Memories Off Another

 

 

 

 

10/3

 

 

・・・・何故に俺はこんな時間に起きているのだろう?

枕元に置かれた時計は午前5時を指している。

寝たのは普通にいつもと同じように1時半頃だったはずだが・・・。

まぁ、こういう日もあるか。

俺が選ぶ選択肢は2つ。

このまま二度寝するか学校に行って寝るかのどちらかだ。

気分的には二度寝を推したいところだが、このまま寝るとまず昼まで起きないのがパターンだ。

そうなると当然、午後から学校に行くのがかったるくなってサボり決定。

・・・・今日の授業はサボるほど面倒な授業多くないんだよな。

どうせサボるならばもっとサボりがいのある日に限る。

・・・・しゃーない、ちとかったるいが学校に行って寝るか。

 

コンビニで朝飯を買いつつ駅へと向かう。

やっぱ朝早い時間だと普段より空気が澄んでるような気がする。

おかげで少しだけ得した気分になる。あくまで気分だけなのが問題だが。

駅のホームについて辺りを見回しても人はまばらでいつもの時間からでは考えられないほどがらんとしている。

ましてや俺と同じ学生なんているはずも・・・

「・・・いるのかい」

しかも俺と同じ澄空の制服を着た女の子だ。

隣の乗車口で熱心に文庫本を読んでいる。

部活の朝練でもこんな早くないだろうし・・・何でこんな時間にいるんだ?

・・・まぁ、俺も人のことは言えんか。

いつまでもその子を見ていても怪しい不審人物と見なされかねないので欠伸をかみ殺しながら大人しく電車を待つ。

そしてさほど待つこともなく電車がやってくる。

しかし、最寄駅から学校までの駅が一駅ってのも微妙な距離だよな。

稀に席が空いていて座れても得した気にならない。

長時間乗って立ちっぱなしよりかは全然マシだけど。

そんなことを考えながら何気なく辺りを見回す。

「・・・・・・・・・!?」

そこで見た光景に一瞬、思考が停止した。

あ、あの馬鹿は何をやっているんだ?

