GSと魔法使い

 

ヴァンパイア・パニック! その4

 

 

 

 

 

「あー、おい、生きてるか?」

エヴァは身を持ってオチを付けた男に対し、その男の腹に乗ったまま、ペチペチと頬を叩く。

「だ、大丈夫なんですか、その人?」

なんとも言えない表情をしたネギも杖に乗ったまま飛んでくる。

「あ、あたた……頭割れるかと思った」

「うおっ」
「うわっ」

不意にむくりと起き上がった男に対して二人は一瞬、びくりと身体を震わせるが、男が無事だったことに安堵のため息をつく。

ネギはもちろん、エヴァにしても自らの命を救われた以上、アレで死なれては流石に気まずい。

と、いうか自分を相手に互角に戦って見せたものがあんなコントのような死なれ方をされたら色んな意味で納得がいかない。

「とりあえず怪我とかないか?」

「う、うむ。おかげでな」

顔を逸らしながらも、先ほどの抱きとめられた感触を思い出し、エヴァの頬がほんのりと染まる。

「あの、あなたは一体……?」

「あー、とりあえずはまず橋の上まで行こう。ここは冷たくてかなわん」

問いかけるネギに対し、エヴァを膝に載せたまま提案する横島。

何しろ氷の上に座っている状況なのだから尻が冷たいのも無理はない。

エヴァにしろ、ネギにしろ自らのパートナーを交えて話をする必要もあると考えたので、それに異議はなかった。

 

「ところで貴様の目的は一体何だ?突然現れたと思ったら逃げるわ、私の邪魔をするわ、何を考えているのかさっぱりわからん」

アスナや未だに動けない茶々丸と合流したエヴァは開口一番そう言った。

ちなみにエヴァは横島が貸した学ランを羽織っている。

ネギやアスナも助けてもらった手前、口を挟まないがその目はエヴァと同じ疑問を訴えていた。

「あー、それ話す前にちょっとごめんな」

「何?」

そういって横島がポンとエヴァの頭に手を乗せた瞬間、かすかの横島の手が光った。

「……!?」

突然起こった現象にエヴァが目を見開き、声を上げようとするが、まるで"固"まったかのように身体が動かない。

「おーい、もういいぞー」

横島がある方向を向いて叫ぶとそこからチャチャゼロを抱いたアキラがたたっと走ってくるのが見えた。

「アキラさん?」

「大河内さん?」

その姿に驚いたのはネギとアスナの二人。

なぜアキラがここにいるのか?、そう思ったのはネギ。

なぜ、メイド服に人形?と、首を傾げるアスナ。

「とりあえず説明は後な、アキラちゃん。さ、今のうちにかぷっと」

「あ、はい」

横島が固まって動けないエヴァをつつ、とアキラに差し出す。

エヴァは抵抗しようとしてもまったく身体が動かない。

だが、横島のセリフで何をしようとしているのか、わかったのか、その瞳が「や、やめろ、このバカ!」と、涙目で訴えているが、当然背後にいる横島には届かない。

茶々丸は依然と動けず、ネギとアスナは何が起こるのかわからずボケッとその光景を見ている。

エヴァからの魔力供給を絶たれたため、動けなくなったチャチャゼロはどこか楽しそうな瞳で自分の主人を見つめている。

「ごめんね」

エヴァの潤んだ瞳にチクリと胸が痛んだがここに来るまでに吸血化によって自分とクラスメイトの命がかかっていると聞かされたアキラの動きに停滞はない。

カプっと、アキラの牙がエヴァの首筋に突き立てられた。

エヴァの声にならない絶叫がエヴァの心の中でのみ響き渡った。

「あ、取れた」

アキラがそっと口を離すとその牙がポロリと、抜け落ちた。

「よし、これで元に戻ったな」

アキラの牙が抜け落ちたのを確認して、満足げに頷く横島。

美少女が幼女に噛み付く光景を見て、少しだけドキドキしたのは秘密だ。

眠っている他の子達も今頃は元に戻っているだろう。

これで目的は果たしたとばかりに茶々丸とエヴァの呪縛を解く。

「マスター?」

茶々丸は即座にエヴァの下へと駆けつけるが、ペタンと座り込んだエヴァは顔を伏せたまま微動だにしない。

いや、よく見ると微かにその肩が震えているのがわかる。

そしてゆらりと立ち上がる。

 

