GS横島〜Endless Happy Time!!〜
インディペンデンスデイ!! その2
美神から独立の許可を得たとはいえ、にすぐに自分の事務所を開業できるわけではない。
まず事務所としての建物を確保しなければならないし、その上でGS協会に申請する手続きも必要だ。
それらが終わるまでは当然のように美神の元で今までと同じように過ごす事になっていた。
そんな生活の中、横島は自宅兼事務所として使える物件探しに不動産情報誌と睨めっこをしている。
流石に資金に余裕がある以上、あのアパートを使い続ける気はないらしい。
「横島センセーっ!!」
「ぐはっ!?」
横島が人狼の少女の襲撃を受けたのはそんなときだった。
「シ、シロ!?な、なんでおまえここにっ!?」
「へっへっへー、修行ということでまた美神殿にお世話になりに来たでござるよ」
横島を押し倒したままの体勢で尻尾をパタパタと振る光景は傍目から見ると中々にシュールだ。
「ま、そーゆことよ。シロの相手は前と同じようにアンタとおキヌちゃんでお願いね」
「は、はぁ…」
「そーゆーワケでござるから、さっそく散歩行こ、散歩♪」
「えぇぃっ、やかましいっ!こちとら今、忙しいんじゃから後にせいっ!」
「きゃいんっ」
のしかかっているシロを強引に振りほどき、再び不動産情報誌へと向き合う。
「何をしておられるのでござるか?」
後ろから不動産情報誌を覗き込むシロに答えたのは別の人物。
「横島さんは今度独立することになったから、事務所を探してるのよ、シロちゃん」
「先生が独立・・・で、ござるか?ならば拙者も先生の助手としてついていくでござるっ!」
「駄目に決まってるでしょ、そんなの」
シュタッと手を上げて宣言するシロに美神がぴしゃりと言い放つ。
「拙者は先生の弟子でござるよ?弟子が師に付き従うのは当然でござる!」
美神がなんと言おうと関係ないとばかりに胸を張るシロ。
「シロ・・・あんたが弟子として横島クンを慕っているのはわかるわ。でも…」
シロに対してにっこりと笑う美神。が、次の瞬間その笑顔から凄まじいプレッシャーが放たれる。
「あんたの飼い主はこの私なのよ?飼い主を無視して他の人間とこで油売っていいと思ってんの?」
「せ、先生ぇっ・・・!」
美神の笑顔と言葉に秘められたプレッシャーにシロが抗えるはずもなく、尻尾を丸めて横島の背後に隠れる。
「あ、諦めろ、シロ。俺にはどうすることもできん」
無論、横島が美神に反抗できるはずもなく、そのプレッシャーに慄くばかりだった。
(まったく・・・横島クンにシロを同居なんてさせられるはずないじゃない)
シロが横島を慕っているのは誰の目にも明らかだ。まぁ、それが異性としてどうこうとかそういう方面かどうかは微妙なものだが。
横島にとってシロが守備範囲外なのもわかってはいるが、無防備かつ無邪気なシロ、そして煩悩の塊である横島を一つ屋根の暮らさせるということは断固として阻止しなければならかった。
それにシロはあくまで美神に預けられているという前提で長老から許可を貰っている。
八房の件で横島の性格をある程度把握している長老ならば、横島のところでの滞在になるとあまり良い顔をしないだろうことも事実だ。
「別に横島さんも今すぐに独立ってわけじゃないから安心して。ねっ?」
「うぅ・・・わかったでござるよぉ」
渋々頷くシロを宥めつつも、シロが横島と同居という事態にならずにホッとするおキヌ。
彼女自身、横島に対して特別な想いを抱いている一人なのだ。その横島が異性と同居という事態に賛成できるはずもない。
あわよくば自分がしたいとさえ思ってはいるのだがお互い学生という身なので流石に難しいだろう。
「にしてもアンタも情けないわねー。仮にも私の弟子なんだから事務所くらいスパッと決めなさいよ」
「誰のせいだと思ってるんです。誰の・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何のことかしら?」
こめかみに青筋を立てて抗議する横島の視線にサッと顔をそらす美神。
おキヌもシロもその額に一筋の汗が流れていたのを見逃さない。
何しろ美神そのものが過去にメドーサに事務所を爆破され、その事が原因で新しい事務所を手に入れるのに難儀した経歴がある。
人工幽霊一号のおかげで事務所の件は解決したが、アシュタロスの件で自宅までも派手に爆破された美神は、新たに自宅を手に入れることもできずに、結果として事務所に移り住んでいる。
美神の関係者かつ年若いGSである横島に対して不動産屋が物件を紹介するのを渋るのは当然の結果と言えた。
美神の弟子という肩書きは業界においては立派なアドバンテージになるのだが、今回の場合、それは大きな足かせになっているようだ。
「こーなったらその責任身体で取ってもらおーかっ!?」