俺の視線の先にはさっきの同じ学校の子がいる。

だが、彼女の前の席には見え覚えのある馬鹿・・・・もとい智也が座っている。

それだけなら何も問題は無い。

肝心なのは智也の姿勢だ。

あろうことかあの馬鹿は前にいる女の子の膝にもたれかかっている。

もしかしてあいつ・・・・・寝てるのか?し、信じられんアホだ・・・。

それに、智也がもたれかかってる女の子も何事もなかったかのように本を読んでいる。

もしかしたらとてつもなく大物・・・・もとい変わった子なのかもしれん。

なんとも奇妙というか変わった光景だ。

お、あの馬鹿が目をさました。

どうやら自分が何をしていたか理解したようだ。みるみる智也の顔色が変わっていく。

その智也の慌てた様子がはっきり言って面白い。ネタには困らない奴だ。

なにやら智也は一人で慌てふためいているが、被害者(?)の女の子のほうは平然としている。

やっぱり奇妙な光景だ。

そして電車が澄空へと到着する。

何事もなかったかのように降りた女の子を我に返った智也が慌てて追いかけていく。

当然、電車を降りた俺も智也に気付かれないように後をつけて改札を出る。

智也が先を行く女の子を呼び止めて何か話してる。

大方さっきの出来事の口止めだろが・・・せっかくなので近くまで行って何気なく立ち聞きしてみる。

智也のほうは慌ててるし、多分ばれないだろう。

・・・・・会話の内容は、というとなんとも間抜けだった。

どうやら彼女は智也と同じクラスで信の隣りの席らしい。

普段教室にいないらしいので智也のほうも知らなかったらしいが、彼女のほうも智也を知らなかったらしい。

そしてお互いに微妙な自己紹介をしつつ、智也がさっきの出来事の口止めをお願いして、

図書委員の仕事で早く来たらしい彼女は智也を置いてさっさと先に学校へと行ってしまった。

智也のほうは会話をあっさりと打ち切られ、なんとなく呆然としている。

さてさて、そろそろ智也くんに声をかけるとしますか。

呆然としている智也の肩を後ろからポンポンと叩く。

「うひゃらおうっ!?」

いきなり意味不明な叫びを上げながら振り返る智也。

その顔には面白いくらい動揺が浮かんでいた。

「やぁ、智也くん。こんな朝早くに奇遇だねぇ?」

俺は腹を抱えて笑いたくなる衝動を抑え、極めて平静に声をかけた。

「しゅ、俊!?お、おまえいつからそこに!?」

一瞬の間を置いて俺は笑顔で教えてやった。

「フッ・・・・最初から♪」

智也の顔が一瞬で蒼くなる。

「マ、マジで?」

「電車の中で智也君が同じクラスの女の子の膝にもたれかかって、爆睡しているとこからきっちりと♪」

「お、終わった・・・・」

道端にも関わらず膝から崩れ落ちる智也。

両手を地面についてまさに人生終わりましたと言わんばかりの構図だ。

「はっはっは。早起きはするもんだな。朝から面白いものを見せて貰った。
信にこれを話したらどうなるかな?今坂や桧月でも楽しいことになりそうだな?」

「た、頼むからそれだけは勘弁してくれぇっ!」

ガバッっと立ち上がる智也。うむ、見てて本当に飽きない奴だ。とても愉快だ。

「いやいや、こんな美味しいネタ・・・もとい楽しい出来事は皆で分かち合うべきだとは思わないか?」

「・・・・くっ。あ、悪魔か、お前は」

「フッ、誉め言葉だな。ああ、そうだ最近ロクなもの食べてないんだよなぁ〜」

「・・・・・・俊一さん。放課後、ワタクシメのおごりで何か食べにいきましょう・・・」

「さすが智也くん。物分かりがいいねぇ。さぁ、学校に行こうじゃないか」

「・・・・・・・くっ」

これで今日の夕飯は確保したも同然。

たまに早起きすると得するものだな。

智也のほうはこれ以上ないというくらい屈辱的な顔をしているが・・・ま、自業自得というとこだろう。

朝からここまでさわやかな気分で学校に行くのは久しぶりだった。

 

 

 

 

「・・・・・・・っし」

昼休み前の最後の授業が終わり、軽く伸びをして気合を入れる。

幸い4時間目の授業はキリのいいところで終わらせようという先生の配慮で5分ほど早く終わってくれた。

「俊くんて授業が終わった途端に生き生きとしてくるよね」

「まぁ、な。昼休みと放課後に備えて体力を温存しているから」

「それで授業中に寝てたら世話無いよ・・・・」

呆れたように桧月は溜息をつく。

桧月と話していると毎度のように溜息をつかれるのは気のせいだろうか?

「ま、それはそれとして・・・・相沢ぁ」

「ん、なんだ?」

「おまえ、今日の飯は?」

相沢はカバンから弁当を取り出してそれを指差す。

今日は弁当持参ということか。

「おまえは購買だろ?せっかく授業が早く終わったんだから混む前に行っとけば?」

「・・・だな。行ってくる」

HRで担任の話だと今日から購買が復活するらしい。

なんでもおばちゃんの代わりの人が来たとかなんとか。

おばちゃんの場合は取り置きを頼んであるので問題はないが、代わりの人だとそういうわけにもいかないだろう。

まともなパンがあるうちに買いに行くのが無難だ。

流石の俺もバナ納豆パンとか、あの妙な形のメロンパンだけは御免だし・・・。

 

 

 

「おろ?」

購買に行くとそこには予想外に若い女の人がいた。

てっきりいつものおばちゃんと同じぐらいの年代の人だと思ってたのに。

俺より2つ3つ年上だろうか。しかも結構可愛い。

「あれ、キミもう授業終わったの?早いんだね」

俺に気付くとその人は気軽に話し掛けてきた。

「え、あ、まぁ。たまたま先生がさっさと切り上げてくれたもんで」

「ふーん。そうなんだ。混む前に来れてラッキーだね。どれにするの?」

「えーと、カツサンドとウインナ―ロールで」

俺はいつも取り置きを頼んでいるものを頼む。

二つとも値段も量も手頃なので俺の定番メニューだ。

って、この人どっかで見たことあるよーな・・・。気のせいか?

