GS横島〜Endless Happy Time!!〜

 

インディペンデンスデイ!! その1

 

 

 

 

 

 

 

「まったくあのバカは…」

美神令子除霊事務所の一室。美神は手にした一枚の写真を見つめながらポツリと呟く。

横島が休暇を申し出て早三ヶ月。

休暇と言ってもせいぜい一、二週間。長くても一ヶ月程度のものだろうとタカをくくっていたのだが、三ヶ月を過ぎた今でもあのバカは帰ってこない。

確かに休暇を申請してきたときは具体的にどのくらいの期間かは確認してなかったが、ここまで長くなるのならば連絡の一つも寄越せと言いたい。

かといって彼女のほうから連絡を入れるのも自分が横島をいないことを必要以上に気にしてるようで癪だ。

こうして彼のことを考えている時点で手遅れなのだが、生来の意地っ張りゆえ本人に自覚はない。

「あーっ、もうっ!殴りたいときにそこにいないってのは本当にムカつくわねーっ!!」

横島本人を殴れない代わりに手にした壁に貼り付けた写真を思い切り殴りつける。

横島のいないこの三ヶ月。既に事務所内で恒例になっている光景でもあった。

そんなとき、階下からバタバタと大きな足音が響いてきた。

「美神さん!」

「どうしたの、おキヌちゃん。そんなに慌てて?」

「横島さんが帰ってきました!」

ぱぁっと輝かんばかりの笑顔のおキヌの言葉で美神の口の端がニヤリと釣り上がる。

「フフフッ、そう。やっと帰ってきたのね、あのバカは」

「あ、あの美神さん?」

美神からあふれ出した黒いオーラと低い笑い声に冷や汗を掻くおキヌだった。

 

 

美神が燃え上がっている階下では、横島と美神の母、美智恵が閑談していた。

その傍らには横島不在の間に代わりの荷物持ちとして雇われたマリアの姿もあったりもする。

ドクターカオスもマリアとセットで(薄給で)雇われた挙句、現在は厄珍堂へ買出し中である。

「よろしくなー、ひのめちゃん」

横島が美智恵に抱かれたひのめの頭を撫でると嬉しそうにその手にじゃれついていた。

横島が妙神山に行く前はまだ生まれていなかったひのめだが、初対面とは思えないほど横島に懐いている。

「それで妙神山での修行はどうだったの?」

「えぇ、それはです…ね!?」

突然走った悪寒に横島の表情が強張る。

カチャリ、と背後の扉が開く。

そしてそこから聞こえてくるのは地獄の鬼も裸足で逃げ出すほどの嚇怒に彩られた声。

「よ〜こ〜し〜ま〜」

ギギギ、と首をめぐらせて見ればそこには夜叉がいた。

「横島忠夫ただいま戻りましたっす!」

反射的に直立して敬礼。それが以下に無駄な行為だろうとわかっていても他に術はない。

そもそも久しぶりに会ったばかりの自分に何の落ち度があったのだろうか。

まだ何もしていないはずだ。いや、前科は山ほどあったりもするのだがそれはそれ。

「あ、あの美神さん?」

美神が手にした神通棍がキンッと甲高い音を立てて光を放ち始める。

「三ヶ月も音沙汰なしによくもまぁ、おめおめと顔を出せたものね?」

「え?あ。い、いやだってちゃんと休暇を申請して許可もらったじゃないですかっ」

おたおたと手を振って言い訳する横島だが、それが通じるほど甘い相手ではない。

 

「問答無用ーっ!!」
「わぁ――――っ!?」

 

