GSと魔法使い(仮)

 

ヴァンパイア・パニック! その3

 

 

 

 

 

 

茶々丸の攻撃をいなしながら目的の場所へと飛翔するネギの耳にそれは忽然と響いてきた。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!来れ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を……!」

悪寒を感じ、振り返ってみればそこにはマントをなびかせて飛翔し、呪文を詠唱するエヴァの姿。

「こおる大地!」

「わぁーっ!?」

低空を飛行していたネギを大地から突き出した巨大な氷柱が襲うが、障壁を張ると同時に上空へと退避することでダメージを最小限に抑える。

「ハハハハハッ!待たせたなぼーや!ここからが本番だっ!」

高笑いをしながらネギを見下ろすエヴァ。

「来ましたねっ!今日は僕が勝って悪いコトをするのはやめてもら……」

「氷爆!」

「って、わーっ!?」

ビシッとエヴァに宣言しかけたまでは良かったが、その隙を突いてエヴァが呪文を撃ち込む。

凍気と爆風に吹き飛ばされたネギはあえなく地面に落下する。

「ず、ずるいですよっ!人が話してる隙に攻撃してくるなんてっ!」

「フフン、いいか、ぼーや?言っただろう、わたしは悪の魔法使いだと。律儀に待ってやる義理はないのだよ」

涙目になって訴えるネギに対し、エヴァは悠然と茶々丸と一緒に地に降りる。

「さて、大分予定が狂ってしまったが……これで終わりということはあるまい、ネギ先生?」

エヴァと茶々丸がじりじりとにじり寄ってくる。だが、これはネギが望んだ、いや狙っていた状況でもある。

「うっ、ぐ……」

ネギが仕掛けた罠まであと三歩、二歩。

罠の存在を悟らせないため、わざと怯えたように後ずさる。

(あと一歩……!)

エヴァと茶々丸が目的の場所へ踏み込んだ瞬間、思わぬ闖入者が現れた。

「コラーッ!!」

「へぶぅっ!?」

「あれ?」

ネギがあらかじめ仕掛けた捕縛結界を発動させた瞬間、エヴァは突然現れた少女――神楽坂明日菜によって結界の範囲外へと蹴り飛ばされてしまう。

「なっなななっ!貴様、また私の魔法障壁をっ!?……て、おい」

アスナに蹴り飛ばされながらも見事な受身を取って着地するエヴァだったが、視界に入った光景に思わず突っ込みを入れてしまう。

「って、何よコレーッ!?」
「ア、兄貴ーっ!?」
「ア、アスナさんこそ何してるんですかーっ!?せっかく二人とも捕縛結界で捕まえられたのにーっ!?」

「…………」

ネギが発動した捕縛結界に捕われている茶々丸と明日菜、ついでにオコジョ妖精のカモ。それを見てあたふたしているネギの姿がそこにあった。

「……何をやってるんだ、貴様ら。茶々丸」

「はい、マスター。結界解除プログラム始動」

目前の光景に激しくやる気を削がれながらも、茶々丸に捕縛結界を無効化させる。

「なっ、えっ、ウソッ!?ってわぁっ!?」

切り札として仕掛けた罠があっさりと無効化されたことに驚きを隠せないネギだが、その胸倉をアスナに掴まれ、ガクガクと揺すられる。

「人がせっかく助けに来たのになんてことしてくれんのよーっ!」

「そ、それはアスナさんがいきなり突っ込んできたからーっ!?」

「って、人のことを無視するな、貴様らーっ!!」

「マスター、鼻血が……」

エヴァの存在を完全に忘れ去った二人に対してエヴァが吠えた。

「はっ、そういえば忘れてわっ!」

「忘れるな、このバカレッドーっ!!大体貴様、ボーヤの邪魔をしに来たのか、助けにきたのかどっちだーっ!?」

「助けに来たからここにいるに決まってるでしょ、このヘボ吸血鬼ーっ!!」

「誰がヘボ吸血鬼かーっ!?」

「あわわわっ」

「ちいっ!まったく、今日は邪魔者ばかりだなっ!茶々丸っ!」

「はい、マスター」

「カモっ!」

「合点、姐さんっ!オコジョフラーッシュッ!!」

業を煮やし、茶々丸とともに突っ込んでくるエヴェに対し、アスナがカモを投擲し、カモがオコジョフラッシュ……もといマグネシウムを燃やして、燃焼反応の光で二人の目を眩ませる。

