GSと魔法使い(仮)
嵐のプレリュード!! その3
「ねぇ、なんで私がいいんちょの家まで連れてこられてるわけ?と、いうかなんで横島さんがここに?」
「えーから、えーから」
「そうそう、詳しくは後で話しますから」
と、アスナの腕をネギと木乃香が引っ張り、その様子を苦笑しながら横島とアキラが続いていく。
渋谷駅で愛子と別れた三人は夕方には麻帆良へと戻り、アキラに連れられたアスナと合流。
そのまま、パーティの会場として借り受けたいいんちょこと雪広あやかの家へと向かったのである。
アスナの誕生日そのものは明日なのだが、パーティーそのものは今日実行するらしい。
明日は平日のため、どうせならばやるならば時間に余裕のある休日に実行して徹底的に騒ぎ尽くそうという魂胆があるとか。
「さ、アスナさんどうぞ」
「どうぞったって……もう本当に一体何なのよ」
中庭へと続く扉へアスナが押し出され、
「そしたら、横島さんも一緒になー」
「へ?俺?」
何故かアスナと並ぶように横島が木乃香とアキラに押し出される。
「アスナ誕生日おめでとーっ!!」
「横島さん、麻帆良へようこそっ!!」
二人を待ち受けていたのは3−Aのクラスメイトたち。
そして鳴り散らされるクラッカーの洗礼だった。
「こ、これは……」
「一体……」
アスナばかりか横島までもが呆然と立ち尽くす。
その背後ではしてやったりという笑顔で木乃香とアキラがハイタッチをしていた。
中庭の壁には「アスナ誕生日会&横島さん歓迎会!」と、デカデカと書かれた紙が張られている。
「何って見たまんまじゃん!」
「明日のアスナの誕生日を祝う会と、横島さんの歓迎会!」
クラスメイト達を代表するように声を張り上げるまき絵と裕奈。
「発案者は木乃香とアキラなんだけどねー。どうせやるならとことんまでやろうってことになってさ」
「あ、朝倉……」
「誕生日おめでとー、アスナ。そして初めまして、横島さん」
パシャリと二人の唖然とした顔を撮るのは自称「麻帆良のパパラッチ」こと朝倉和美。
元々は木乃香とネギ、アキラ達運動部四人組だけでささやかに行おうとしたのだが、お祭り騒ぎ大好きな裕奈が承諾するはずもない。
あれよ、これよと言う間にクラスメイト達を焚きつけ、嫌がるものも含めて全員参加の大騒ぎに仕立て上げたのだ。
一旦、こうと決めたときの3−Aの生徒たちの行動力は半端ではない。
あやかに家を提供させ、超鈴音がオーナーを務める中華屋台「超包子」による料理、アスナへのプレゼントなど瞬く間に準備を整えたのである。
会場としてあやかの家を選んだのは麻帆良学園都市から目と鼻の先といえるほどの距離にあること、寮で準備するとアスナにバレる可能性があったからである。
クラスメイトに家を会場として提供するように頼まれたあやかは表面上は渋っていたが、なんだかんだでアスナとは親友と言える間柄である。本人達は絶対に認めないだろうが。
「クラスメイトやネギ先生を助けていただいた横島さんのためですからねっ」とか、「皆さんがいうから提供するのであって、私の意志じゃありませんからねっ!」という建て前を並べて承諾したのだ。
無論、クラスメイトたちはその言葉の裏にある本音に気付いており、生暖かい眼差しで彼女を見守っていた。
「と、いうわけでアスナさん、誕生日おめでとうございます!これ、僕と木乃香さんからです」
ネギが両手で差し出したのはオルゴール。
「アスナの好きな曲が入ってるえ。横島さんやその友達の人も選ぶのに協力してくれたんよ」
「このか……ネギ……」
こんな形で自分の誕生日を祝ってもらうとは思ってもいなかったアスナの胸に言葉にならない想いが込み上げて来る。
「あ、ありが……」
「はいはーい!プレゼントがあるのはネギ君たちだけじゃないよー」
「そーゆことっ!はい、アスナ。私たちからもプレゼントッっ!!」
感極まったアスナの言葉を遮って、次々とクラスメイトたちがプレゼントを渡していく。
「み、みんな……あ、ありがとう皆……わ、私、嬉しいよっ」
嬉しさのあまり、涙を浮かべるアスナ。一方、その隣では。
「か、歓迎会……!?お、俺のために……?」
「……はい、横島さんにはお世話になりましたから」
「そうそう、横島さんがいなかったら私たち今ここにいられなかったかもしれないんだしねー」
アキラと裕奈の言葉に亜子も頷く。
「ま、前の学校の奴らなんて見送りにすらこなかったのに……」
プルプルと震える横島の瞳からほろりと一筋の涙が溢れる。
そう、横島の級友らは転校する彼に対し、送別会はおろか誰一人別れを惜しむものはおらず、見送りにすら現れなかった。
思えば、かつて母親にアメリカに連れていかれそうになったときも、誰一人彼との別れを惜しむものはいなかった(と、 横島本人は思っている)。
自らが企画した送別会でも自分の事を引き止めるどころか、飲み食いのネタとして騒ぐものばかり。
それに引き換え目の前の少女たちのなんと心温かいことか。
たとえアスナの誕生日のついでとはいえ、ほとんど見ず知らずの自分のことを祝ってくれる。
こんな嬉しいことがあるだろうか?いや、ない!
