Memories Off Another

 

 

 

 

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学校の屋上。

屋上と校舎の中をつなぐ出入り口の上。

そこが俺専用の特等席だ。 

寝転んだまま、空を見上げ雲の流れを見守る。

気持ちの良い日差しを浴びながら目蓋を閉じる。

思い浮かぶのは桧月の笑っている顔。

そしてこの前の夜の公園で一瞬見せた寂しげな表情。

瞳を閉じたまま心地よい風に身を委ねる。

俺は桧月のことが好きだ。

同じ高校に入って、進級してクラスが一緒になって、桧月との距離は近くなったとは思う。

だけどもあいつの中には智也がいて今坂がいて。

そして智也の中にも桧月がいて・・・今坂がいる。今坂も同じように智也と桧月がいる。

あの3人と同じ場所にいても心は埋めようの無い距離にある。

近くて遠い。

(・・・・・・・・・かったるいこと考えてるな)

心の片隅でそう思う。別にそれは今改めて感じているわけではない。

今まで何度と無く感じてきている。

誰よりも桧月に近い場所にいたい。

けど今その位置にいるのは智也で。

俺はスタートラインにすら立てていない。それが悔しくもあり寂しい。

あいつら3人ともそれぞれが想いあっているのはよくわかる。

そして互いが想い会っているがゆえに幼馴染という一線を越えられずにいる。

その一歩を超えて、今の関係が崩れるのを恐れて。

それが傍から見ていて苛立たしいときもある。

俺が苛立つその理由は多分シンプルで情けないものなんだろう。

智也が今坂とくっつけば。

そうすれば俺は桧月との近くて遠いこの距離を越えられるかもしれない。

そう思っている。

けれどそれは少なからず桧月が悲しい想いをする。

そんな桧月は見たくない。だからあいつを応援したいとも思っている。

相反する感情。矛盾。

そんな葛藤を幾度となく繰り返してきた。

もちろん俺が自力でこの距離を越えることができればそれが一番良いことはわかってる。

だけどそれは容易ではなく、その方法すら今の俺には見つけることができない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・それが一番情けない。

答えの無い迷路でさまよっている気分だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

風と日差しに身を委ねて思考を停止した。

どうせ今考えても答えなんか出せやしない。

・・・・・・・・そのまま俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

どのくらい眠っていただろうか。

寝ぼけ眼をこすりながらゆっくり身を起こす。

・・・・・・・・・・・何時だ、今?

起き上がって携帯で時間を確認する。

・・・・・・10時を廻っている。

「2時間目の真っ最中ってとこか・・・・」

軽く伸びをして体をほぐす。

人間一度、綻びができるとどうでもよくなるものらしい。。

遅刻ゼロの記録が止まるともはや2度目の遅刻などなんのためらいもなくなる。

例によって授業中に入るのは目立ってかったるいので屋上で時間を潰して眠りこけていたら2時間目ですよって感じだ。

我ながら図太い。

まぁ、この2時間は英語とか現国とかノートを借りればどうとにでもなる教科ばかりだからできるのだが。

「・・・・・・かったりぃ」

風を全身に浴びながら再び寝っ転がる。

まだ眠気が残っているためすぐに教室に向かう気にならない。

チャイムがなるまで5分ぐらいある。それまでこのままでいよう。

「・・・・・・・・・・・・・」

そのまま静かに空を眺める。

空を眺めているとさっきまで悩んでたことがどうしようもなくちっぽけに感じる。

今はこのままでもいい。なるようになれ、だ。

そう思ったら途端に気が楽になった。

我ながら単純な思考だ。

「・・・・よしっ!」

勢いをつけて再び起き上がる。

何事も気の持ちよう。

鞄を持ち、気合を入れて建物の上から飛び降りる。

「・・・・・・・・・・こいつもまだ寝ていたか」

俺の視線の先には俺よりも先にここに来ていて、未だにベンチの上で惰眠を貪る男、三上智也。

「・・・・・・・・」

一応は割り切ったものの、人の悩みも知らずに寝ている能天気な顔が微妙に腹が立つ。

もちろんそれが単なる俺の逆恨みだというのは百も承知だ。

だが、それで納得できるほど俺は人間できちゃいない。

俺はカバンから一本の油性ペンを取り出す。

 

