Memories Off Another

 

第12話

 

 

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「はぁ・・・・」

校門を通り過ぎ、雲もまばらで気持ちよく晴れた青空を見上げ、ため息をつく。

なんで朝っぱらからため息をつかなきゃならないのだろう。

ため息の原因は鞄の中に入っている一冊の漫画。

何日か前に桧月に借りた(押し付けられたとも言う)奴だ。

昨日の帰り際に読んだかどうか聞かれて感想を催促されてしまったので仕方無しに昨日のバイトが終わった後に読んだ。

成り行きとはいえ何故に俺が少女マンガなど読まなければならないのだろう。

人に進められて仕方無しに読んだものだから100歩譲ってそこまではいい。

何が問題かって読んでみたら面白かったんだよっ!

続きが気になって仕方ないんだよっ!

「はぁ・・・・・」

教室に入ったところで再びため息。

俺が少女マンガにハマるとは世も末だ。つーか、キャラに合ってねぇ。

見た目とのギャップありすぎ。

もしもこんなことが信や智也に知れてみろ。

 

「へぇ、俊くんは少女マンガなんかにハマッてる訳だ?ふーん、なるほどね。キミの意外な一面を発見してしまったよ。フッフッフ・・・」

「ほぉ、少女マンガねぇ。あの俊クンがねぇ?人は見かけによらないもんだな。ハーハッハッ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シャレになってねぇ。

あの二人の嘲笑した顔が簡単に想像できる。

うおおおぉっ!あのバカ2人に見下されるなんて絶対に嫌だっ!

あの二人だけには絶対にバレないようにせねば・・・・・。

「俊くん、おはよ。どうしたの?朝から難しい顔して?」

自分の席に着くといつものように桧月が声をかけてくる。

「おはよ。大したことじゃないから気にしないでくれ」

「そ?ならいいけど」

自分が人の苦悩の元凶だとは露ほども思っていないのだろう。

実際誰が悪いということでもないから当たり前だ。

「そんなことより、コレ。サンキュ」

辺りを見回し誰もこっちを見ていないのを確認してから素早くマンガを手渡す。

「あ、やっと読んでくれたんだ。どう?面白かったでしょ?」

「あぁ。読んだらハマッた。と、いうわけで続きを頼む」

「ふふー。そう言ってくれると思った♪はい、コレ」

ドンと返した本が5倍の量で机に置かれた。

「俊くんも読んだら絶対ハマると思って用意してきたんだ♪」

「あぁ、そぅ・・・・。ありがと・・・」

少女マンガにハマるのを見透かされるなんてすんげぇ複雑な気分。

流石に少女マンガを机に出しっぱなしにするわけにもいかず手早くそれを鞄に押し込む。

「あのさ、一応俺がこのマンガ読んでるっての他の奴には秘密な」

「え?どうして?」

何故そんなこと言うのか判らないといった不思議そうな表情で訊いてくる。

「・・・まぁ、その・・・なんというか俺ってあーゆーの読んでるようなイメージじゃないっていうか、とにかく似合わないだろ?」

「そんなことないと思うけど・・・」

わかってる。桧月が悪意をもってるわけじゃないのはよくわかる。

けど、少女マンガが似合う男ってどーよ。

客観的に見てもの凄く嫌だ。

「まぁ、とにもかくにも秘密にしといてくれ。頼む」

「うん、まぁ、そこまで言うならいいけど・・・」

ふぅ・・・・これで情報が流出する心配はないな。

後は俺がヘマをしなければいいわけだ。

 

 

 

 

 

 

HRの終了と同時に覚醒する俺の体。

「ふぁっ・・・」

あくびとともに体を伸ばし、疲れきった体に渇を入れる。

テスト前ということもあって、いい加減どの授業も寝て過ごすというわけにはいかない。

「で、どうする?」

「ん?」

隣で帰り支度をしている桧月に声をかける。

昨日ノートを借りたお返しに今日はパフェを奢る約束になっているからだ。

「今日は他に誰が来るんだ?」

桧月にノートを借りるのは今回が初めてではない。

こうして約束するたびに今坂や智也がおまけとしてついて来るのも恒例なのは言うまでもない。

二人っきりで出かける約束がないのは寂しいことこのうえない。

「それは後のお楽しみ♪わたし、その子のこと迎えに行ってくるから先に商店街に行っててよ」

「なんだか微妙に気になる言い方だけどわかった」

こーゆー言い方するってことは今坂とか智也じゃなさそうだけど・・・誰を連れてくるつもりだ?