「殺すっ!貴様だけは絶対にくびり殺すっ!!」
「のわーっ!?」

 

涙を流しながら手刀を振るうエヴァ、それをくの字に腰をひねってかわす横島。

「この屈辱、貴様の死をもって贖わせてやるっ!!」

「吸血鬼化を元に戻す為なんだから仕方ないやんけーっ!!」

「たわけっーっ!!魔法使いにはちゃんとそれを直す薬があるわーっ!」

「そんなん俺が知るかーっ!!」

「貴様だって魔法使いだろーにっ!」

「俺は魔法使いじゃなくてGSじゃーっ!」

 

「あぁ、マスターが楽しそう」

「いや、茶々丸さん、絶対違うと思うわよ、それ」

「マー面白イ見セ物ダヨナー」

「あ、あはは」

「え、えーと……一件落着、なの……かな?」

「ま、エヴァも再封印されたし、兄貴も無事だし一件落着ってことでいーんじゃねーか?」

エヴァと横島の凄絶な鬼ごっこが繰り広げられ、残された者たちは呆然とその光景を見守るしかなかった。

 

 

 

結局、横島とエヴァの鬼ごっこはエヴァの体力切れで幕を閉じた。封印状態のエヴァでは10歳の少女程度の体力しかないので仕方あるまい。

茶々丸やネギ、アキラに宥められたエヴァはなんとか平静を取り戻し、気を失ったままの裕菜たちを寮に送り届け、エヴァのログハウスに集まっていた。

そして横島が麻帆良に来た経緯を聞きだしていた。

ついでにアキラが魔法のことを知ってしまったことでネギは取り乱すが、魔法がバレるとオコジョになるという魔法使いの規律をアキラが知って、誰にも言わないと約束することでようやく落ち着きを取り戻した。

