GSと魔法使い(仮)

嵐のプレリュード!! その1

 

 

 

エヴァンジェリンとの戦いから一夜明けた翌日。

魔の通学ラッシュの時間帯以前の早朝の麻帆良駅。

そこにアキラ、裕奈、まき絵、亜子の運動部四人組+ネギの姿があった。

なぜ、彼らがこんな朝早くからこんな場所にいるのかというと、東京へ帰る横島を見送るためである。

昨日エヴァ邸で話していた時点でアキラとネギが横島を見送りたいと言っていたのだが、平日であるため、当たり前のように学校がある。

本来ならば、昼や放課後などのゆっくり時間の取れるときに見送りたいとアキラやネギは言っていたのだが、横島にも都合があり、午前中に麻帆良を発たねばならず、こんな朝早い時間での見送りになってしまった。

アスナは新聞配達があるため、昨日の時点で横島との別れを済ませている。

ちなみに横島の都合とは、自分の無事をあの場にいた友人や事務所のメンバーに連絡した際、麻帆良に来る原因となったあの壷が現在、オカルトGメンの元、調査されていて、美智恵から事情聴取の為に出頭を命じられたからである。

美智恵の説明によるとあの壷は一種の転送装置であり、中世ヨーロッパ時代のマジックアイテムらしい。

本来は特定の魔術で指定した地点に物を転送するものであったらしいが、何らかの理由でその機能に支障を来たし、長らく魔力を封じられていたのだが横島が無理やりにその封印を解いたために、長年溜め込まれた魔力が暴走し、今回の事態を引き起こしたのではないか、とオカルトGメンでは推測したらしい。

転送先が麻帆良だったのはこの地にある、関東でも有数の魔力を秘めている世界樹が原因ではないか、と美智恵は語っていた。

おそらく横島がオカルトGメンに出頭した際には、安易に封印を解いた横島への説教が待っているのだろう。

横島の姿はまだ見えていないが、五人の話題は横島のことで持ちきりである。

アキラは寮に帰った時点で、他の三人を起こして、自分たちが吸血鬼化したこと、GSである横島が吸血鬼に襲われていたネギとアスナを救い出し、自分たちの吸血鬼化を治してくれた、とエヴァと魔法関係のことを伏せ、多少の脚色を交えて説明してある。

これを聞いた裕奈とまき絵は吸血鬼とGSの戦いという漫画や映画のような楽しそうな出来事に自分が巻き込まれながらも、意識を失っていたせいで参加するチャンスを逃したことを本気で悔しがっていた。

亜子は、最初に話を聞いた時は、自らが巻き込まれたことに顔を青くしながらも無事に助かったことに安堵し、今では裕奈とまき絵のアキラとネギへの質問攻めを興味深そうに聞いている。

