Memories Off Another

 

 

 

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はぅ・・・・かったるい。

電車に乗ってボケーッと窓の外の景色を眺める。

昨日家に帰った後、何気なく始めたゲームにハマってしまったせいで睡眠不足なのだ。

・・・・1ステージだけで終わらせるつもりだったのに。ああ、眠い。

ギリギリ始業のチャイムに間に合う電車に乗り込むため、朝かららしくもなく走ってしまった。

中学の一時期はクラスの遅刻王の異名をとった俺だが、高校に入ってからの遅刻数はゼロ。

別に皆勤賞を狙っているわけではないので欠席はしているが、遅刻ゼロだけは未だに保ちつづけている。

・・・・・・・別に威張るほどのことでもないが、俺としてはそうそう簡単にこの記録に穴を空けるつもりはないのだ。

ついでに欠席の9割がただのサボリなのは秘密だ。

そんなことを考えているとアナウンスが駅の到着を告げる。

あたりを見回すと澄空の生徒たちが早々と降りる準備をしている。

中には広げていたノートを鞄にしまったりする子も。まったく電車の中でまで勉強とはご苦労なことだ。

「・・・・おろ?」

降りようとしたところで一人の女生徒が未だに席に座っているのに気付いた。

広げたノートを懸命に見ている。ツインテールの髪をリボンで束ねた、パッと見なかなか可愛い子だ。

・・・・・駅に着いたのに気付いてないな、ありゃ。

しゃーない。可愛い子だし教えてあげるか。

男だったり、可愛くない子の場合はどうするんだとかいう突っ込みはこの際無しで。

しかし駅に着いたのに気づかないとは鈍いのか集中力が高いのか。

俺はその子の前まで行って声をかけた。

「なぁ、駅に着いてるよ?」

「え?」

女の子が俺の声に顔を上げた瞬間。

 

プシューッ ガチャッ

 

あ。

無情にも閉まる電車のドア。

くぁ・・・・・し、しまったぁ。

これで遅刻確実ではないかぁぁ!

つーか、今日に限ってやけに閉まるの早くないか!?

「あの、何か・・・・?」

声をかけた女の子は俺のことを不審そうな目で見上げている。

つーか、電車降り過ごしたことには全く気付いていないらしい。ある意味大物かもしれない。

なんか俺ってもしかしなくても、もの凄く間抜けなことをしている気分になってきた。

「・・・・・いや、なんと言うか・・・澄空駅過ぎたよ?」

「え?」

俺の言った言葉の意味が理解できないらしく、きょとんとする女の子。

「キミ、俺と同じ澄空だろ?澄空もう過ぎたわけなんだけど・・・・」

「え?え?ええっ!?」

ようやく事態を理解してくれたらしくあたふたする女の子。

「それ、ダメじゃないですか!?」

「おう、ダメだな」

「遅刻ですよ!遅刻!」

「うん」

「あなた、何してるんですか!?遅刻ですよ!」

「そうだな」

誰のセイデスカ?と突っ込もうと思ったが自分が間抜けなだけだったのでやめておく。

「遅刻です!どうしましょう!?」

「・・・・とりあえず、落ち着けば?」

人間、慌てる人を見ると自分が落ち着くと誰かが言っていたような気がするがまさにそのとおりだな。

混乱している女の子に冷静に対応する自分にしみじみとそう思った。

「え、え?」

「ハイ、深呼吸」

俺が言うとスーハーッと深呼吸する女の子。なかなか素直な子だ。

「落ち着いた?」

「あ・・・はい」

「とりあえず、次の駅で降りて引き返すしかないな」

「そ、そうですね」

むぅ・・・・せっかく遅刻はしないで済むと思ったのに失敗した。どうすっかな。

「あ、あの・・・・」

「・・・・・ん?」

考え込んでるところにおずおずと女の子が話し掛けてくる。

「・・・もしかして、わたしに教えるために電車降りないでくれたんですか?」

「・・・・・・・・えーと、まぁ、そういうことにしておいてくれ」

ホントは少なくとも自分が降り過ごすつもりは全く無かったとは情けなくてイエマセン。

ちょっと、気まずくて頬を掻きながら目を逸らす。

「あ、ありがとうございます。あ、わたし伊吹みなもって言います」

「伊吹さん、ね。俺は天野俊一」

・・・・・何故に電車の中で自己紹介などしてるんだろう、俺は?

