Memories Off Another
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「・・・・・・くん・・・・・よ」
誰かの声がする。
誰だ・・・・・俺の眠りを妨げる奴は・・・・。
「・・・・だよ・・・・・なら・・・・強・・・・段に・・・・・」
眠気優先・・・・・構わず眠りつづける。
「えい」
ゴスッ!
頭部に軽い衝撃。
「・・・・・・・・・・・・」
まだ眠気が残ってはいるが、とりあえず顔を上げる。
「あ、やーっと起きた」
目の前にはクラスメイトの少女が一人。
「・・・・・・・・何の真似だ?」
憮然とした顔でそのクラスメイトに抗議の視線を送る。
「何の真似・・・って、ただ起こしてあげただけだよ?」
特に悪びれた様子もなく、しれっと言う。
「・・・・・あのな、頼むから俺の眠りを妨げるのはやめてくれ。何時だって眠いときに寝るのが俺の主義なんだ」
「・・・・・もう放課後なのにまだ寝るの?」
「お?」
言われて辺りに目を向ける。
カバンを持って教室を出て行くもの。掃除道具片手に廊下に出て行くもの。
間違いなく放課後だ。
「・・・お礼の言葉は?」
「・・・・・・ありがとう。だけど、桧月」
「ん?」
そっと微笑む少女―桧月彩花。
「何も打撃で起こさなくてもいいだろ」
「だって、口で言っても起きないんだもん。それとも起こさない方が良かった?」
「・・・・・・・いや、起こしてくれて助かった」
「でしょ?」
満足そうに微笑む桧月を見てると、まぁ、いいかと思ってしまう。
体を起こして軽く伸びをすると、いい感じで体がほぐれていく。
「うし。いくか」
放課後とわかれば、途端に眠気は失せていく。
「彩ちゃーん。一緒に帰ろー」
気合を入れつつ立ち上がろうとした途端、教室中に響いた能天気な声に脱力しそうになる。
俺にとっても馴染みのある声の主は隣のクラスの今坂唯笑。
今坂はそのまま入り口から一直線にこちらへやってくる。
「あ、俊くんだ」
「おう、今日は智也と一緒じゃないのか?」
と、俺が何気なく聞くと、今坂はいきなり涙目になる。
「うう、それが聞いてよ〜彩ちゃん、俊くん!智ちゃんたらね、唯笑が一緒にかえろ〜って誘ったら、
今日は一人で帰りたい気分だから一人で帰るって言って先に帰っちゃったんだよ〜」
「・・・・・・・・・」
またか・・・・と言った感じで桧月と顔を見合わせて苦笑する。
俺達が澄空学園に入学してから幾度となく繰り返されてきた光景だ。
「まぁまぁ、智也にだって都合があるんだし・・・」
「でもぉ・・・・」
「ま、ほどほどにな・・・・・じゃあな二人とも、また明日」
桧月がなだめているのを横目にしながら俺は立ち上がる。
「うん、また明日ね」
「バイバーイ」
二人に軽く手を振りながら教室を出る。
と、いきなり信と鉢合わせになる。
「お、おまえも今帰りか?」
「見てのとおりだ」
言って、手にもったカバンをちらつかせる。
「なら、一緒に帰ろうぜ。今日は色々と美味しいネタを仕入れたからな」
「そういや、おまえのクラスに転校生がくるとかいう話があったっけ」
言って、二人並んで歩き出す。
「そう!よくぞ聞いてくれた!いやー、今回は俺の情報網にもなかなか詳細が入ってこなくてさー」
「その様子だと随分可愛い子が入ってきたみたいだな」
「お、さすが親友。話が早い!」
いや、お前のそのニヤけた顔を見れば誰だってわかるって。
とはいえ、可愛い子の情報となれば聞いておいて損はない。
「さて、信くん詳しく教えて貰おうか」
「へっへっへ、お代官様にも気に入って貰えると思いますぜ」
誰がお代官様だ、誰が。
「へぇ・・・・・そりゃ明日にでも見に行ってみるかな」
「ああ、こいこい。いやー本当に澄空に来て良かったよなー。
今回の音羽さんといい、唯笑ちゃんに彩花ちゃん、可愛い子が目白押しだもんなー」
「・・・・・おまえ、あのときからまったく進歩してないよな」
「はは、ま、人間そんな簡単に変わるもんじゃないってことさ」
「そんなもんかねぇ・・・・・・」
「そうそう。・・・・・・・・たしかあの時もこんな会話してたよな」
「ん・・・・そうだな。あれからもう3年近くも経ってるんだよな」
そう・・・・・あの雨の日。
初めて桧月に会った日から既に2年以上経っている。
「それにしてもホント、お前は悪運が強い奴だよな。あれだけの速度で突っ込んだトラックに轢かれて生きてるんだからな」