「じゃ、後でね」

桧月はそういい残してさっさと教室から出て行ってしまう。

別に俺も一緒にその子を迎えに行けばそれで済むのではないかと思ったが今から追いかけるのもアホらしい。

「ま、いっか・・・・」

教室を出たところで信とばったり出くわしてしまった。

「お、今から帰るとこか?」

「ああ」

「暇ならゲーセンにでも行こうぜ?新作の格ゲー入ったらしいぞ」

「テスト前にそんなん行ってる余裕あるのか、おまえ」

はっきり言って信の学力は平均以下だ。

テスト一週間前でどの部活も休みだというのにこのバカが(学力的に)そんな余裕があるはずもない。

「平気だって。明日は休みだし今日一日ぐらい休んだってどうってことないだろ?それにおまえだってどーせ勉強する気ないくせに」

ちっ。流石に付き合いが長いだけあってこっちの行動パターンもお見通しか。

「智也の奴もだるいとか言って付き合わないし、いいだろ。付き合えよ、な?」

「却下だ。悪いが今日は用事があってな。お前に付き合ってる暇なぞない」

「な・・・!親友のオレの誘いを断ると・・・・お前はそういうのか?」

無駄にオーバーリアクションを取る信。

「え?おまえって俺の親友だったのか?」

「はっはっは。冗談きついなぁ、おまえ」

「いや、かなり本気だけど」

「・・・・・・・」

微妙に笑顔のままで凍る信。

「まさかお前・・・俺の親友のつもりだった?」

「おまえが事故にあったときに救急車呼んだのオレだよな?」

「俺に言われてやっと呼びにいったんだよな」

「・・・・・・オレがいなかったらお前多分死んでたよな。オレが命の恩人だよな?」

「俺は悪運が強いから絶対に助かったけどな」

信の引きつった笑顔にキッパリと言い放つ。

「う、う・・・・・・お、おまえなんて嫌いだぁっ!!」

捨て台詞を残して走り出す信。

「・・・・・小学生か、お前は」

走り去っていく後ろ姿に向かって呟く。

ま、次に会った時はどーせ何事もなかったかのように接してくるだろう。

悪いな、信。たとえお前でも今日は連れて行く気にはならんのだ。

今坂がこないとも限らないが、いかに親友といえどこれ以上オマケが増えるのは俺としては勘弁してほしいのだ。

 

 

 

 

 

「・・・・・は?」

俺が商店街についてまもなく桧月からメールが入り、それを頼りに喫茶店へと向かった。

そしてその店に入り桧月を見つけて席に行ってみるとその向かいの席には見知った顔がいた。

「あ、こんにちわ、俊一さん♪」

俺に気づいたその子がツインテールの髪を揺らしながら挨拶してくる。

「・・・・・Why?」

俺は訳がわからないまま呆然と呟く。

「あはは、俊一さんびっくりしてるよ」

「うん、作戦成功だね。みなもちゃん」

してやったりといった感じで二人ははしゃいでる。

そう。桧月の向かいの席に座っているのは今坂でも智也でもなくこないだ知り合った一年生。

え?それがなんでここにいるわけ?

みなもちゃんは一年生で美術部。桧月は帰宅部で接点なんかないはずで。

え?は?何?どーゆうこと?