キュッキュッキュッ

 

「・・・任務完了っと。さ、勉学に励みますか」

2時間目の終了を告げるチャイムがなると同時に俺は教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

休み時間の喧騒に包まれている教室に何事もなかったかのように入っていく。

基本的に遅刻をしていなかった俺をクラスメイト達は珍しそうに声をかけてくが適当に挨拶を交わして自分の席へと向かう。

「よっ」

「あ、俊くん」

自分の席に行く途中で俺に気づいた桧月に手を挙げて応える。

「おはよ。どうしたの、今日は?」

「寝坊」

「・・・・・・・テスト前に2時間も休むなんて余裕だね」

「現国と英語だからな。ノートさえあればどうとでもなる」

ついでに言えば現国の勉強など漢字の小テスト以外で自宅で勉強をした覚えがない。

高校受験の時にすら勉強しなかったというのがささやかな俺の自慢だ。

以前、桧月にそれを自慢したら「それ、根本的に間違っているから!」と即突っ込まれた。

「と、いうわけでノート貸してください」

潔く頭を下げる俺。

「・・・・・・もう、しょうがないなぁ」

2年生で同じクラスになって以来、毎度のことなので桧月のほうも俺のリアクションは予想していたのだろう。

呆れたような顔をしながら2冊のノートを差し出してくる。

「さんきゅ」

差し出されたノートを受け取ろうと伸ばした手が虚しく空を切る。

「そ・の・か・わ・り・・・♪」

一度は差し出したノートをヒラヒラさせながら桧月が怪しい笑みを浮かべる。

「商店街にね、美味しいパフェがある喫茶店があるんだよねー」

「・・・・・・喜んでお供させていただきます」

ノートを借りるたびにこうやって何か奢らされるのもやっぱりお約束なわけで。

ま、どうせ高いものではないし、桧月と一緒にいられる時間が増えるから俺としては損するわけではないのだが・・・。

悲しいかな。二人きりで行くことなんてそうそうなく大抵は余計なオマケ(智也とか今坂とか信とか)がもれなくついてくるわけで。

・・・・・・我ながら物凄く情けない気がしなくもない。

「こちらこそご馳走様ですっ。あ、そうそう現国は宿題も出てるから今回だけはちゃんとやっといたほうがいいよ」

「今回だけは」にアクセントをつけて宿題の説明をしてくれる。

「・・・・今回だけは・・・・って何で?」

「やってくれば無条件でテストの点数に20点プラス」

「了解した」

宿題の量は普段と比べて膨大だったがそれで20点を得るのならば安いものだろう。

いかに実際のテストで点を取ろうとも20点の差はでかい。

「一応いっておくけど、次の現国は明日の一時間目だから誰かに写させてもらおーなんて、考えないほうがいいよ」

「・・・・・・だな。さすがに俺もそこまで抜けてないから安心してくれ」

この量を学校に来て一時間目が始まる前に終わらせるのは絶対無理。

家で真面目にやるのが良策だ。

「つーか、これやってこない奴いたら正真正銘のアホだな」

「・・・あはは・・・・・・・・ハァ」

桧月が呆れたような疲れたような笑いを浮かべてこめかみを押さえる。

「・・・・・・もしかしなくてもいたのか?」

無言でうなずく桧月。

正真正銘のアホはどうやら身近に存在したらしい。

まぁ、改めて確認するまでもなく屋上で寝ているあのアホのことだろう。

「桧月も気苦労が耐えないな」

アホの幼馴染を持つというのも中々大変らしい。

 

 

 

 

昼休み。

チャイムが鳴っても授業は終わらず延長戦へと入っていた。

だあぁーっ。俺のパンが!