「く〜、見たかったなぁっ!GSと吸血鬼の華麗な戦いっ!」

「吸血鬼なんてただの噂だと思ったのにねー、あーん、本物見たかったよー」

自分が襲われていたことは既に忘却のかなたに追いやって悔しがるまき絵。

実際には学校に行くたびに本物見てるんだけどなー、とアキラとネギは内心で苦笑している。

「あ、横島さんが来ましたよ」

と、ネギが指を指した方を見ると、そこには学生服にバンダナを巻いた少年、そして彼女らのクラスメイトである茶々丸の姿があった。

茶々丸がいるのは道がわからない横島の案内である。

彼女のマスターであるエヴァは、横島が再度麻帆良に来ることを知っていることもあり、今頃はベッドの中で熟睡しているだろう。

「うーん、思ってたより普通の容姿だね〜、高校生でGSだって言うからもう少し格好良い人だと思ったんだけどなー」

「確かに見た目は全然凄そうに見えないねー」

「二人とも容赦ないなぁ」

裕奈とまき絵の横島に対する忌憚のない評価に苦笑する亜子だが、否定の言葉やフォローがないあたり同じ意見なのだろう。

「でも、ああ見えても頼りになる人だよ」

亜子と同じように苦笑しながらも、実際に横島の戦いを見ていたアキラはフォローを入れる。

チャチャゼロを相手にしたときの機敏な動き。

エヴァとの激しい攻防と最後の救出劇。

一部のアレな言動や締まらないところもあるが、彼女の中では頼りがいのある人物という認識になっている。

「おやおや〜、アキラさん、もしかして年上のお兄様にホの字ですか〜」

「ええっ、マジでマジでっ!?」

「いや、流石にそこまではないから」

ニシシといやらしく笑う裕奈と目を輝かせてにじり寄ってくるまき絵に対し手を振って否定するアキラ。

確かに彼に対して多少の興味はあるが、恋心というには程遠く、また彼のことを知らなさ過ぎる。

「女の子が集まるとにぎやかだなぁ」

わいわいと朝っぱらからにぎやかな少女たちに苦笑する横島。

四人ともルックスは平均以上、アキラと裕奈に至ってはスタイルも抜群。

だが、四人が四人とも中学生という事実に内心ため息をつく。

基本的に彼の好みは年上のお姉さまである。

年齢的に一つくらい年下ならば彼の守備範囲に入るのだが、さすがに中学生ともなると進んで手を出す気にはならないようだ。

「おはようございます、横島さん、茶々丸さん」

ネギが挨拶するのにあわせて、アキラも会釈で挨拶する。

「おう、おはよう。えーっと、そっちの君たちはこうやって顔合わせるのは初めてだよな」

そう言って目を向けるのは裕奈、まき絵、亜子の三人。

半吸血鬼化した状態では顔を合わせているが、彼女たちにとってはちゃんと意識が戻った状態で会うのは初対面ということになる。

「あ、この度はウチらが危ないとこを助けてくれてありがとうございました」

「「ありがとうございましたー!」」

亜子に続きハモるように礼を言う裕奈、まき絵。

「美少女を救うのが俺の使命だからな。当然のことをしたまでだ」

と、言いつつも、やはり美少女相手だからか多少鼻息が荒く、実に嬉しそうだ。

その後、裕奈たちと横島は互いに自己紹介し、電車が来るまでの間、雑談に話を咲かせることになる。

と、言っても基本は裕奈やまき絵が横島に質問するといった形だったが。

GSという職業は公的にも認められてはいるものの、やはり一般的な人にとって馴染み深い存在とは言い辛い。

霊能力などの特別な力を持たない人間からすれば、やはり小説や漫画の中の存在に近いものがある。

ゆえに、自分たちとさほど変わらない年代の横島がGSとしてどのような体験をしてきたか興味を持つのも当然とも言える。

横島にしても守備範囲外とはいえ、年下の美少女にそのように接してこられて嫌な気分になるはずもない。

多少の誇張を交えて、自身の体験談を機嫌よく語っていた。

「いやー、横島さんって面白い人だねー」

「はっはっは、そういう裕奈ちゃんたちも中々だぞ?」

と、このように短い時間ですっかり打ち解けていた。

「横島さん、そろそろ電車が来る時刻なので、ホームに向かわれたほうがよろしいかと」

「お、もうそんな時間か」

茶々丸に言われて時間を見ると、確かに横島が乗る電車が来るまでわずかしかなかった。

「あー、残念。横島さんの話もっと聞きたかったのに〜」

「はは、まぁ、それについてはまた今度ってことでな」

心底残念そうに呟くまき絵の頭をぽんぽんと、手を置いて宥める横島。

「いやいや、横島さん、東京に帰っちゃうんだからそうそう今度って機会はないでしょ」

ビシッと突っ込む裕奈。

「いや、俺こっちの学校に転入することになったから」

「……え?」

横島が何気なく発した言葉に茶々丸以外の面子が驚く。

「昨日、アキラちゃん達が帰った後に、学園長の爺さんが来てさー、俺に警備の仕事を依頼したいんだと」

「ほ、本当なんですか、それっ!」

と、勢いよく食い付いたのはネギ。

ネギ自身昨夜の戦いを間近で見ていたため、機会があれば横島に色々話を聞きたいと思っていた。

昨日は夜も遅かったし、今日に限っては魔法のことを知らない裕奈たちもいた為、あまり突っ込んだことは聞くわけにもいかず、その機会を諦めていたが、今回が最後の機会でないと知って目を輝かせている。