「くっ!目晦ましとかはセコイ真似を……っ!」

「申し訳ありません、マスター。お二人をロストしてしまいました」

二人の視力が戻ったときには既にネギたちの姿はなかった。
 
 
 

 

「フーっ、危なかった」

エヴァたちからすぐ傍の物陰に隠れたアスナがほっと安堵のため息をつく。

「カ、カモくんっ、一体何がどーなってるのっ!?」

「さっきも言ったろーが、兄貴一人じゃあいつらに勝ち目はねぇって!素直に姐さんの力を借りろって!兄貴の切り札もあっさり破られちまったろ?」

「う……」

アスナの介入によって肝心のエヴァを捕縛することには失敗したが、茶々丸があっさりと無効化した時点で、結果は同じだっただろう。

「で、でもアスナさんに迷惑かけるわけにはっ」

「バカネギ坊主」

「あたっ」

この期に及んでもまだ自分でなんとかしようとするネギを見かねてアスナがデコピンをかます。

「私が助けたくて助けに来たんだから迷惑でもなんでもないの!ガキはガキらしく人の好意に甘えときなさい。ねっ」

「で、でもっ!」

アスナが笑顔で言うが、それでもネギはまだアスナの力を借りることを躊躇する。

「あー、もうっ!じれってぇっ!姐さん、時間もないことだし、こうなったら実力行使だっ!」

「むぅーっ、この場合は仕方ないわよね……」

カカッっと、魔法陣を描くカモと意を決したようにネギの顔を掴むアスナ。

「え、えっ?」

ネギが困惑している隙にアスナの唇がネギのそれに触れる。

「仮契約<パクティオー>!!」

「なななっ、何するんですか、アスナさん!?僕キスしたことなかったんですよーっ!」

「あー、もうあんたがうだうだ言ってるからでしょーがっ。それにアンタはガキなんだから今のはカウントしないわよ」

と、言いつつもアスナも顔が真っ赤になっているあたり、気恥ずかしさまでは拭えないらしい。

「兄貴、こないだみたくおでこにキスじゃ中途半端なんだよっ!それじゃあの二人にはかなわねぇ」

スカカードを用いても契約執行による従者への魔力供給は可能だが、時間が極端に短い上、効力も格段に落ちる。

エヴァたち二人に対抗するには仮契約本来の力が必要不可欠と考えたカモはそれをアスナに説明し、ここに来るまでに説得していた。

「それとも何、あんたはまだ一人で戦って勝てる気!?」

「ううっ」

ぴしゃりと言い放つ、アスナの言葉にネギは反論できない。

切り札である捕縛結界が破られた以上、ネギにエヴァと茶々丸、二人同時に相対する手段はないからだ。

「ガキはガキらしく周りの人の力を頼りなさいっ!」

「……は、はいっ。アスナさん、お願いします!」

やがて意を決したネギにアスナもニッと笑いかける。

「まったく……素直に最初からそー言えばいいのよ」

「とにかくこれで奴らと戦えるぜっ!契約更新!」

カモの声とともにネギとアスナが光に包まれる。

「むっ、そこかっ!」

契約更新の光に気づいたエヴァたちの前にネギとアスナが立ちはだかる。

「契約執行<シス・メア・パルス>90秒間!!ネギの従者<ミニストラ・ネギイ>神楽坂明日菜!!」

ネギが従者へと魔力を供給する契約執行の呪文を唱えると同時に茶々丸が飛び出し、明日菜がそれを迎え撃つ。

「ふん、面白い!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

「ラス・テル・マ・スキル・マギ・ステル!」

こうしてエヴァとネギの第二ラウンドが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

横島が魔力を頼りにその場所に辿り着くと、そこには想像を絶する光景があった。

