GS横島〜Endless Happy Time!!〜

 

妙神山で行こう! その6

 

 

 

 

 

 

 

「おう、横島っ!」

「あれ、雪之丞か?何やってんだ、こんなところで?」

横島とルシオラが部屋を出るとそこには妙神山の修行服に着替えた雪之丞がいた。

「原作でアシュ編以降一度も出番無かったからって無理やり出番を欲してきたのか?」

可愛そうなやつ、と呟く横島。

「ちげーよっ!?そんな捨て犬を見るよーな眼差しで人を見てんじゃねーっ!!」

「ま、まーまー」

と、憤る雪之丞をルシオラが宥める。

「へぇ、話には聞いてたが、本当に復活できたんだな。おめでとさん」

(小竜姫さま、雪之丞にどこまで話を?)

(ルシオラさんが上手く復活できたってことだけで、詳しい経緯や横島さんの魔族化に関しては誤魔化してます)

雪之丞に聞こえないよう、小声でひそひそと話す二人。

横島に関してはまだ小竜姫による封印は施されていないが、魂が魔族化してまもないこと、雪之丞の霊視がそれほど優れていないこともあって横島の変化には気付いていないようだ。

「で、本当に何しに来たんだ?」

「何、美神の旦那んとこ行ったらおまえもこっちに来てるって聞いたんでな。次のGS試験受ける前に軽く手合わせでも申し込もうと思ったのさ」

「は?GS試験?おまえ、何言ってんの?」

「いや・・・俺、GSの正式な資格持ってないんだよ」

横島の呆れたような顔に対し、雪之丞は微妙に気まずそうな顔で答えた。

横島は知らなかった。

確かに雪之丞は一度GS資格を勝ち取っているが、その後にメドーサの件で資格を剥奪されていた。

その後、香港での原始風水盤の件でGS協会のブラックリストからは除名されていたものの、正規のGS資格までは貰えなかったのだ。

横島はてっきり雪之丞も正規のライセンスを持ってるものと思ったが・・・実際はモグリの仕事ばかりで正規の仕事を行っていなかった。

「ほー、そりゃ大変だなぁ」

「タイガーも今度こそは合格するって息巻いてるからな。俺も気を引き締めて望むつもりだ」

「・・・・・・おまえが本気出したら並の受験生が束になっても勝てんて」

今年の受験者達に本気で同情する横島。

前の受験時にすらズバ抜けた実力を持っていたのに加え、猿神の修行やら幾多の実戦を潜り抜けたことで単純な戦闘力なら世界中のGSでもトップクラスに入る。

そんな輩が改めて試験を受けるというのだから雪之丞の対戦相手も運がない。

タイガーも美神をも追い詰めた精神感応能力をフルに使いこなせば、相当なランクに入るのだが、いかんせん自力で完全な制御は出来ていないので雪之丞には及ばない。

「そーいうわけだっ!久しぶりにとことんやろうぜっ!」

バトルマニアの血が騒ぐのか、妙に血走った目で迫る雪之丞。

「だが断るっ!何が悲しゅうてお前のようなバトルジャンキーと戦わなきゃならんのじゃーっ!俺はお前と違って痛いのも苦しいのも嫌じゃーっ!!」

「まーまー、雪之丞さん。横島さんはルシオラさんの復活で疲れてますし、今日のところは私がお相手しますよ」

「そうでゅね。ヨコシマはルシオラちゃんと積もる話もあるでちょうし、おまえには私が稽古つけてやるでちゅっ」

と、小竜姫と胸を張るパピリオ。

「・・・・・・ちっ。まぁ、今日のところはそれで手を打つか」

小竜姫もパピリオも雪之丞より遥かに強い。その二人が相手をしてくれるなら文句もない。

強いて言えばレベルの近いもの同士の戦いのほうが面白いのだが、横島では嫌がって相手をしてくれない。

小竜姫、パピリオと一緒に渋々と異空間修行場へと入っていった。

「じゃ、横島さんとルシオラさんは念の為に精密検査をするからこっちに来てほしいのねー」

「ほーい」

「はーい」

と、ヒャクメに言われるまま、別の部屋に向かう横島とその肩に乗るルシオラ。

どうやらそこがルシオラの定位置に決まったようである。

 

 

 

 

 

数十分後、横島たちが入っていった部屋から悲鳴にも似た叫びが響きわたる。

「ちょっとそれはどーゆーことなのよーっ!!」

「そーだっ!そーだっ!ここまで苦労してそのオチはなんじゃーっ!?」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて欲しいのねーっ!?」

