GS横島〜Endless Happy Time!!〜
妙神山で行こう! その4
「ぜぇ〜、ぜぇ〜・・・」
光が収まった後、そこには息も絶え絶えにぺたんと座り込む横島の姿があった。
手にしていた双文珠は既に消えている。
限界以上の霊力を使い果たした横島には、もう立ち上がる力すら残っていなかった。
猿神や妙神山の霊的不可を受け、一時的に霊力が増大したとはいえ、双文珠の3つ同時使用など今の横島の限界を遥かに超えていたのだから。
「ふむ、どうやら最初の山は越えたようじゃな」
小柄な猿の姿へと戻った猿神は満足そうに頷く。
「え、それ・・・って!?」
ドクン、と。
横島は自らの心臓・・・いや、魂が脈打つのを感じた。
「あ・・・・・・?」
「ここからがお主の本当の戦いじゃ・・・心せよ」
既に横島に猿神の声は届いていない。
「あ・・・・・ぐ?」
自分の心臓を抑えるかのように服を掴み、苦しげに呻き、気を失う横島。
「横島さんッ!」
「ヨコシマーっ!」
猿神が戦闘態勢を解いたことにより、小竜姫とパピリオを始めとした面々が駆け寄ってくる。
「ヒャクメっ!横島さんの容態はっ!?」
小竜姫が気絶した横島を抱きかかえ、猿神に問い詰める。
「魂の魔族化が始まったみたいなのねー。今のところ命に別状はないけど・・・」
猿神に代わって小竜姫の声に答えるヒャクメ。
「このまま魔族の衝動に飲み込まれるか、正気を保っていられるかは・・・すぐに結果が出る」
「ヨコシマ・・・・・・頑張るでちゅよ」
気を失い、苦しげに呻く横島の手をぎゅっと握りしめるパピリオ。
ジークやワルキューレも緊張した面持ちでそれを見守っている。
「横島さん・・・あなたには待っている人がたくさんいるんです。必ず帰ってきてください」
抱きかかえた横島に向かって小竜姫は静かに呟いた。
「ここはどこだ・・・?」
一片の光も無い暗闇の世界。
そこに一人横島は佇んでいた。
「うーん、何がどうなったやら?確か猿と戦っててそれから・・・・・・どうしたんだっけ?」
何の考え無しに歩き始める横島。
辺りを見回しても暗闇ばかりで何も無い。
そのまま歩いていくとその先にぼんやりと明るい光が見えてきた。
「おっ!?」
その光の先に見えたものは見慣れた姿。
「横島クンっ!よくやったわね。・・・本当に見直したわ」
彼の雇い主である美神令子の姿。
「本当ですっ、凄いですよ、横島さんっ!」
その隣には元幽霊少女のおキヌの姿もある。
「本当ね〜、猿神の攻撃にも耐えちゃうなんて〜。横島クン素敵〜」
「フ・・・私としたことがホレちゃったワケ」
「え?は?」
お次は冥子とエミ。
「横島さん、ステキですよ♪」
「本当、青春の極みよね〜」
魔鈴、愛子次々と横島の知る女性達が現れては横島の周囲に集っていく。
その中には小鳩、シロ、小竜姫、ワルキューレ、かおり、魔理といった面々の姿もあり、皆がみんな横島に甘えるように擦り寄ってくる。
「こ、これは・・・ハーレム?」
その柔らかい感触に自然と頬が緩みまくる横島。
「横島クン、あなたはもう十分すぎるほどよくやったわ。このままずっとここで私たちと一緒に過ごしましょう?」
「あぁっ、背中に柔らかい感触がっ!?耳に息がっ!?」
背中から美神に抱きつかれ、その背中に感じる柔らかい感触に横島の意識はトリップ寸前。
「ほら、約束して・・・?ずっとここにいるって」
「そうすれば、私たち皆・・・横島さんのものですよ?身も心も・・・」
左右から囁かれる言葉に横島の耳や鼻から勢いよく鮮血が迸る。
「は・・・」
横島がその誘惑に乗ろうとした瞬間、ソレは舞い降りた。
「ヨコシマの・・・・・・浮気モノーっ!!!!」
「どわーっ!?」
声と同時に横島に向けて特大の霊波砲が連射される。
横島の周囲を囲っていた女性達は悲鳴を上げつつ、即座に逃げ出すが、緩みきっていた横島にそれを避けられるはずも無く、直撃を受ける。
「そ、その声はルシ・・・?」
ボロボロになった横島をズン、と仁王立ちで見下ろすのは見間違えるはずもない、ルシオラだった。
