GS横島〜Endless Happy Time!!〜

 

妙神山で行こう! その3

 

 

 

 

 

 

「うむ、ルシオラの復活・・・試しみるか」

猿神の言葉に横島を始め、その場にいた者の表情が引き締まる。

特にパピリオにとっては自分の姉の復活がかかっているのだ。否応なく、その緊張感をが高まっていく。

「さて、横島。もう一度問うぞ?お主に魔族になる覚悟があるか?」

猿神が横島を見据え、横島は無言で頷く。

「一度、魔族となれば人間には戻れんし、お前が魔族としての破壊衝動を抑え切れねばわしがお前を殺す」

その猿神の言葉にピクっと反応したのはパピリオと小竜姫。

魔族の衝動を抑えきれなければ自我を失い、本能の赴くままに暴れる魔物と化す。

魔装術を暴走させた陰念は心霊治療によって時間はかかったが人間に戻ることができた。

だが、ルシオラの霊基構造を持つ横島が魔族と化した場合はそうはいかない。

飲み込まれた自我が戻ることはなく、人間に戻る手段もないのだ。

そうなった場合は殺すことでしか横島を止めることができない。

小竜姫やパピリオでは横島に情が移ってしまい、止めを刺すことができないと考えた猿神は自らがその役目を負うつもりでいる。

「今更っスね。そんなのは修行を始める前に聞いたことですから」

当の横島はリラックスした様子で猿神の言葉に答える。

そのあっけらかんとした様子に小竜姫とパピリオは一瞬、気を抜かれた顔を見せ、

「何ですか、その気の抜けた顔はっ!わかってるんですかっ!!失敗したら死ぬんですよっ!?」

「そうでちゅっ!大体ヨコシマは普段から考えなさすぎでちゅっ!!何、即答してるんでちゅかっ!?」

ガーっと物凄い剣幕でまくし立てる小竜姫とパピリオ。

「そ、そんなに怒らなくても・・・」

横島は横島なりに考えて出した結論なのに、こう頭から考え無しのように揶揄されると悲しいものがある。

「だ、大丈夫ですって!俺だって死にたくないですし、ルシオラの為にも必ず成功させますって」

冷や汗を流しながら語る横島に二人はジト目を向けるがやがて諦めたようにため息をつく。

「はぁ・・・でも、横島さんが決めたことですから元々私が口を出すこと権利はないですよね」

「まったく・・・約束でちゅよ、必ずヨコシマもルシオラちゃんも無事でいてくだちゃい」

「おう、まかせとけっ!俺の煩悩パワーを信じなさいっ!」

ビッとパピリオに親指を立てる横島。

そんな横島を見て、二人は横島ならなんとかするだろう・・・、そんな安堵感が生まれていた。

「・・・・・・と、いうわけで」

いきなり雰囲気を変え、邪な瞳で小竜姫を見やる横島。

「煩悩エネルギー充填のためにもっ!!小竜姫さまぁぁっ!」

ぐおぉぉっと小竜姫に迫る横島。それを見やる小竜姫とパピリオの視線は酷く冷たいものであった。

「ま、今日は一杯は準備にかかるしの。実行するのは明日じゃな。小竜姫、ヒャクメやジークにも連絡をしておけ」

「はい、わかりました」

猿神の言葉に答える小竜姫の足元にはグリグリと、足蹴にされた横島が横たわっているのは言うまでもないだろ。

その光景も最近の妙神山では当たり前になりつつあるので、パピリオも猿神も何も言わない。

 

 

 

 

 

翌日、魔界には猿神、小竜姫、パピリオ、ヒャクメ、ジークに加え、ワルキューレといった横島にとって馴染みの神魔族が勢ぞろいしていた。

「・・・なんで、ワルキューレまでいるんだ?」

猿神が呼んだのはジークとヒャクメのみでワルキューレは含まれていない。

「ふん、たまたま休暇で退屈していたのでな。暇つぶしがてらにお前が何をするのか見物しに来ただけだ」

と、そっぽを向きながらいうワルキューレにジークが驚愕した顔をする。

「え?姉上。昨日は無理やり休暇をし・・・いえ、なんでもありません」

カチリ、と音がした後、沈黙するジーク。

他の面子からはわからないが、そのわき腹にはワルキューレの持つ銃が押し当てられている。

余計なことは喋るなということらしい。

戦友である横島が何をするのか気になって来たと、素直に言えない姉に苦笑するジークだった。

猿神と小竜姫によって、ルシオラ復活のために魔族化を行うというのは既に説明されている。

「さて、一応断っておくが、これから行うことは他言無用で頼むぞ」

「どーいうことでちゅか?」

猿神の言葉に首を傾げるパピリオと横島。

「簡単なことなのねー。横島さんが魔族になったら人間でも神魔族でも何かしらよからぬ考えを持つ輩が出てくるかもしてないってこと」

「そーなのか?」

「はぁ、横島さんはもっと自分の能力の希少性を自覚したほうがいいのねー。文珠は異常なほど利便性が高い能力だし、魔族になったらデタントの絡みで、人間のときほど気楽にしていられませんよ?」

