Memories Off Another

 

 

 

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「ふぁ・・・・・」

澄空駅の改札をくぐり抜けながら、あくびを噛み殺す。

うう・・・どうして朝ってのはこう、眠い、だるい、かったるいの3拍子が揃ってるのだろう。

昨日の図書室での出来事を思い出して双海さんに会えないかなと、いつもより5分ぐらい早く家を出たものの、そうそう都合よく会えるはずも無く。

そもそも前に彼女を見たときはめちゃくちゃ早い時間だったんだよなぁ・・・・。

流石に大した理由もなくあの時間に起きるのは拷問に近い。

そんなことを考えていると前方に見知った後ろ姿が3つ。

走ればすぐに追いつくが坂道でわざわざダッシュするのはかったるいので歩行スピードをUPする。

校門前でようやく3人に追いつき声をかけようとするが。

「えぇぇぇぇいっ!全校集会のとき、素っ裸で台上にあがり、やすき節を踊ってやろう」

「ほう」

「え?」

「おおっ!?」

「ほえ?」

いいタイミングで声をかけたのか、いきなり会話に参加してきた俺に驚いてくれる桧月、智也、今坂の三人。

「よっ」

「おはよ、俊くん」

「おっはよ〜」

「しゅ、俊!おまえ、いつからそこに!?」

桧月と今坂はちゃんと挨拶を返してくれるが、無礼者約一名は動揺してそれどころじゃないらしい。

「お前が全校生徒の前で素っ裸でやすき節を踊ると宣言したところからだ」

我ながら面白いタイミングで追いついたと思う。

「是非、頑張ってくれ。俺はお前に期待しているぞ」

そういってポンと智也の肩に手を置く。どういういきさつでそうなったのかは知らんが是非とも見てみたいものだ。

次の全校集会のときにはカメラもきっちりしとかねば。

「ば、馬鹿っ!勘違いするなっ!い、今のは・・・」

俺の手を払いのけ言葉を続けようとする智也に代わり、今坂が補足する。

「今のは、智ちゃんが約束を破ったときにやってくれるんだって」

「・・・・約束?」

「うん、智也が夜中に生物室のガイコツが動くのを見たんだって。それで・・・」

「それが嘘だったらやすき節・・・・と?」

俺の言葉にうなずく桧月と今坂がコクンと頷く。

「・・・・・・・ほほぉう」

自然と頬が緩むのを感じてしまう。朝から面白いネタを見つけてしまったものだ。

「なんだ・・・その目は」

俺の視線にあからさまに嫌そうな顔をする智也。

「いやいや、別にぃ。ただ、次の全校集会が楽しみだな、と」

「だから、それは嘘だった場合だと言ってるだろう!」

「そうそう。智ちゃんがここまで言ってるんだから嘘じゃないよ。ね?」

「おう。当然だとも」

「・・・・・だと良いんだけどね」

桧月の呆れた呟きも俺は聞き逃さない。

「ま、嘘じゃなければいいんだけどな、嘘じゃなければ・・・・で、智也」

「なんだよ・・・・・・」

「言ったからにはやってみせるよな、男として」

緩んだ頬を引き締め真面目な顔で智也に言う。

「だから、それは!」

「ああ、わかってる。嘘だった場合の時だけだよな。だけど約束は約束だ。男として言ったことは実行できるよな?」

「・・・・・・当然だ。男には二言は無い」

よし、今の言葉しっかりと聞いた。

「さっすが智ちゃん」

「いいのかなぁ・・・・・そんなこと言っちゃって」

と、そんなことを話している間に予鈴が鳴り響く。

「やばっ、走るぞお前らっ!」

ここぞとばかりに走り出す智也。

「待ってよぉっ、智ちゃん!!」

「あ、二人とも置いてかないでよぉーっ!」

今坂と桧月に続いて走り出しながら俺はどうやって智也にやすき節をやらせるか・・・そのことだけを考えていた。

 

 

 

 

 

HRが終わった後の俺と桧月の話のネタはやっぱり智也だった

「そもそもあいつが夜中の学校に来る理由がないよな」

「そうだよねぇ・・・・なんで智也ってばすぐにばれる嘘を吐くのかなぁ」

ハァ・・・・とため息をつく桧月。なんか桧月って智也の話題だとため息多くなるよなぁ。

同時に一番楽しそうに話すのも智也のことだったりするんだけど。・・・・・・・・・・それがちょっと辛い。

「それに騙される今坂もらしいというか、なんというか。単純だな・・・」

「あはは、でもそこが唯笑ちゃんのいいところなんだよ」

天然もあそこまでいくとレッドゾーンギリギリだと思うのは気のせいだろうか。

「いいとこ・・・ねぇ。否定はせんがもうちょっとなんとかしないと先行き不安な気がするぞ。かなり」

将来真っ先に詐欺に引っかかるタイプだぞ、アレは。

「例えば押し売りのセールスとかに不良品を買わされたりとか・・・・」

「・・・・・・」

「安くもない品物をお買い得品ですと言われて定価より高い値段で買ったり・・・・」

「・・・・・・」

「今坂ならおもいっきりあり得ると思うけど?」

「あ、あはは・・・・・それは・・・・・ちょーっと否定できないかなぁ・・・」

「「・・・・・・・・」」

沈黙。

「だ、大丈夫だよ。唯笑ちゃんだってちゃんと成長してるんだから」

「・・・・・・むー」

桧月の言葉に首をかしげる俺。

少なくとも俺が見る限りは初めて会ったときから精神的に成長してるようには見えない。

「それにほら、唯笑ちゃんて、人を見る目は確かちゃんとあるから」

「・・・・・・そうなのか?」

「うん。だから大丈夫」

桧月は自信たっぷりに答えて少し考え込んだ。

「・・・・・・・・・・・・・多分」

前言撤回。自信があるのかないのかかなり微妙なとこのようだ。

俺は今坂の将来に若干の不安を覚えずにいられなかった。

友達として今坂が詐欺とかに遭わないことを祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 04/03/14

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