「あなた、何のためにここまで頑張ってきたのよっ!?私のタメでしょっ!?何、他の女囲って緩んだ顔してるのよっ!?」
横島の胸倉を掴み上げ、ガーっとまくし立てるルシオラ。そのこめかみに血管が浮かんでいるのは見間違いではないだろう。
「い、いや、しかし・・・」
「ちょっと、あんた・・・っ!」
あとひと息というところで邪魔をされた美神たちがルシオラの肩に手をかけ、
「うるさいっ!邪魔ッ!!」
ルシオラの霊波砲で思いっきり吹き飛ばされた。周囲の女性数名を巻き込んで。
「ひえぇぇっ!?ル、ルシオラっ!?ちょっとやりすぎじゃないのか?」
ルシオラの暴虐ともいえる行為に慄く横島だが、ルシオラは一切動じた様子も無く、
「よく見なさい。アレは本物の美神さんたちじゃないわよ」
「え?」
横島が言われたとおりに見ると、吹き飛ばされた美神たちの容貌が崩れ、うねうねと黒いスライムのような姿へと変わっていく。
『おのれ・・・あのまま欲望に身を任せておけばよいものを・・・』
それはやがて一つに溶け合い、全身が焼け爛れたような黒い人型の魔物への姿を変える。
「げっ!?」
それを見た横島が硬直し・・・やがてプルプルと震えだす。
「ちくしょーっ!とってもドちくしょーっ!俺はあんなもんに欲情してたのかーっ!?俺のトキメキを返せーっ!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その横島を見て、ルシオラも魔物も微妙な表情で横島を見やる。
それぞれ哀れむような、情けないようななんとも言えぬ表情で。
やがて、魔物は気を取り直すようにブンブンと頭を振り、唐突にその口から霊波砲を撃ち出す。
「おわーっ!?」
ルシオラに首根っこを引っつかまれる形でその一撃から逃れる。
「気をつけて!あいつにやられたらヨコシマは二度と目覚められない・・・っ!」
「え?何、どーゆうことだ?」
「だからっ!あいつはヨコシマの破壊衝動そのもので、あなたがやられたら体をアレに乗っ取られるのっ!」
ヨコシマを抱き上げ、飛翔しながら魔物の攻撃をかわしていくルシオラ。
「・・・・・・ちなみにさっきあいつの誘いに乗ってたら?」
「同じよ。ヨコシマの意識がここで囚われて、二度目覚めることはなかったでしょうね」
「・・・・・・マジ?」
「マジよ!」
ルシオラの言葉にサーっと顔が青くなる。
「あ、危ないところだった・・・」
「誰でも彼でも鼻を伸ばすからそんなことになるのよ、バカッ」
「堪忍やーっ!仕方なかったんやーっ!って、そんなことよりなんで、お前が?それにここは一体・・・っ!」
「ここはヨコシマの深層心理の中よっ!私とあなたは魂が一体化してるからハヌマンの修行で一時的に私の魂も活性化され・・・っ!?」
『おしゃべりはそこまでだ・・・』
「!?」
何時の間にやら翼を生やした魔物が横島たちの上を取っていた。
「くっ!?」
「どわっ!?」
放たれた霊波砲はルシオラが受け止めるが、完全には相殺できず、そのまま落下してしまう。
「あたた・・・大丈夫か、ルシオラ?」
「ええ、なんとか。それよりヨコシマ、来るわよっ!」
「のわーっ!?」
ルシオラの警告と同時に撃ち込まれる霊波砲。
ルシオラは飛んでかわし、横島は四つんばいでそれを避ける。
「と、とにかくっ、あいつを倒せばいーわけだな?」
「そうよ。そうすればあなたは無事に目覚められるはずっ!」
「よっしゃぁ!やったるでっ!・・・・・って、あれ?」
意気込んで文珠を生成したまでは良かったものの、それは双文珠ではなく、いつもの普通の文珠。
「な、なんで?」
「魂の出力が本来のものに戻りつつあるのよっ!私も多分そう長くは持たないわっ!」
「なっ・・・って、おわーっ!?」
ルシオラとの会話に割り込むように魔物が爪を振り下ろしてくる。
「くっ、なら速攻で終わらせりゃいーんだろっ!?」
手にした文珠に込められた文字は”剣”。
いつかの霊堂実験室で発動させたものと同じも霊剣。
栄光の手以上の出力と収束率を誇るそれを必殺の間合いで振り下ろす。
キンっと甲高い音と共にそれを受け止めたのは、