「よ、横島さん……?」
気が付けば横島は盛大に涙を垂れ流していた。
「お…おかしいな、俺ってば!?嬉しくてたまらないのにどーして!?」
見渡せば辺りは美少女ばかり。アスナたちのクラスメイトというからには皆中学生なのだろう。
中にはどう見ても中学生には見えないものもいるが、総じてハイスペックなものばかりだ。
流石に中学生に手を出す気はないが、一、二年もすれば十分守備範囲内だ。
「くくく、ふはははっ!見てろよ凡人どもめ!俺は必ず幸せになってやるからな、どチクショ――っ!!」
カーン、と何処からが取り出した藁人形に釘を打ち付け始める横島。
今頃は彼の級友たちの誰かが突然発生した痛みに胸を抑えているかもしれない。
主に女性によくモテるヴァンパイアハーフとか。
「あはは、横島さんって変な人だねぇ」
「そ、そうだね……」
突然泣き出したと思えばいきなり藁人形を打ち付けた横島を3−Aの少女たちの大半が面白がって見物している。
「ふむ、腕利きのGSと聞いていたアルが……楓からはどう見えるアルか?」
「言動や外見からだけではどうにも判別つかんでござるなー」
「見た目で判断すると痛い目に見るタイプかもしれんな。ただのバカの可能性も捨て切れんが」
武闘派の少女たちに値踏みされ、
「へー、あれが噂の高校生GSかー」
「GSって高額な報酬貰えるんだよねー。上手くいけば玉の輿!?」
「でも……性格的に問題あり?顔もせいぜい並程度だしねぇ……リスク高そう」
と、チアリーダー三人組に評され、
「あはは、変な人ですー」
「変な奴だーっ!!」
幼稚園児にしか見えないいたずら好きな双子には大好評のようだ。
(いやいや、そこは面白がるところじゃねーだろっ!?誰か突っ込めよっ!!)
「……はぁ、あの時はあんなに格好良かったのに」
眼鏡をかけた少女が心の中で叫び、アキラが小さくため息を付いていたりもしていたが。
「お、そうだ。これは俺からのプレゼントな」
思う存分藁人形を打ち据えて気が済んだのか、思い出したように手にした袋からアスナへのプレゼントを渡す横島。
「横島さんまで……ありがとうございますっ!」
勢いよくおじぎをするアスナに横島も機嫌よく云々と頷いている。やはり女の子は素直なのが一番である。
「こほん、失礼します」
そこに割り込むように進み出てきたのはこの家の住人である雪広あやか。
「はじめまして、横島さん。私、この家の者で雪広あやかと申します」
挨拶された横島のほうは、日本人離れした金髪と整った容姿に感心したように「ほー……」、と感心したように頷いている。
中学生ということを知らなければ即ナンパしていたかもしれないレベルだ。
「この度はアスナさんたちクラスメイトや愛しのネギ先生を救ってくださり、心からの謝辞を申し上げます」
「気にしなくていいって。ただの成り行きだったしな」
いい加減そのことで礼を言われるのも慣れ始めていたが、やはり悪い気はしない。
「いいえ、そうはいきませんっ!ネギ先生の命の恩人と言うことは私にとっても命の恩人ですっ!いくら感謝してもし足りませんわっ!」
「は、はぁ……」
ガシッと手を捉まれ、力強く訴えるあやかの勢いに気圧される横島。
「もしもネギ先生に万が一のことがあったら、私も生きてはおれませんわ!そもそも!…………」
と、ヒートアップしてなにやら熱く語りだすあやか。
既に周りのものは何も目に入っていないようで「ネギ先生が……」とか「私の愛が……」とやらの単語を交えて何か呟いてる。
「え、えーと、アスナちゃん?」
流石の横島もトリップしているあやかに対して戸惑いを隠せない。
「あー、ごめんね、いいんちょってば重度のショタコンなのよ」
「そ、そうなのか。うーむ……可愛いのに勿体無い」
と、呟きつつも、トリップ状態のあやかにはあまり深く関わりになるべきではないと横島の本能が告げていた。
恐るべきはいいんちょのショタコンパワーか。
「って、いい加減に戻ってきなさいよ、バカいいんちょっ!」
「はうっ!?何するんですか、アスナさんのおサル!」