物凄い剣幕で迫る二人を必死にヒャクメが宥める。

身の危険を感じているのか、その目には涙が浮かんでいる。

「これが落ち着いていられるかーっ!ルシオラのサイズが当分小さいままってどーゆーことじゃーっ!?」

「だ、だからそれはこれから説明するのねーっ!!」

ヒャクメの出した検査結果。手のひらサイズのルシオラが本来の大きさに戻るまで一年以上かかるということだった。

べスパもかつてルシオラと同じサイズで復活したが、彼女の場合は数日で元の大きさまで戻れた。

せっかくルシオラが復活できた矢先に元の大きさに戻るのに一年以上もかかると聞いては横島もルシオラも黙っていられるはずも無い。

「いくらルシオラが復活できてもこのままのサイズじゃ、あんなこともこんなこともヤれんじゃないかーっ!!どーしてくれるんじゃ、えぇっ、コラっ!?」

「そ、そんなこと私に言われてもーっ!?」

「確かにルシオラの胸は元々小さっがはっ!?」

血の涙を流しながらヒャクメに迫る横島を一撃で沈めるルシオラ。

「ヨコシマ?今、あなた何を言おうとしたのかしら?」

ひょい、と横島の胸倉を掴み上げながら、にっこりと笑うルシオラ。

サイズは小さくなっていても並外れたパワーは健在のようである。

「お、落ち着けルシオラっ!は、話せばわかるっ!!」

「世の中には言って良いことと悪いことがあるのよっ!?私だって別に好きでこーなったわけじゃないのよっ!?」

ガクガクと横島をゆするルシオラ。誰がどう見ても立派な痴話喧嘩である。

二人の追及から逃れたヒャクメはこれ幸いとばかりにお茶を淹れて一息ついてた。

「ま、こうやって痴話喧嘩できるのも平和の証よねー」

 

「二人とも落ち着いた?」

「えぇ、まぁ、なんとか」

「へーい」

数十分後、二人が痴話喧嘩を終えたことでようやくヒャクメの話が再開されようとしていた。

横島が頭から血をどくどくと流しているが、見慣れた光景でもあるので誰も突っ込まない。

二人が喧嘩をしていた間に雪之丞の相手を終えたパピリオと小竜姫も加わっていた。

雪之丞はどうしたのか?というヒャクメの疑問にパピリオは笑ってこう答えた。

「ツリ目チビなら死なない程度に痛めつけて、今頃はジークが介抱してるでちゅよ♪」

パピリオにボコられたのは通算二度目になる雪之丞。横島は心の中で密かに合掌した。

「で、ルシオラさんが元のサイズに戻るのに時間がかかるのには二つ理由があるのねー」

ヒャクメの語る一つ目の理由。それはルシオラが復活するまでにかかった時間。

人間でも傷付いたり、病気になった場合、早期に治療すればその分だけ大事に至る確立は減る。

ルシオラのケースも同様で復活に時間がかかった分、元のサイズに戻るのもべスパより時間をかける必要があるらしい。

「なるほど・・・で、二つ目の理由はなんですか?」

横島の肩の上で頷くルシオラ。元々こうして復活できたことすら僥倖だったのだ。

元のサイズに戻るのも時間さえかければ良いのだから、そうそう文句も言ってられないと納得し始めている。

「二つ目は・・・横島さんの魂、つまり人間としての魂も混ざっちゃてるから、霊的チャンネルの影響を受けづらくなってるのねー」

神魔族は、普段冥界からエネルギー供給を受けることで人間界で活動ができる。

アシュタロス事件では全ての霊的拠点をアシュタロス一味に潰されたことでその供給が絶たれたことで人間界の神魔族は休眠を余儀なくされた。

ルシオラ達三姉妹は人間界侵攻用に調整されたこと、アシュタロス本人からエネルギーの供給を受けていた為、その影響はなかった。

が、アシュタロスのいない今、三姉妹も冥界からのエネルギー供給を受けなければ活動できない。

横島からルシオラの霊破片を取り出したとき、ほんの微量だが横島自身の魂も混ざっている。

通常の状態ならば問題ないのだが、今のルシオラのように存在できるギリギリの量しか霊的質量を確保できてない状態ではそのほんのわずかな人間の魂の影響が仇となり、霊的拠点からのエネルギー供給量が通常より減ってしまっているのだ。