(さっさと終われっ!)と教科担任に思念波を送っていると思念波が届いたのかようやく授業が切り上げられた。

急いで購買にダッシュしようとしたところに今坂が教室へと入ってきた。

「彩ちゃん、俊くん。二人とも智ちゃん見なかった?」

「智也?朝、唯笑ちゃんたちと別れてから見てないけど・・・。どうかしたの?」

「うん、それがね、智ちゃんホームルームの時にはいたのに一時間目からずっといないの」

「・・・・・・・昼休みになってもか?」

屋上での光景を思い出しながら尋ねる。

「うん・・・・鞄はあるから学校のどこかにいるとは思うんだけど」

多分間抜けなツラをして屋上で寝ている。

さて・・・・智也のこと教えようか、やめようか。

教えて桧月と今坂二人で智也を責めるのも見るのも楽しそうだ。

仮にこのまま放っておいたら放課後まで寝てそうだ。学校に来ていながら全授業を欠席。大したネタだ。それはそれで面白い。

そして俺は後者を選択した。

「まぁ、見かけたら教えてやるよ」

「うん、お願い」

「まったく智也ったら・・・・テスト前に授業サボるなんていい度胸してるじゃない」

桧月のほうはご機嫌斜め。

鉄拳制裁確定でしょうか。

「じゃ、彩ちゃん。早くいこっか」

「うん、そうだね。あんまりのんびりしてるとお弁当食べてる時間なくなっちゃうもんね」

そういって桧月は自分の鞄から弁当箱を取り出して立ち上がる。

よく見ると今坂のほうも弁当箱持参のようだ。

「なに、ほかで食うの?」

「うん、友達と一緒に食べる約束してるんだ」

「ふーん」

じゃ、また後でねと言い残し、桧月達は教室を出て行く。

それを見送って何気なく視線を時計に移す。

そこで俺は致命的な過ちに気づいてしまった。

・・・・・・・・・・・・購買、余計に出遅れてるじゃん。

 

 

 

 

 

半ば絶望にも似た感情を抱きつつも購買へと赴く。

「お、少年。今日は随分おそかったねぇ」

小夜美さんのほうは常連と化している俺のことはきっちり覚えてくれているようだ。

「えーと、まともなパン・・・・・残ってます?」

結果は判りきってはいるものの念のため聞いてみる。今からコンビニにいくのはかったりぃなぁ・・・・。

「はい、340円。ありがたく受け取っておきなさいよ」

「おろ?」

予想に反して小夜美さんはなんなく紙袋を差し出してきた。

340円というのは俺定番のメニューであるカツサンドとウインナーロールの合計金額。

「・・・もしかしなくても取り置きしておいてくれたとか?」

「ふふっ、条件はわかってるよね、しょーねん♪」

紙袋をチラつかせながら小夜美さんが不敵に笑う。

なんかさっきも同じようなことがあった気がするが・・・・・・。

「任務了解・・・・・・いつ?」

「木曜あたりにお願いしたいんだけど。平気?」

えーと、木曜ならバイトはないし、今のとこ予定もない。

「オッケーっす。じゃ、はい500円」

「交渉成立ね。約束忘れないでよね」

おつりと一緒に紙袋を受け取る。

うん、念のため、中身を確認してみるがまさしく、ウインナーロールとカツサンド。

「大丈夫っすよ。じゃ、明日以降もよろしくお願いします」

「そっちもね。毎度ありー」

どうやら明日以降の昼飯は平穏な日常を約束されたらしい。

それはともかくとして・・・・・何処で食おうか。

こう天気がいいのに教室で食うのもなんか勿体無い。・・・・・桧月もいないし。

屋上もさっきいったのにまた行くのもなんかアホくさい。

「・・・・・・・・・・・・グラウンドもアリかな」

そうと決まればさっさといくか。

・・・・・・・・・・・そういえば前にあの場所で双海さんを見かけたっけ。

図書室での出来事を思い出す。

また会えるかな?

