Memories Off Another

 

 

 

 

 

 

 

駆ける。ひたすらに駆ける。

致命的なまでの遅れを取り戻すため俺はひたすらに疾走する。

だが、運命の神はそんな俺を嘲笑うかのように残酷だった。

「ハイ、ありがとうございましたー」

「お、遅かったか・・・・・・」

全力疾走の代償として思いっきり体力を消耗してしまった俺は息も絶え絶えに脱力した。

「あ、今日は遅かったねー。たった今、まともなの売り切れちゃったよ」

そんな俺を見ながら別に悪びれた様子もなくさらっという小夜美さん。

くっ、英語の教師がしっかり時間通りに授業を終わらせてればこんなことにはならなかったのに。ちぃぃっ。

「ハァ・・・ハァ・・・残ってるのはまともじゃないという自覚はあるのになんで仕入れるんですかっ」

「え?あ、あはは。まぁまぁ。男の子が細かいことを気にしちゃだダメよ♪」

・・・・・こ、これだから確信犯は。

「あちゃー。やっぱり間に合わなかったかー」

どっかで聞いた声に振り向くと俺に遅れてやってきた飛世が購買にやってきたところだった。

「珍しいな、飛世も購買か?」

「うん、ちょっと朝、寝坊しちゃってお弁当作ってる余裕なかったんだよねー」

「なるほど・・・・・けど」

「残りがこれじゃねぇ・・・・」

二人で購買に残ったパンを眺めてため息をつく。

「二人して失礼ねー。嫌だったら食べなくてもいいのよ」

「・・・・小夜美さん。一度でもこのパン食べたことあります?」

「う”」

何故か小夜美さんが顔を引きつらせる。

「そのリアクションもしかして・・・・・」

飛世が聞いてはいけなかったようなことを聞いてしまったようなように顔を引きつらせている。

「・・・・・・・あるんだ。チャレンジャーですね、小夜美さん」

いつ、いかなる理由で食べたのかは知らんが、その勇気は賞賛に値する。

「・・・・・・余計なことを思い出させないでちょうだい・・・・ハァ」

・・・・・・これ以上は深く突っ込むのはやめておこう。

ってか、それでもなお、このパンを売ろうとする理由というか考え方は理解できない。

それよりも問題なのは昼飯の確保だ。今日も朝飯抜きの俺が昼まで抜いて午後の授業を耐えるのはまず不可能だ。

「しゃーないか・・・・じゃ、小夜美さんまた」

「あれ?ドリアンパンとかバナ納豆パンなら残ってるのに、いいの?」

「・・・・遠慮しときます」

さすがにあんなのを食べたら余計に午後を生き抜ける気がしない。俺は智也のようなチャレンジャーにはなれません。

「それは残念。じゃあねぇー」

人の気も知らない小夜美さんに手を振って俺は購買に背を向ける。

「あ、天野。購買は?」

「まともなのは全滅だ」

俺と同じように出遅れたクラスメイトの連中に告げて、俺はそのまま歩き続ける。

「げっ、マジか」

「どーするよ、学食いくか?」

そんなクラスメイトの声を無視しつつ俺は歩行スピードを上げる。

「ねぇ、お昼どうするの?」

俺と同じように購買で買うのを飛世も諦めたらしい。俺の隣に並びながら聞いてくる。

「学食にいくんじゃないでしょ」

俺が向かっているのは学食とは正反対だから当然の疑問かもしれない。

「今からコンビニにダッシュだ」

ちなみに登下校や部活以外で校外に出るのはおもいっきり校則違反だ。

「なるほど。だったら、あたしの分も頼んでも良いかな?」

「は?なんで俺が」

わけがわからん。

「いや、あたしちょっと他のクラスの子に用事があってね。それでコンビニまで行ってる余裕なくて・・・・」

てへへと笑う飛世。まぁ、どうせたいした手間じゃないし、いっか。

「しゃーないな。なに買ってくればいい?」

「サンキュー。じゃ、サンドイッチと適当な菓子パン一個づつお願い。代わりに飲み物はあたしがおごったげるよ」

うむ、悪くない取引だ。

「了解。俺の分はミルクティーで頼む。じゃ、教室でな」

「うん、よろしくねー」

昇降口で手を振る飛世と別れる。

さて、時間がなくなる前にとっとと買ってくるか。

 

 

 

 