雷と氷、光と闇が激しく明滅するその光景は幻想的とも言える。

「なんじゃ、ありゃ……。あれが魔法使いの戦い方か?」

「あれはネギ先生に……エヴァンジェリンさん?」

漫画やアニメのように派手に魔法を撃ち合っているのが自分の担任だけでなく、もう片方の人物も知り合いという事実にアキラは驚きを隠せない。

「あいつのことも知ってるのか?」

「……クラスメイトです」

「どーなっとるんだ、この学校は?」

子供が中学生の先生をやっている上に、吸血鬼がその生徒。

実際には他にも特殊な生徒が盛り沢山だったりするのだが、それを横島が知るのはもう少し先のこと。

あまりの非常識っぷりに頭を押さえる横島だが、彼自身が言えた義理ではない。

なにしろ彼のクラスもヴァンパイアハーフに机の九十九神、精神感応者までが一つに集まっているのだからどっちもどっちだろう。

「デ、ドースルツモリダヨ?」

いつの間にか横島に肩車をされる態勢になっているチャチャゼロが聞いてくる。

「どーするもこーするもしばらく様子見するしかないだろ」

真正面から撃ち合ってる所にわざわざ突っ込んで痛い目に遭いたくない。

「子供先生が勝てば良し。エヴァンジェリンとやらが撃ち勝ったら俺が出る。アキラちゃんは俺が合図するまでここで待機な」

「エヴァンジェリンさんに勝てますか?」

ここにくるまでの間、チャチャゼロや横島の話からエヴァの強さは聞かされてはいたが、いざ実物を目にすると並みの人間がどうこうできるものではないと実感できる。

「まー、あれに勝てっていわれたら無理だけど、時間稼ぐだけならどーにかなるさ」

不安な表情で覗き込んでくるアキラを落ち着かせるようにポンポンと、その頭に手を載せる。

「とりあえず今のうちに隠れて近づけば不意打ちはできるっ!」

この発言で学生ながらも横島を頼りになるGSとして見ていたアキラが、横島の評価を下方修正したのは言うまでもない。

「んじゃま、ちょっくら行ってくるわ。チャチャゼロはここでアキラちゃんのガードな」

「シャーネーナー」

二人の撃ち合いがどう決まるにせよ、自分が動くには今しかない。

アキラには既にお守りとして”護”の文字が入った文珠を持たせてある。

何か予期せぬ危険があっても問題はないだろう。 子供先生がそのまま勝ってくれたら楽なんだがなーと、考えつつその戦場へと走り出した。

 

 

 

 

 

アスナと茶々丸がデコピンで互いの動きを封じてる間、ネギとエヴァによる凄絶な魔法の撃ち合いが繰り広げられる。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!魔法の射手連弾・闇の29矢!!」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!魔法の射手連弾・光の29矢!!」

必死の表情で魔法の射手を撃つネギに比べ、エヴァのほうにはまだまだ余裕が伺える。

その手から放つ魔法にしてもわざとネギが撃ち返せそうなレベルのものに留めている。

「アハハ、いいぞ、よくついて来たな!」

強い。エヴァの魔法を相殺しながらネギは肌でエヴァの強さを実感する。

そしてそのエヴァを相手にあっさりと勝ってみせた父に改めて尊敬の念が湧き上がる。

その父を探し出すためにもここで負けるわけにはいかない。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!来れ雷精、風の精!!」

自らの最強魔法で道を切り拓く。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!来たれ氷精、闇の精!!」