「天野・・・・俊・・・一・・・・さん?」

「・・・・・?」

何故か俺の名前を呟いてボーっとする伊吹さん。

「もしもし?」

「・・・・・・」

呼びかけても無反応。

「伊吹さん?」

「・・・・・・えっ?」

彼女の顔の前で手を振ってようやく我に返る。

「いきなりボーっとして・・・・どうしたの?」

「い、いえっ!なんでもないですっ」

「・・・・?なら、いいけど」

「あ、俊一さん、わたしのことはさん付けじゃなくて名前で呼んでくれませんか?わたしのほうが年下ですし」

「そう?じゃあ、みなも・・・ちゃん」

「はいっ!」

何故か嬉しそうに返事をしてくれるみなもちゃん。

いきなり初対面で呼び捨てにすることもできず、ちゃん付けしてしまったが、ちょっと気恥ずかしいような嬉しいような。

でも案外悪くないかも。

信とかは桧月とか今坂をちゃん付けで呼んでいるが同年代の子をちゃん付けで呼ぶにはどうも抵抗があるんだよな、俺は。

その点、みなもちゃんなら年下ということもあって、一度言ってしまえば割とすんなり受け入れらる気がする。

「っと、今度はちゃんと降りないとな・・・・」

「はい、んしょっと・・・」

みなもちゃんは網棚からやたらと大きな四角い鞄を下ろす。

「・・・・随分、大荷物だな?」

「ええ。キャンバスが入ってるんです」

「キャンバスって・・・・・・えーと、絵を描く道具だっけ?」

「そうです。あ、わたし、美術部に入ってるんで・・・・」

「ふーん、そっか」

しかし小柄なみなもちゃんにとっては見るからに大荷物だな。

・・・・ふぅ、しゃーない。

アナウンスが次の駅に着いたことを知らせると、俺は勝手にみなもちゃんの荷物を持った。

「あ」

「さ、いこっか」

ちょっと照れくさい気もするのでみなもちゃんとは目を合わせないで言う。

「・・・あ、ありがとうございます!」

 

んで、俺らはさっさと駅で乗り換えて澄空駅に到着。

「たまには遅刻も悪くないかな」

さすがにどう足掻いても立派な遅刻になるこの時間帯になると澄空の生徒は誰も居ない。

これはこれで中々気持が良い。

「すみません。わたしのせいで俊一さんまで遅刻させてしまって・・・」

「ん?ああ、気にしなくてもいいよ。別に遅刻なんて珍しいわけでもないし」

中学の頃は。

「そうなんですか?実はわたし、昨日も遅刻したばっかりなんです」

「・・・・そうなのか?あんまりそういうタイプには見えないけど」

「えへへ・・・・昨日は朝から絵を描いてたんですけどつい夢中になっちゃって・・・」

「気付いたら学校が始まってる時間になってた、と?」

「はい、そうなんですよ。えへ」

ペロッと舌を出して笑うみなもちゃん。

な、なんか、この子可愛いなぁ・・・。

「そっか、よっぽど絵が好きなんだな」

「・・・・・そうですね。小さい頃からずっと絵ばっかり描いてましたし」

「ふーん」

そんなことを話しながら学校に到着。

「じゃ、俊一さん、色々ありがとうございました!」

ぺこっとおじぎをするみなもちゃん。ツインテールの髪が揺れてなんか可愛い。

手を振りながら去っていく彼女に思わず俺も手を振り返してしまう。

「・・・・らしくないなぁ」

どうもみなもちゃんといると微妙に調子が狂うような・・・・。

・・・・ん?はて、そういえば俺はみなもちゃんに名前しか教えてないよな?

なんであの子は俺が年上だって知ってたんだ・・・・?んー?