「も、文珠っ!?」
魔物の手にした”盾”の文珠。
横島がそれに動揺した隙を逃さず、口から霊波砲が放たれる。
「わーっ!?」
とっさに霊剣を掲げて防いだものの、派手に吹き飛ばされる。
「な、なんであいつが文珠をっ!?」
「あいつは横島の破壊衝動、だから横島の能力はそのまま使えるのかも・・・・っ」
吹き飛ばされた横島と入れ替わりにルシオラが霊波砲を放つが、魔物の文珠によってあえなく”逸”らされてしまう。
「そんなんきーてねーぞっ!?反則やーっ!」
「そんなの私に言ったってしょうがないでしょっ!?うだうだ言ってないで、やるわよっ!」
「ひーっ!!」
放たれた霊波砲を泣きながらかわしながら、ルシオラと挟み込むように回り込む。
が、そこに放たれる”炎”の文珠。
「くっ!」
「ちぃっ!」
ルシオラはそれを飛翔してかわし、横島は”冷”の文珠でいなす。
そのままルシオラは霊力を込めた拳、横島は霊剣の一撃を繰り出す。
が、魔物は両手の文珠で二人の一撃に込められた霊力を”散”らす。
「うそっ!?」
「げっ!?」
二人がそれに驚愕する間もなく、それぞれの腕を掴まれ、勢いよく投げ飛ばされる。
「なんで、こいつこんなつえぇーんだよっ!?俺の破壊衝動だろ!?」
「そんなことまで知らないわよっ!だけどパワーは私たちより数段上だわっ!」
「私たち・・・って、俺はまだしもおまえよりも強いのか?」
以前のルシオラのパワーはベスパには劣るものの、パピリオを上回っていた。
そんなルシオラ以上のパワーを持つ相手に文珠まで使ってこられたらとても勝ち目は無い。
「今の私は本体の私じゃなくて、おまえと魂を共有してる状態なのよっ!だから人間のあなたと同じ程度の霊力しか持ってないわっ」
「そーなの?」
「そーなのっ!」
のんきに会話しているように聞こえるが、今現在進行形で魔物の攻撃は続行されている。
霊波刀にした栄光の手や、霊波砲で、魔物の攻撃をいなしてはいるが、その苛烈さに反撃の糸口が掴めない。
「このままじゃ・・・埒があかない!ヨコシマ!私が幻術でかく乱するからその隙をついてっ!」
「わかったっ!」
敵の霊波砲をかいくぐり、ルシオラが一直線に飛び出す。
飛び込んできたルシオラを魔物の爪が一閃。
だが、そのルシオラが爪に裂かれると同時に姿がブレ、掻き消える。
ホタルの化身であるルシオラお得意の光による幻術だ。
ルシオラの本体はその魔物の上空。
「ヨコシマっ!」
「おうっ!」
上空からルシオラの霊波砲。
背後に回りこんだ横島の霊波刀が横殴りに一閃。
「よっしゃーっ・・・・って、アレ?」
「ムダ・・・だ・・・・ググ・・・」
確かにルシオラの霊波砲が直撃し、横島の霊波刀も切り裂く手応えがあった。
が、魔物は何事も無かったかのようにその傷を再生していく。
「そんな・・・!」
「ちょっとやそっとの攻撃じゃ効かんとゆーのか?そんなんズルイやんかーっ!!」
そこに文珠で創り出された”剣”を振りかざし、魔物が切り込んでくる。
「くそっ!」
それをかわしざまに”爆”の文珠を発動して投げつける。
が、その一撃によるダメージすらも瞬く間に回復してしまう。
「もっとヤツを一撃で倒す攻撃を加えないとダメみたい・・・っ」
「そんなこと言ったってーっ!あんなヤツを一撃で仕留めるパワーなんて出せるかーっ!!」
以前の横島であれば、美神や他の人間に頼りきり、自分自身でどうにかすることを諦めていただろう。
だが、ルシオラとの約束。自分自身が戦うと決意した時から横島は変わっていた。
口では情けないことを言っていても、その内心では現状を打破しようと巡るましく頭を回転させていた。
それが美神たちと過ごしていた時間で培った彼の生き汚さであり、勝利への道を切り拓く。
「いや・・・一つ手があるかもっ!ルシオラっ!こっちに来てくれっ!」
魔物の霊剣をいなしながら、反対側から牽制するルシオラに呼びかける。
「ヨコシマッ!」
防戦一方のヨコシマを援護すべく、霊波砲の一撃を放つルシオラ。
「これでもくらえっ!」
魔物がルシオラの霊波砲に気を取られた隙に”凍”の文珠を発動させる。