「お、おう。引越しそのものは明日には終わるだろうけど、手続きとか色々あるから麻帆良高に通うのは来週からになるけどな」

転校の手続きなどは既に学園長が手を回すことになっている。

学園長の力を持ってすれば明日にも手続きは完了するだろうが、横島にも準備や東京での挨拶周りなどがあるため、正式に転入するのは来週以降という話になっている。

麻帆良学園は基本的に全寮制のため、横島も男子寮に入ることになっている。

「何々、ネギ君、横島さんに興味あるのー?」

まき絵の聞きようによっては誤解されかねない言い方にぎょっと横島が後ずさる。

「ネ、ネギ、おまえまさか……」

「ハイッ!昨日の横島さんの戦いを見て思ったんですっ!僕は男として、もっと強くならないといけないだって!」

「はぁ?」

ネギの予想外の答えに横島が肩を落とす。横島とは逆に女性陣はは〜、とかほ〜、とか感嘆の声を漏らしている。

「だから横島さんに戦い方とか色々教えてもらいたいんですっ」

昨夜の戦いを見て、ネギの中で何かが火がついてしまったらしい。

何を言ってるんだ、こいつ?みたいな顔をしてる横島をよそにネギはやる気に満ち溢れた表情で意気込んでいる。

「ん〜、なるほど、ネギ君も男の子だもんね〜。ヒーローに憧れるのも無理ないかー」

うんうんと頷きながらネギの頭を撫でる裕奈。

それを見て横島もなんとなく理解したようでやれやれ、といった表情を見せている。

「まー、そういった話はまた今度な」

いい加減、電車の発車時間が差し迫っているので話を切り上げ、改札に向かう横島。

「それじゃ、わざわざ見送りありがとうなー」

「あはは、横島さんも元気でねー」

「また、お話に聞かせてくださいねー」

「……今度は麻帆良の案内しますから」

「あ、え、と。お元気でー」

横島が手を振ると、裕奈、まき絵、アキラ、亜子の運動部四人組も手を振り返して見送る。

「横島さーん、約束ですからねーっ!」

大げさに手を振るネギに何時、何を約束した?、と突っ込んでやりたいが時間が勿体無いので今回はスルー。

美人のお姉さんならともかく必要以上に子供の相手をする気のなかった横島は、面倒にならない範囲で適当にやり過ごそうと決意した。

こうして彼は一時、東京に戻ったが、その先で美智恵に説教食らうわ、元上司に(世間的に)師としての自分の顔を汚すような迂闊な真似をするんじゃないっ!と、(心配していたことの照れ隠しとして)折檻を受けたり、様々な苦難が待ち受けていたのはまぁ、余談である。

 

 

そして、3−Aは朝から蜂の巣を突付いたような大騒ぎになっていた。

停電から一夜明けてみれば学園都市の端にある橋周辺が思いっきり凍りついているわ、浴場の壁が壊されてるわで、話題にはことかかない。

多少のことであれば学園の魔法使いが対処するのだが、流石にガラスならともかく壊れた壁は一晩では直せないし、エヴァの魔力で凍りついた景色を元通りするには時間が足りなかったらしい。

やれ、天変地異の前触れだの、謎の秘密結社の陰謀だの、宇宙人来襲だのと、根も葉もない噂からどこから聞きつけたのか様々な憶測が飛び交っていた。

無論、その当事者であるアスナとネギ、アキラは魔法関係のことがあるので話がどんどん大げさになっていく中、内心冷汗を掻いていたのだが……。

「ちっちっちっ。みんな情報が遅いねー。ことの真相は宇宙人でも秘密結社の仕業でもない!」

ダンっと、机に足を乗せて宣言するのは明石裕奈。

3−Aの面子でもムードメーカー……もとい暴走を率先して引き起こす立場にある彼女が黙っているはずはなかった。

「何を隠そう真相は桜通りの吸血鬼VS若き天才GSの対決!」

自分が気絶していたことは棚に置いて、アキラから聞いたエヴァと横島の戦いを誇張を交えて熱弁する。

もっとも魔法のことは伏せて説明されているので、具体的には横島が光る剣を使って、物を凍らせる能力を持つ吸血鬼と戦ったという風に多少脚色してある話なのだが。

その過程で事件に関わったのが裕奈だけではなく、まき絵、亜子、アキラ、アスナ、ネギまでもが関わっていたことがバレ、朝倉和美を始めとした面子に質問攻めに晒されることになる。