「アンタがいつまでも下らない妄想に浸ってるからでしょーがっ!ほんっとにいつもいつも進歩がないわねっ」
「おほほほっ、暴力無法者のアスナさんに言われたくありませんわねっ!いつもいつも考える前に手を出すんですものっ」
と、この調子で普段どおりの小競り合いを始めるアスナとあやか。
「あー、止めなくていいのか、アレ?」
「……いつものことですから」
「そうそう、あー見えてあの二人仲えーんよ。喧嘩するほど仲が良いってやつやえ」
そう言われて口論から小突き合いに発展している二人をよく見ると、横島にとってもどこかで見たような光景であった。
「なるほど、美神さんとエミさんみたいなもんか」
美神とエミは事あるごとに心底憎み合い、いがみ合ってはいたが、心の底ではお互いを認め、憎からず思っている一面も少なからず持っていた。
アスナとあやかもあれを(良い意味で)グレードダウンさせたような関係だろうと納得する。
今のアスナたちのように傍から見れば本気で喧嘩をしているように見えるが、見るものが見れば子犬同士がじゃれ合っているようにしか見えないものだ。
もっともアスナたちを子犬と例えるなら呪いやら銃弾やらが飛び交う美神たちは竜虎のソレであるが。
「ぜー、ぜー、きょ、今日はこの辺で許して差し上げますわ……」
「ふ、ふん、それはこっちの台詞よ……」
一通りどつき合うことで二人とも落ち着いたようだが、肩で息をしつつも互いに視線での牽制は忘れない二人。
「全く、アスナさんはいつまで経っても成長しませんわね」
「…………何よ、まだやる気なワケ?」
「いいえ、今日はあなたが主役の一人ですもの。これ以上、無粋な真似をするわけにはいきませんわ」
ギンっとアスナがあやかを睨みつけるが、あやかはさらりとその視線を受け流し、アスナの手にラッピングされた小箱を押し付けるあやか。
「え?」
「あ、あくまで委員長としてクラスメイトの誕生日を祝うだけです。委員長として当然のことをしたまでですからね!」
突然の出来事に呆気に取られてるアスナとは対照的に何処か慌てふためいているあやか。
「で、では、横島さん、今日はどうぞごゆっくりしていってください」
「あ、い、いんちょっ!」
周りのクラスメイトたちのニヤニヤした視線に気付いたあやかはアスナが礼を言う前にそそくさと立ち去ってしまう。
「もうっ…………ありがと、バカいいんちょ」
ポツリと小声で呟くような声だったが、それをしっかりと聞き取ったネギや木乃香たちは、自然と笑みを浮かべてしまう。
「さ、アスナさん。せっかく超さんたちが用意してくれた料理があるんですから冷めないうちに食べましょう」
「そやそやー、ほら横島さんなんて凄い勢いで食べてるえー」
「い、何時の間に……」
木乃香が指差した先には欠食児童よろしく凄まじい勢いで料理を掻き込む横島の姿があった。
「こらうまいっ!こらうまいっ!」
独立以来、金銭的問題は解決はしたものの、一度染み付いた貧乏性はそうそう消えるものではない。
必要以上に食費をケチったりもしないが、食える機会に食えるだけ食うというスタンスは変わりようが無かった。
「……なんていうか、見てるだけでこっちまでお腹一杯になりそうね」
「……そうだね」
「えぇ、食べっぷりやなー。ネギ君も男の子なんやから見習わんとあかんえー」
「いえ、さすがにアレは無理です……」
「しかし、貴様の食べ方には品が無いな。もう少し落ち着いて食えんのか」
と、横島の獣じみた食べ方に顔を顰めながら近づいてきたのはエヴァ。その後ろには茶々丸も控えている。
最初はパーティへの参加を渋っていたエヴァもなんだかんだでクラスメイト達に押し切られてしまったのである。
「仕方ないだろ?バイト時代の俺はこう言う機会に食っとかないと飢え死にしてたところだ」
「む?GSの報酬はでたらめに高いはずだろう?バイトとはいえそこまで生活に瀕することはないんじゃないか?」
「くっくっく、甘いな!エヴァ!世の中には貴様の想像の遥か上を行く存在がいるのだっ!」
「ほう。今の話の流れでなんでそうなるのかわからんが続けてみろ」