そこはかとなく期待しながら俺はグラウンドへと向かった。

 

 

 

 

 

なんとなく期待はしていたものの、本当にいるとは思ってなかった。

「よっ」

俺が声をかけると彼女は読んでいた文庫本から顔を上げる。

「こんにちわ」

初めて会ったときのような無表情な顔だったがちゃんと挨拶を返してくれたことにホッとする。

どうやら俺のことは覚えていてくれたらしい。

さすがにあの出来事のあとに「どちらさまでしょうか?」なんて言われたら思いっきり凹む。

一応、隣に座っていいか聞いてみると、双海さんは「どうぞ」と言ってベンチの端のほうへと寄ってくれた。

俺はパンの袋を開けながら人一人分の隙間をはさんで双海さんの隣に腰を下ろした。

「俺のこと覚えてくれてたんだ?」

「はい」

双海さんは俺の質問に一言答えてくれただけでそれ以上は話すことなかった。

むー、最初のときみたいに無表情に戻ってるし振り出しに戻ったのかなぁ。残念。

「・・・・・・・・ぶつけたところは大丈夫でしたか?」

とか、考えていたら双海さんから話しかけてくれた。

双海さんから話を振ってきてくれたことに若干の驚きと喜びを感じつつ、俺は返事を返した。

「問題なし。ガキの頃、柱時計が頭に直撃しても平気だったからな」

「は、柱時計・・・・?」

何気なく振った話題だったが、弁当を食べていた手を止め、意外と双海さんは驚いた顔をしてくれた。

「そ、これくらいのやつ」

そういって両手で60cmぐらいの幅を作ってみせる。

「そんな大きさのものが頭に直撃・・・・・したの・・・・・ですか?」

「ああ、小学校一年か二年の時だったかな?壁にかかっていたものがこうガツンと」

双海さんはなんとも言えない表情で絶句する。

なんだろう、この心地よさは。

前の図書室のときといい他人の無表情を崩すのって凄く楽しい気がする。

それになーんか今微妙に言葉遣いに違和感が合ったような。

取ってつけたように敬語にした感じがするが。

「それで・・・なんともなかったの・・・・?」

「ああ、まったくもって平然と。おもいっきりケロッとしてた気がする」

「ま、そんなわけで昔から頑丈にできてるわけだ。トラックに轢かれても怪我で済んだしな」

2年前のことを思い出す。

「ト、トラック!?」

双海さんの顔がさらに驚愕に彩られる。至って普通の反応だ。

「ああ、2年前にちょっとな。全治二ヶ月で一ヶ月の入院だ」

現場を見た警察の人は生きてるのが奇跡とか言ってたっけ。

我ながらよく生きてるもんだ。普通は死ぬ。

「悪運の強さはズバ抜けてるらしいぞ、生まれつきな」

ニヤリと笑ってみせる。

双海さんの顔は驚きで一杯という感じで最初の無表情な顔は欠片も残っていない。

「それ、笑って話すことなんでしょうか?」

「今、こうして生きてるからな。だから笑い話にもできるし、双海さんの無表情も崩せた」

「えっ・・・・あ」

俺の言葉にハッとしたように双海さんは顔を抑える。

その仕草に再びニヤリとする俺。

それに気づいた双海さんは顔を赤くしながらそっぽを向く。

「・・・・・・知りませんっ」

再び無表情を装って自分の弁当を食べ始めるが顔は赤いまま。

拗ねた感じが凄く可愛い。

「くくっ」

その様子を横目で見ながら大声で笑い出しそうになるのをこらえ、パンの袋を開ける。

 

キンコーン  カーンコーン

 

昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。

「・・・・・・・」

「昼休み、終わりですね」

呟く彼女を見ると既に弁当箱を片付けて立ち上がるとこだった。

「・・・・・・・」

袋を開けたパンに視線を戻す。

まだ、一口も食ってないぞ。

「早く戻らないと授業に遅れますよ」

そんな愕然とした俺の様子を見て双海さんは一瞬、クスッっと笑って歩き出す。

慌てて俺もその後を追い、歩きながらパンを口に詰め込む。

・・・・・なんか、微妙に敗北感を味わっているのは俺の気のせいだろうか。

と、いうか客観的に見て今の俺、どうみてもピエロ入ってるよな・・・・。

「なんか・・・双海さんの顔がとても楽しそうに見えるのは俺の気のせいかな?」

「気のせいですね」

「・・・・・・ま、いいけどさ」

速攻で否定された。

確かに顔は無表情を保っているように見えるが、絶対にその目は俺の様子を楽しんでるとしか思えなかった。

「じゃ、俺はここだから」

自分のクラスの入り口で双海さんに別れを告げる。

「はい、ごきげんよう」

「・・・・・・・ごきげんよう」

前のときもこんなやり取りをした気がする。

彼女にとっては「ごきげんよう」が標準の挨拶なのだろうか。

振り返りもせず去っていく双海さんを見つめながらそんなことを考えてしまった。

 

 

 

 

自分の席に着くと同時に本鈴が鳴る。

パンはなんとかここにくるまでに食べ終えたので残った食後のお茶を堪能する。

次の授業の先生はチャイムがなって5分ぐらい過ぎてからくるので若干余裕がある。

「しゅーんくん♪」

「・・・・・・・・何よ?」

桧月がやたらとニヤニヤした顔で話しかけてきた。

なんか、ものすごーくい〜やな予感するんだけど。

「あのさ、明日の放課後ってなにか予定ある?」

「明日?いや、別に予定ないけど」

「じゃ、さっきのパフェの約束。明日でいいかな?」

「ん、全然オッケーだ」

「それじゃ、よろしくね」

「了解」

全然大した話じゃなかった。警戒して損した。

「それとぉ・・・俊くん、この前遅刻したとき、一年生の女の子と一緒に学校に来たんだって?」

ブフッ

予想外の一言に俺は飲んでいたお茶を危うく吹きそうになった。

「ゲフッ!ガハッ!ゴフッ!」

おまけに油断していたせいでおもっいきりむせた。

「大丈夫?」

「・・・・・・誰のせいだ」

つーかどっからその情報を聞いた。

むせた苦しさで涙目になりつつ、おもいっきり恨みがましい目つきで睨んでみる。

「んふふー、そんなに照れなくてもいいじゃない。その子の荷物まで持ってあげたんでしょ?」

何故そんなことまで知ってる。

そこら辺追求してみようと思ったが下手に突っ込むとやぶ蛇になりかねない。

「・・・・・・・・忘れた」

桧月のやたらと楽しそうな顔が非常に不愉快でそっぽを向いて答える。

「あはは、俊くん、顔真っ赤だよ?良いことしたんだからそんな照れなくてもいいのに」

「・・・・・・・」

「俊くんて、普段は無口でぶっきらぼうを装ってるけど、実は困ってる人放って置けないタイプなんだよね〜」

別にそんなんじゃない・・・・・俺は自分がやりたいようにしてるだけで、そいつが困ってるかどうかは問題じゃない。

それに困ってれば誰でも助けるわけじゃない。あくまで気が向いたときだけ・・・・・・・・・と、言おうと思ったが絶対に茶化される。

「・・・・・・・知るか」

桧月の視線に耐え切れなくなって俺は机に顔を伏せる。

ふて寝してやり過ごすことにした。

「んふふー」

顔を伏せて目を閉じても桧月の笑い声が聞こえてくる。

・・・・・・こいつ、ぜってぇ楽しんでやがる。

物凄く面白くないぞ。

くそぅ・・・・・どっから情報漏れたんだ。

 

 

 

 

 