「とりあえず座れば?」

「おう・・・・・・」

頭の中が混乱しつつも、桧月が隣の座るように促すので平静を装いつつ、座る。

いや、もう訳わかんねぇ。

とりあえず俺はアイスティーを注文して話を切り出した。

「で?二人はどーゆうつながり?」

俺が質問すると二人は顔を見合わせてアイコンタクト。

「えへへー、実はわたしと彩花ちゃんて、いとこ同士なんですよ」

「いとこ・・・・」

えーと、それはつまり・・・。

「小さいころからねよく一緒に遊んでたんだ。去年からみなもちゃんも澄空に入学してからは結構頻繁に会ってるんだ」

「ってことは・・・・」

最初に会ったときのみなもちゃんの態度を思い出しみてみる。

今にして思えば初対面にしてはかなり微妙な反応をしていた気がする。

「もしかしなくても前から俺のこと知ってたりした?」

実は・・・そうなんですと言ってちょっと照れた表情でみなもちゃんは笑う。

「前から彩花ちゃんや唯笑ちゃん、智也さんから俊一さんの話聞いたことあったんです」

「へぇ・・・・」

桧月や今坂はともかく智也は俺のことに関してロクでもないことばかり話してたんじゃないだろうか。

「今坂や智也も昔からの付き合いなのか?」

「いえ、唯笑ちゃんや智也さんは中学のときからです」

「わたしが俊くんと会うよりちょっと前からかな?」

「ふーん」

つーか、まさかみなもちゃんが桧月のいとことは・・・・・世の中狭いもんだ。

注文したアイスティーが来たのでそれを飲みながら感心してしまう。

「もしかして昨日、昼に一緒だったって子、みなもちゃんか?」

「うん、そうだよ」

それでこないだ俺が遅刻した理由を知ったわけか。

「でも俊くんもすみに置けないよねー」

やたらと楽しそうな顔で微笑む桧月。

「・・・・何が?」

「わざわざ遅刻ゼロの記録を破ってまでみなもちゃんのために電車を降りないで教えてあげるんだもん」

ガンッ

テーブルに頭を思いっきり打ち付けた。

そこにアクセントつけますか、キミは。

「わっ、だ、大丈夫ですか!?」

「いきなり何を言い出すかっ!?危うく吹き出すとこだったろがっ!!」

「だからぁ、そんなに照れなくてもいいってば」

「照れとかそういう問題か?つーか、そのネタは昨日使ったろ!?」

「だって、俊くんからはちゃんと聞いてないでしょ?だから、この際はっきりさせとこうかなって」

「何をはっきりするんだ、何を・・・・・・も、好きに解釈してください・・・・・・」

反論する気力も失せた俺は力なくテーブルの上にしなだれた。

つーか、知らないって残酷だよな。俺は心の中で涙を流す。

「彩花ちゃん、あんまり俊一さんをからかっちゃダメだよ」

そんな俺の様子を見かねたのかみなもちゃんが助け舟を出してくれる。

その助け舟を機にささやかな反撃に出る。

「そうだ、そうだ。みなもちゃんを見習えー」

「俊くん、次からノートいらない?」

笑顔でにっこり宣告してくる桧月さん。

「すいません。調子に乗りました」

カウンターで一発で撃沈された。

為す術もなく白旗をあげてしまう俺。

「よろしい」

「・・・・・・俊一さんて彩花ちゃんに頭が上がらない?」

「・・・・・・うぐぅ」

みなもちゃん、それを言ったら元も子もないって。

しかし否定できない自分が悲しい。

「みなもちゃん、あんまり人聞きの悪いこと言わないでくれる?」

「つーか、見たまんまじゃん」

ボソッと突っ込む。

それによって自分の地位というかそういうものを貶めている気がしないでもないがこの際気にしないでおく。

「俊くん、何か言った?」

「気のせいだろ」

あさっての方向をむいてとぼける。

チラッとみなもちゃんに目を向けると俺を見ながらニコニコ笑ってる。

「・・・・・・俺の顔なんかついてる?」

「いえ、そーじゃなくて。えっと、話に聞いてた通り楽しい人だなって」

「そいつはどーも」

ぶっきらぼうに言ってアイスティーに口をつける。

どうも人にそういうことを言われるのは慣れない。

「で、それはそうと桧月は例の奴頼んだのか?」

「ううん、まだ。俊くんがいないときに頼むのもアレだし」

「だったらいい加減頼めば?別に遠慮するようなことでもないだろ」

変なとこで律儀な奴だ。どーせ、俺が奢ることには変わりないのだから気にすることもないだろうに。

「なになに?例の奴って?」

「あぁ、借りたノートのお礼にパフェを奢ることを強要されてるんだ」

「俊くんもあまり人聞き悪い言い方しないでくれる?」

「内容は合ってるから問題ないだろ」

「だから言い方が悪いんだってばっ。いつわたしが強要したのよ?」

「昨日」

俺はきっぱりと言った。

「それに人聞きもなにも、どーせみなもちゃんだって桧月の本性ぐらい知ってるだろ」

素知らぬ顔でアイスティーをすする。