ドーンと、胸を張って指差す横島にさして感慨を抱かず、先を促すエヴァ。
600余年を生きた自分を驚かせるものなどそうそういるわけなかろう、とタカを括って。
無論、その考えは甘いものだったと数秒後に思い知らされるのだが。
「確かに上司だった美神さんのギャラは高額だ!一千万、二千万は当たり前!億を越える仕事も珍しくない!」
横島の言葉に周りの少女達も、「おおっ!」「え、横島さんってあの美神令子の事務所で働いてたの!?」などと、ざわめき立っている。
業界No1GSである美神令子の名は一般人にも知れ渡っているし、そのあまりにも高額なギャラも少女達が話題にするのには十分過ぎるだろう。
しかし、それも次の横島の言葉で沈黙の底へと叩き込まれる。
「だが、俺の時給は250円だった!!」
この言葉には流石のエヴァも目を丸くした。
「じ、じきゅう250円!?貴様が…………?」
「いやいや、ありえないでしょっ!?」
「明らかに労働基準法違反だって!?」
「ってか、普通そんな時給で働くバカいないでしょっ!?」
そう思うのは至極当然だが、目の前にそんなバカが存在するわけである。そもそも横島に普通を期待する時点で間違っている。
紆余曲折を経て、多少なりとも横島の時給は上がったが、それでも最終的には時給500円にすら届いていなかった。
「くっ、俺だって何度あのバイトをやめようと思ったことか……!だが、だが、それでも男には引けん理由があったんじゃーっ!!」
「あ、血の涙や」
「未知への探究心っ!!それがある限り例え、死の恐怖と隣り合わせであろうと薄給でこき使われようとも引くに引けなかったんじゃあぁぁっ!!」
「そ、そうですよねっ!男である以上、引けないときがありますよっ!」
「おお、わかるか、ネギ!!」
「はいっ!勿論です!!」
何やらネギは盛大に勘違いしているが、その引けない理由が美神の色香だったと知ればさぞや幻滅することだろう。
「おおっ!!何やら男の友情がっ!?」
「ネギ君格好良いーっ!」
「なんだかなぁ……」
ガシッと手を取り合う二人を囃し立てるもの、呆れるものなど、その反応は様々なものだった。
「未知への探究心かー。なんとなくわかる気もするなー」
「でも、流石に時給250円はどうかと思うわよ。雇うほうもアレだけど雇われるほうも雇われるほうね」
横島の情熱に感心する木乃香だが、その未知への探究心が何に対して向けられているかは知らないほうが彼女の為だろう。
「なんか、どんどん最初のイメージが崩れてく……・」
そろそろアキラも横島の本質を理解し始めている頃だろう。彼女の心の中では格好良かった横島のイメージがもはや完全に崩壊しかかっていた。
心のダメージが大きいのか、こめかみを押さえてため息をついている。
一方、エヴァはというと、
「こ、こいつがじきゅう、に、にひゃく、ごじうえん…………?」
「マスター、お気を確かに」
あまりの衝撃的な事実にその魂が旅立ちかけていた。
エヴァの目から見ても横島の能力は超一流、いや出鱈目とすら言える域にある。
性格や常識的な観点から見れば色々アレなものもなくはないが、それでも時給250円でコレをこき扱うという存在そのものがエヴァには信じられない。
もっともエヴァは知らないことであるが、横島が美神に雇われた当初は霊能力も無く、只の貧弱なぼーやであったのだが。
無論、能力の有無に関わらず命の危険があるGSの助手が時給250円というのはぶっちぎりで法律に違反する額であるのは言うまでもない。
古今東西何処を探してもその金額で美神の助手を務めることができるのは横島を置いて他にいないだろう。
「納得がいかーん!!どうなっとるんだ、貴様の上司とやらはっ!?ええ、おいっ!!非常識にも程があるぞっ!!」
茫然自失のショックから瞬時に立ち直ったエヴァはネギを押しのけて横島の襟首を掴み、ガクガクと揺さぶる。
「ふははっ!当たり前じゃーっ!世界中何処を探しても美神さん以上の非常識はおらんわっ!!恐れ入ったかっ!!」
「お前がいばることかーっ!?」
