Memories Off Another

 

 

 

 

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「じゃあ、今日の授業はここまでです」

現国の先生が授業終了のチャイムがなるのと同時に授業を切り上げる。

ミッションスタート。

俺は今まで伏せていた頭を上げ、行動を開始した。

「俊、今日も購買だろ?って、早っ!?」

前の席の相沢が、振り向くが、その時俺は既に教室の出入り口へと到達している。

自慢じゃないが、こういうときの行動の早さなら誰にも負けん。

相沢には構わず、一目散に購買を目指す。

だが、その俺の前に予期せぬ障害が現れた。

「お、天野。いいところにきたな。ちょっといいか?」

通りすがりの数学の先生に声をかけられた。

もちろん俺は即答した。

「ダメです。じゃ」

一瞬、固まった先生が返答する前に俺は速攻で歩き出す。

用事でも頼まれて、目当てのパンの確保に失敗・・・・なんてことになったら困る。

こういうときは有無を言わせない態度で応えるのがベストだ。

そして俺は目的地へと到達した。

幸い競合相手は少ない。

「カツサンドと焼きそばパン一個づつ」

「お、少年。早いねぇ♪え、と・・・・俊一くん・・・・だったっけ?」

「そうっす」

「ハイ、320円だよ」

購買のお姉さんこと小夜美さんは頼んだパンを手早く袋に入れて渡してくれる。

「んじゃ、これで」

俺はあらかじめ用意しておいた小銭を渡す。

「・・・三百・・・・二十円・・・丁度だね。毎度ありぃ」

「じゃ、また明日・・・・」

「おまえ、買うの早いって」

教室に戻ろうとしたところで相沢がようやく追いついてきた。

今日はこいつも購買らしい。

「そんなに焦らなくてもパンは残ってるだろ?」

「俺は何事にもベストを尽くす主義なんだ」

「たかが昼飯ごときに大げさな」

「・・・・・・わかった。お前の今日の昼飯はバナ納豆パンとどりあんパンだな」

「すまんっ、ちょっとタンマ!俺が悪かった!」

「昼飯を笑うものは昼飯に泣くぞ」

「た、確かにここの購買はまともじゃないパンが多いからな・・・」

一学期の頃の悪夢が蘇ったのか、相沢の顔が引きつる。

何を隠そう、賭けに負けた代償として相沢にバナ納豆パンを食わせたのはこの俺だ。

ちなみに一年のときには智也にもバナ納豆パン、そして信にはドリアンパンを食べさせている。

別の賭けに負けてウニとメロンパンを食べさせられたのは別の話だ。

・・・・まぁ、バナ納豆パンに比べれば遥かにマシだとは思ったが。

ってか、罰ゲームに使われる購買のパンっていうのは色々問題があると思うのだが・・・。

「・・・どーでもいいが、そろそろ買わんとまともなのがなくなるぞ」

話し込んでる間に他の生徒たちも購買に群がってきた。

「・・・え、と・・・おつりは180円だよね?え、違う?あ、あはは。ごめんね。
キミは80円・・・。え、120円?や、やーねぇ。サービスよ、サービス♪」

・・・・・・・どうやら小夜美さんは盛大に計算ミスを犯してるらしい。

昨日も俺のお釣り間違えてたっけ。

どうやら昨日俺が感じたとおり技能スキル<おっちょこちょい>を標準装備らしい。

混む前にきて正解だったな。

相沢はその様子をみて慌ててパンの確保に向かった。愚か者め。

そして、相沢が最後に残ってたまともなパンを確保すると同時に智也がやってきた。

「おう、遅かったな」

「あ、智也君・・・だったよね。惜しいね。ちょうど今、まともなパンがなくなちゃったよ」

「まともなパンじゃないのは自覚してるんだ・・・」

「か、確信犯め・・・・」

俺が突っ込むのと同時に智也が恨めしそうに呟く。

智也の意見には俺も同意だ。じゃなきゃ、とてもあんなゲテモノパンは販売できないと思う。

「あはは。まぁ、いいじゃないの。平穏な学園生活に一握りのスパイスを与えてあげてるんだから♪」

「「「・・・・・・・・」」」

小夜美さんは無邪気に笑っていう。

当然俺たち3人はジト目で小夜美さんを見る。

少なくとも俺はゲテモノでまずいパンよりも普通の平穏な食事にありつきたいぞ。

「さ、智也くんはどうするの?嫌なら食べなくてもいいよ」

俺たちの視線をなんら気にすることも無く、しれっという。ある意味さすがというべきなのか。

「うっ・・・・くそっ、あいつに捕まりさえしなければ・・・・」