ネギ達は裕奈に対してことのあらましを話したことを心底後悔したとかしないとか。

「なぁなぁ、アスナ?GSの横島さんて人どんな人やった?」

「どうって言われてもねぇ、見た目は冴えない普通の人だったわよ?」

ルームメイトである木乃香の質問に身も蓋もない言い方で答えるアスナ。

もしも横島があと15,6年を重ねていたら彼女の評価はガラリと変わったかもしれない。

「まぁ、確かに凄い力持った人だとは思うけど……木乃香、興味あるの?」

「ほら、ウチ占い研の部長やってるやん。GSには占いもできる人もおるゆーし、話聞いてみたい思うたんよー」

「あぁ、なるほど」

確かにGSの中には占いを専門とする者も存在する。超一流のGSともなればその直感がある種の予知ともいえるレベルにも達するケースもあるのだ。

占い研究部としてオカルトに多少なりとも興味を抱く木乃香がGSに対して興味を持つのは当然かもしれない。

「あ、だったら大丈夫ですよ。横島さん来週からこっちの学校に転校してくるそうですから」

「え、そうなの?」

はい、と嬉しそうに頷くネギだがアスナはとって、そんなのは初耳だ。

「うん、今日明日で引越ししてくるって朝に言ってたよ」

連絡先も聞いてあるしね、とアキラ。

「へぇー、そうなん?したら今度会って話聞いてみたいなー」

と、そこまで言って何かを思いついたようにポンと手を叩く木乃香。

ネギとアキラを招きよせ、こそこそと耳打ちをする。

「あぁ、それはいいですねー」

「うん、いい考えだと思う」

「せやろー?」

「アンタ達何の話してんのよ?」

「ちょっといいこと思いついただけやでー」

うんうんと頷くネギ達に不審の目を向けるアスナだが、木乃香のおっとりした笑みに流されてしまう。

どうにも隠し事をされているようで気に食わないアスナが更に問い詰めようとするのだが、

「あ、高畑先生や」

「どこどこっ!?」

あっさりと話の流れを変えられ、アスナの頭からこの件は忘れ去られていった。

ちなみにその傍らで自分の正体はバラされなかったものの、GSに負けた吸血鬼の話題にエヴァは凄まじい怒気を放ち続け、それに気付いたネギを怯えさせていた。

確かにあの場面で横島にしてやられた(実力で負けたとは思わない)のは確かだが、流石に自分が負けたという話題が立ち上ると腹に据えかえるものがあったらしい。

もっとも、その怒りも昼休みにネギから、彼の父であるナギ・スプリングフィールドが生きていることを聞かされ、遥か彼方に吹き飛んでしまった。

ネギはネギでその父に関する手がかりが修学旅行の行き先である京都にあることを聞かされ、浮かれきっている。

ナギが生きていることを知ったエヴァと、父に関する情報を得られたネギの二人が共にハイテンションになり、それを宥めるのに茶々丸とアスナが苦労したようだが、これまた余談である。

 

 

 

 

そして二日後の夜。男子寮への引越しを終えた横島はタカミチに連れられて世界樹前の広場へと連れてこられていた。

東京の事務所そのものは経営面でも実力面でもそれぞれに頼れる面子が残っているため、横島本人は麻帆良へ出張という形になっている。

そのため、依頼そのものは今まで通り事務所を通し、必要に応じて横島が判断、対応するということになる。

出張扱いといっても、事務所は東京、出張先は埼玉。

同じ関東圏内ということで必要があれば数時間でいける距離にあるため、事務所メンバーや学校のクラスメイト達も軽い気持ちで送り出し、その軽さに横島が涙したという経緯もあったりするが。