「そんなわけで、ルシオラさんが元の大きさに戻るには妙神山で一年くらい過ごす必要があるのねー」

「妙神山に一年?他の場所じゃダメなのか?」

「妙神山は日本でも有数の霊的拠点ですからねー。他の場所だと霊的濃度の問題で、元に戻るまでさらに時間がかかっちゃいますよ?」

例外として霊動シミュレーターのある東京地下の施設が挙げられるが、一民間人である横島に使用許可が出るはずも無い。

「うーん、ここに一年か・・・」

「大丈夫っ!一年なんてあっという間でちゅよ。そんな気にする必要はないでちゅ」

「はは、そうだな」

パピリオにはそう言ったものの、横島の顔には動揺が浮かんでいるのはパピリオ以外の誰から見ても明らかである。

横島としてはルシオラの復活さえ出来ればすぐに下山する気でいた。

元々、彼自身ここまで妙神山に長居する気もなかったし、学校にも行かなければならない。

万が一、留年でもしたら彼の母親が黙っていまい。

それに横島は生粋の現代人であり、まだ17歳の少年である。

妙神山に後一年篭もることが出来るほどに達観もしていなければ、今までの生活への未練も断ち切れていない。

かと言って、恋人であるルシオラを妙神山を下山してよいのか?、というとそれも何か違う気がする。

「とにかく、ルシオラさんも復活できたことですし、今日はもうゆっくり休んでください。お祝いも兼ねて腕によりをかけてご馳走を作りますからっ」

横島の苦悩を見て取った小竜姫がそれを中断するようにぽんと手を叩き、話を締めくくる。

「あ、なら私も手伝うでちゅっ!ルシオラちゃん、私小竜姫に習って、料理できるようになったんでちゅよっ!」

「へぇ、あなたがねぇ?」

ルシオラが感心したように頷く。逆転号で暮らしていた頃のパピリオからすれば想像もできないことだったので、多少なりとも驚いていた。

「ふふ〜ん、少なくともルシオラちゃんよりはレパートリー多いでちゅよ?」

勝ち誇るように胸を張るパピリオ。

ピキッとルシオラの額に青筋が浮かび上がる。

「やーねぇ、パピリオ。私を甘く見ないで欲しいわね。二ヶ月やそこらであなたに追い越されるほど甘くはないわよ?」

バチバチと火花を散らす姉妹。

ルシオラも逆転号時代は料理をしなかった・・・と、いうより必要なかったのだが、横島との件があってから密かに料理に関しては勉強していた。

それを実践する機会は訪れなかったが、姉妹の末っ子程度に偉そうにして黙っていられるほど姉は大人でもなかった。

「ふふん、ならばどっちが美味しい料理を作れるか勝負でちゅっ!」

「望むところよっ!所詮妹が姉に勝つことなど出来ないと思い知らせてあげるわっ!」

バチバチと、火花を散らしながら台所へと向かっていく姉妹を残った三人は呆然と見送っていた。

 

 

 

 