そしてエヴァが唱えた呪文に意表を突かれる。

「フフッ」

そのネギの表情を見たエヴァの顔が綻ぶ。

ネギの呪文に対してエヴァが唱えた呪文は、属性こと違えど同種の呪文。

とことんまでネギに合わせて撃ち合うつもりなのだ。

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」
「闇を従え吹けよ常夜の氷雪」

「来るがいい!ぼーや!闇の吹雪!!」
「雷の暴風!!」

空中のエヴァ、橋上のネギ。二人の手から稲妻と旋風、吹雪と暗闇が放たれ激突する。

「ぐうっ……くくっ!」

互いに魔力を放つ手に更なる力を注ぎこむ。

同種の魔法がぶつかり合う場合、込められた魔力がその雌雄を決する。

自力ではやはりエヴァが勝るのか、わずかばかりだが、闇の吹雪の勢いが雷の暴風を上回る。

――撃ち負ける。

ネギはそう思った。だが、そこで諦めるわけにはいかない。

崩れ落ちそうな足に力をいれ、手に持った杖に力を込める。

それは何よりも大切な父の杖。その想いがネギに力を与えてくれる。

だが、この状況を打破したのはその想いではなかった。

「は……!?ハックシュン!!」

くしゃみによる魔力暴走。日常においても度々起こすそれが今のネギを救った。

「な……何っ!?」

瞬間的な魔力暴走によって威力を増した雷の暴風が闇の吹雪を飲み込み、エヴァを襲う。

そして次の瞬間、閃光と爆発が辺りを包み込む。

「ネギーっ!!」

「マスター……っ!」

魔力のほとんどを使い果たしたネギがその膝を着きつつも、エヴァのいた方向を見上げる。

「……やりおったな、小僧」

それは怒りを押し殺した声。

爆煙から姿を現したエヴァはネギの魔法の影響で一糸纏わぬ姿だった。

「フフッ……フフフ、期待通りだよ。さすがは奴の息子」

口調とは裏腹にその頬が怒りで引きつっているのはネギの見間違いではないだろう。

「あ、あわっ、脱げ……!?」

「やったぜ、兄貴!あのエヴァンジェリンに打ち勝ったぜっ!?信じられねー!?」

思わぬ結果に動揺するネギとネギが撃ち合いに勝ったことに喜ぶカモだが、エヴァ自身には対してダメージを与えていない。

「だが、ぼーや、決着はまだ着いてないぞっ!」

今の撃ち合いで服は消し飛んでしまったが、コウモリを召還し、それを触媒とし、黒いマントでその身を包む。

「茶々丸、停電復旧までの時間は?」

「およそ50分ほどです。マスター」

「ふん、最初に予定外のアクシデントが起こったからな。思っていたより時間が空いてしまったな」

本来の予定ではもっと時間をかけてネギを試すつもりだったのだが、眼下のネギを見る限り、もう魔力を使い果たし、反撃するような力は残っていまい。

威勢良くこちらを睨んではいるが、神楽坂明日菜は所詮は素人。

ネギからの魔力供給も尽きれば茶々丸の相手にはならないだろう。

「フフン、ぼーやはここまでよくやったよ。だが、それもここまでのようだな」

明日菜への魔力供給が切れたのを確認し、従者に一言。

「茶々丸、私がぼーやの血を吸う間に神楽坂明日菜を押さえとけ」

「承知いたしました」

「少々物足りないがフィナーレといこうか、ぼーや♪」

「あうっ!」

エヴァが上空から魔法の射手・戒めの闇矢を撃ち、ネギを拘束する。

既に魔力の尽きたネギにはそれに抗する術はない。

「ネギっ!」

「失礼します。明日菜さん」

拘束されたネギを見て、明日菜が駆け出そうとするが、背後から茶々丸が押さえる。

「あうっ!茶々丸さん!?」

いかに明日菜がバカ力を発揮しようとも、魔力供給もなしにガイノイドである茶々丸の拘束を振りほどけるはずもない。

「クククッ!遂に……遂にこの忌まわしい呪いから開放されるのだっ!アーハハハハッ」

「そいつはどーかな?」

「!?」

茶々丸の足元に転がってくる一つの珠。

それが輝くと同時に茶々丸は驚きにその顔をこわばらせる。

「茶々丸!?何があったっ!?」

謎の声と、突然の輝き。その場にいた誰もが何が起きたのか理解できなかった。

「わかりません、マスター。急に体が動かなくなりました」

かろうじて言葉を発することはできるが、それ以外の行動が一切取れない。

「何、何が起こったの?」

茶々丸がピクリとも動かなくなったのでそこから無理やり体を捻らせて明日菜が茶々丸の戒めから抜け出す。

だが、その明日菜の呟きに答えられるものはいない。

魔法による呪縛結界ならば茶々丸に装備された結界解除プログラムで解除できる。

だが、今起こっている現象は魔法によってもたらされたものではない。

「クククッ、悪いがその子供の血を吸う前に俺の相手をしてもらおうか」

突如として現れた強大な魔力にネギばかりかエヴァまでもが戦慄を覚え、声の主を探す。

その声の主は月を背に、エヴァと同じ黒いマントをなびかせ宙に浮いていた。

「このゴーストスイーパー横島忠夫がいる限り、貴様の思い通りにはさせぬわっ!」

 