「寝言ほざいてんじゃないっ!!」
毎度のよーに美神に飛び掛る横島をコークスクリューブローで撃墜。
「たくっ、そんなに元気が有り余ってるんだったら除霊にでも行ってきなさいっ!アンタ一人でっ!」
そう言って美神はバンっと依頼の書類を横島の顔面に叩きつける。
「ぶっ!?・・・・・・って、これを一人で?」
叩きつけられた依頼書を見て愕然とする横島。
依頼内容は本来ならば事務所メンバー総出で取り掛かるようなレベルだ。
悪霊の数も多く、除霊後もしっかりと場を清め、事後対策が必要となる難度の高いものだ。
以前までならば、絶対に横島一人に任せるようなものではない。
「アンタは私の弟子として独立するのよ?それくらい一人でできないようなら独立の許可は取り消さざるを得ないわね」
「・・・う」
師匠として霊能の指導をしたことなんか一度もないクセに・・・っ!、と喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込む。
私から独立するなら二流、三流なんて許さない。自分と同じ超一流としてやれ、と美神の瞳が語っていた。
「言っとくけど、アンタ達が手助けするのもナシだからね?」
「あぅ・・・」
「むぅ・・・」
ジロリと、おキヌやシロを牽制するのも忘れない。この二人ならばこっそりと横島を手助けしようとしてもおかしくない。
「・・・ま、確かに一人でやるには厳しい内容だから、その依頼の報酬は全部アンタにあげるわ」
「はぁ・・・って、これ美神さんっ!?」
報酬を全て自分に、ということは依頼内容に比べて報酬は破格に安いのだろうと思い、書類に目を通すとそこに記述されている内容に驚愕した。
「えっ!?」
「美神殿っ!?」
横島の背後からそれを覗き込んだ二人が絶句し、美神はプイッとそっぽを向く。
その頬がかすかに赤くなっているのは気のせいではないだろう。
「べ、別にアンタの為じゃないわよっ。私には必要のないものだから譲ってあげるだけなんだから」
依頼書に記されている報酬は除霊対象である建物そのもの。
この事務所に比べればやや小さいがそれでも4階建てで場所も都内。
建てられたのも割と最近で、事務所としても住居としても申し分ない。
「み、美神さん・・・!」
確かに物件としては申し分ないが、除霊の難度に比してこの報酬は破格の安さと言っても良い。
普段の美神ならこれみよがしに除霊料金をふんだくるか、依頼を跳ね除けるかのどちらかだろう。
誰がどう見ても横島の為にこの依頼を引き受けたとしか思えない。
横島一人にこの依頼を任せてその報酬、というのは美神なりの照れ隠し、というのも含まれているのだろう。
その美神の心遣いに横島、おキヌ、シロの三人は心打たれ・・・、
「この恩は身体でーっ!!」
「はよ、いかんかいっ!このバカタレがっ!!」
「先生は相変わらずでござるなー」
「まぁ、横島さんだもの」
横島は窓から落下し、おキヌとシロは苦笑しながらそれを見守っていた。
横島が美神令子除霊事務所から離れるのは寂しいし、横島との距離が大きく広がり疎遠になってしまうのでないかと考えていた。
だが、横島と美神を見ていると、そんなことは杞憂に過ぎないと思わされてしまう二人であった。
今回の霊障は建物を建築した際に、地脈の流れを歪めたことが原因だった。
この土地のオーナーが風水の知識を持っており、それを用いて地脈の力を建物に作用するように設計したまでは良かった。
だが、にわか仕込のオカルト知識は災いの元。
満を持して完成した建物は不自然に歪められた地脈の流れのせいで大量の悪霊を呼び込む霊的不良物件となってしまった。
歪んだ地脈の流れを元に戻すのは容易なことではなく、二流、三流のゴーストスイーパーでは対応できず、一流どころのGSに依頼すればその除霊料金が跳ね上がる。
その金額は土地と建物の費用の数倍。
結果として、このオーナーは新築であるにもかかわらずこの物件を除霊料金として手放すことにしたのだが、それでもこの依頼を引き受けるGSは中々現れず放置されていたのであった。
「ぜー、ぜー、し、しんど・・・」
全ての悪霊を祓い終えた横島は仰向けになって息をついていた。
何しろ建物に集まっていた悪霊の数は四十体を優に超えていた。
一体一体の強さはさほどでもないにしろ、数の暴力は馬鹿にできない。
壁や床などをすり抜けてくる悪霊は文字通り360度どこからでも襲ってくるため、息つく暇もない。
悪霊を全て退治したとしても、地脈の流れを戻さない限り、また新たな悪霊が集まってくる。
新たに進入してくる悪霊を防ぐための結界を張りながらの除霊は想像以上に体力を削られた。
文珠により、建物全体を"清"めたまではいいが、まだ地脈の正常化という最後の難題が残っていた。
「うぅ、こんなん一人でやれなんて横暴やぁ・・・」