強いて言えば、元幽霊の少女や、弟子の人狼、後輩の極貧少女らが寂しそうな顔をしてくれたのがせめてもの救いだろう。

その気になればいつでも会える距離だけに、土日などには会いに来てくれるかもしれない。

特に独立後もしょっちゅう散歩をせがんでくる人狼の少女なら、毎朝麻帆良まで押しかけてきても不思議ではない。

「つーか、こんな夜中に何があるんですか?」

タカミチに言われるままに付いてきたが、具体的に何をするのかは何も聞いていない。

「何、君をこの学園の魔法使い達に紹介するだけだよ。この学園の魔法使いの間では君は注目の的だからね」

「おぉ、綺麗な魔法使いのおねーさんを紹介してもらえるんですねっ!」

「……」

諸手を広げて喜ぶ横島にタカミチが不安を覚えたのは言うまでもないだろう。

「お、来たようじゃな、横島くん」

世界樹前の広場の中心に学園長が立っており、彼を中心として中学生と思しき少女から中年のいかつい男性まで幅広い年齢層の人間が集まっていた。

照明の灯りが乏しいせいか、何人かの顔は暗くて判別はできない。

「紹介しよう、ここに集まっとるのは学園都市の各地に散らば……」

「はじめまして、GS横島っス!!お美しい!ステキだっ!是非お名前を!!」

学園長が最後まで話す前に横島はシスター姿の女性の前へ瞬時に移動し、その手を取っていた。

あまりの早業に誰もが声もない。

「は、はぁ、どうも…」

横島に手を取られた褐色の肌の女性――シスターシャークティは困惑したように言葉を返す。

あのエヴァンジェリンと互角に戦い、あのサウンザンドマスターの呪いを解いたGS。

どんな人物かと身構えていたら、これだ。

驚くところなのか、呆れるべきなのかその場にいた誰もが困惑していた。

「はっはっは、話に聞いたとおり面白い人物のようだね、君は」

そう言って手を差し出したのは眼鏡をかけた人の良さそうな男性。

「娘が世話になったようだね、礼を言わせて貰うよ」

「は、娘さんですか?」

「そう、君が助けた明石裕奈の父親さ、今後ともよろしく」

知っている名前を出されてようやく合点がいったように頷き、明石教授の手を握り返す。

「いえいえ、可愛い女の子を守るのは男の義務ですから。ってあれ?それじゃ裕奈ちゃんは魔法のこと知ってるんですか?」

「いや、娘には魔法のことは秘密にしてるんだ。裏のことを知ると色々面倒なことも多いけからね」

娘である裕奈から横島の人となりはある程度聞いていたらしく、明石教授は横島に対してそれなりに好感を抱き笑顔を見せる。

「はっ!?貴女もお美しいっ!是非お名前をっ!!」

次の瞬間に、横島が眼鏡をかけたストレートロングの女性――葛葉刀子にアプローチをかける様を見て、それは苦笑へと変わってしまったが。

素っ気無くあしらう刀子に対して屈託なくアプローチを続ける横島に、警戒していた他の魔法先生たちも次々に毒気を抜かれてしまったようだ。

エヴァンジェリンと互角に戦ったことはともかく、あの凶悪犯として知られている彼女の封印を解き放ったことに対して嫌悪を抱いた者も少なからず存在する。

だが、目の前の彼の行動を見ていると、そんなことを気にするだけ馬鹿らしくなる思いに駆られてしまう。