教室に戻るとほとんどのやつらが昼飯を食べ終わったあとだった。

「お、随分遅かったな・・・って、コンビニまで行ったのか」

「まーな。流石に俺はゲテモノパンにチャレンジする勇気はない」

自分の席で雑誌を読んでいた相沢に戦利品の袋を見せる。

・・・ちっ。こいつはなんで都合よく弁当持参だったりするかな。

心の中で自分勝手な悪態を吐きながらながら飛世を探す。

俺が声をかけるまでもなく、飛世が俺に気づく。

「あ、お帰り。無事、任務に成功したみたいだね」

「一応な。ほら。270円だ」

いつの間に任務になったのが疑問ではあるが。

飛世にサンドイッチとメロンパンを投げ渡す。

「では、こちらが報酬のミルクティーです」

「おう」

パン代と報酬のミルクティーを受け取る。

「ありがとね、シュンシュン」

「・・・・・・・・・・・は?」

聞きなれぬ単語に思わず聞き返す。

「あだ名よ。あ・だ・な。ほら、俊一だからシュンシュン」

ニヤリと笑って勝手に人のあだ名を宣言する飛世。

「・・・・・・・・却下」

そんな微妙な響きのあだ名なんて嫌だ。

「えー、せっかく10秒もかけて考えたのにー」

「たった10秒かい!」

せっかくもなにもないだろ。しかもそれは考えたのではなく思いついたという。

「まぁまぁ、細かいことは気にしないで。じゃあさ、トシってのはどう?」

「・・・・・・何故?」

由来がさっぱりだ。

「俊一の俊って字、トシとも読めるでしょ?」

だから何?って感じなんだが。

「そもそもなんでいきなり俺のあだ名を決めてんだ?」

「だって、普通に呼んだんじゃ面白くないでしょ?親しい友達をあだ名で呼ぶのはあだ名大魔神としての義務なのよ!」

・・・・・・いや、あだ名大魔神って誰よ?

「あ、あたしのことはととって呼んで良いからね。飛世のとに巴のとでとと。ドーユーアンダスタン?」

「いや、それはいいから。そもそもあだ名大魔神て何よ」

「あたしのもう一つのあだ名。中学時代の親友につけられたの」

ああ、なるほど。前に桧月たちがため息ついてたのはこのことかい。

「とりあえず俺のあだ名は却下させてもらおう」

「えー、なんでー」

あからさまに不満の声を上げる。

「いや、わかりづらいし。普通に短縮して俊でいいだろ」

「ええー、普通じゃつまんないよー」

そんな理由で訳のわからんあだ名をつけられたくないぞ。

「つまらなくていいから。とにかくシュンシュンもトシも却下だ」

「むむ・・・・・・」

「それにとりあえず、飯を食わせてくれ。時間がなくなる」

「・・・う、それもそっか。仕方ないわね・・・・今日のところは俊で妥協しといてあげるわ」

今日のところ「は」ってなんだ、「は」って

「あだ名大魔神の名にかけて絶対にあなたにふさわしいあだ名をつけてあげるんだから!」

「ええぃっ!そんなことに燃えるんじゃないっ!」

「はは・・・・・」

そんな俺と飛世のやりとりを相沢は諦めたような呆れたような苦笑を浮かべていた。

 

 

「ったく飛世のやつかったるい真似を・・・・」

「あはは、災難だったね」

席に戻ると今のやりとりを聞いていた桧月が笑っていた。

「まったくだ。なんでいきなりあんな話になってるんだか」

「まぁまぁ、ととちゃんも悪気があってやってるわけじゃないんだし」

「悪気はなくてもはた迷惑には違いないだろ・・・」

コンビニで買ってきたパンを食べながらため息をつく。

「まぁ、被害者はたくさんいるんだけどね」

「・・・・・・被害者・・・・ねぇ」

前の話だと桧月も相沢もその被害者なのだろう。やれやれだ。

「・・・・そういえば何読んでるんだ?」

桧月の手元にあった本が気になって聞いてみる。

「これ?綾瀬みさきって言う人が描いた漫画。面白いんだよー、俊くんも読む?」

そういって桧月がカバーを見せてくれた本は思いっきり少女マンガだった。

・・・・・・・・・俺が少女マンガ?冗談キツクない?

「いや、遠慮しておこう・・・・」

「まぁまぁ、そんなこと言わずに一度読んでみなよ。絶っっ対!面白いから、ね?」

「いや、でも・・・・」

俺が少女マンガってのは客観的にみて物凄く似合わないと思う。違和感バリバリだ。

「はい、こんど続きもちゃんと持ってくるから」

否応なしにに手渡される一冊。勢いに押され受け取ってしまった俺。・・・・・・マジですか?

「じゃ、読んだらちゃんと感想聞かせてね?」

「・・・・・・・・・・了解」

・・・・・・・・・・・・悲しいかな。桧月にそんな笑顔で言われて断る術を俺は持ってなかった。

・・・・・・かったるいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 04/03/15

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 何気に今日は那由多の誕生日なんですねー。

想君と2ndのキャラの誕生日は荷嶋姉妹以外さっぱり覚えてませんな。

なんで1stのキャラのはきっちり覚えてるんでしょうねぇ、自分は。唯笑がちとあいまいだけど。

 そういえば2ndのトレーディングフィギュアとか出るとか。なんかすっごく今更って気がしますけど。

ちなみに1st贔屓の自分としてはスルーの予定です。