 

「貴様……ただのGSではないと思っていたが、その気配と魔力……私の同族か?」

横島から発せられる気配、魔力の質。

それは人間というよりもエヴァと同じ吸血鬼に近い。いや、全く同じと言っても良いだろう。

先ほどまでは感じられなかった力にエヴァは疑念を隠せない。

その力は封印を解かれた自分に匹敵しているのだから。

学ランにマントという姿がいささかマヌケに感じないこともないが。

「フッフッフ、さーて、そいつはどうかな」

「フン、まぁ、いい。どの道、貴様はこの手で始末をつけてやるつもりだったからなっ。のこのこ出てきてくれたのは都合がいいっ!」

予想外のことに多少動揺してしまったが、自分は、『闇の福音』と呼ばれた最強の吸血鬼、無敵の悪の魔法使い。

例え、自分に匹敵する魔力を持っていようが、今までに研鑽してきた技や技量は伊達ではない。

自らの力で圧倒的、かつ完膚なきまでにこの男を叩きのめす。

ネギとの戦いではいささか物足りなかったが、これだけの魔力を持つ男なら手加減抜きで楽しめるだろう。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

エヴァの声と重なるようにして紡がれる詠唱に、エヴァの顔が驚愕に彩られ、それを見た横島の口元が釣り上がる。

魔法の始動キーは魔法使い個々人がそれぞれに定めるもので、設定には長い儀式が必要だが、自分にあった言霊の単語ならば特に制限はない。

それゆえ、自分と同じ始動キーを定めているものがいる可能性はゼロではないが、それでも驚きと疑問を禁じえない。

そしてそこから紡がれる詠唱もまた同じ。

「来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹けよ常夜の氷雪!闇の吹雪!!」
「来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹けよ常夜の氷雪!闇の吹雪!!」

二人の手から全く同種・同じ威力の魔法が放たれる。

先ほどのネギとの撃ち合い同様に、エヴァと横島、二人の中央で激突する闇の吹雪。

見た目の大きさも威力も全くの互角。

「ぐぬぬぬぬっ!」

「くっ、貴様、本当に一体……っ!」

互いに撃ちあう手に魔力を込めるが、その力は完全に拮抗している。

やがて、拮抗した闇の吹雪が互いに相殺し弾け飛ぶ。

「くーっ、幼女のくせになんて力だっ」

受けきる自信はあったのだろうが、その力の大きさに冷や汗を掻く横島。

「ちいっ!」

だが、エヴァのほうはそれどころではない。

自分の得意とする氷雪系の魔法を全く同じ呪文で相殺されたのだ。

どこの馬の骨ともわからぬ輩が自分と同じ威力の魔法を放つ。

彼女の低くないプライドが傷つけられないわけがない。

「ならばこれでっ!魔法の射手連弾・闇の59矢!」

今度は無詠唱での魔法の射手。

ネギ相手では遊びの意味も込めて、始動キーの省略もせず、本数も手加減していたが今度は違う。

無詠唱で放つことにより、詠唱の隙を与えない。

魔法の射手は魔法使いにとって基本の攻撃魔法だが、これだけの数を同時に放てば並の使い手では簡単には防げない。

「なんのっ!魔法の射手連弾・闇の59矢!」

だが、目の前の男はまたしても自分と同じ呪文を寸分の狂いも無く撃ち放ち、それら全てを撃墜する。

「ちっ、人のサル真似ばかりしおってっ!」

「ワハハハッ、世の中やったもん勝ちじゃぁっ!!」

今度は接近して魔力を剣状に形成して叩きつけるも、またしても同じ技で防がれ、お互いに弾くようにして離れる。

「今度はこっちの番じゃあっ!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

 