・・・まぁ、いいか。

さて、問題はこれからどうするか。

今までは遅刻確定のときはそのまま学校に行かず家にUターンしてサボっていたのだが。

みなもちゃんと一緒にいた以上、そういうわけにもいかず仕方なく学校に来てしまったわけで・・・・。

まぁ、今ならまだ誰にも会ってないし帰って寝るか。

よし、そうしよう。

回れ右をして下駄箱に向かおうとする・・・・・・が。

「あら?天野くんが遅刻とは珍しいですね?もう授業始まってますよ。急いで教室に行ってくださいね」

・・・・・・・くぁ。いきなり担任に見つかった。

担任に見つかった以上はサボるわけにもいかず・・・・。

こうして俺の遅刻ゼロの経歴はあっさりと終わりを告げた。

う、うぐぅ・・・・・。

 

 

 

「あれ?俊くん、遅刻?」

「めずらしいな、なんかあったのか?」

教室に入って自分の席まで行くといつもどおり桧月と相沢が話し掛けてくる。

結局、俺は授業の真っ只中に教室に入るのは目立ってかったるかったので、休み時間になるまで屋上で過ごした。

・・・・・・あまりにも天気が良くてうたた寝をしてたら2時間目も終わる時間だったのは秘密だ。

「あぁ・・・まぁ、なんというかちょっとしたトラブルに巻き込まれてな」

「トラブル・・・って何?」

「それは秘密だ」

桧月の質問に俺は間髪入れず答える。

初対面の女の子に話し掛けて電車を降り過ごしたという間抜けな話を公表できるはずもない。

まぁ、事実だけなら良いお話なのだが、内面的には情けないものがある。

「寝坊じゃなくてか?」

「ふっ、愚か者」

「な、何?」

相沢の愚かな発言を俺は鼻で笑い飛ばす。

「寝坊するくらいで今までの遅刻ゼロに傷をつけるくらいなら家でぐっすり寝とるわっ!!」

「そんなことを偉そうに言わないっ!!」

「・・・・・むぅ」

桧月は毎度毎度、よくも飽きもせず突っ込んでくれる。

「じゃ、何でわざわざ遅刻してきたのかな?」

「お?」

振り返ると飛世がすぐ後ろにいた。

「はおっ、天野くん。昨日はありがとね♪」

「・・・・・何語だ?」

「わたしオリジナルのあいさつ」

「・・・・ほう」

「それで?寝坊したらサボるような天野くんが遅刻なんてどうしたのかな?」

「それは言えんな」

「俊くん・・・・目が泳いでるよ?」

すかさず桧月が突っ込んでくる。

「・・・・・・チッ」

桧月め余計なことを。

どうやって切り抜けるか・・・。

 キンコーン カーンコーン

「おぉ、チャイムだ。さっさと席につかないと」

「・・・・ゴングに救われたわね。覚えときなさいよ」

何故か捨てゼリフを残して自分の席へと戻っていく飛世。

「ゴングじゃなくてチャイムだろ」

「はい、そこッ、余計な突っ込みを入れない!」

「相変わらず地獄耳だな・・・」

と、相沢。そういえば一学期は飛世と席が近くだっけ。

「俊くん、いつの間にととちゃんと話すようになったの?」

「昨日から。俺がバイト中にルサックに来たから。・・・・で、ととちゃんって?」

聞いたことのない呼び名に桧月が補足する。

「巴ちゃんのあだ名。飛世・・・巴だから、苗字と名前から一字づつだって」

「桧月は飛世と仲いいんだっけ?」

教室内で結構話してるのを見たことあるけど。

「うん、このクラスでは結構仲良いほうだよ。同じクラスになったことはないけど、中学一緒だったしね」

「ふーん」

「俊くんはまだととちゃんの被害に遭ってないみたいだね」

「・・・・・何が?」

「・・・はは」

俺の疑問に桧月は苦笑する

なんというかもの凄く疲れたような笑い方だ。

「そのうちわかるよ・・・・ととちゃんの恐ろしさが」

「・・・・・・・?」

結局この後いくら聞いても肝心なことは教えてくれなかった。

相沢のほうも何か被害にあったらしいが教えてくなれないし。

どうも飛世のもう一つのあだ名が関係してるらしいが・・・・何なんだ、一体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 04/01/07

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はい、前半ゲームのまんまです。ごめんなさい(汗)

さて・・・・彩花と祐一はどんな被害にあったか考えないと・・・・アイディアも募集中です(謎)