GSと魔法使い(仮)

 

ヴァンパイア・パニック! その5

 

 

 

 

二人の訪問者を迎え、横島たちは再びログハウスの中へと場所を移していた。

「で、誰?」

テーブルに並べられた盛りだくさんの料理を口に頬張りながら胡乱げに目の前の二人に目をやる。

横島が口にしている料理は空腹を訴えた横島のために茶々丸が用意したものだ。

「ふぉっふぉっふぉ、はじめましてかのう、横島くん。わしは近衛近右衛門。この学園の学園長を勤めておるものじゃ」

「僕はタカミチ・T・高畑。麻帆良学園女子中等部の教師だ。よろしく」

頭の形が奇妙な小柄な老人と顎鬚を生やした眼鏡の男性がそれぞれ自己紹介をする。

横島がエヴァに目を向けると、頷いて二人の言葉を肯定する。

「はぁ……吸血鬼にロボットの生徒、お子様魔法使いが先生で学園長が妖怪。本当に非常識な学園すね」

横島の視線は学園長の不自然な頭部に固定されている。

「…………・・」

学園長を除いた全員の視線が横島のものをなぞり、納得したように頷く。

「ははは、生憎だけど学園長は妖怪じゃなくてれっきとした人間だよ、多分

「うむ、外見的にはとっくの昔に人間をやめてるが、かろうじて人間だ。一応

と、タカミチの言葉にエヴァが続ける。どうやら二人も常々横島と同じような思いを抱いていたらしい。

ショックを受けた学園長は床にのの字を書いて拗ねていた。

「んで、その学園長と先生が俺に何の用すか?」

「お、おお、そうじゃな。実はわし、学園長と同時に関東魔法協会の長を務めておるんじゃよ」

「関東まほー協会?」

聞き慣れぬ言葉に首を傾げる横島。

「ほっほっほ、君が知らぬのも無理はない。たとえGSとはいえ、魔法使いのことを知っている人間はごく僅かだからのう」

「はぁ」

一般に表立っているGSと違い、魔法使いの存在は公にされていない。

魔法使いの存在を知っているのは当人たちを除き、GS協会やオカルトGメンの上層部のごく僅か。そして裏の世界で活躍する一部の組織のみである。

その理由は多々あるのだが、魔法による悪用と混乱を避けること、というのが一番大きいだろう。

世界各地に魔法協会や魔法使いのコミュニティが存在し、この麻帆良学園都市も、表向きは教育機関だが、裏ではそうした組織のとしての一面を持っている。

無論、関係者全てが魔法に関わっている、ということではないが。

「俺の知り合いに魔鈴めぐみさんっていう魔法使いがいますけど?」

学園長の説明を受けて、首を傾げる横島。

魔法関連のことが秘匿されてる割には『現代の魔女』と称される彼女は普通に魔法使いを名乗り、世間一般に公になっている。

「あぁ、彼女の使う魔法とわしらの魔法は全く別物じゃからのう」

学園長の説明によると魔法には大きく別けて二つの系統があるらしい。

一つは魔鈴めぐみが扱い、研究している中世の魔法技術。

この魔法は中世の魔女狩りが原因で現代では失われた魔法技術で扱えるものはほとんど存在していない。

そしてもう一つはネギたち、現代の魔法使いたちが使う魔法技術。

中世の魔法技術が魔族との契約や魔界の技法が起源になっているのに対し、ネギ達の魔法は主に精霊や自然界に存在するエネルギーを使用する人間独自の魔法技術である。

「はー、魔法にも色々あるんですねぇ」

初めて知る知識に関心したように頷く横島。

「で、ここからが本題なんじゃが、ズバリ聞くがエヴァの呪いを解いたのは君じゃろ?」

「ええ、そうですけど?」

「実はそれ結構まずいことなんじゃよ」

あっけらかんと答える横島に対し、学園長は深刻そうな雰囲気を醸し出す。

「……何がまずいんです?」

微妙な間を置き、嫌な予感を感じながらも尋ねる横島。

「そこにおるエヴァンジェリンが600万ドルの元賞金首ということは知っておるかね?」

「えぇ、まぁ」

二人のやりとりにそれがどーしたと、言わんばかりの態度で手にした湯呑みに口を付けるエヴァ。

この場に同席はしても横島達の会話に口を出す気は全くないようだ。

「賞金が解除されたとはいえ、エヴァはその前歴と力ゆえに魔法界にとって危険人物ということに変わりない」

学園長自身はそんなことを微塵も感じていないのだが、今はそれを表に出さない。

「だから君には彼女の呪いを勝手に解いてしまった責任を取ってもらわんといかん」