「相変わらず素直じゃないわねぇ」

「だぁだぁ」

「マリア・掃除の・準備・してきます」

美智恵、ひのめ、マリアの三人は既に二人から離れており、傍観者に徹していた。

大量の血を流しながら床に沈む横島とは対照的に思う存分横島をしばき倒した美神は実にすっきりとした顔をしていた。

「で、ちょっとはマシになってきたんでしょーね?」

「う、うぃす・・・とりあえず文珠は六文字まで同時に制御できるようになりました」

「へぇ、前までは三文字だったのにやるじゃない」

「毎日死に掛けましたからねー」

脳裏に浮かぶのはパピリオに追い掛け回され、小竜姫の神剣から逃げ惑い、シミュレーションの魔物に襲われ、しまには猿神にどつかれる日々。

思い出すだけで涙が流れ出てしまう。

「が、頑張りましたね、横島さん」

そんな彼の様子に傷の手当てをしながらもおキヌは強張った笑みを浮かべるしかない。

「でも、こうして無事に帰ってきてくれて嬉しいです。これで明日からは今までどおりですねっ」

「あー、いや、そのことなんだけどね?」

自分の帰還をこうも素直に喜んでくれるのは嬉しいが、これから話すことを考えるとどうにも気まずい。

「何よ。せっかく帰ってきたっていうのに、まだ休むつもり?言っとくけどそんなこと言い出したら時給下げるわよ」

「い、いや、そーじゃなくてですね…」

そこで言葉を吸って大きく息を吸う。

自らの決意を確かめるかのようにその表情が真剣なものに変わる。

「俺、独立しようと思います。男として、人間として一人前になるために」

横島が美神達にその表情を見せるのはこれで二度目。

一度目はアシュタロス一味のスパイとしての潜入から帰還したとき。

そして、奇しくも彼女たちの反応も同じものだった。

ざわっと、彼女たちの瞳が怪しいものを見るかのような怪訝なものに変わる。

「え…?」

「正体を表しなさいっ、この人間モドキッ!!」
「何でじゃーっ!?」

情け容赦ない神通の一撃を涙を垂れ流しがら避ける。

「ニセモノよ!!横島クンが人としてそんなまともなこと言うわけないじゃないっ!」

「さ、差別だーっ!!弁護士を呼んでくれーっ!!」

 

 

 

再び始まったドタバタは美神がおキヌや美智恵、来客した西条に宥められる形でなんとか収められた。

もっとも、美神はあからさまにムスッとして不機嫌なのは誰の目にも明らかだったかが。

「大体アンタ独立っていったって、開業するにも元手がいるのわかるでしょ?どーやってそれを工面するつもりよ?」

「うっ、そ、それは・・・」

独立する。そのことだけに意識が向いていて、実際にどうこう考えていなかった横島は返す言葉もない。

「あら、それなら大丈夫よ、ホラ」

「へ?」

「ママ?」

と、口を出してきたのは美智恵。手には横島名義の預金通帳がある。

「はい、横島クン。これはあなたのものよ」

「は、はぁ…おおっ!?」

美智恵から通帳を受け取り、美神共々そこに記された金額に目を丸くする。

「ちょっとっ、ママ!これはどういうことよ!」

通帳には八桁を下らない金額が記されている。横島の時給からしてあり得るはずもない額だ。

「どーもこーも、アシュタロスの件での横島クンへの報酬よ?」

怒鳴る美神に対して、さも当然とばかりに言ってみせる。

「あの事件での横島クンの貢献度を考えればそれでも安いくらいよ」

「何よ、それっ!私、そんなの何も聞いてないわよっ!?」

「私が個人的に横島クンに支払ったものだもの。あなたに渡したら横島クンの手に渡るはずもないしね」

「なんでママが横島クンにっ!」

「ベスパの妖毒の件に、魂を破壊された娘まで救ってもらった。他にも理由が必要かしら?」

それらは横島個人の功績でないが、彼が一番大きく貢献したのは疑いようがない。

「ぐぬぬっ・・・!」

唸る娘を眺めながら、それにルシオラさんのこともあるしね・・・と、心の中でだけ呟く。

時空の流れを乱さぬ為とはいえ、結果を知りつつもそれを伝えることができず、横島に自らの恋人に止めを刺すという辛い決断をさせてしまった。

それゆえ、美智恵は横島に対して深い罪悪感を抱いていた。

だから彼に対して、自分ができることがあるならば可能な限り手助けしよう、と決めていた。

美智恵の知らぬところでルシオラは復活しているのだが、それを知っていてもその決意が変わることはないだろう。

あの苦渋の決断をさせたという事実は変わることはないのだから。

「それだけあれば開業は十分なはずよ。ま、GS協会への申請とかあるから今日・明日からってわけにもいかないだろうけど」

「あ、で、でも本当にこんな貰ってもいいんですか?」

予想もしていなかった金額が突然自分のものと言われて、通帳を持つ手が震えている。

何しろ時給250円から始まったバイトだ。今ではそれよりは上がっているとはいえ、自分の時給で考えたら何十年働いたとしてもその金額には届くはずもない。

「勿論よ。さっきも言ったけど今までのあなたの仕事ぶりからしたらそれでも少ないくらいよ」

そういってチラリと自分の娘を睨みつける。

うぐっと言葉を詰まらせる娘を見て、ため息をつくのも忘れない。

横島の扱いに関しては以前から口出ししたくもあったが、本人が納得しているのならばいいかと黙ってはいたのだが。

「本当は横島クンが高校を卒業してから渡そうと思ってたんだけどね。ちゃんとした目標があるなら私は応援するわよ」

彼女自身、横島を気に入ってるし、今まで娘を色んな意味で支えてきた彼を本当は引き止め、娘の傍に置いておきたいと思っているが、それは自分の我が侭だということもきちんと自覚している。

だから内心では横島のことを手放したくないとも思いつつも、それを縛るような真似はしない。

「で、でも、いきなり独立だなんて」

おキヌとしては横島が選んだ道を応援したいと思う反面、横島の傍で過ごしていたいという想いがある。

「何、心配することはないさ。横島クンの実力は令子ちゃんと同格っていうのは証明されてるし、僕がこっちに来たときも所長代理を務めてたろう?だったら何も心配はないさ。」