「あはは。俊一さんの言うとおりですね」

「ち、ちょっとっ、それってどーいう意味!?」

「言葉どおりだ。な?」

「そうですね、言葉どおりです」

みなもちゃんと二人でもっともらしく言う。

「もうっ・・・二人して知らないっ!」

「くくっ」

「あははっ」

拗ねる彩花の様子にみなもちゃんと二人で笑い合う。

「ま、拗ねるのもいいけど頼むなら早くしろよ?みなもちゃんもなんか頼めば?」

そういって二人にメニューを手渡す。

「俊一さんのおごりですか?」

「・・・・・・いや、それはちょっと・・・・・・できればぁ・・・勘弁してほしいかなぁ・・・と

目をキラキラさせて聞いてくるみなもちゃんに弱気になってしまう。

自慢じゃないが俺はそんなに金あるわけじゃないぞ。

「じゃ、みなもちゃんのパフェはわたしが奢ったげる」

「そう?じゃあ、わたしは俊一さんにパフェを奢って上げますねっ」

「・・・・・・なんかそれ、間違ってないか?」

だったら初めから自分の分は自分で出せばいいのでは・・・。

「いいんじゃない?こーゆーのは気持ちが大事なんだから」

「そうですよ。細かいことは気にしちゃダメですっ!」

そーゆーものなのだろうか。

「ま、いいけど・・・」

二人が、メニューを見て選んでいるのを眺めながら思った。

この流れだとパフェじゃなくてもっと腹に貯まるものを食べたいないぁ、と思ったがとてもそんなことは言えそうにない。

「ほら、俊一さんも選ばないとダメですよ。このマロンパフェなんてどうですか?」

「え、こっちのフルーツパフェとかも美味しそうじゃない?」

楽しそうな二人を見てるとまぁ、いいかと思える。なんだかんだで俺もお人好しなのかもしれない。

・・・・・・・かったるい。

 

 

 

 

そんなこんなで俺が桧月、桧月がみなもちゃん、みなもちゃんが俺の分のパフェ代とそれぞれのドリンク代を出し合って、会計を済ます。

ちなみに桧月がチョコレートパフェ、みなもちゃんが抹茶パフェ、俺はフルーツパフェ。

別に俺がフルーツパフェを選んだのは桧月に進められたからではないのでそこんとこ誤解のないように。

「・・・・・・どーも、やっぱり違和感があるな」

駅への道を3人で歩きながら首をひねる。

「うふふっ」

「何がおかしい?」

一人で含み笑いを浮かべる桧月に俺とみなもちゃんは首をかしげる。

「昔ね、智也と唯笑ちゃんとも同じようなことしたこと思い出したの」

「同じようなことって・・・・今みたいにそれぞれに奢ったってことか?」

「うん。そのときはたこ焼きだったけどね。3人が別々に買って、智也がわたしに、わたしが唯笑ちゃん、唯笑ちゃんが智也にそれぞれ買ってあげたんだ」

「・・・・・・それってやっぱり意味ないんじゃ」

「だから、こういうのは気持ちが大事ってことですよ。俊一さん♪」

「そういうこと」

「「ねー♪」」

二人してハモらなくてもいいってば。

「はいはい。じゃ、そーゆうことにしときますか」

確かに二人の言う通り気持ちが一番大事なのかもしれない。

実際、結果的には無意味な行為だとしてもそう悪い気分ではないのだから。

こういう気分はかなり嫌いじゃない。

 

 

「俊一さん、今日はありがとうございましたっ」

電車に乗ったとたんみなもちゃんはいきなり言った。

「いや、俺は特に何かした覚えはないんだけど・・・」

むしろパフェを奢ってくれた分だけ俺のほうが礼を言わなければならないのではないだろうか。(一応会計する前に言ったけど)

「そんなことないですよ。俊一さんのおかげでとても楽しく過ごせましたよ」

「それなら、いいけど…さ」

普段、そんなことを面と向かって言われることなどないので流石に照れる。

そもそも帰宅部で委員会にも積極的でない俺は違う学年の子と接する機会も極端に少ない。

年下の子とこんなに話したのは初めてな気もする。

「今度は智也さんや唯笑ちゃんも一緒にでかけましょうねっ」

別れ際にみなもちゃんが言った言葉を何度も思い出してしまう。

みんなで一緒に・・・・か。

基本的に団体行動は苦手だがその面子ならかなり悪くないと思う。

結局その日は帰った後も来週に控えたテストのことなど一度も思い出すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 04/06/23

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まぁ、今更なんですけど元気な彩花を書いてるのはやっぱ楽しいです。

詩音とか小夜美さんなんかと掛け合ってる日常なんかも早く書きたいですね。

んで、明日は最新作のそれからの発売日。

最近のオフィシャルのTOP見てるといのりが激しくなツボな気がして仕方ありません(笑)