「・・・・ちなみにいつものおばちゃんには取り置きを頼んでるんですけど・・・そういった話は聞いてないスよね?」

「取り置き?あぁ」

・・・何故か一瞬の間の後、俺の顔をジーッと見ると納得したように手を叩く。・・・何?

「その目つきだと、キミが俊一くんかぁ。うん。お母さんから聞いてるよ。
目つきの悪い俊一くんって子が取り置きを頼んでるって」

い、いきなり初対面の人間に屈託の無い笑顔で目つきが悪いとかいうか?

そりゃ確かに俺の目つきは悪いけどさ。

「・・・・って、おかあ・・・さん?」

「ウン。あたしの名前は霧島小夜美。お母さんの名前は霧島淑子。ね、苗字同じでしょ?」

「にしたって・・・・あ、あのおばちゃんから出てきたとは思えん・・・」

似てねぇ。ちっともさっぱり似てない。あのおばちゃんの片鱗がどこにも見受けられない。

「あははキミ、はっきり言うねぇ。気に入ったぞ、少年♪」

「それはドーモ・・・」

はっきり言うのはお互い様と、思ったがそれは口に出さないでおく。

「ハイ、カツサンドとウインナーロールだよね?。320円だよ」

「じゃ、400円で」

「400円ということは・・・ええと、はい、おつりの60円?」

「いや80円」

なぜ、こんな単純な計算を間違える?

「あ?あ、あはは、やーねぇ、冗談よ、冗談。はい、80円」

「笑いが乾いてるけど・・・」

「お、男の子が細かいこと気にしないの!」

絶対マジだったな・・・。

「で、取り置きの件は・・・・」

「あぁ、その件なら却下ね。あたしの時は取り置きはしません。不公平でしょ?」

「・・・了解」

そう言われると何も言い返すことができないので仕方あるまい。

「・・・・ちなみにもう一人取り置きを頼んでいた奴のことは聞いてます?」

このもう一人というのはもちろん智也のことだ。

あいつも頻繁に両親が居ないので俺と同じように購買生活だ。

俺が購買で取り置きを頼むようになったのも元々は智也のやつが始めて、俺も強引に頼み込んだからだ。

・・・・・もっともあいつは時々、桧月に弁当を作ってもらっているらしい。

まことに持って羨ましくもあり、腹立たしい。

「うん、聞いてるよ。・・・・智也くん・・・だっけ?大丈夫、その子の分も取り置きしてないから安心していいよ」

「だったら、問題ないです・・・・・・・んじゃ」

「はい、毎度あり。まったねぇ」

やれやれ・・・・・明日からは昼飯の調達が面倒くさくなりそうだな・・・。

 

 

 

「お、随分遅かったじゃないか。購買の人どうだった?」

俺の前の席で弁当箱を片付けてる相沢。

いつものように俺を待つということはしないらしい。

「年上のお姉さんだったぞ。おばちゃんの娘らしい」

「へぇ、おばちゃんの娘・・・・ねぇ」

「結構綺麗な人だったぞ」

「マジか・・・?」

相沢の言葉に俺は頷き、

「恐ろしく似てなかったぞ。ちょっと抜けてるとこはありそうだが・・・パンの争奪戦が厳しくならなけりゃいいんだけな」

あの人が購買やっているなら興味本位のヤロー共がたかりかねん。信とか信とか信とか。

ミーハーな奴がこの学校には多い。

・・・・非常に迷惑な話でもあるが、多少購買の楽しみが増えたのも事実。

「俺も明日は購買覗いて見るか・・・」

「若干天然入ってそうなのも不安要素だけどな」

「そうなのか?」

「ま、見ればわかる」

・・・俺はそれ以上はなにも言わず買ってきたカツサンドを口にする。

明日もまともなパンが食えますように・・・・。

 