「ヒャクメの言うとおりですね。横島さん本人にそのつもりがなくても神魔族の過激派からすると横島さんや美神さんたちのような人間は目の上のたんこぶみたいなものなんですよ」

ヒャクメの言葉をジークが補足する。

ハルマゲドンに発展しかねなかったアシュタロス事件を解決したのは実質、人間のGSである。

文珠という能力とアシュタロスさえ出し抜くしたたかさを併せ持ってその中核を担ったのは横島だ。

この事件の詳細なあらましを知った神魔族や人間が横島を危険視する可能性はある。

その横島が人間ではなく、魔族としてのポテンシャルを得たと知れ渡ったら横島の危険性は飛躍的に増すことだろう。

神魔族は人間のように急激な成長をすることは稀だが、潜在的な能力は比較にならないのだから。

そんな輩が今までどおり人間界で好き勝手してるとなると、デタントの過激派が動き出す口実を与えかねない。

たとえ、横島当人に何の考えがなかったとしても、だ。

幸いにもアシュタロス事件の詳細は冥界とのチャンネルが遮断されていたことで、神魔族のごく僅かの上層部とその報告を行ったヒャクメたちくらいのものだ。

一般的には宇宙意思による追い風と、人間のゴーストスイーパーたちのチームワークによって解決したとされている。

これは人間界側も同じことだ。横島は事件解決の中心人物ではなく、あくまでその一員に過ぎないことになってる。

これは横島の安全性を確保すると共に、ルシオラを失うことと引き換えに世界を救った横島を英雄扱いしてプロパガンダとして利用されるのを防ぐ為でもある。

無論、横島がスパイとして行動していたことは世間一般には公表されており、アシュタロス一派の手先として人間の裏切り者という汚名は返上されている

「そんなわけで横島さんが魔族ってことが世間に広められると色々と面倒なことになりそうなのよねー」

「なるほど。ペスの割には中々博識じゃないでちゅか」

ヒャクメの説明に納得したパピリオは感心したようにうんうん頷いている。

「・・・・・・しくしく。いい加減ペット扱いするのはやめてほしいのねー」

パピリオにペットとして扱われた日々を思い出したのか、ヒャクメは体育座りでいじけていた。

パピリオによって同じペット扱いされたことのある横島は無言でその肩をポンポンと叩いている。

最初にペットとして捕まっていたのはヒャクメだが、ヒャクメはすぐに脱走していたため、実は横島のほうがペット歴は長い。

ペット兼召使いとしてこき使われた者として共感するものがあるのだろう。

「前置きはその辺にして横島よ、そろそろ始めるか。他のものは邪魔にならんよう下がっておれ」

「始めるたって何をどーするんですか?」

横島が魔族化する方法は猿神に一任していたが、具体的に何をどうすればいいのかはまだ何も効いていなかった。

「何、以前の文珠のときと同じじゃよ。お前の魂はこの二ヶ月間わしやこの妙神山の霊的負荷を受けていた」

「え、それってつまり・・・?」

たらりと横島の額に汗が流れる。

「その過負荷から解放された今、お主の魂は一時的に出力を増している。それも魔の属性へ傾きやすいように調整してな」

横島の脳裏に浮かぶのは文珠を会得したときの光景。

「わしと戦い、魔族となるか、死か?自分で掴み取ってみせろ」

猿神はニヤリと笑った直後、鋼の棒――如意金剛を構えた巨大な山猿へとその姿を変える。

「ひえぇぇっ!?ま、またっ!?」

この二ヶ月間、猿神と訓練で相対することはあったが、それはあくまで訓練としてでた。

だが、今回は実戦さながらの殺気や闘気を放っている。

一瞬でも気を抜けば本当に命を失うであろうことは直感で理解した。

そんな猿神を前にして横島が思ったことは、

「・・・・・か、帰りたい」

それが偽らざる横島の本心であった。

「横島っ!ベスパからの伝言だっ!」

既に異界空間の出入り口へと退避しているワルキューレが横島に向かって叫ぶ。

ベスパは現在、魔界で任務中のため今回ここに来ることはできなかった。

だが、自らの主であるアシュタロスの望みをかなえた横島、そして姉であるルシオラに対しては彼女なりに強い想いがあった。

