子から立ち上がり荷物を整理してるとなぜか双海さんはジッと俺のことを見ていた。
「・・・・どした?」
「天野さん、どうもありがとうございました。天野さんにはいつもお世話になってばかりですね」
そういって双海さんはぺこりと頭を下げる。
「いや、別にたいしたことはしてないと思うが」
「そんなことないですよ。天野さんがテストのことを教えてくださらなかったら、きっとそのことを知らないままテストを受けてましたから」
「あぁ、それはそうかもな。ハハッ」
「えぇ、きっと。ふふっ」
二人で静かに笑いあう。
「じゃ、ついでだ。古典の苦手な双海さんにこのノートを貸してしんぜよう」
「え?」
「双海さん、古典苦手なんだろ?そのくせ、授業聞いてないんだったら今日、明日でそれなりに時間を割いといたほうがいい」
「・・・でも、それでは天野さんが古典の勉強をできないのでは?」
「あぁ、どうせ土日は勉強しないからいいよ。せっかくだから双海さんが役立ててくれ。月曜に返してくれれば十分だ」
俺はそのまま双海さんに古典のノートを押し付ける。
「・・・・・・本当にいいの・・・ですか?」
「いいって。どうせ、ぜっっっっったい勉強しないしなっ!」
俺の古典対策は一夜漬けが基本。
「では・・・・お言葉に甘えてお借りしますね」
「是非、そうしてくれ。今日の勉強に付き合ってくれたお礼ってことで」
「今日のお礼・・・ですか。あの・・・一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」
「ん、なにが?」
「・・・・・・どうして天野さんは私にそこまでしてくれるのですか?」
「・・・・・・・・さて、ね」
双海さんの質問に俺は曖昧に答えた。
「なんでだろうな・・・・」
桧月を除けば会って間もない女の子にここまで世話を焼いたことなんかなかったと思う。多分。
昔の俺のことを除いても普通はこんな風に関わったりしなかったろう。
「・・・よくわからん。ま、元から俺は気まぐれだから気にしないでくれ」
「そうですか・・・」
俺の言葉に納得したのかどうか、双海さんの今の表情からは読み取ることができなかった。
「天野さんは・・・・・やっぱり変わった人ですね」
「らしいな。よく言われるよ。・・・・・・・・・・・・・昔から、な」
そう、昔から言われてきた。昔から。
「・・・・・・?」
俺の言葉のイントネーションに含まれたモノを感じ取ったのか、双海さんはわずかに怪訝な顔をする。
「ま、せっかく一緒に勉強もしたんだし、お互い来週のテストは頑張ろうな」
「・・・はい」
図書室から出た後、双海さんが鍵を閉めるのを黙って見届ける。
「それでは私は職員室に鍵を返してきますので」
「ん、じゃ。また来週な」
「ええ、ごきげんよう」
俺は彼女に向かって手を振ったあと、そのまま自分の教室へと向かった。
・・・・・・双海・・・・詩音か。
恋愛感情ではないと思うが、もしかしたら俺は彼女に対してただの友達以上の何かを抱きつつあるのかもしれない。
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UP DATE 05/2/1
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