「せ、責任すか?」

嫌な響きの言葉にたらりと冷や汗を流す横島。

一方、タカミチは学園長の思惑を感じ取ったのか、どこか呆れたように苦笑をこぼしている。

エヴァも学園長のやろうとしていることに気付いたようだが、こちらはタカミチと違い、ニヤリとした悪の笑みを浮かべていた。

「うむ。まぁ、責任と言ってもこちらからGSとしての君に仕事を依頼するという形になるがの」

「依頼、すか?」

「そう、この麻帆良学園に長期に滞在し、このエヴァンジェリンを監視してもらいたい。と、言っても形だけでいいんじゃ」

「は?」

呆気にとられて言葉をなくす横島に学園長はほっほっほと、笑いながら事情を説明する。

エヴァが魔法界ではなまはげ扱いされるほど恐れられている恐怖の存在であること。

今まではその力が封印されているということで危険視する者はいても、大した問題にはされなかった。

だが、それが解かれたとなると一般の魔法使いにとっては看過できるものではない。

事と次第によっては力を取り戻したエヴァを排斥しようという輩も出てくるかもしれない

そこでエヴァと互角に戦って見せた横島の力が必要になる。

今まで誰にも解けなかったサウザンドマスターの呪いを解き、彼女と互角の力を持つ存在。

彼をエヴァの監視という名目で雇い、エヴァの抑止力として他の魔法使い達を説得しようと言うらしい。

「ちなみに俺に拒否権は?」

彼にとって魔法使いの事情などどうでも良いし、エヴァの強さなら彼女に危険はないだろう。

彼女が悪事を働かないことは約束したし、正当防衛ならば何をしようとも問題ないと思っている。

「もちろん君が嫌というならば我々が強制することはできん。ただし……」

「ただし?」

「君が力を貸してくれなければ多くの魔法使いの血が流されることになるやもしれんのう」

よよよ、と泣き崩れる学園長。

それを見てその場にいる全員が思った。

妖怪爺が泣き落としなど使うな、気持ち悪い、と。

その絶対零度の視線に気付いたのか学園長はこほん、と姿勢を正し切り札を使うことにした。

「その中には君好みの美女が含まれるかもしれんよ?」

ピクリと横島の表情に変化が走る。男ならばどうでも良いがまだ見ぬ美女のためなら話は別だ。

「この麻帆良学園は綺麗な女性が山ほどおるんじゃがのう」

「この横島忠夫にお任せくださいっ!必ずやその使命果たして見せましょう!!」

乗り気でなかった態度から一変し、気力に満ちた表情でがっしりと学園長の手を握る横島。

その余りの変わり身の早さに流石のエヴァとタカミチもずっこけた。

もっとも、この場に彼のことをよく知る友人たちがいれば同じ言葉を発したであろう。

「言うと思った」、と。

「う、うむ。よろしく頼む」

学園長が内心早まったことをしたかなー、と思ったのは秘密だ。

「で、エヴァの監視つっても具体的にどーすりゃいいんですか?俺も学校がある身なんでその辺はどーにかしてもらわんと」

「おまえはGSとして自分の事務所を持っているんだろう?別に学歴なんて気にする必要なんてないんじゃないか?」

と、疑問に思ったエヴァが口を挟むと、横島が無言のまま涙を流し始め、エヴァをうろたえさせる。

「な、何故泣く?」

「……フッ、男には色々と苦しい事情があるのさ。高校を卒業しておかないと死より恐ろしいことが待ってるんだ」

「そ、そうか」

涙を流しながら首を振る横島にエヴァはそれ以上触れないようにしたほうが良いと判断した。

何か色々な意味で自分の常識とかそういうものが崩れそうな予感を感じたからだ。

言うまでもないと思うが、横島が高校にこだわる理由はただ一つ。彼の母親の存在に他ならない。

閑話休題。

「あー、こほん。学校の件なら心配無用じゃ。こちらの学校に転入してもらえば問題ないじゃろ」

「もちろん共学すよね?」

「いや、麻帆良学園男子」

高等学校、と続けようとした学園長の言葉が遮られる。

その理由は学園長に突きつけられた青白く輝く刃。

「おうおう、学園長さんよ?まさかこの俺に男子校に入れとかそーゆーことは言わんよな、え?」

「…………貴様はヤクザも兼任してたのか?」

横島のあまりに堂の入った態度に感心したような呆れたようなエヴァの声。

「ほっほっほ、冗談じゃよ、冗談。君が転入してもらうのは麻帆良学園本校高等部。れっきとした共学じゃから安心せい」