なんで、オコジョ?、と漏らした横島の疑問に答えるものはいなかったが。

「じゃー、何か?貴様がここに転移したのは偶然でその後は本当に成り行きだったというのか?」

「まぁ、そういうことだな」

茶々丸が入れたお茶を啜りながら頷く横島。

自分が東京からここまで転移してしまったことには驚いたが、日付も変わっていないし、同じ日本ということですっかり落ち着き払っている。

「やっと…やっと…訪れた封印を解く機会が、ただの偶然や成り行きで潰されただと……?」

プルプルと俯いたエヴァの肩が小刻みに震える。

「ふ、ふざけるなーっ!!やっと、やっと……呪いが解けるチャンスだったんだぞーっ!!」

涙目でガーっと、訴えるエヴァ。

「あー、と言われてもなぁ」

「落ち着いてください、マスター」

「もう、済んだことだし、ね?」

困ったようにポリポリと頬を掻く横島に対し、、見かねた茶々丸とアキラがエヴァを宥める。

アスナとネギはその光景を苦笑して見ていることしかできない。

確かに、ただの偶然や成り行きで自分の宿願を打ち崩されたのだ。

災難だったと同情を禁じえないが、そのおかげで命拾いした身としては複雑な想いだ。

「だ、大丈夫ですよ、エヴァンジェリンさん!呪いなら僕がうーんと勉強してマギステルマギになったら解いてあげますから」

「アホかーっ!それまでに何年かかると思ってるんだ!!今すぐお前の血を吸えば解けるんだよっ!!」

「ひ、ひひゃいでひゅと、はへへくだひゃーい」

ガーっと、今度はネギに対して突っかかり、そのほっぺを両手で引っ張りあげる。

誰がどう見ても八つ当たりだ。

「横島さんでも解けないんですか?」

と、アキラ。

何しろエヴァとあれだけの戦いを繰り広げたのだ、最後はちょっとアレだったがそれでも凄い力を持っていることには変わりない。

「んー、まぁ、解けないことはないんじゃないか?」

「何?」

横島はポツリと呟いただけだが、エヴァ、いやその場にいた誰もがそれを聞き逃さなかった。

「フン、バカな。これはあのサウザウンドマスターが力任せにかけた呪いだぞ?そんじょそこらのやつに解けるはずが……いや、待てよ」

一瞬、考え込んだあと、チラリと再び横島に目を向ける。

「茶々丸や私の動きを止めたあの力はなんだ?あの時、魔法の発動はおろか、魔力すら感じられなかった。並みの魔法使いにそんなことができるはずもない」

「そりゃ、そうだろ。そもそも俺は魔法使いじゃねーし」

「ええっ!」

と、大きな声を出したのはネギ。

「だ、だってだってさっきまであんなにエヴァンジェリンさんと撃ち合ってたじゃないですかっ!」

「いや、あれはちょっとした裏技だ。そもそも魔鈴さん以外に魔法使いがいることもさっき初めて知ったばかりだしなっ」

えっへんと、何故か胸を張って威張る横島。

「そ、そうなんですか…?」

何故かショックを受けたように呆然とするネギ。

「おう、何度も言うが俺は魔法使いじゃなくてGSだって」

「ふん、なるほど。どういう理屈かは知らんがその裏技とやらで私の能力をコピーしたわけか」

納得がいったように腕を組んで興味深げに横島を見つめるエヴァ。

「げっ!?なんで解ったんだ!?」

「少し考えればわかることさ。私と全く同じ気配、魔力。そして始動キーまで同じ魔法。おまけに結界の復活と同時にその力が消えたとなればそう推測するのは難しくないさ」

「へー、なるほど、やるわねー。エヴァンジェリン」

「当たり前だ、貴様のようなバカレッドと一緒にするな」

「くっ…せっかく人が褒めたのに可愛くないわねぇ」

ぶるぶるとアスナが拳を震わせるが、エヴァは全く取り合うことなく話を続ける。

「で、貴様の力は一体何なんだ?私や茶々丸の動きを止めただけでなく、チャチャゼロを操り、挙句に私の能力までコピーするなど、並みの人間ができることではない」

唸るアスナを無視して、横島を問い詰める。その瞳は暗に嘘やごまかしは通じないと訴えている。

「あー、それは企業秘密。GSが自分の能力を簡単にバラしちゃいかんだろ」

と、横島は言うが、これはそもそも美神や小竜姫に散々言われたことである。

自分の技や能力が敵に知られるとそれだけで不利を招くことがある。

それゆえに自分の能力は安易に人に言わないこと、特に利便性が高い文珠に関してはなおさらだ。

なにしろエヴァの力は強大だ。

もしもその気になれば一流のGSが束になっても勝つのは難しいだろう。

