GS横島〜Endless Happy Time!!〜

 

妙神山で行こう! その2

 

 

 

 

 

 

「のわーっ!?」

 

妙神山修行場の異空間からは横島の元気の良い(?)悲鳴が響き渡っていた。

横島が妙神山へ訪れて早三ヶ月。その間、毎日のようにこうして横島の悲鳴が上がり、それが絶えることはなかった。

 

 

 

「ホラホラ、ヨコシマーッ!避けてばっかりいないでいー加減反撃するでちゅよーっ♪」

「できるか、アホーッ!!」

空中から霊波砲を連射するパピリオから目や鼻から液体を垂れ流しながら逃げ惑う。

元々横島は霊能に目覚める以前から小竜姫の神剣を回避したり、逃げることに関しては定評がある。

が、いくら人間離れした反射神経、動体視力を持つ横島とはいえ、空中からの霊波砲をいつまでもかわし続けるのは不可能だ。

行く手を塞がれ、数発の霊波砲が横島への直撃コースを取った。

「うわっ、うわっ、うわあぁーっ!?」

本能でそれを悟った横島は右手に霊気の篭手、”栄光の手−ハンズ・オブ・グローリー−”を出現させ、丸太程度の太さの霊波砲をそれぞれ受け流し、弾いていく。

「ふふん、中々やるようになりまちゅたね〜」

そんな横島の姿を見てパピリオは満足そうに笑みを浮かべる。

 

修行を始めた当初の横島では一発の霊波砲を弾き返すのが精一杯だったのが、今では五,六発まとめて受け流せるようになっていた。

パピリオは見た目こそ小学生くらいの女の子だが、魔神アシュタロス直属の部下として作られた魔族だ。

寿命を延ばす過程で幾分減ってはいるが、そのパワーは依然として竜神である小竜姫すら上回っている。

まともに食らえば一流の霊能者でも一撃で戦闘不能になるほどの威力なのだ。

魔装術を極めた雪之丞でさえ、パピリオのほんの一撃で全治数週間のダメージを負ったのだ。

人間の霊力量でできることは一つ。ただ防御するのではなく、力の流れを逸らしてズラすこと。

無論、超一流のGSでも今のような連続で放たれた霊波砲を一人で防ぎきるのは容易なことではない。

実践で命の懸かったときや、美人が関わっているわけでもない平時の横島がそれを行えるようになったのはこの三ヶ月間の修行の成果と言えよう。

当初は攻撃の手をかなり加減していたパピリオだが、今ではかなり本気を出して攻撃できるようになっていた。

 

「なら、これならどうでちゅかっ!」

数ではなく、一撃の威力を重視した特大の霊波砲を放つ。

「そんなんまともに受けられかぁぁーっ!!」

栄光の手が消え、その代わりに手の中には瑠璃色の珠、文珠が出現し、光を放っている。

「えっ!?」

パピリオは目前の光景に驚愕した。

自らの放った霊波砲が横島の直前で軌道を変え、自らに迫っていたのだから。

文珠に込められた文字は”曲”。

パピリオの霊波砲をそのままパピリオのいる方向に”曲”げてみせたのだ。

「わぁっ!?」

自身が思い切り力を込めた霊波砲を自分で食らうわけにもいかず、全力でそれをよけるパピリオ。

ほんの一瞬だがパピリオの視線が横島が外れる。

それこそが横島の狙い。

「うわははははっ!今日こそは貰ったぁっーっ!!」

パピリオが避けた先には横島から伸びされた栄光の手による一撃が待ち構えていた。

だが、それを見て取ったパピリオの顔に浮かぶのは嘲笑。

「――――っふん、まだまだ甘いでちゅね」

パンっと、片手で横島の拳を軽く止めるパピリオ。

「はれ?」

横島の拳を掴んだパピリオはぐいっと、今度は思いっきり自分のほうへと引き上げる。

「おわーっ!?」

人間を遥かに超越した馬鹿力に横島が抗えるはずもない。

「今日も私の勝ちでちゅよ♪」

引っ張られた先に待つのはパピリオのとびっきりの笑顔と、霊力を込めた拳の一撃だった。

 

 

 

 

 

 

「中々良い線まで行ったんですけどねー」

倒れ伏す横島に小竜姫が苦笑しながら声をかける。

「うぅ・・・あんなパワー反則じゃぁ。どないせぇっちゅーんじゃ」

横島以外のものからすれば彼の文珠のほうが圧倒的に反則技なのだが、彼自身にその自覚はない。

「ま、途中までは良かったが、最後の一撃が不味かったな。パワーの桁が違う相手にあんな単純な手が通じるはずなかろう」

「うぅ・・・・・・」

猿神の言葉に倒れたまま涙を流す横島。

その言葉を自身の身で証明したばかりということもあって、横島に反論の言葉が返せるはずもない。

「でも、ま、これで私との交戦時間もまた更新でちゅね。大したもんでちゅよ」

横島がこの二ヶ月繰り返してきたことは大きく分けて三つ。

一つは基本的な霊力コントロール。

横島は実戦の中で霊力に目覚め、それを使いこなしてきたが、その癖、基本的な霊力の練り方やコントロールを一切学んでこなかった。

彼自身、積極的にそう言ったものを学ぼうとしなかったし、彼に教える立場である美神令子が一切、そういったことを指導しなかったこともある。

基本を一切知らずに超一流の戦闘力を持つに至ったド素人。

それが横島忠夫である。

その事実に猿神や小竜姫は改めて横島忠夫という人物の非常識さに驚愕と共に呆れていた。

 