だから一言だけワルキューレに言伝を頼んだのだ。

「・・・あいつは何だって?」

「姉さんを頼む・・・とさ」

「・・・・・・っ」

ワルキューレの言葉を聞いた途端、横島の顔が引き締まる。

それはベスパがルシオラの姿で現れたときと同じ表情だった。

右手に栄光の手を霊波刀として構える。

「やったるっ!ルシオラの為にもこんなとこで終われんのやーっ!」

霊波刀を突き出した状態で猿神に突撃する。

迎え撃つのは如意金剛による巨木の幹と同じ太さの鉄の塊。

まともに食らえば一撃で昏倒しかねない。

「んなろーっ!」

左手でそれを飛び越えるように手を着く。

そしてその左手にはサイキックソーサー。

次の瞬間にはソーサーが爆ぜ、横島は一気に猿神の足元へと飛び込んでいた。

この二ヶ月間の霊力コントロールによって、ソーサーの爆発の方向性を制御し、それによって爆発的な加速を得ることが可能になっていた。

が、横島が懐に飛び込んだ瞬間には猿神の姿は遥か上空へと飛び上がっていた。

そしてそこから繰り出される無数の突き。

「どわーっ!?」

悲鳴を上げ、必死にそれを回避していく横島。

瞬く間に横島の姿が巻き上げられた砂塵に包まれる。

そこから飛び出すのはサイキックソーサー。

だが、猿神はそれを片手をかざすだけで軽々と防ぐ。

人間と猿神ではやはり基本霊力の桁が違うため、生半可な攻撃では蚊が刺したほどにも通じないのだ。

「ふんっ!」

砂塵の中に何度も突きを繰り返す猿神。横島の姿を捉えていなくても一定の範囲内で繰り出される突きは十分すぎる脅威だ。

「うひーっ!?」

流石に砂塵の中に隠れているといった手を取る事も出来ず奇声を上げながら飛び出してくる横島。

それを確認した猿神が飛び上がった勢いそのままに大地に着地し、

「おおっ!?」

―――――――足を滑らせて派手に転んだ。

「わはははーっ!こっちがいつまでもやられっ放しでいると思うなよっ!俺にだってイヤガラセくらいはできるっ!」

猿神が砕いた大地の破片の上から見下ろし、高笑いを上げる横島。

猿神に対して裏をかかせたのは大したものではあるが、胸を張って言うことではないことは確かだ。

猿神の足元には”滑”の文珠。砂塵に紛れて大地の摩擦係数をゼロにしていたのだ。

無論、転んだくらいでたいしたダメージは与えられないが・・・・・・元々横島の霊力で猿神にまともなダメージを与えられるはずもない。

横島の言葉どおりただのイヤガラセである。

「・・・・・・」

文珠を粉砕し、無言でゆらりと立ち上がる猿神からそこはかとなく怒気を感じるのは気のせいではあるまい。

そして改めて繰り出される如意金剛の一撃は先ほどまでより、遥かに速く、重い一撃と化していた。

「あぁっ、しまったっ!ただ単に怒らせただけっ!?」

サイキックソーサーを用いた移動術を用いて大きく避ける横島だが、それでも猿神の攻撃をかわすのは紙一重。

かするだけで大ダメージを受けかねない攻撃の嵐に横島は目や鼻から色んな汁を飛び散らせながら逃げる。

文珠を会得したときにはこうやってかわすどころか、雪之丞と二人がかえりでさえ数発の攻撃で瀕死に陥っていた。

元々小竜姫がきっかけを与えて以来、驚異的な進歩を遂げてきた横島だが、この二ヶ月の進歩は特に目を見張るものがあった。

大分、逃げることに特化して成長しているのは相手を考えれば仕方あるまい。

とはいえ、猿神の攻撃を回避するのも限界に近づいていた。

行動を先読みされ、如意金剛の一撃が横島を捉える。

「ぐふっ!?」

パピリオの霊波砲と違い、速さも重さも桁ちがいの一撃は栄光の手で逸らすことすら叶わない。

血反吐を吐きながら吹き飛ばされる横島に小竜姫たちが息を呑む。

そこに追い討ちをかけるかのごとく、下から払いあげる一撃。

「がっ・・・・・・!」

反射的に横島はサイキックソーサーを展開し、如意金剛が触れる直前でソーサーを爆発させ、吹き飛ばされる方向に自ら飛ぶことでダメージを軽減する。

だが、宙に浮いた体勢となり空を飛べない横島は文字通り無防備となる。

今、猿神の一撃を受ければ一溜まりもないだろう。

(こ、こら・・・・・・あかん)