絶対零度近くまで下げられた凍気が魔物を凍てつかせる。
すぐに破られてしまうかもしれないが、ほんの少し足止めできれば横島にとっては充分。
「どうするの、ヨコシマ?」
隣に並び立つルシオラはいたずらを思いついた悪ガキのような笑みを見せ、
「こうするのさっ!」
横島の両手にはそれぞれ一つずつの文珠。
刻まれた文字は”同””期”。
「合・体っ!!」
横島の体が光となり、ルシオラへと吸い込まれていく。
そして次の瞬間、ルシオラの体が眩い輝きを放つと同時に凄まじいまでの霊力が溢れ出す。
「こ、これって・・・!?美神さんとの?」
『わははー、上手くいったな!』
ルシオラの姿はかつて美神と同期合体したときとほぼ同様の姿をしている。
横島の声は左肩の水晶から聞こえてきていた。
文珠によって霊波の同期させ、共鳴することによりそのパワーを数十から数千倍にまで高めることのできる横島の切り札。
強力無比なこの技の最大の欠点は力が同等のもの同士で無いと使えないことだ。
以前のルシオラと横島では根本的な霊力に開きがありすぎた。
だが、今の二人は基本霊力が拮抗していること。さらに魂を共有しているという確固たる繋がりがあるのだ。
同期による相乗効果はかつての美神以上ともいえよう。
これにより魔物とのパワーバランスは逆転。いや、遥かに圧倒している。
本能でそれを察知したのか、魔物がたじろぐ様子が二人にも伝わってくる。
『一気に決めるぞ、ルシオラッ』
「ええっ、行くわよ、ヨコシマっ!!」
ルシオラの両手から圧倒的な霊力が迸る。
『このGS横島忠夫とっ!』
「その恋人ルシオラがっ!」
「『極楽に行かせてやるぜっ!(あげるわっ!)」』
ルシオラと横島の渾身の一撃が魔物を捉える。
圧倒的な霊力の奔流の中、魔物は跡形も無く消え去っていく。
『これで・・・終わり、か?』
「・・・みたいね」
油断無く辺りの気配を探るが、特に怪しい気配は無い。
完全に魔物は消滅させられたようだ。
ブンっとルシオラの姿がブレると同時に二人の同期合体が解ける。
「あ、あれ!?」
それと同時に横島の体が光に包まれ、宙に浮かんでいく。
「大丈夫。横島が目覚めようとしてるだけよ。目覚めれば元通りのあなた」
ルシオラは宙に浮いていく横島をその場で見守るだけ。
「お、おまえはどーすんだよっ!」
「私はあくまでお前の中にだけいる存在だもの。ここであなたが復活させてくれるのを待ってるわ」
「・・・・・・っ!」
そう言って微笑むルシオラの笑顔に硬直する横島。
「あぁっ!待ってろっ!すぐに復活させてやるからなっ!絶対だっ!」
すでに見えるその姿が小さくなったルシオラへと叫びかける。
ルシオラは小さく手を振って横島を見送る。
そして横島の意識が覚醒する。
UP DATE 08/03/09
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次回で妙神山編完結・・・!の、はず。
>むむ?
>ヒャクメは横島より前からペット扱いされてませんでしたっけ?
>ヒャクメは日本にアシュ勢力が来る前に捕まってたと思うので。
>非常に面白く読ませていただきましたが少し気になりましたので。
ヒャクメが捕まったのは横島より前ですが、妙神山の時に逃げ出せているので、横島よりペットとしての期間は短いと判断してます。
ヒャクメが捕まってから横島に会う期間 < ヒャクメが脱走(?)してから横島がルシオラと約束するまでの期間って感じですね。
とはいえ、紛らわしい書き方だったと思うのでちょびっと修正しました。
>エミヤと聞いて、概念を想定する言葉、特に人が長く使って言霊が乗りそうな単語ならより強力な効果を発揮してくれそうかもと思いました。
>金城鉄壁とか金剛不壊とか
問題は横島がそんな単語でイメージできるかってことですがw
一応このSSの設定では込められた文字よりも、文字を込めるときのイメージのほうが影響を及ぼすようになっています。
その辺りのことはそのうち作中でも語られるようにしていくつもりですがー。