「はっはっは。学園長も人が悪いなー、もう」

学園長の言葉を聞いた横島はパッと霊波刀を消し去り、笑顔で頷く。

「学園長……」

タカミチがどこか軽蔑した眼差し送っているが、学園長は目を合わさない。

今夜のエヴァの動向を監視していた学園長たちは、ここに来る前に予め横島のことを調査している。

流石にこの短時間で彼の能力の詳細などまでは掴めながったが、それでもおおよその性格や経歴は把握できた。

その為、彼の性格を考慮して予定では男子校に放り込むはずだったのが、横島の美神譲りの殺気に学園長は自分の保身に走った。

タカミチの学園長に対する評価が下方修正されたのは言うまでもないだろう。

「学校の件はひとまず置いておいてGSとしての君にはこの学園の警備をしてもらいたい。いくらエヴァに対する監視が名目上だけのものとしても、雇った君に何もさせんのは問題があるからの」

「それは構いませんけど、エヴァの監視なのにこいつと関係ないとこで動いていーんすか?」

「それに関しては、エヴァンジェリンの抑止力となる君が麻帆良学園内にいれば問題ないわい。それともアレかね?四六時中エヴァの傍に引っ付きたいと?

「すいません、勘弁してください」

見た目小学生の少女に常にくっついて回る男子高校生。

世間の目から見て問題がありすぎる。横島としても御免こうむりたい事態だ。

エヴァからしても横島に対して興味を持ち始めてるが、流石にそんなストーカーまがいの真似はされたくない。

「ちなみに、依頼の期間はどのくらいになるんですか?エヴァがいる限り俺もここにいなければならないとか……?」

「いや、今のエヴァンジェリンの扱いは執行猶予みたいなもんじゃからのう。力を取り戻した状態で一年も問題を起こさなければ十分じゃろ」

その言葉を聞いてホッとため息をつく横島。流石に数年単位での契約には不安があったが、一年ならギリギリ許容範囲だろう。

他にも条件や規定を取り交わしていくが、概ね問題なく話は進み、学園側と横島との間で契約が結ばれることになった。

「うむ、それじゃあ、これからよろしくたのむぞい」

「はっはっは、この横島忠夫にお任せください!」

GSとしての仕事で日頃から出欠日数が危うかったのだが、それもある程度は融通してくれるという話になった為、横島はご機嫌だった。

 

 

 

 

 

「しかし貴様もよく口が回るものだな」

話の済んだ横島を茶々丸に客間に案内させ、今ここにいるのはエヴァ、学園長、タカミチの三人だけである。

「学園長の人の悪さは今に始まったことじゃないしね」

「ほっほっほ、何のことかのう?」

三人はそれぞれの手にお猪口を持ち、日本酒を飲み交わしている。

「ふん、私に対する抑止力として、他の魔法使いを説得する?本音はおまえが楽しみたいだけだろうが」

「いやいや、せっかく転がり込んできたチャンスを逃すこともあるまい」

「確かに彼を見ていると退屈することはなさそうですけどね」

と、苦笑するタカミチ。横島に興味を持った学園長の護衛ということで、この場に付き添ったがそれは杞憂だった。

彼の目から見た横島は普段から彼が相手にする悪ガキとそう大差のない少年だった。

無論、その力には目を見張るものがあるが、悪人ではないことは確かだ。

むしろ愛嬌があって好感の持てる性格というのがタカミチの評価だ。

「それに関しては私も同感だがな」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

美神令子除霊事務所出身で、最近になって独立した若きGS。

どこかで見たことのある顔と思いきや、いつぞやの魔族が起こした事件で人類の敵として宣戦布告をした人物だった。

無論、その後の報道で彼が潜入スパイとして事件の解決に貢献したことも認知されているが。

そして彼の性格や経歴を調べるほど、学園長は横島に興味を持った。

性格的には多少問題があるが悪人ではないし、トラブルメーカーとしては申し分ない。

この学園長の困った性質の一つとして面白いトラブルを好む傾向にある。

タカミチを始めとした彼の周りの人間はそれに振り回され辟易することは一度や二度ではない。

今年はネギという楽しみが転がり込んできたが、そこにこの男をスパイスとして加えたらどうなるか?