放課後、HRが終わって帰り支度をしているとその声は突然聞こえてきた。

「あーやーちゃーん!」

「あ、唯笑ちゃん」

やっぱ、来たか。

教室に入ってくるなり、桧月の席へ真っ先に向かってくる。

俺は自分の席に座って成り行きを見守る。

「智也、まだ見つからないの?」

「うん、そうなの!放課後になっても全然帰ってこないんだよぉ・・・」

「・・・・・・屋上は探したか?」

「え?」

「屋上。今まで何処探してたんだよ?」

「ん、とぉ・・・・保健室とか空き教室とか、校庭」

指を折りながら答える今坂。

なるほど、確かにサボりやすそうな場所ではあるがまだまだ今坂は甘い。

こんな天気が良い日は屋上こそがもっともサボるのに適しているというのに。教師の見回りもまず無いしな。

まぁ、今坂本人はサボりとは無縁だろうからそういう発想はあまりできないのだろう。

「なら、屋上は探してないんだろ?俺も付き合うから行ってみようぜ」

「あ、うん。ありがと、俊くん。いこっ彩ちゃん」

「う、うん」

 

 

 

 

「・・・・ねぇ、二人とも・・・・智ちゃん、もしかして朝からずっとここで寝たのかなぁ?」

3人で屋上で未だに睡眠をむさぼり続ける男を前に今坂が途方に暮れたように呟く。

「もしかしなくてもそうだろうなぁ」

素知らぬ顔で同意する俺。実は必死で笑いを抑えてたりするけど。

「・・・・・・・はぁ」

呆れてものも言えないらしい桧月。

が、すぐに物凄く不機嫌そうな顔になって顔を上げる。

ズサッ!

その勢いに思わずあとずさる俺と今坂。

「ふふふ、せーっかくわたしが遅刻しないように苦労して起こしてあげたのに。
 智也はこーんなとこで一日中、惰眠を貪ってたんだぁー♪」

顔は笑っている。

だが、目と声が笑ってねぇ。

「彩ちゃん・・・・・その笑顔・・・・物凄く怖いんだけどぉ・・・・」

コクコク

言葉もなく今坂の言葉に首を振る俺。

「んふふ、とーもーやぁー」

笑顔のまま智也に近づく桧月。

「起きなさい」

そして下された死の宣告。

「ぐほぉっ!?」

「うわぁ・・・」

「・・・・・・」

智也の鳩尾には桧月の鉄拳が突き刺さっている。

クリティカルヒット!三上智也は999のダメージを受けた。

自分がもし、アレを食らったとしたら・・・・・・・想像するだけでもおっかない。

「あ、あや・・・・か・・・・?」

流石の智也といえどあの非情の一撃の前には目を覚ます以外なかった。

つーか、一撃で瀕死の状態だ。

「おはよー、智也ぁ。ずいぶんぐっすりと眠ってたみたいねー♪唯笑ちゃんがどれだけ探したと思ってるのかしらー♪」

「あ、あの・・・・・彩花・・・・さん?」

「・・・うわぁ、智也の顔真っ青・・・今坂、止めなくていいのか?」

「・・・無理。今の彩ちゃん、凄く怖いんだもん」

「・・・・・・だな」

「おまけに何?その額の肉って言う文字は?人のこと馬鹿にしてるのかしらー?」

「・・・・い、いや、オ、オレには何のことだからさっぱり・・・・」

それは俺が落書きしました。・・・・・・・・・・とは絶対にいえない。

桧月は絶対に怒らしちゃいけないんだなー。

智也、おまえの犠牲は無駄にしないぞ。

「智也・・・・・安らかに逝ってくれ」

そして放課後の屋上では智也の断末魔の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 LAST UP DATE 04/06/17
UP DATE 04/05/23

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智也散る(笑)彩花が生きてる分、このSSでの智也は日常において悲惨な目にあってますねー。

全て自業自得&俊一の陰謀のせいですが・・・・(笑)