 

 

 

で、放課後。

「さ、て・・・・帰るか」

「今日はまっすぐ帰るの?」

HRが終わってさっさと立ち上がると桧月が尋ねてくる。

「いや、智也に晩飯を奢って貰う」

「智也に?」

「そ、朝に会ってちょっと約束をな」

「朝?朝、智也と会ったの?」

ちょっと不機嫌そうな表情になって聞いてくる。ちょっと怖い。

「そうだけど・・・何かあったのか?」

「それがね、智也ったら信じられないことするんだよ!」

いきなり怒り出した桧月に後ずさりながらも話を聞く。

怒った桧月が苦手なのは小さな秘密だ。

要約するとこういうことらしい。

いつも通り智也を起こしに行ったら智也は学校に行った後で既にいなかった。

で、智也のほうは何も言うこと無く出て行ったらしく、桧月のほうはそれを知らず時間ぎりぎりまで
智也を起こそうと窓を叩いていたらしい。

どうりで桧月にしては珍しく遅刻寸前だったわけか。

「本当、信じらんないよね。先に行くなら先にいくで書き置きぐらいしてってくれてもいいのに」

時間ギリギリまで智也がいないのに気付かない桧月も意外にお間抜けだと思うけど。

「・・・・あの馬鹿は」

毎日あの馬鹿を律儀に起こす桧月には感心せざるを得ないが、あの恩知らずめ。

「じゃ、一緒にあの馬鹿をとっちめに行くとするか・・・・」

俺は内心ほくそ笑みながら、桧月と一緒に教室を出た。

 

 

 

智也のクラスを覗くと奴は掃除当番らしく例の転校生にこき使われていた。音羽さん・・・だっけか?

・・・・・・今日は奴の厄日か?

掃除が終わるまで桧月と適当な会話で時間を潰す。

自然な流れというべきか話題は智也のことになっていたが。

「あ、掃除終わったみたいだね」

「・・・みたいだな」

なんであいつは掃除ごときであんなにぐったりしてるんだ。

智也が教室から出てくるのを見計らって声を出る。

「よ、大分お疲れみたいだな」

「俊に彩花?二人してどうしたんだ?」

「例の約束♪まさか忘れてないよな、智也くん?」

ポンポンと智也の肩を叩く。

智也は顔を引きつらせながら

「お、おう・・・・も、もちろんだぞ。・・・・で、彩花のほうは?」

「今日の朝ぁ・・・・・わたしに一言もなく、書き置きもしないで置いていったよねぇ・・・・」

「・・・・・・あ」

桧月の機嫌が悪いのは伝わったようだ。

桧月の冷たい視線に智也の引きつった顔が凍りつく。

「おかげでわたしは今日遅刻寸前だったんですけどぉ・・・」

「いや、す、すまん。つい、うっかり」

「へー、いつも起こしてあげてるのに・・・ねぇ?」

「・・・・・・う」

さらに智也の顔が引きつる。はっきり言って面白い。

「それはいけないなぁ、智也クン?ここはお詫びに桧月にも奢ってやればどうだ?」

「な、なんで俺が!?」

「これからはもう起こしてやるのやめれば?」

「ウン、そーだねぇ。また、同じことをされても嫌だしねぇ」

「そーなると、智也くんは毎日遅刻確定かな?」

「・・・・お、オマエラぁ・・・・」

あ、ちょっと泣き入ってきた。

「ま、無駄な足掻きはやめとくんだな」

勿論、智也に選択肢などあるはずもない。

 

 

「ごちそうさま、智也♪」

「ごちそうさま、智也クン♪」

「・・・・・・くっそぉ」

ま、自業自得ということだな、智也くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 03/11/26

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