先ほどは彼女の力を文珠でコピーしてなんとかなったが、時間制限もなしにフルに力を使われ続けたらこちらの欠点に気づかれただろう。

相手の能力を”模”するのは強力だが、相手が受けたダメージまで自分に返って来るという致命的な欠点がある。

さっきの戦いではそれがバレないように思考を読んで行動を先読みすることで、エヴァの攻撃を相殺し、なおかつ彼女を傷付けないように立ち回った。

時間稼ぎが目的だったからこそ使えた戦法である。

万が一また正面から戦うことになったら、洞察力の鋭いエヴァには見破られるだろうし、同じ手が通じるほど甘くはないだろう。

自分の手の内はできるだけ隠しておきたい。

もっとも、相応の準備さえできればまったく勝てないとも思っていないが。

主に彼の親友を昏倒に追い込んだ”ガーリックパウダー”とか。

「ふむ、そう簡単には口を割らんか……まぁ、それはひとまず置いておくか。本当にこの呪い解けるのか?」

「やってみなきゃわからんが、多分いけるだろ」

手持ちの文珠の数を思い出しながら答える。話を聞く限り、相当に強力なものだろうが、今の自分ならストックを全部使えば大丈夫だろう。多分。

「ならば話は早い。今すぐこの呪いを解け!」

「それが人に頼む態度か?」

ばんっと、頼む立場にありながら命令するエヴァはとても偉そうだった。

「横島さん、私からもお願いします」

と、茶々丸。

「そうね、呪いのことがなくなるんならエヴァンジェリンもネギを狙う理由もなくなるんだし……横島さんお願いしますっ」

「私からもお願いします。15年以上同じところに留まるのはやっぱり辛いことだと思いますから」

「ハハハッ!私に任せなさいっ!呪いなんてちょちょいのちょいだっ!」

茶々丸に続いて、アスナやアキラのような美少女にお願いされて、横島が断れるはずもない。

年齢的には二人ともちょいとストライクゾーンから外れるが、スタイル的にはまぁまぁ、いやアキラに至っては十分範囲内だ。

アキラにぎゅっと掴まれた手に鼻息も荒くしながら答える。

「横島の兄さん、エヴァンジェリンは600万ドルの元賞金首なんだぜっ!?そんなのを野放しにしたらやべーって!」

「黙れ、小動物」

ギロリと一睨みでカモを沈黙させるエヴァ。力を封じられていようがその威圧感は絶大だ。

カモはガタガタと尻尾を震わせながらネギの背に隠れてしまった。

「あー、まぁ、大丈夫だろ。コレは。口で言うほど悪い奴じゃないぞ?」

と、言いながらエヴァの頭を撫でる。

エヴァを”模”したとき、ほんの触り程度だが彼女の性格を把握することができた。

だから、彼女は口では悪の魔法使いを自称しているが、実際は悪人には程遠い性格だということを横島は理解してしまった。

それゆえ、封印を解いたところでエヴァが悪事を働くことはないと確信できている。

彼女は過去に人を殺したことがあるが、望んでそれをしたことはほとんどない。

多額の懸賞金もあくまで挑みくるものを返り討ちにした過程で賭けられたものだ。

もし、彼女が口で言うように悪の魔法使いとして残虐非道な行いを繰り返していたなら、懸賞金の額も更に跳ね上がっていたはずである。

600万ドルという金額は彼女の力からしたら安すぎるくらいなのだから。

「ええぃっ、人を子供扱いするなっ!」

「ハッハッハ、照れるな、照れるなー」

横島の手を払いのけて回し蹴りを見舞うが、それを横島はあっさり回避してみせる。

ムキになってさらに攻撃をしかけるエヴァだが横島はそれをことごとくかわしていく。

傍から見てる分には、仲の良い兄弟がじゃれあっているようにしか見えず、アキラと茶々丸も微笑みながら見守っている。

「たしかにアレは悪人というより近所の悪ガキよねー」

「誰ガドー見テモ照レ隠シッテ丸ワカリダナ」

と、零すアスナとチャチャゼロの言葉にネギは苦笑するしかなかった。

 

 

「つーか、呪いを解くのは構わんが、その後はどーするつもりだ?」

「む、呪いを解いた後だと?」

思ってもいなかった質問に口詰まるエヴァ。

確かに呪いを解くことそのものに執着していたが、解いた後のことなど考えていなかった。

呪いをかけられる前はナギをひたすらに追っていた。

だが、そのナギはすでに死んだと噂され、自分の呪いを解くこともなく現在に至る。

そのナギがいない今、自分が成したいことなどあるのだろうか?