 

「す、凄い……」

「な、何アレ……エヴァンジェリンってあんなに強かったの?」

「あのエヴァンジェリンと全く互角にやりやがる。あいつ、何者だ?」

目の前で繰り広げられる凄絶な戦いにネギとアスナ、カモは言葉も無い。

苛烈なまでのスピードでエヴァと謎のバンダナ男が空中で交錯し、強大な威力の魔法が放たれる。

その光景をまざまざと見せ付けられたネギは如何に自分が手加減されたのかを思い知らされる。

しかも飛び交うのは魔法のみでない、魔力によって強化された身体能力で凄まじいまでの体術までも見せ付けられる。

眼前に繰り広げれている戦いは地形すら変えかねないほどの凄まじいものなのだ。

闇と氷の乱舞。

これが最強クラスの魔法使いの戦いなのか。

グッと拳を握り締める。

目前の光景に自分の中の何かを強く刺激する。

ネギの中で今まで感じたことの無い何かが生まれ始めていた。

 

 

「エクスキューショナーソード<エンシス・エクセクエンス>!!」
「エクスキューショナーソード<エンシス・エクセクエンス>!!」

二人の呪文がまたしても同じタイミングで発動し、激突する。

二人が今発動させている魔法は一見、手から発せられるエネルギー状の剣だが、その実態は、触れたものを気体へ強制的に相転移、つまりは蒸発させるかなり高位の魔法である。

相転移させられた物質は周囲から大量の熱を奪っていく。

現に二人の剣が交差してせめぎ遭ってる傍から、周囲の気温はどんどんと低下し、冷気を発するとともに凍り付いている。

と、いうより先ほどまでの二人の激突により辺り一体は既に凍りついてるのだが。

エヴァと横島が意識しているのだろう。ネギやアスナ、茶々丸のいる辺りは辛うじて二人の戦いの余波を受けていない。

「クククククッ、ハハハッ、アーハハハハッ!面白い、面白いぞ、貴様っ!封印を解いた私とここまでやれるとはなっ!」

またしてもお互いの魔法を相殺し、距離をとったところでエヴァが高らかに笑い出す。

当初は自分と同じ始動キー、同じ魔法で自分の攻撃が全て相殺されたことに怒りを覚えたが、ここまでやられるといっそ清々しくもなろうというものだ。

疑念は尽きないが、それ以上にここまで全力で力を揮える相手と機会に巡り合えた喜びがそれを凌駕していた。

「うーむ、こっちとしてはそこまで盛り上がられても困るんだがなー」

と、冷や汗を掻く横島。

こちらはどこぞのバトルマニアと違って、戦うことそのものに喜びを見出したりはしないのだから。

相手の考えを読んでここまではお互いに無傷でいられるように戦い運びをしてきたが、これ以上長引くとなるとそれも危うい。

「そろそろ『ちっ、こんなしつこい奴もう知らねーや』、とか言って帰らないか?」

「私は漫画に出てくる不良かっ!?」

「ノリとかは似たよーなもんだと思うが」

横島の言葉にネギやアスナもうんうんと頷いている。

「うるさいっ!!」

エヴァの顔が赤いのは多少なりとも自覚があるせいだろうか。

「ええいっ!とにかく貴様との決着をつけてや……っ!?」

エヴァが魔法を詠唱しようとしたその瞬間、その背後で橋の上に設置された街灯が光を灯す。

「残念。この勝負、俺の勝ちだ」

ニヤリと横島が笑う。

それは停電終了の合図。そして同時にエヴァの魔力を封じる学園結界の復活を意味する。

「いけないっ!予定より7分27秒も停電の復旧が早いっ!!マスターッ!!」

「くっ、いい加減な仕事をしおってっ!」

茶々丸の声にエヴァが舌打ちするが、何か手を打とうにも既に手遅れ。

「きゃんっ!」

学園結界の復活と同時にエヴァの魔力が封じられ、コウモリによって構成されていたマントも四散する。

魔力の尽きたエヴァは為す術もなく、高空から落下していく。

「はーはっははっ!計算通りっ!」

エヴァの力が封じられるのを確認して高笑いする横島だが、次の瞬間、横島の纏っていたマントも四散する。