「こらうまい!こらうまい!」

「うむ、これはなかなか・・・」

並べられた料理の数々が怒涛の勢いで消費されていく。

横島だけでなく、復活した雪之丞も加わっているのでその消費スピードは半端ではない。

ルシオラとパピリオの姉妹対決は、実戦経験の差でパピリオに軍配が上がった。

別段、パピリオが特別料理が上手いというわけでもないのだが、いかんせん知識はあっても、それを実践する機会がなかったルシオラのハンデは大きかったようだ。

末っ子に敗北を喫したルシオラは横島の隣で灰となって燃え尽きていた。

ちなみに、ジークとワルキューレ、そしてヒャクメは既に魔界と天界へ帰還している。

「なかなか良いものを見せてもらった。また会おう!」

「ベスパさんにはこちらから報告しておきます。お元気で!」

「それじゃ、横島さん、ルシオラさんお幸せにねー♪」

と、三者三様の言葉を残して去っていった。

猿神は異空間に篭もり、格ゲーに勤しんでいるのだろう。

「ところで、横島。お前、正規のライセンスを貰ったんだろ?独立とかはしないのか?」

「は?俺が独立?」

一度も、想像すらしたことないことを突然言われ、目を丸くする横島。

厳密には10年後の横島が来たときに、妄想の中で独立を考えたことはあるが、文珠でそのときの記憶を忘れている横島がそれを思い出すことは無い。

「ああ、おまえくらいの実力があれば、独立しても十分やっていけるだろ」

「そうですね。霊波も以前とは比べ物にならないくらい安定していますし。今の横島さんなら一人でも十分にやっていけますよ」

「そ、そーなんすか?」

「えぇ、私が保証しますよ」

と、雪之丞に続いて小竜姫も太鼓判を押す。

元々、横島の才能を見抜いてGSに導いたのは他でもない小竜姫だ。

もっとも、彼女自身、横島が短期間でここまでの実力を身に付けることは予想できなかったが。

「タイガーも今度こそは資格とってアシスタントから正社員になるって息巻いてるし、ピートも最近はGメンの研修受けたりしているらしいぜ?」

「へぇ・・・、あいつらがねぇ」

「ま、お前が美神の旦那のとこにいるのは自由だが、たまには他の道を考えてみてもいいんじゃないのか?」

「俺が独立・・・ねぇ」

それぞれに自分のこれからを考えて動いている友人達。

以前の自分なら「へー、頑張るなぁ」で済ませ、それ以上考えることはしなかっただろう。

チラリと隣のルシオラを見る。

ルシオラはこんな自分を好きと言ってくれた。

今さら煩悩まみれの自分を否定する気はないが、今までの自分でいいのかとも思わなくも無い。

美神令子除霊事務所は彼にとって慣れ親しんだ場所でもある。

確かに自給は相場を遥かに下回っているが、おキヌちゃんの作る飯は上手いし、何よりも美神とのスキンシップ(セクハラともいう)は何者にも換え難い代物だ。

自分がGSになったのは成り行きだった。特に覚悟も信念もなく、成り行きで霊能力に目覚め、戦って来たに過ぎない。

そんな自分でも確かに強くなれた。

そして自分を強くしたのは誰でもないルシオラの存在だ。

ならば、彼女の為にもう一歩踏み出すのもいいかもしれない。

そんな考えが彼の頭をよぎっていた。

 

 

 

 

 

「ヨコシマ、起きてる?」

「んー、まぁ」

既に日も暮れ、深夜とも言える時間。

布団の中で不意にかけられた声に答える。

横島とルシオラは同じ部屋で床についていた。

本音を言えば、あんなことやこんなことをしたいところではあるが、ルシオラのサイズがサイズなので当分はお預けだ。

「これからどうするの?」

「・・・と、いわれてもなぁ」

下山したいという気持ちはある。だが、ルシオラを置いていくにも抵抗がある。

自分でもどうするのが良いかのわからないというのが横島の本音である。

「そんなこと言って、本当はやりたいこと、できたんでしょ?」

「・・・・・・」

ルシオラの言葉に横島は沈黙で答える。

「私、お前が好きよ。だから私のことは気にしないでヨコシマのやりたいようにやって欲しいの」

「・・・・・・」

美神の魂が奪われたときも同じような台詞をルシオラから聞いた。

「大丈夫、パピリオも言ってたけど一年なんてあっという間よ?」

「ルシオラ」

「ん?」

「一年、待っててくれるか?」

「そんなの当たり前でしょ?一年どころか来世の来世まで待つつもりだったんだもの。一年待つくらいなんでもないわよ」

そう言ってクスクスと笑うルシオラ。

「おまえが私達に未来をくれたんですもの」

ルシオラたち三姉妹の寿命は本来は一年だった。

だが、横島と出会った事により延命処置を受け、彼女たちに未来が生まれた。

「ありがとな」

「どうしたしまして」

暗がりの中、そっとルシオラが横島の頬にキスをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、小竜姫様、老師お世話になりました」

翌日、横島は雪之丞と一緒に下山することになり、妙神山の面々と別れの挨拶を交わしていた。

「えぇ、横島さんもお元気で」

「お主はこの二ヶ月良くやりとげた。わしから改めて言う事も無い。息災でな」

「ヨコシマ、ちゃんとまた遊びにくるでちゅよ?」

「おう、当然だろ?そんときはちゃんとおみやげも持ってくるから心配するな」

てっきり横島が下山することに駄々をこねるかと思われたパピリオだったが、事前にルシオラの説得もあり、事なきを得た。

恋人であるルシオラが納得している以上、妹である自分が駄々をこねる筋合いではないと納得したのだろう。

「じゃ、ルシオラ。行ってくる」

「えぇ、頑張ってね」

短い言葉のやりとりだが、今の二人にはそれで十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

こうして横島はルシオラの復活という目的を達成し、妙神山を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/03/31

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つーわけで妙神山編なんとか終了。
流れ的に説明要素が多すぎてちと反省。もうちょいシンプルにまとめたいところであったんですが。

>半妖じゃなくて半魔族で落ち着きましたか
>次どうなるのかと考えてみたんですけど
>横島のキャラでは何でも出来るじゃないですか^^
>これからどうなるか楽しみに待ってます
まー、何でもアリちゃぁアリの世界ですからねぇw
文珠の汎用性も反則だし。
>魔力、竜気、神通力の設定も興味あるんですが今ちょっと複線だらけの
>アドベンチャーやってるせいで脳内パンク寸前
>終わってからゆっくりもう一度原作も込みで読ませてもらいますね
まぁ、あまり深く関わる設定でもないので流しちゃってもさほど問題ないはずですw