一般的に彼の霊力源は煩悩とされているが、それは彼が基本的な霊力の扱い方を知らないだけで煩悩はあくまで基本霊力のブーストを行っているに過ぎない。

アシュタロス戦時に、シリアスな横島がGSとして価値はないと令子に言われていたが、それでは美神との合体時にオーバーフローを起こすほどのパワーを出す理由が説明できない。

彼が煩悩全開を行ったのはオーバーフローした後のことなのだから。

彼のパワーダウンの原因はルシオラを失ったことで、煩悩を持った自分を自己否定したことによる一種の自縛作用とも言えよう。

彼が直後に発言した「俺は・・・やっぱ俺らしくしてなきゃな」と、いう言葉は煩悩あってこその自分を受け入れ、ルシオラが望む自分でいようと決意の表れだったのだ。

 

猿神や小竜姫の元、そういった霊力の基本的な扱い方を受けた後、彼の霊波は以前より遥かに安定していた。

あくまで基本を学んだだけなので、最大霊力が大幅に上がったわけではない。

だが霊力に関わらず、基本を知らないものはその道を極めることは出来ない。

基本を学んだことにより横島の霊的な防御力、攻撃力はそれなりに上昇し、霊波の出力も総合的に高いレベルで安定したことに加え、サイキックソーサーの遠隔操作やその応用と言ったことも出来るようになっていた。

サイキックソーサーの遠隔操作自体はGS試験時の雪之丞が行っていたことなので、大した技術ではないのだが。

 

第二に妙神山製霊動シミュレーターによる常在戦場の心構えとその対応。

ヒャクメを通じて霊動シミュレーターの存在を知った猿神は美智恵を始めとした人間達の協力を得て、神魔族なりの技術で同じようなものを作り出していた。

これの建設にはヒャクメやあのドクターカオスも絡んでいたのだが、とりあえずそれは置いておく。

基本的に横島は不意打ちに弱い。千年前の道真の襲撃に頚動脈を切られたり、ネズミのネクロマンサーに操られたりと、突発的な事態や霊的な攻撃に無防備なことが多い。

ヒャクメによる調査によってそのことを知った猿神は、実戦によってそれに対処する術を学ばせようとして霊動シミュレーターを使用した。

妙神山製霊動シミュレーターは妙神山内であればどこでもシミュレーションの敵を出現させられる。

出現パターンをランダムに設定し、横島に対して不意打ちを仕掛ける。

一体の強さも雑魚霊クラスから下級魔族まで多岐にわたる。

その頻度はあまり高くも無いが、雑魚霊はともかく下級魔族クラスの一撃を不意打ちで食らってはたまらない。

無防備に受けると死に掛ける。一応、致命傷になる攻撃はしないように設定はしてあるが、それでも痛いものは痛い。

当初は全く対応できなかったが、これまた現在では相応に反応、対処できるようになっていた。

元々、美神限定で危険察知に対する本能が優れていた横島だ。(それが上手く活用されることはほとんど無かったが)

その危険察知能力を美神限定という枠を取り去れば、元々の生存本能がズバ抜けている横島にとってはさほど難しいことではなかった。

それができるようになるまでは何度も黒焦げになったり、血の海に沈んだりもしたのだが。

 

 

そして最後に猿神・小竜姫・パピリオによる実戦訓練。

言わずもがな、三人とも横島の実力の遥か上を行く猛者たちだ。

圧倒的なパワーを持つ、パピリオ。

パワーではパピリオに劣るものの、武神として戦闘技術ではパピリオを凌駕する小竜姫。

そして、パワーも戦闘技術も人間には到達できない域に達する猿神。

パピリオからは圧倒的パワーに対してのその対応方法、小竜姫からは神剣による戦闘技術の指導。

猿神に至ってはただ横島の隙や欠点を的確に打ちのめしていく。

これだけのことを毎日繰り返しているのだから横島の実力は嫌でも上がる。

無論、横島は泣き叫びながら最終的にはボロボロにされているので、横島自身に強くなったという自覚はあまりなかったりもする。

当初は逃げ惑うばかりで反撃など一切できなかったのだが、現在ではある程度攻撃に転じることもできるようになっている。

それなりに本気を出した小竜姫やパピリオを相手に、だ。

基本能力では及ぶべきもないが、文珠を最大限に活用していけば、小竜姫、パピリオクラスならばその実力差を覆せる可能性を持つほどには。

いかんせん、横島にはこの三ヶ月徹底的にしごかれた記憶が半ばトラウマと化しており、無意識に苦手意識が生まれ、訓練でそれを行うのは不可能だろうが。

あくまで可能性のレベルである。

 

 

「しかし、ここまでよく耐えたもんじゃ。そろそろ頃合かもしれんのー?」

「え?」

猿神が呟いた言葉にガバッと、顔を上げる横島。

横島がこの辛い修行を逃げ出さずに耐えた目的は一つ。

猿神が呟いた言葉には暗にそれを実現させるに足るレベルまで横島が這い上がってきたことを示唆している。

「そ、それじゃあっ!?」

「うむ、ルシオラの復活・・・試しみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/02/18

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>横島ですか、懐かしいですね。といいつつ読み出したら、横島がまともだ!!
>びっくりしたんですがよく考えると初期の頃の横島しかイメージに無かったです(笑
>ルシオラ?誰?だったので、これを気に最後のあたりだけでも読んで見ることにします。

アシュ編の頃の横島は別人のように成長してますよ〜。根幹は邪なままですがw
29〜35巻あたりがアシュ編なのでその辺りがお勧めです。