あまりの衝撃に意識を失いかける横島。

これまでか、と自分自身に問いかける。

だが、その脳裏に浮かぶのはルシオラの笑顔。

 

 

まだだ。

    あいつとの約束をまだ果たしていない。

 

 

    まだ

        終われない

 

 

 

 

そう決意した瞬間、横島の意識が覚醒する。

同時にその右手に一つの文珠が作られる。

込められた文字は”飛””翔”。

うなりを上げて横殴りに叩きつけられた如意金剛をさらに上に飛ぶことでかわす。

「ほう・・・・・・」

それを見た猿神の口元がニヤリと笑みをかたどる。

「これは・・・あのときのっ!」

それは只の文珠ではない。

双文珠―――ルシオラの霊基構造を取り込んだ間もない時期にのみ作り出せた二文字同時使用が可能かつ使用しても消えることのない特別な文珠。

あの後、いくら基本霊力値を上げても作り出すことのできなかった双文珠が再び横島の手に現れたのだ。

「もう一息、と言ったところかの。横島よ・・・・・・この一撃、見事耐えてみせいっ!」

如意金剛を構え直し、猿神の霊力が膨れ上がっていく。

「げっ!?」

横島の直感がその一撃はかわせない。逃げられないと警鐘を鳴らす。

逃げられないなら文珠でもなんでも使って耐えるしかない。

できるか?霊力の基本値が圧倒的に異なるのでパピリオの霊波砲のように文珠で曲げることもできないだろう。

手にした双文珠を見つめる。

「やるしか・・・ない、か」

地上に降り立つと、手にした文珠を握り締め、もう片方の手にも双文珠を出現させる。

「見てろよ・・・ルシオラっ!お前との約束・・・・・・今度も必ず果たすっ!」

アシュタロスは倒した。彼女の願いどおり。

今度の約束も彼女の為。

そして何より自分自身の為に。

「いくぞ・・・!」

猿神のその言葉と同時に撃ち出される如意金剛。

速度も込められた霊力も桁違い。

「んなくそおぉぉぉぉっ!!」

二つの双文珠持った両手をかざす。

文珠に込められた文字は”絶”対”防”壁”

二つの文珠が輝きを増し、横島と猿神の間に不可視の壁を作る。

「ぐうっ!?」

だが、4文字の防壁を持ってしても猿神の一撃で綻びが生じる。

ピキピキと文珠にヒビが生じていく。

「くそっ、これでもまだ足りんのかっ!?」

双文珠はそれ単体でも通常の文珠より高い効果を発揮する。

それを二個使ってもこの有様。改めて猿神の力量に驚かされる。

今のままでは遠からず壁は破られ、猿神の一撃によって死に至る。

「なら・・・これでっ!」

だが、今の横島が背負っているのは自分の命だけではない。

「煩悩っ全開―――――――――っ!!」

くわっと目を開き、横島の脳裏には今まで出会った数々の女性の裸体が浮かんでいく。

煩悩全開。

一般の霊能者のように霊力コントロールを覚えたとしても、やはり最大の霊力ブースト方法は煩悩である。

横島から立ち上る霊力が普段とは比べ物にならないほど上がっていく。

・・・普段の彼の霊力が常人とさほど変わらないというのもあるが。

やがて横島の両手に更なる双文珠が出現する。

「いっ・・・・けぇぇぇ――っ!!」

既存の文字と同時に瞬時に新たな念が込められる。

”絶”対”防”御”領”域”

やがて、三つの双文珠の輝きにより、横島は光の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/03/01

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長くなったので、ここで一旦切ります。

横島が双文珠を使えるようになってますが、ぶっちゃけ一時的なものなのですぐ使えなくなります。あしからず。

双文珠が出た辺りからBGMにエミヤとか聞きながら読むと臨場感が盛り上がるかも。

>アシュ編読みました、ほんとに成長してますね(笑
>今回は特訓編ですか、がんばってりっぱなStrikerに・・・
>じゃなくて魔族になるのか(笑
>読み応えがありそうなので次期待してますね
多分、このSSでの横島はアシュ編後よりはアシュ編中の横島基準で進んでいくかと。
基本はギャクギャラですけどw
期待に添えられるよう頑張りますです。

>最高でした。
>続きを期待しています。
ありがとうございます。
今回はちょっと遅れてしまいましたが、基本一週間ごとのペースでの更新を目指していきますので今後ともよろしくお願いします。