無論、それだけで全てを判断するわけにはいかないが、少なくとも腹芸ができるような人物には到底見えない。

大半の魔法先生や魔法生徒が今は警戒するだけ無駄だと判断して、緊張を解いていく。

「あー、こほん。ここに集まっとるのは、学園都市の各地に散らばる小・中・高・大学に常時勤務する魔法先生及び魔法生徒達じゃ」

刀子にしつこくアプローチしていた横島がついに手にした刀で撃墜されたのを機に、今度こそ学園長が説明する。

「あたた……はぁー、この人たちみんな魔法使いなんすか。」

「無論、ここにいるのが全てではないがの」

ちなみにはネギ君には内密にな、と付け足す学園長。

修行中の身であるネギが、味方となり得る魔法使いの存在を知ることで、彼自身が安易にそれに助けを求めてしまわないようにという措置らしい。

「たかだが10歳の子供に厳しいんスねー」

「それだけネギ君にかけられている期待が大きいということだよ」

ネギは魔法使いからすれば英雄であるサウンザウンドマスターの息子で、才気に満ち溢れた少年である。

それだけに大きな期待を寄せられるのも当然なのだが、横島がそれを知るはずもない。

「そんなもんすかねー」

シスターシャークティや刀子ならともかく、お子様魔法使いに興味はないらしい。横島の返答はどこか投げやりだった。

「ま、それはさておき、急ぎ君に紹介しておきたいものがおる」

学園長が言うと一人の少女が進み出てくる。

透き通るような白い肌に切れ長の瞳。艶やかな黒い髪は横にまとめて束ねられている。

歩く動作一つとっても隙がなく、一目でその実力の高さが伺えようというものだ。

「桜咲刹那です」

寡黙な性格なのか少女は無表情に一礼した後、そのまま沈黙してしまう。

「彼女はあのネギ君が担当するクラスの生徒でな。同じクラスメイトであるわしの孫、木乃香の護衛なんじゃよ」

「学園長のお孫さんですか?」

横島の怪訝な瞳が学園長、具体的にはその後頭部に向けられる。

「大丈夫。心配しなくても学園長のお孫さんは学園長に似ず、可愛い女の子だよ」

「あー、それは良かった」

タカミチの言葉に安心したようにため息をつく横島。

「おぬしら、一体わしをなんじゃと思っとる?」

「はっはっは、細かいこと気にしちゃいけませんよ」

学園長の怒気をさらりと受け流す横島。あの美神の助手をしていた横島からすればこの程度はどこ吹く風だ。

「まったく……。詳細は後で話すが最初に君に依頼する仕事は彼女と共同で行ってもらうことになる。頼むぞい」

「ういっす。よろしくな、刹那ちゃん」

「はい、こちらこそ」

横島が差し出した手を握り返す刹那。

横島が内心でまた中学生か……と、嘆いていたのは秘密だ。

「で、もう一人紹介したいものがおるんじゃが」

学園長の傍らに進み出てきたのは長い黒髪に整った顔立ちの高校生くらいの少女。

スタイルは……美神には及ばないにしてもスレンダーな体系にそこそこのボリューム。

横島の煩悩にクリーンヒット。

その場合の彼の行動はただ一つ。

「はじめましてっ!ボク横島!!彼氏いる!?良ければ今度の日曜デートでもっ!!」

 