智也の奴・・・どっかの先生にでも捕まったのか?変なとこで要領の悪い奴め。

「もう、どれでもいいや・・・・」

半ば諦め顔で適当にパンを選ぶ智也。なんか哀れだ。

「さて・・・何処で食う?」

「屋上でいいんじゃないか?」

「・・・・・だな」

とりあえず智也の意見に同意しておく。

別に違うクラスの智也と一緒に食べる必要も無いのだが、まぁ成り行きというやつだ。

相沢と智也も互いに一年のときに同じクラスなので問題はない。

そして俺と相沢は戦利品をゆっくり味わい、智也は愚痴をこぼしながらハズレのパンを食べていた。

・・・・ああはなりたくないもんだ。

 

 

 

 

 

 

「かったりぃ・・・・・」

他の連中がまとまって遊びに行く時に限ってバイトに入ってるんだからついてない。

高校入学当初からこのファミレス―ルサックでバイトしているがこの時期はヒマなことこの上ない。

去年もそうだったが馬鹿みたいに忙しい夏が終わった後は余計にそう感じてしまう。

ああ、かったるい。バイト終了まで30分以上もある。

暇で退屈を持て余しているところに来客を知らせるベルが鳴り響く。

「・・・と、いらっしゃいませー」

店に入ってきた女の子を席に案内しようと入り口まで行く。

・・・・どっかで見たことあるような。

俺が思い出すより先に女の子が先に口を開いた。

「あれ、天野くん?ここでバイトしてるんだ?」

「・・・・・?」

一瞬首を傾げるがすぐに思い出した。

「ああ、飛世か」

ポンと手を叩いて納得する。

そう、彼女は「飛世 巴」。れっきとしたクラスメイトである。

「・・・・もしかして一瞬わたしが誰だかわかんなかったりした?」

鋭い。

「悪いな。俺って人の顔と名前を覚えるのが苦手でな」

開き直って悪びれもなく言う。

俺は元々人の顔を覚えるのが苦手だし、飛世と話す機会もほとんどない。

クラスで目立つほうの飛世でも未だにはっきりと顔を覚えていなかった。

・・・・・・・まぁ、クラス替えから半年も経ってクラスメイトの顔をちゃんと覚えていない奴は俺ぐらいな気もするが。

「ほら、飛世の私服なんて見るのも初めてだし」

「ふ〜ん。ま、いいけどね」

ジト目から一転してにこっと笑う飛世。

うむ、見た目どおり素直で大雑把な性格のようだ。

「じゃ、とりあえずこちらの席へどうぞ」

いつまでも入り口で話し込んでいてはマズイので仕事を再開し、飛世を席まで案内する。

「天野くんってここのバイト長いの?」

「ん、まぁな。一年のころからやってる」

「そうなの?わたし、たまにここに来るけど天野くんのこと初めて見たよ?」

「んー、飛世が来る曜日って決まってる?俺は今まで火,木,金が休みだったんだけど」

「あ、だからかぁ。うん、私が来るのって大体、木曜か火曜だもん」

「なら、そういうことだ」

納得したように一人頷く飛世。

「じゃ、注文が決まったら呼んでくれぃ」

「もう、決まったよ」

「・・・・・・」

早いって。ロクにメニューも見てないじゃないか。

「へへー、実は先週も来たばっかだから次に食べたいものも決まってんたんだ♪」

「なるほど・・・・ご注文は?」

「うん、この和風ハンバーグをスープセットで。それとぉ・・・・」

・・・・何かを期待したような眼差しでこちらを見上げる飛世。

「・・・・・・それと?」

「何かサービスとかしてたりしない?クラスメイトのよしみで」

・・・・・ふむ、今までロクに話したことも無いくせになかなか図々しい。

「ま、飲み物ぐらいならいいけどさ」

「ホント!?サンキュー。じゃ、コーヒーお願い。ホットでね♪」

「了解。コーヒーは先で?」

「うん、よろしく」

 

 

バックヤードに入る前にチラッと飛世を見ると小さく手を振っていた。

俺も小さく手で合図する。

ちょっと話しただけだけど、よく笑うしなかなか憎めないやつではある。

・・・・・まぁ、見た目も結構可愛いほうかな。

俺的飛世の好感度アップ。

コーヒー一杯ぐらいなら安いもんだ。

ドリンク一個ぐらいならオーダーに入れなければいいだけなので俺の負担も全く無い。

もちろん、良い子の皆は真似してはいけない。

 

 

「じゃ、俺上がりますよー」

「はい、お疲れさまー」

バイト仲間達に挨拶してさっさと仕事を切り上げる。

客席のほうを覗くと飛世はまだいるようだ。

こちらには気付くことなく外を眺めている。

一応、一言ぐらい言っておくか?