「あ、あわわ、エヴァンジェリンさん、落ち着いてっ!!」
「やかましいっ!ぼーやは引っ込んでろっ!!」
ネギが仲裁に入るが、取り乱したエヴァをネギが抑えられるはずも無い。
「ほー、エヴァンジェリンがあんな顔するの初めて見たよ」
と、感心したようにシャッターを押し続ける和美。
普段見ることのできないクラスメイトの意外な一面に驚いているようだ。
エヴァが横島に飛び掛る瞬間をしっかりと撮っているのは流石である。
「意外だねー。クラスでもあんまり馴染んでないのに横島さんにはあんな風に接するんだー」
「もしかしてエヴァちゃんって横島さんと親しいのかな?」
などと、普段、クラスメイトともあまり交流を持たないエヴァの新たな一面を垣間見た少女達はまたもや好き勝手に盛り上がっていた。
「まったく、おまえの上司とやらも非常識極まりないが、おまえも相当なモノだな」
横島から美神や彼自身の奇行を聞き出していたのだが、聞けば聞くほどまともに取り合うのが馬鹿馬鹿しくなったようだ。
この間の戦いより疲弊した様子でため息をつくエヴァ。
「失敬な。美神さんはともかく、俺は至って普通の凡人だぞ」
「いや、それは絶対にないから」
話を聞いていた裕奈の突っ込みにまき絵たちもうんうんと、頷く。
彼と接した時間は一日にも満たないが、その言動や話を聞く限り、間違っても凡人と評することはできない。
それは全ての凡人に対する冒涜である。
そもそも美神と横島、両方をよく知る人物からすれば、共に同レベルの常識の枠を徹底的に破壊尽くした非常識の塊である。
少女達の情け容赦ない正鵠を得た突っ込みに、「どーせ、俺なんて、俺なんて」と涙を流す横島。
「そうやえー、横島さんはGSなんやろ?それだけでも凡人とは言わへんから」
「そうですよっ!僕やアスナさんのことを助けてくれた時なんて本当に凄かったじゃないですかっ!」
「そ、そーかな?」
木乃香とネギの言葉に照れる横島。自分の力量には無自覚だが、やはりこう言われてはまんざらではないようだ。
「はいっ、間違いありません。そんな横島さんだからこそお願いしたいことがあるんです」
「ん、お願い?」
いきなり何を言い出すんだ、このネギ坊主は、と横島の視線が語っているが、ネギはそれに気付かない。
「はいっ!僕を弟子にしてください!!」
「何?」
「ぶふっ!?」
横島の隣で食べていたエヴァが盛大に吹き出した。
「えー、何々?ネギ君てば、GSになるのーっ!」
横島が問い返す前に、まき絵たちがネギに殺到して質問攻めに合わせる。
「い、いえ、そうじゃなくてっ、この前の横島さんの戦いを見て思ったんです!僕は男としてもっと力をつけなくちゃいけないって!」
そう、それはエヴァと横島の戦いを見たときから感じていたものだった。
自分は自分なりに今まで必死の思いで強くなろうとしてきた。
立ち入りが禁止されている魔法学校の書庫にも無断で忍び込み、強くなるために書物を読み漁ったりもした。
だが、それだけでは足りないのだ。
あの日に魅せられたエヴァと横島の圧倒的なまでの力。
かつて見た父の力にも劣らないほどの力を持つものが自分の間近にいるのだ。
それを知ってジッとしていられるネギでは無かった。
「おいおい、ぼーや、正気か?」
ネギは魔法使いで横島はGSである。
ネギが見たのは模倣したエヴァの力であって、横島のソレではない。
それなりの力量は持っているのは間違いないが、ネギはこの男の本来の戦い方を全く知らないのだ。
そこのところをネギはきちんと理解していないのであろう。
「うむ、エヴァの言うとおりだ。俺に弟子入りしたって強くなれんぞ?っていうか人に教えらんない」
横島自身もエヴァと同じ事を考えているのだろう、やんわりとネギの弟子入りを拒否する。
と、同時にネギの自分を見る目から必要以上に尊敬の念を感じていたことに納得する。
あれは既に自分の弟子であるシロと同じで自分を過大評価している、と。
「いえ、この間の戦いを見て確信しましたっ!戦いを教わるにはこの人しかいないとっ!」
が、ヒートアップしているネギには遠まわしに言っても通用しないようだ。