おキヌの言葉を遮ってハッハッハと、笑いながら横島の援護をする西条。

西条からすれば、横島の援護をするのは本意ではないが、独立して美神から離れるというのならば話は別だ。

「君はもう一流のGSさっ!だから躊躇うことはない!何も迷うことなく独立したまえっ!」

「お前に応援されると物凄く腹が立つのは何故だろうな?」

西条の思惑が手に取るようにわかる為、素直にその言葉に頷けない横島。

美神のことを除いても、この二人の相性はどこまでいっても悪かった。

「み、美神さん・・・っ!」

「・・・うっ」

高笑いする西条に既視感を感じたおキヌと美神。

それに対し、美神が口を開こうとするのに先んじて美智恵が口を開く。

「それとも何?やっぱり横島クンがいないと寂しい?恋しい?」

クスリと、小馬鹿にしたような目つきで微笑んだ。

ぶちっ。

その場にいた誰もがその音を聞いた。

「そんなわけあるはずないじゃないっ!丁稚の一人、二人独立したからって私がどーこーするわけないじゃないっ!!」

「じゃ、横島クンの独立に異論はないわけね?」

「そんなのあったりまえでしょうっ!!」

今の美神の発言にニヤリと笑みを浮かべるものが二人。

「み、美神さんっ!」

「……はっ!?しまった」!!

「ハッハッハ、良かったな、横島クン。めでたく令子ちゃんの許可も降りたわけだ」

「これで独立するのに何の問題もないわけね。おほほ」

「え、ええ、そ、そうですね」

してやったりという美智恵と西条に対し、当の本人はとっくの昔に置き去りだ。

ことが上手く進んでいても何故か冷や汗が止まらない。

「ぐぬぬっ…!」

悔しげに唸る美神だが、やはり母親のほうが一枚も二枚も上手のようだ。

「え、え〜と、美神さん?」

不機嫌全開の美神に恐る恐る声をかける。

いくら許可を得たとはいえ、あのような形では後が怖い。

「横島くん?」

「ハ、ハイッ!」

ムスッと不機嫌な顔のまま睨み付けてくる。

「独立したら私は一切手助けしないわよ?それでもやっていける?」

本当に独立した後、自分の力でやっていく覚悟があるかどうか。

言葉ではなく、その視線で問いかけていた。

「は、はいっ!やります。いえ、やってみせます」

そう答えた横島の目をジッと見つめる。

その瞳に迷いや怯えは無く、純粋な決意のみが浮かんでいた。

それを確認した美神はやれやれといった感じでため息をつく。

「しょーがないわね。本免許を出したのは私なんだし。しっかり頑張りなさいよ」

美神のその言葉に横島の顔がぱぁっと輝く。

「あんたの独立認めるわ。頑張りなさい、GS横島」

「は、はいっ!」

美神にしてはやけにすんなりと許可を出したな、と内心で思いつつ大きな声で答えた。

「ただし―――」

笑顔のまま親指を立てる美神

「あんたは世間上私の弟子ってことになってるんだから恥かかせたら只じゃすまわないよ?」

くい、っと立てられた親指が下へ向けられ、首をかっきる仕草。

どこまで行こうとも美神は美神だった。

「イ、イエッサー!!」

「良かったですね、横島さん」

美神が認めた以上、自分も反対するわけにはいかない。

胸のうちにちくりと痛むものがあるもののおキヌも心から横島の独立を祝う。

彼が離れた、いや自分より前に進んでしまったのならば、その分自分が歩み寄ればいい。

そう、胸の裡で決意をして。

こうして横島は独立への道を歩んでいく。

 

 

 

 

 

 

「ちなみに私はアンタの事務所探しも手伝わないし、申請の手伝いも一切しないからね。全部自分でやりなさいよ?」

「……ういっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/05/19

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うーん、おキヌちゃんの影が薄い。
次回はシロ。タマモは・・・どうだろ。

>ぼそっと文殊でルシオラを巨大化というのが頭に浮かんだんですが、横に置いておきます
>いろいろ反動ありそうですし
反動ってか、文珠の効果切れた時点で元のサイズに戻ります。
基本的にこのSSの文珠は治療とか、本来あるべき姿に戻す効果以外の状態変化系の効果は制限時間があります。
足りないものを補うっていう意味では霊気構造も補えそうなもんですが、文珠では魂にまで効果を及ぼす力はありません。
>いよいよ下山ですか、今度は独立編かな、それとも・・・^^
>今度は誰が出てくるのか楽しみです
今回は横島のスタンスを確定ってことで。ちゃんとした独立はもうちょい先になりそうですね。