しばしの時をおいてふっと息を吐く。

「……そうだな、それなりに長い間ここに居過ぎたからな、また旅に出るのもいいかもしれん」

と、ポツリと呟いたエヴァに反応したのはネギ。

「ええっ、そんなっ!卒業してないのにそんなことしたらいけませんよっ!」

「ええいっ、そんなこと知るかっ!そもそも私は好きで学校に行ってるんじゃないんだよっ」

「あのねー、中学までは義務教育なんだから仕方ないでしょー?旅に出るにしても卒業してからにしなさいよ」

「このバカレッドがっ!私は人間じゃないんだ、貴様ら人間と同じ次元で扱うなーっ!!」

と、エヴァを卒業までは引きとめようとエヴァとネギたちの口論が始まった。

横島はそれを呆れた様子で見ながらアキラと茶々丸へ視線を向ける。

「アキラちゃんたちはどう思う?」

「クラスメイトとしてはやっぱり卒業までは一緒に過ごしたいですね」

アキラにとってエヴァとの個人的な付き合いはほとんど無いが、それでも二年間共に過ごしたクラスメイトだ。

やはり卒業までは同じクラスメイトとして過ごせたらいいと考えてしまう。

茶々丸も口では何も言わないが、視線ではアキラやネギたちと同じ意見を訴えているように思えた。

「よし。じゃ、こうしよう。呪いを解くには条件は二つ。それをエヴァが飲むんなら解いてやろう」

ポンと手を打った横島がいたずらを思いついた子供のような顔でにやりと笑う。

「む……いいだろう。言ってみろ」

その顔に不吉なものを感じないでもないが、エヴァの選べる選択肢は多くない。

「一つ目、中学卒業までは麻帆良に残ってちゃんと学校に行け」

「……、何故貴様がそんな条件を出す?」

「ハッハッハ、俺が美少女であるアキラちゃんやアスナちゃんの頼みを断れるわけないだろーがっ!!」

ピクッとエヴァのこめかみがひきつり、逆に美少女と言われた二人は今まで面と向かってそんなことを言われたことがなかっただけに少しだけ頬を染める。

「ち……まぁ、いい。15年待ったんだ。後一年ぐらいは構わん。残りは?」

「二つ目、今後GSに除霊を依頼をされるような悪事は一切しないこと。またおまえと戦うようなことになるのは御免だからな」

「おまえの立場からすれば当然の条件か。向こうから襲ってきた場合は?」

「もちろん正当防衛なら問題ないぞ。あー、ただできるだけ殺人は勘弁な。半殺しとかならいくらでもOKだ」

「ふん、そうこなくてはな。それならば問題ない」

「話ガワカルジャネーカ。ヤッパ血ヲ見ナイ事ニハ面白クナイカラナー」

「いや、さすがに半殺しはどうかと……」

キランと目を光らせたチャチャゼロを見て、アスナが呟くが横島とエヴァは聞こえないフリをした。

「これで決まりだな。約束は守れよ?」

「フン、私とて誇りある悪の魔法使いだ。契約はちゃんと果たすさ」

バカにするなと言わんばかりに腕を組んでまま胸を張るエヴァ。

「じゃ、さっそく解いちまうか。あー、エヴァ以外のみんなはちょっと外に出てくれないか?」

そんなエヴァに苦笑しつつも、周りの皆にそう告げる。

「え、何でっ。見てちゃいけないんですか?」

凄いものが見れるかもしれないと内心期待していたアスナががっかりしたような声を上げる。

「さっきも言ったろ?俺の力は企業秘密だからあんまり人に見られたくないんだよ」

横島とて、ちゃんと言い含めれば、彼女たちがそれを言いふらすようなことはしないと思っているが、念を入れるに越したことはない。

「そういう理由があるなら仕方ありませんね」

と、内心では残念に思いながらも納得するアキラ。

「ごめんな。見せてあげたいのは山々なんだが商売柄、な」

その横島の言葉に他の面々も仕方ないという風に部屋を出て行く。

マスターをお願いします、と最後に茶々丸が部屋を出た後、部屋の中には横島とエヴァの二人だけになる。

「さて、もし失敗しても文句言うなよ?」

「構わん!いいからとにかくやれっ!」

落ち着きなく横島をせかすエヴァ。やはり自由への渇望は抑えきれないようだ。

「へいへい、んじゃ、いくぞ?」

エヴァの背後に回り、手持ちの文珠、六個すべてを出す。

込める文字は”登”校”地”獄”解”呪”。

両の手で浮かぶ六個の文珠をエヴァにかざし、発動させる。

「ぐぬっ……」

文珠は複数の文字を同時に発動させることでその効果と応用範囲を飛躍的に増大させる。

だが、同時に発動する文字が増えればそのコントロールする難度は飛躍的に上がっていく。

妙神山の修行で腕を上げたとはいえ、六文字制御は容易なことではない。

おまけにかかっている呪いの力が半端ではなく、六文字でも解除できるかどうか危うい。

想像以上の呪いの大きさに汗を掻きながらも、自らに残る全霊力を文珠へ注ぎ込む。

「このっ……!」

そして文珠の輝きが部屋を満たし、六文字の文珠が発動した。

 

 

 

 

 