「まぁ、な。日頃の運が悪くても悪運だけは強いってのが俺の自慢だからな」
「それって、自慢になるのか?」
「・・・・・さぁ」
空を見上げてあの日のことを思い浮かべる。
突っ込んできた車と俺が彼女に到達したのはほぼ同時だった。
俺は彼女をかばおうとして・・・・・・・そこで衝撃が体を襲った。
視界が反転し、声にならない叫びをあげる。
そして、地面に体が叩きつけられた衝撃。
頭を打ったのか。全身を襲う痛みと朦朧とした意識の中、俺はしっかりと彼女を抱きしめていた。
腕の中の少女は意識を失っているのか、微動だにしない。
ただ、かすかに聞こえる呼吸音が俺を安堵させる。見た目には大きな怪我もなさそうだ。
顔を上げると、青ざめた顔で呆然と立ち尽くしている信が視界に入る。
「・・・・・・・おい、何・・・ぼーっと・・し・・・て・やがる・・・・さっさと・・・・・・救急車・・・呼べ・・・・」
やべ・・・・・視界が暗くなってきた。
慌てて頷いて信が走っていくのを目にしつつ、力尽き、俺はまた地面へと倒れこんだ。
うーん、骨の一本や2本じゃ済まないかなと、そんなことを考えつつ・・・・・俺は意識を失った。
意識が暗い闇の中で漂っていた。
光も何も無いただの闇。
俺はその中を当てもなく歩き続けていた。
だが、幾ら歩き続けても闇が終わることは無い。
その闇が永遠に続くかと思われたそのとき、女の子が聞こえた。
「お願い・・・目を覚まして・・・・・・っ」
そして俺はゆっくりと目覚めた。
最初に目に入ったのは俺を心配そうに見つめる女の子。
彼女は俺が目を覚ましたのに気付くと、安堵に目を輝かせ、すぐに備え付けのボタンで医者を呼ぶ。
何がどうなってるんだ。訳がわからない。
体を動かそうとしても痛みが激しくてすぐに断念する。
白い天井を見上げながら、考える。
どうやら俺はベッドに寝かされているらしい。
ああ・・・・・・そういや、トラックに轢かれたんだっけ。
「・・・・・・・あの」
か細い声に目を向けるとさっきの少女がに心配そうに何かを言いかけていた。
誰かと思ってよく見れば俺がかばった少女だった。
所々に包帯を巻いているようだが、特に大きな怪我はないようだ。
彼女は何と言って良いのかわからずに困惑した、とても悲しそうな顔をしていた。
「・・・・・・・・・・・腹、減った」
そんな彼女の顔をなんとなく眺めながらボソッと言った。
「え?」
一瞬、俺の言ったことが理解できなかったのか、彼女の目が丸くなる。
まぁ、後で冷静になって考えれば事故にあって意識不明だった奴が目を覚まして、最初の一言がこれだ。
驚かない方がおかしいだろう。
その後にすぐ医者が入ってきてうやむやになってしまったが、
彼女の今にも泣きそうだった顔がほんの少しだけど、明るいものになったのに満足していた。
それが俺、天野俊一と桧月彩花との出会いだった。
俺がかばったおかげかどうかは知らないが、桧月の怪我は奇跡的に軽いもので全治1週間。
軽い検査などで2日ほどの入院だったらしい。
んで、俺のほうはというと目を覚ましたのは事故の日から2日後。
打撲やら骨折やらで全治2ヶ月、1ヶ月の入院となったわけだ。
人をかばって自分が大怪我で入院というのだから世話はない。
1ヶ月の入院生活は退屈といえば退屈だったが、信や他のクラスメイト、
そして桧月が割と頻繁に見舞いにきてくれたことが、素直に嬉しかった。
おかげで桧月の幼馴染である智也や今坂とも知り合うことができた。
桧月を始め、その二人とも意気投合した俺と信は、進学目標が同じ澄空学園ということもあって、
退院した後もちょくちょく会うようになり、無事全員澄空に合格。
そして現在に至る。
我ながら奇妙な縁だとも思う。
「ま、あれから色々あったが、これからはもっと色んなことがある。あんまりしんみりしてるなよ」
「るせーよ。んなこと言われなくてもわかってるって」
そう、俺たちにはまだ明日からも色んなことがあるはずだ。
今までと違う新しい出会いが・・・・・・。
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UP DATE 02/11/04
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ネメシス「むむ・・・・・思ったよりも進まねぇ・・・(汗)」
彩花「もうじきでサイト一周年なのねぇ・・・」
ネメシス「ま、なるようになるだろ」
彩花「相変わらずいい加減だね・・・・」