やれやれ、とため息をついて、周りの少女達に聞こえないように、ネギとエヴァを中庭の隅のほうへ連れて行く。
その際に茶々丸に他の少女達に聞かれないようフォローを頼むのを忘れない。
「いいか?前にも話したけどお前が見た俺の力はあくまでエヴァの力をコピーしただけで、今の俺は一切魔法が使えんぞ?」
「えっ、そ、そうなんですか?一度コピーしたらその後も普通に使えるんじゃないんですか!?」
「アホか。そんなことがそうそうできてたまるか。世の中そんな都合の良いことがあるわけないだろう」
横島から改めて告げられた事実に慌てふためくネギにエヴァが冷ややかに突っ込みを入れる。やはりネギは何か勘違いしていたようだ。
確かに"模"の文珠の効果は、技やパワーだけでなく知識や思考までもコピーできるが、文珠の効果が切れれば綺麗さっぱり消えてしまう。
無論、その時に得たものを横島本人が覚えればそのまま横島のものとなるが、そこまで器用な真似ができるはずもない。
ただ知っているのとそれを上手く使うことは別物であることと似たようなものだ。
「うむ、エヴァの言うとおり。だから弟子入りするんならもっと相応しい相手を選べ。なぁ、エヴァ?」
意気消沈するネギを慰めるようにその肩に手を置き、そのまま視線をエヴァへと向け、ニヤリと笑った。
「む?」
その視線に不吉なモノを感じるエヴァ。
「と、いうわけでお前の弟子入りする相手はこのエヴァだ。良かったな、相応しい相手が見つかって」
「「は?」」
エヴァとネギの唖然とした声が異口同音に発せられた。
「アホか、貴様ーっ!!何をどうしたらそんな結論になるんだーっ!!」
「そうですよーっ!何でそうなるんですかっ!?ちゃんと説明してくださいーっ!」
エヴァは口から火を吹きそうな勢いで組み付き、ネギは涙目で突っかかるが、予想通りの反応なので横島は動じない。
「まぁまぁ、落ち着け、二人とも。いいか、ネギ?さっきも言ったとおりお前が憧れた力は俺じゃなくてエヴァのものだ。だから弟子入りする先はエヴァ。何も問題は無いだろ?」
「う、た、確かにそうなんですけど」
確かに横島の言うことは正論だ。が、ネギにとっては自分の血を吸おうとしていた相手なのだ。
カモが言うような極悪人とは程遠い人物だということはネギも理解しているが、さすがに抵抗はあるらしい。
「問題大アリだ。なんで私がそんな面倒なことをせねばならん」
ジロリと睨みつけるが、怒気は感じても殺気が篭っていない目で幼女に睨まれたところで堪える横島ではない。
「いや、だって最高の適任者じゃないか。どうせ弟子入りするなら一番強い奴ってのは常識だろ?」
「む……」
横島の言った「一番強い」という言葉にピクリと反応を見せるエヴァ。
ネギのほうも「なるほど」と、頷いて納得し始めている。
「美神さんも言ってたぞ?師匠の実力は弟子に反映されるって。なら最強の魔法使いたるエヴァがぴったりじゃないか。俺が言うのもなんだが、エヴァの力は半端じゃない。正面からぶつかって勝てる人間なんてこの世のどこを探してもいないぞ?」
「うむ、ま、まぁな」
どこか照れたように頷くエヴァ。横島に持ち上げられて満更でもないようだ。
「まぁ、弟子入りするしないはネギの自由だけどな。せっかくこんないい師匠候補がいるのに機会を逃すのは勿体無いぞ?」
「で、でも……いえ、横島さんの言うとおりですね」
確かにネギにとってエヴァは苦手な人物に分類される。だが、行方不明となった父を探している自分には更なる力が必要だろう。
横島の言うとおり、魔法使いの自分が強くなるにはエヴァに師事するのが一番の近道なのは間違いない。
父の背中を追うと決めているからにはどんな苦難も乗り越えると覚悟している。ならば躊躇するわけにはいかない。
「エヴァンジェリンさんっ、僕を弟子にしてください!」
「ちっ、まんまとこいつに乗せられおって……」
横島に乗せられてすっかりその気になってるネギに舌打ちするエヴァ。
横島の言葉に自分も多少なりとも満更では無かったが、ネギのひたむきな顔を見ると、どうにもすんなり受け入れ難い。