「で、どうだ?」

残っていた霊力のほとんどを使い果たした横島がペタンと座り込む。

「フ、フフフ、フハハハハハッ!!力が沸いてくる。アーハッハッハ!!」

心から嬉しそうに高笑いするエヴァを見て、どうやら無事に上手くいったことに、安堵のため息を吐く。

「おめでとうございます、エヴァンジェリンさん。でもちゃんと授業は出てくださいね」

エヴァの高笑いに、解呪は終わったと判断した面々が部屋に戻ってくる。

「アハハっ!それぐらいお安い御用だ。フフ、ハーハハハッ!」

「わわっ」

「随分とご機嫌ねー」

バンバンとネギの肩を叩きながら高笑いを続けるエヴァにアスナも苦笑を隠せない。

「エヴァンジェリンさんって本当はこんなだったの?」

「いえ、こんな楽しそうなマスターは初めてです」

と、暖かい視線でそれを見守るのはアキラと茶々丸。

「マー、コレデ晴レテ自由ノ身ッテ奴ダカラナ」

エヴァの魔力が復活したことで動けるようになったチャチャゼロもどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

「そっかー、横島さんは明日には帰っちゃうんだ」

「まー、ここに来たのは事故だしな。とりあえず霊力も使い果たしちまったし、今日はゆっくり寝て明日帰るよ」

「でも、今日はどこに泊まるんですか?」

「……あ」

アキラに言われてハッとなった横島はそーっと視線をエヴァに向ける。

「仕方ないな。貴様には借りがある。茶々丸、しっかり世話をしてやれ」

ぞんざいな口調だが、その表情はどこか嬉しそうだ。

「はい、かしこまりました、マスター」

それに答える従者の表情もどこか柔らかい。

「あ、じゃあ、明日まき絵たちも連れて見送りに行きますね」

「おおっ、美少女たちの見送りなら大歓迎だっ!」

それが高校生以上ならもっと文句はないんだがなー、と思いつつも、やはり嬉しいことには変わりない。

「えっ、でもそれじゃ魔法のことがバレちゃうんじゃ…ッ」

諸手を上げて喜ぶ横島とは対照的にあわわと慌てふためくネギを見かねてアスナがその頭をこづく。

「ばっかねー、アンタ。別に魔法のことを言う必要はないでしょ」

「うん、吸血鬼に襲われた私たちをGSの横島さんが助けてくれたってだけ話せば十分だしね」

「あ、そ、そっか。そうですよね」

アキラの言葉に納得したように頷くネギ。

「アンタってば、頭いいのにどっか抜けてんのよねぇ」

「・・・うぅ」

 

 

 

「じゃあ、僕たちはこれで失礼します」

「じゃあねー」

「横島さん、今日は本当にありがとうございました。また明日」

「おーう、気をつけてなー」

女子寮へと戻っていくネギ達を見送る横島。

女子寮まで送っていこうか、と横島が提案したが、さほど距離も離れていないということでアキラによって丁重に辞退された。

二人の美少女(+1)を姿が見えなくなるまで見送ったところで、エヴァが口を開いた。

「そろそろ姿を現したらどうだ、そこの二人」

「へ?」

横島が何のことか尋ねる前に暗がりから二人の人影が姿を表す。

「ほっほっほ、バレバレじゃったか」

「やぁ、エヴァ。呪いが解けて良かったね」

「……誰?」

横島の夜はまだ終わりそうになかった。

 

 

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UP DATE 08/5/16

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>横島に関わる前から既にGS的なノリのネギにアスナに加え、
>時間に余裕が有り、そこでエヴァvs横島(模)ですか…凄い展開です。
時間に余裕ができたのは横島がメイド4人を引き受けたせいですねー。
>オチがついたのはある種予定調和でしょうけどね。
オチがつかなきゃ横島じゃありませんw
>そしてアキラの評価の下方修正は、戦いぶりで払拭されたと信じたい…
>やっぱり次回もとっても期待してます。
確かに払拭されましたが、今後横島に関わるほど下方修正されるでしょうw

>今回もなかなか面白かったです、
>横島の良さってかめばかむほどですからねー、
>横島のキャラを存分に生かして頑張って下さい。
ありがとうございます。原作の横島らしさを出せるようにやっていきたいと思います。