「って、しまった、俺もかあぁぁぁぁぁっ!?」

エヴァと同様に落下の運命を辿る横島。

二人が滞空していたのは湖の上。

本来であれば落下しても水面に落下するだけで命を落とすことは無かっただろう。

だが、湖は二人の魔法の余波で完全に凍り付いており、運の悪いことにエヴァの落下する先は尖った氷柱が待ち構えていた。

「マスターっ!」

「危ないっ!」

「い、いかんっ!このままでは幼女惨殺!?今まで築きいてきた俺の爽やかなイメージが……っ!!」

不死の吸血鬼とはいえ、力を封印されたエヴァの身体は10歳の少女となんら代わりない。

もし氷柱がエヴァを貫けばまず助からないだろう

茶々丸がエヴァを救おうとするが、その身体はピクリとも動かせない。

ネギも杖に乗り、飛び出す。

「……ぐ」

エヴァの目にもそれは移っていたが距離がありすぎる。間に合わない。

その場にいた誰もが次に起こる光景を想像して目を瞑る。

――――ただ一人を除いて。

「ちえぃっ!」

奇妙な掛け声と共にエヴァの身体がふわりと抱きとめられる。

「……え?」

エヴァが目を開くとそこには先ほどまで自分と敵対していたバンダナの男。

エヴァと同様に落下していた横島だったが、落下中にサイキックソーサーを爆発させて無理やり軌道を変換。

氷柱の先端を栄光の手で切り払うと同時にエヴァを抱きとめたのだ。

「き、貴様、なんで……」

「いやー、さすがに幼女が死ぬとこなんて見たくないしなー」

トラウマになって夢に見るのもヤだし、と呟く男の表情からその真意は伺えない。

不意にエヴァの脳裏に過去の記憶が甦る。

それはサウザウンドマスターとの出会い。登校地獄の呪いをかけられたこと。そして別れ際の約束。

 

 

―光に生きてみろ。そしたらお前ののろいも解いてやる―

 

 

何故か、今、それを不意に思い出していた。

エヴァの無事を確認したネギ、アスナがホッと安堵のため息を漏らす。

そして次の瞬間それは響き渡った。

「あだ――――っ!?」

氷の湖へと着地した横島はそのまま足を見事なまでに滑らせ、そのまま後頭部を氷に打ち付けていた。

「「「…………」」」

辺りが沈黙に包まれる。

つい先ほどまで全開状態のエヴァとあれだけやりあって見せた男が氷に足を滑らせて頭を打ち付ける。

この場にいた誰がそれを想像できようものか。

横島がしっかりと抱いていた為、エヴァは無事だったが、頭を打ち付けた横島は気を失ってピクリとも動かない。

が、その後頭部からドクドクと血が流れ始めていた。

動くことができずその光景を見れなかった茶々丸を除く全員がたらりと冷や汗が流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/5/2

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>前回よりレベルアップ感があってイーですね〜。
>それはそうとエヴァちゃん、霊波刀の事を知っているっぽい文章が
>あるんですが、この作品て並行世界がどーたらこーたらとかじゃないんですか?
レベルアップつーよりは文章量が増えたのでそう見えるだけじゃないかな、と(汗
とりあえずこのSSではまだ並行世界どーたらは言ってませんのであしからず。

>アキラの出番が多くなるってどころではなく、もはやメインヒロイン扱いとも…
>いえ、全く問題ないですが。
>益々続きが気になりますね、とっても期待してます。
やー、問題は原作での出番が少なすぎてキャラが掴みきれないってところでしょーか?(汗
原作のほうじゃ仮契約するかどうか微妙ですしねぇ。一応オリジナルのアーティファクトは考えてあるのですが。
仮契約できるかどうかはまだ未定なのですががっ!
とりあえずエヴァ編は次回で決着のはず……だといいな。