元々人に乗せられるより乗せるほうが彼女の好みなのだから。
そんなエヴァの考えを読み取った横島はもう一押し必要か、と判断する。
「なぁ、エヴァ。おまえは卒業したら麻帆良を出るつもりなんだろ?」
「ん?まぁな」
エヴァが頷くと、ネギには聞こえないようそっと耳打ちして囁く。
「だったらその時に使える手駒としてネギを育てておくのはどうだ?」
ニヤリと提案する横島の顔はまさに悪党のそれであった。
「なるほど、その手があったか」
ニヤリと答えるこちらの笑みも悪党そのもの。
「クククッ、横島、貴様も中々の悪だな?」
「フッフッフ、なーに、美神さんに比べたら俺なんてまだまだ」
「あ、あのー、横島さん?エヴァンジェリンさん?」
肩を寄せ合い、怪しいオーラを出してクックックと笑い合う二人にネギも引いていた。
「クククククッ、良いだろう、ぼーや。修学旅行が終わった後に特別に弟子入りテストをしてやろう」
「テスト……ですか?」
ネギでだけなく、横島もなんで?という視線をエヴァに向ける。
「そうだ、私の下ぼ……じゃない、弟子に半端なものはいらん。貴様に私の弟子たる資格があるかどうかを試してやる」
「つーか、なんで修学旅行の後なんだ?」
横島が呆れたように訪ねるが、エヴァはそれをこれだからはバカは困る、と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「当然だろうっ!修学旅行の行き先は京都だぞ、京都っ!その準備で忙しいのにぼーやのことにかまけていられるかっ!」
「あー、さよか……」
どーん、と横島を指差して胸を張るエヴァ。
指差された横島のほうも半ば呆れつつも納得した。たかが修学旅行でそこまで……と思わなくも無いがエヴァの事情を鑑みれば仕方あるまい。
15年間麻帆良に閉じ込められていた身なのだ。15年振りに自由の身となり、外に出られるのだから意気込むのも当然だろう。
「見た目と同じで中身もお子さぶっ!?」
「ぼーやのほうもそれで文句無いな?」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
ネギにとっても修学旅行には父の手がかり探しと、西の関西呪術協会に対する使者を務めるという大きな意味がある。
弟子入りテストがその後、というのはネギにしても願ったり叶ったりだ。
エヴァの足元には延髄斬りで沈められた横島がグリグリと踏みつけられ、小刻みに痙攣しているが、意図的に無視したようだ。
ネギが内心で「やっぱり早まったかな……」と考えていたかどうかは定かではない。
UP DATE 08/7/27
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>木乃香との顔合わせと買い物前半、チア3人組には発見されなかったようで。
今回の話のとおり、他の面子と一緒に準備してました。
>そして愛子登場。確かにネギとは気が合うでしょうね…盲点でした。
>横島と木乃香も共にツッコミこなせるボケだし、変幻自在なお笑いコンビに。
>4人組が組み合わせ変えながら2対2で機能してるのが上手いと思いました。
せっかくの同一世界枠なんで色々絡めてみるのもアリでしょう。一歩間違えると劇物になるのがアレですが。
>>ネギが愛子を飲み込もうと
>これ、逆ですよね。
報告ありがとうございます。修正しました。
>でも正直、愛子は予想外。
>この分だとピートの出番もあるのか。
>というか、ぜひピートをエヴァ嬢に合わせて欲しいところ。
GS面子はこれからも出番増やしたいと思ってます。
ピートとエヴァはどっちも吸血鬼ですからねー、ピート出す場合、二人の絡みは避けられないでしょう。
>多分、合わないだろうけどその間でおたおたする横島が見れそうなので。
むしろ我関せずの態度とりそうですがw
>はやく続きが読みたいです。
ういっす。頑張りますー。
>頭から読みました。
>早くあの少女をだしてください!
次か次くらいにはなんとか……っ。