「…………はじめまして?」

横島に手を握られた少女が発した声にびくりと身体を震わせる。

少女は笑顔だ。それはもうとびきりの。

だが、なぜだろう。その笑顔から凄まじい――美神にも通じるプレッシャーを感じるのは。

「あ、あれ?」

それに気付いた横島が顔を引きつらせて無意識に後ずさる。

「ふふふ、そうか〜。私は一目見てわかったのにアンタはまだ気付かないんか〜」

笑顔のまま放たれる少女のプレッシャーに横島はもちろん、学園長や刹那までも冷や汗をかいて距離を取っていた。

数人の魔法先生や魔法生徒たちはもう用は済んだとばかりに退散している者もいる始末だ。

「え、え〜と、以前にもどこかで?」

少女の口ぶりからどうやら自分は知り合いのようだ。

おかしい。こんな美少女なら自分がそれを忘れるはずもない。

野郎のことならともかく美少女に関しての記憶力なら自分は一級品のはずだ。

「あ、あれ、おかしいなー、キミみたいな美人に出会ったなら忘れるはずないのにっ」

「しかもシスターシャークティや刀子先生にまで見境なしに声かけとるし……」

おたおたと言い訳する横島だが、小声でブツブツと呟く少女の耳には入っていないようだ。

横島の直感が最大級の警報を鳴らすが、一歩遅かった。

「横島のあほぉぉぉぉっ!!」

「ぷげらっ!?」

少女の渾身の力をこめた平手打ちが炸裂し、横島は宙を舞った。

その場にいた誰もが手放しで賞賛するほど魔力の篭められた一撃にタカミチでさえ思わず拍手を送っていた。

薄れゆく意識の中、「あぁ、昔同じようなことがあったような……」という既視感を感じつつも、具体的にそれを思い出す前に横島は意識を手放していた。

次に横島が目を覚ましたとき、周りにはタカミチ以外の人影はなかった。

流石にあれだけのことがあっては少女の正体が気にかかり、タカミチに聞いてみたのだが、

「そのうちわかるよ」

と、苦笑するだけで答えてはくれなかった。

「うーん、言われてみればどっかで見たことあるような気がしなくもないんだよなー」

広場から寮に行くまでの間、横島はずっと云々唸っていたが、結局答えは出なかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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採点(10段階評価で、10が最高です) 10
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UP DATE 08/6/11

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うーん、文章量が多くなってしまった。
謎の少女の正体は当分秘密です。(笑)
次の次くらいでネタばらしできると思います。
まぁ、勘の良い方にはおおよその予測がつくかもしれませんが。

>今日、初めてこのSSを読みました。
>すっごく次の展開が気になって仕方ありません。
>ぜひ続きを待っています。
>できれば横島のアキラフラグ希望します。
ありがとうございますー。アキラフラグが活かされるかどうかは今後次第ってことで一つ。

>けっこう面白いです。GSとネギまの世界が同一の世界であることをもう少し説明してあるともっとよかったように思います
実はその辺はわざとボカすように書いてました。
や、ネギまの世界に転移する話が多いんで、それっぽく見せて裏をかこうと無駄にひねくれた考えで……っ。

>初めまして、楽しく読ませてもらいました。
>ネギまとGSが同一の世界観のクロスは珍しく、これからどうなるか興味津々です。
>刹那フラグが微妙そうで残念ですが、まだまだわからないっぽいですし、頑張れ横島!
刹那とのフラグは立てたいんですけどねー。他の方が一杯やってるから他の子のフラグ立てたほうがいいかなー、と。
や、刹那好きだから展開次第じゃわかんないですけど。

>横島『模』の文珠を使ったエヴァとの戦いなんて他のSSでは観られない展開でした。
>横島が学園に残って色々なフラグを立てるのが希望です。
>このかやアキラや高音など人外キャラ以外(人外キャラとのフラグは他のSSで見慣れていますので)なら最高に面白そうです。
〉この作品の連載を今後もがんばってください。
ありがとうございますー。『模』はある意味最強の反則技なんで使いどころが難しいとこなんですが、エヴァの時間制限っていう括りがあったので使ってみました。
反則過ぎるから多分、今後は使えないでしょうけど。
フラグに関してはまぁ、話の流れ次第という感じですねー。アキラに関しては出番増やしてあげたいと思ってますが。

〉今回は学園側への顔見せと、今後の立ち位置決定ってとこですね。
〉エヴァにしても学園長にしても、一見でトラブルメーカーとわかる横島にはさぞ期待をかけていることでしょう…
〉調査したとはいえ、さすがに事件での真相にまでは辿り着けてはいないようですが。
エヴァの家にも結界貼ってそうですし、中身まではわからないでしょうね。
文珠については時間をかければ調べられそうですが。
〉次回以降は事務所移転と原作買い物イベントが入る位で修学旅行突入でしょうか。
〉作品内時間ではいいとこ1週間あるかないかですしね…
そうなんですよねぇ。時間制限がある種のネックに。
まぁ、時間の流れはある程度無視してやっちゃっても良かったかもしれませんが。
〉エヴァと茶々丸が同行してアキラが関係者となることでどう変化するか、期待してます。
〉あと、アキラのキャラについてですが、不足分は独自色でも
〉そこまでの変化は出ないと思いますけどね、アキラ好きなら尚の事。
その辺りは度が過ぎない程度に……としたいところですね。あくまで原作キャラらしさは無くしちゃいけないものだと思いますし。
〉ところでアキラって性格的にフェイトに似てるって思いません?
フェイトが作品ごとに性格成長してるかなぁ(笑)アキラは黙って見守るタイプでフェイトはハラハラしながら見守る感じがしますね。