他の魔法使いを説得するというのは建前に過ぎない。学園長の力を持ってすればそんなものはどうにでもなるのだ。

無論、それなりに労力を使うことにはなるだろうが。

生粋のトラブルメーカーの素質を持つ横島がこの麻帆良学園に何をもたらすのか。

学園長やエヴァは期待を寄せ、タカミチは心の中で静かにため息をつく。

こうして横島は麻帆良学園へと滞在することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/5/30

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ヴァンパイアパニック編しゅーりょー。

>初めまして、毎回楽しく拝見させて頂いております。登校地獄が解けたエヴァがどうなるやらw
>タイトル案まだ募集ならですが、第1次麻帆良愚連隊とかどうでしょう?
初めましてー。とりあえずエヴァは原作より自由奔放に動き回るのは確定でしょうw
タイトル案はまだまだ募集中ですよー。というか、その第1次はどこから……第二次、第三次があるのでせうか?
麻帆良愚連隊はサブタイトルとして今後使用予定ですー。

>登校地獄解呪の6文字制御で解けるかも?って案を出すのは
>いくつか見たことありますが、実際に成功させるの見たは初めてかも。
>双文珠3個で6文字制御経験あるので、6個も可能でしょうからね。
双文珠6個よりは普通の文珠6個のほうが楽な設定になってます。
つーか、原作の10年後横島は14個で軽く倍以上……どんだけ化け物なんでしょうか……。
>個人的今回の見所は微笑ましく見守るアキラ茶々丸コンビ…いい組み合わせですねぇ。
>そしてアキラフラグは順調に進行中っぽくはありますが、
>送るのを丁重に辞退されてる辺りが下方修正の影響か…
>ある意味で底からが横島の本領でしょうけどね。
アキラが辞退したのは下方修正ではなく、単純に横島の疲労を考慮してのものなので大丈夫ですよw
横島の本性を知れば、一般的な評価は下がるでしょうw
まぁ、そこで離れずに横島の本当の価値を見つけられると一気に上昇するんでしょうがw

>GS美神とネギま(正確にはエヴァ嬢)とのクロスものを検索していて辿り着きました。
>非常に面白く読ませていただきました。
>この後の展開がどうなっていくのかが楽しみです。

>ただ一点気になっているのが、私の環境からだけかもしれませんが、この作品群、トップ画面からしかいけないんです。
>図書館のリストに作品名がない……・・なぜなんでしょうか……・
日記でも返信したのですが、掲載時に、タイトルが本当に未定だったので図書室には違う名前で掲載していました。
現在は修正しているのでわかるはずです。

>できれば横島のアキラフラグ希望します。
最終的にフラグ立つかどうかはまだ微妙なとこですが、確実に原作よりは出番を多くしますよー。
>横島『模』の文珠を使ったエヴァとの戦いなんて他のSSでは観られない展開でした。
やっぱ、横島の能力をフルに使った戦い方をしたいですからねー。
もっとも文珠があまりにも便利すぎるのでその辺りは考慮しないと色々バランス崩れそうなので難しいところですが。
まー、ネギま原作のインフレ加速中なのでそれはそれで問題ない気がしなくもないのですががが。
>横島が学園に残って色々なフラグを立てるのが希望です。
>このかやアキラや高音など人外キャラ以外(人外キャラとのフラグは他のSSで見慣れていますので)なら最高に面白そうです。
>この作品の連載を今後もがんばってください。
GSクロスだと刹那とのフラグが王道っぽいですねー。自分も刹那好きなんですけど、それは他の方に任せていこーかなー、と思ってます。
まぁ、話が面白くなるようだったらまたわからなくなりますが。
ご期待に添えられるように頑張っていきますー。