・・・・・・ま、いいか。

帰り際に外から手でも振ればいいだろう。

 

 

手早く着替えてさっさと控え室から出る。

外から店の中を覗いてみる。

さっきまで飛世がいた席には誰もいなかった。

・・・・・なんだ、もう帰ったのか。

一足違いだったらしい。

 

「わっ!!」

 

「!?」

いきなり背後から大声を出され慌てて振り返る。

「と、飛世!?」

振り向くといたずらっぽい笑みを浮かべた飛世が立っていた。

「へへ〜、驚いた?」

「そ、そりゃ、驚くわっ!!」

お、おのれ・・・・俺としたことが不覚をとった。

「上がるんだったら一言ぐらい言ってくれても良かったのに」

「だからって闇討ちをかける必要はないだろ・・・」

「闇討ちって人聞き悪いなぁ、もう。せっかくお店の人に上がったって聞いて、急いで隠れたのに」

それは立派に闇討ちではないだろうか?

そもそも隠れる必要はまったくないと思うぞ。

「・・・・ま、いいけどさ。もう帰るのか?」

「うん、そのつもりだよ。天野くんは?」

「俺も帰る。飛世は駅まで?なんだったら送っていこうか?」

時間的にもすっかり日は暮れて辺りは真っ暗だ。

社交辞令としても一応聞いてみる。

「う〜ん。せっかくだしお言葉に甘えようかな」

「じゃあ、決まりだな。ちょっと待ってて」

俺は自転車を駐輪所から取ってくる。

「あ、自転車なんだ?」

「ああ、別に電車でもいいんだけどさ。チャリでもあんまり時間変わらないから」

自転車を手で押しながら歩き出す。

飛世もすぐに横に並んでついてくる。

「天野くんはどこに住んでるの?」

「中目町」

「えっ!?中目町なの?この桜峰まで3駅もあるじゃない!?」

ある意味予想通りのリアクションを返してくれる。

「まぁ、確かに駅は離れてるけどな。家からルサックまで直線距離だと短いから電車でもあんま変わんないんだよ」

加えて言うと交通費は電車賃分貰っているので節約にもなる。

「へぇー、頑張ってるんだね」

「そういう飛世はどうなんだ?女子高生が一人でファミレスなんぞにくることも結構珍しいが」

「う・・・・痛いところを突くね」

ハァと溜息をついて一転して表情を変える。

「わたし、舞台やってるんだ。いわば、女優の卵ってとこね」

「舞台?ほう・・・・」

はっきりいって俺には縁のない世界だ。

小学校のころに学校のイベントで1回ぐらい見た程度かな?

「でね、今日は所属してる劇団の練習の帰り道ってわけ。
 両親が二人とも公演でいないから家で一人寂しく食べるのもなんかあれだしね」

「へぇ・・・・それにしても劇団かぁ。なんか凄いな」

「へへっ・・・そうでもないんだけどね。小さな劇団だし、公演をするたびに借金が増えてるんだから」

「ふーん。飛世もなんか役貰ってんの?」

「う・・・・天野くんってさっきから地味に痛いところ突いてくるよね」

「それはどうも。で、質問の答えは?」

「・・・・今のところはセリフのある役は貰ってないのよねぇ」

ハァと疲れたように飛世は溜息をつく。

「森さん・・・あ、劇団の代表の人なんだけどね。その人が厳しくってまた・・・色々と大変なのよ」

「怒鳴られたりとか指導が厳しかったり?」

「そう!怒った時なんか凄いんだよ!机が一個飛んでくるんだから!」

「つ、机って・・・・」

一体何をやったらそこまで怒られるのだろうか。そもそも机は壊れないのか?

と、気付いたらもう駅まで着いていた。

「じゃ、また明日・・・・だな」

「うん、話せて楽しかったよ。それとコーヒーもありがとね。バイバイ!」

「おう、じゃな」

改札をくぐって手を振る飛世を見送る。

・・・・・・・さ、俺も帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 03/12/17

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なんかこのSSだと他のSSより長くなってしまいますね(汗

書くときは一気に書けるんですけどその時間がないのがなんとも・・・・・