〉き、共学ですか。無謀な。
〉個人的にネギま世界のキャラとしてはゆえっちと千雨嬢の活躍に期待してたりします。
〉個人的にエヴァ嬢&茶々丸についでの気に入りキャラなんで^^;;
だってあの横島が男子校ですんなり納得できるとは思いませんw
まぁ、
GS原作でも共学だったので多分大丈夫、でしょう。覗きはしそうですが。
エヴァの主従コンビはともかく後の二人は序盤は難しいかもしれません。修学旅行編以降なら出番増えそうですが。
一人一人に出番を与えたいとも思いますが、キャラ増やしすぎてグダグダになりそうなのがネックです。

〉ここまで読んでの感想は、なかなか。
〉面白いです。更新楽しみにしてます
ありがとうございます〜。ご期待に添えられるよう頑張ります。

〉続きがかなり気になりますが、個人的には楓ちゃんとフラグ立ってほしいなぁ。剣士シロと忍者楓のダブル「ござる」でセンセーの取り合いとかw
〉書く方は大変でしょうけどね。更新待ってます
うーむ、個人的に楓がフラグ立つ光景が思い浮かべられないので難しい気がします。
シロと楓の掛け合いは楽しそうですけどね。

〉斬新な設定ですな
〉ただ麻帆良に飛ばされた理由がいまいち納得できませんが
まぁ、同一世界のクロスそのものが少ないですしね。
横島を麻帆良に突っ込むのにいい案が浮かばなかったのでああなりました。

横島が結構強く驚いたけど、おもしろいです。
ありがとうございます。とはいえ、横島最強みたいにはしたくないのでその辺りのパワーバランスには気をつけたいと思います。

〉アキラの口調おかしくないですか…
〉読んでいてかなり違和感ありまくり何ですが…
〉少し単行本でも読み直して修正入れた方がいいと思いますが…
単行本を何度も読み直した結果、ああなりました。
何分、原作での喋ってるシーンが少ないのと、話してる相手が年上の横島ということでああいう口調になっております。
無論、アキラの出番が増えてもっとキャラが掴めたら随時修正していきたいと思います。

〉展開は作者様独自の部分があるからいいんですが…
〉設定関係どこぞから流用してません?
〉今は話数が少ないから、それほど顕著じゃありませんけどこれからもそういうつまみ食い行為してると色々叩かれる原因になるので止めた方がいいですよ。
〉吸血鬼化直すやり方とかエウ゛ァのなまはげ扱い描写とか殆どパクリ感があるし、魔鈴と魔法界の魔法関係の設定なんてそのまんまじゃないですか。
〉設定みたいなものだったら、別に流用して使ってもいいんじゃないかと思ってるなら少し考え直した方がいいですよ。
〉あちらの作者様は独自設定にもかなり力入れてるわけですし、あちらのファンの人から見れば、何設定パクッて話作ってんのとしか取れません。
〉これからも話の展開、設定が似通ってくるなら最悪盗作疑惑受けますよ。
〉世界観や設定関係でもっとオリジナリティを出す努力をして下さい。
他の方の作品を呼んで私自身が影響を受けているのは認めますが、他の作品から設定などを流用しようとも思っていませんし、するつもりもありません。
吸血鬼化を治す方法はGS原作のものですし、エヴァのなまはげ扱いもネギま原作で描写されております。
魔法の設定に関しては二番煎じといわれても仕方ないと思いますが、魔鈴の魔法はGS原作で中世のものと名言されていますし、ネギたちの魔法も詠唱呪文に、精霊に呼びかけるものが多いため、あのような設定になりました。
他の方の作品からまったく影響を受けず、独自に生み出した設定とは口が裂けても言えませんが、あくまでそれぞれの原作から推察できる範囲での設定だと思っております。