シクシクと泣きながらも身を起こし、その手に文珠を出現させる。
込める文字は”地”脈”正”常”化”。
残った全ての霊力を注ぎ込み、全神経を集中させる。
そして部屋中に溢れる文珠の光。
その光が収まると同時に地脈の流れは正常なものへと戻り、建物の結界周辺に群がっていた霊たちは霧散していく。
念のため、霊視ゴーグルで部屋を見回したが、異常は見当たらない。どうやら上手くいったようだ。
「だあぁっ!もう動けん!!」
限界まで霊力を使い果たし、バタンと仰向けに倒れこむ。
立ち上げる気力すら使い果たし、当分は動けそうにもなかったが、徐々にその胸に充実感が湧き上がってくる。
「・・・俺、一人でやれたんだな」
天井を見上げながらボソッと呟く。
ちょっと前の自分ならばこの依頼を成し遂げることなどできなかっただろう。
文珠も大量に消費してしまったが、曲がりなりにも自分が成長していることを実感できた。
そしてゆっくりとその目蓋を閉じる。
霊力と体力をほとんど使い果たし、疲労の蓄積も限界だった。
ゆっくりと横島は意識を手放す。
しばらくしてその部屋に入る影が二つ。
「お疲れ様、横島クン」
そっと横になっている横島の顔を撫で上げる美神。
実は横島が除霊を始めたときから、万が一の事態に備え陰でずっと見守っていたのだ。
「何も一日で全部やる必要はないでしょーに」
あどけない横島の寝顔を見ながら苦笑する。
本来であれば、建物に結界を張るのはともかく、悪霊の除霊と地脈の修復は数日がかりで行うべきものである。
それを僅か一日でやりとげたこのバイトには感心する反面、要領の悪さに呆れてしまう。
「本当に・・・強くなったわね」
その出会いは思い出すのも馬鹿馬鹿しい出会い方。
時給250円から始まった使いっぱしりが今や完全に自分を上回る戦闘力を身につけてしまった。
無論、GSとしての総合的な格はまだまだ自分が上だが、それも数年後には追いつかれてしまうかもしれない。
そんな理不尽とも言える怪奇現象に対して悔しさもあるが、それ以上に言葉にできない感慨が美神の胸に湧き上がっている。
(本当、男の子の成長は早いものね)
「マリア、このバカを事務所までお願いね。私はちょっと飲んでから帰るからおキヌちゃんとシロにもそう言っておいて」
「イエス・ミス美神」
フル装備の美神と一緒に待機していたマリアが横島を担ぎ上げる。
既に美神の荷物も引き受けているがアンドロイドであるマリアにはその重量は問題ないだろう。
マリアに先んじて部屋を出ながらこれからのことを考える。
(横島クンが私の丁稚でいられるのもあと少し・・・か)
GS協会に申請して正式に横島が事務所を開くには一ヶ月もあれば十分だろう。
それまでの間に精々こき使ってやろうと改めて決意する。
それが意地っ張りで不器用な彼女なりの接し方。
彼女が自分の中にある気持ちと向き合うようになれるにはもう少し時間がかかるかもしれない。
「あ、西条さん?私だけど。今から飲みに行くんだけど――――」
だが、独立したところで横島との縁が切れるわけではないし、ちょくちょく遊びにも来ることだろう。
それにシロがいれば頻繁に一緒に食事を取ろうと横島を誘ってくるに違いない。
シロの滞在を許可した理由の一つに独立する横島と接触する機会を増やす――――と、いうものがあったのを彼女は自覚していない。
UP DATE 08/06/20
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うむ、なんか美神がヒロインっぽくなってるなぁ。
色々アレなとこはあるけど身内にはなんだかんだいって甘い、というのがこのSSでの美神ですね。
今後もっと『良い人でない』一面も出していきたいですが(笑)
もうちょっとはっちゃけた展開にしたいんですが、まだ準備中みたいな感じで・・・。
>初めまして、ルシオラとやる横島らしい宣言だった。
初めまして〜。まぁ、やっぱり煩悩あっての横島ですからね。10年後も大して変わりませんしw
>立場上、独立云々の話になると、おキヌちゃんの影が薄くなるのは仕方ないかと。
>そんなこんなで決意表明、今後は助手のかたわら開業準備ってことですね。
まぁ、それでもちゃんとおキヌちゃんの見せ場は作ってあげたいと思いつつ。
>妙にシリアスになりすぎてるのが多い中、
>原作の軽い雰囲気を保ったままで面白かったです。
やっぱりギャグとシリアスの切り分けが原作の醍醐味だと思いますからねー。
出来る限り原作の雰囲気は残していきたいと思います。
>偶然、発見して一気に読んでしまいました
>次回の更新を首を長くのばしてまってます
ういっす。大体月1〜2回程度の更新になると思うのでちょくちょく見ていただけるとありがたいです。
>違和感のない導入、続きに期待。
期待に添えられるよう頑張りたいと思います。